-夢-
僕は、きゃあきゃあ言うファン達をよけながら、車に向かった。
前でマネージャーが女の子達に向かってなにやら叫びながら、僕の為に道をあけさせている。
このホラー映画でよく聞くような、悲鳴に似た声にはずいぶん慣れてきた。最初は、かなりいらいらしたが、最近はそんな騒音の中でも、マネージャーの声を聞き取ることもできるようになった。ただ慣れないのは、カメラのフラッシュだ。マネージャーは目をやられるから、黒いサングラスをかけるようにとアドバイスしてくれた。最初は格好付けているようでいやだったが、確かにかけている方が目が楽だ。最近は関係ないときに、目の前がちかちかするのもおさまった。よく、スターがサングラスを付けているのは、顔を隠すためと、自分の目を守るためだったんだ。と、最近わかった。
しかしアイドルって疲れる。想像はしていたけど。でも想像していたほど、いい思いもしていない。なんだか、流れ作業に追われるロボットの心境だ。家へ帰れば、何をしていたのか全く覚えていない。眠るのみ。なのに、ファンはよく覚えていて、○月○日の○時から始まるトーク番組では、○○○って言っていましたよね。私、とても感動しました。・・・・・よくファンメールに書いてある。僕、そんなこと言いましたっけ?本人は忘れているものだ。それでも僕の言うこと、僕の挙動一つ一つが彼女たちを感動させているようだ。ふとカメラに振り返っただけで、あの表情素敵でした。これもファンメール…。おかげであくび1つできやしない。
「明良くん。次はとうとう新曲発表だな。がんばって。」
「はい。」
そうだった。歌詞は覚えてるっけ?まぁいいや。なんとかなるさ。マネージャーが時計を見ながら、リハに間に合うかなとか、ぶつぶつ言う。分刻みのスケジュール・・・・・毎回遅刻なしとは、なかなかいかないものだ。
……
事故は、僕が歌っている途中で起きた。僕の乗っていた台がいきなり壊れたのだ。かなり高さもあった。大きな音と共に僕はバランスをくずし、下へ落ちた。気が付くと、壊れた台の下敷きになっていた。客席から悲鳴が聞こえる。
左の太股のあたりにかなりの痛みを感じている。やがて、台はスタッフ達の手で取り除かれた。マネージャーの真っ青になった顔が見えたとき、僕はほっとした。
「明良くん!!大丈夫か!?顔は!?」
顔を心配するところが、さすがマネージャー・・・僕はのんきにもそう思った。
パニックを起こしたファンの何人かが、客席から降りようとしたが、警備の人間に押さえつけられていた。
他の歌手達は呆然と僕を遠くから見つめていた。
僕は身体を起こそうとして思わず声を上げた。左の太股に板の切れ端がささっていた。どういう落ち方をしたんだろう。
心の中では冷静なんだが、顔は痛みのあまり、かなりゆがんでいるように思う。脂汗も体中から吹き出している。
司会者がパニックしている観客達に落ち着くように叫んでいるのが聞こえる。
そうだ、生放送だったっけ・・・・。じゃぁ、僕まだ見られているんだ。全国の何人かに。うわぁ、ぶざま。
マネージャーが動くなと言った。僕はうなずいて、身体を起こすのをあきらめた。
何人かのスタッフが僕を取り囲んでいた。これって、やっぱり彼らの責任になるんだろうか?少し悪いような気がする。そう思った時、担架が来た。
……
病院の窓から空を見ていた。左太股の傷は深いものだった。板が貫通していたそうだ。ただ骨には何もなかったので、それが不幸中の幸いだったそうだ。また全身打撲もあるので、どちらにしても、ひと月は退院できないそうだ。
病院名は公表していなかった。だから誰も、僕がここにいることを知らない。寂しい気もするが、このおだやかな時間が心地よい。
事故の原因はまだわからないそうだった。どちらにしても大道具のチーフである、土井さんという人が責任を負うことになっているそうだ。
土井さんは僕がデビューした時、初めて声を掛けてくれた人だった。緊張で震えている僕の背中をずっとさすってくれた。聞くと、息子さんが僕と年が一緒で、大学受験だと言っていた。
大学受験かぁ・・・・・。いいなぁ。僕も普通の家庭に育っていたら、今頃受験勉強というやつをしていたはずなのに。
姉が苦労しているのを見てる手前、考えたこともなかった。だいたい、頭だってそんなに良くない。
確かもう受験の結果が出ている頃のはずだがどうだったんだろうか?
やがて、眠気が襲ってきた。こうして寝たい時に寝られるのも、入院している間だけだ。僕は眠ることにし、ベッドを元に戻した。
……
「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」
幼い僕は姉を追いかけていた。姉は笑いながら走っていく。
「待ってよ、僕を置いていかないで!!お姉ちゃん!!」
「もっと早く走りなさい!男の子でしょ!」
姉はそう言うと、また背を向けて走っていく。僕は息を切らせながら、必死に追いかけた。突然、姉の悲鳴とともに車がブレーキを踏む音がした。
「お姉ちゃん!!」
……
僕は飛び起きた。それと共に、太股に鋭い痛みを感じ声を上げた。
「しまった・・・・。」
僕は、太股を押さえた手を見た。血が付いていた。そして見る見るうちに、血がシーツを濡らしていった。僕は、痛みをこらえながらナースコールのボタンを押した。
……
「ダメじゃないか。明良君。退院できなくなっちゃうよ。」
マネージャーが、安静を言い渡された僕に言った。
「すいません。油断して・・・」
「また、お姉さんの夢かい?交通事故で亡くなった。」
僕はうなずいて下を向いた。
僕は、半年前、高校の文化祭でバンド仲間と一緒に歌っているところを、マネージャーにスカウトされ、この世界に入ることになった。
両親の許可を得なければならないと言われ、僕は現在身よりもなく、独り暮らしをしていることを告げた。その時、姉のことも告げた。
父は僕が5歳の時に肺がんで他界した。しかし母も僕が8歳の時病死し、僕より10歳年上の姉が僕を育ててくれた。しかしその姉も、昨年、交通事故で死んだ。自転車に乗っていた姉を、脇見運転の車がはねたのだった。
そして、姉が死んでから僕は、姉と僕が血がつながっていないことを知った。
父と母は共に再婚で、姉は父の連れ子で、僕は母の連れ子だった。本当の僕の父親は、僕が生まれてすぐに死んだそうだ。
このことは姉の葬式の時に母の友人が教えてくれた。姉は血のつながっていない僕を必死に育ててくれたのだ。
夢の中では、いつも僕は幼く、姉は交通事故にあった時の姿だった。その夢は毎日見る夢だ。
「忘れろと言っても、無理だろうけど・・・・。いつまでもそんなことじゃ、お姉さんも浮かばれないよ。」
「はい。」
それは僕にもわかっていた。が、夢は勝手に見るものだ。見ようとして見られるものではない。そして、見るまいとしても見てしまう夢だってある。
「じゃ、帰るよ。明日また来るからね。」
「はい、お休みなさい。」
「お休み。」
マネージャーは部屋を出て行った。
……
消灯のアナウンスが流れた。僕は電気を消した。
しかし、電気を消したところですぐに眠れるわけがない。それに、眠ったらまた姉の夢を見てしまうような気がした。
ふと、ドアが開く音がしたように思えた。しかしその後は何の音もしないので、気のせいかと目を閉じた。
すると、いきなり口元を押さえられ、テープで口をふさがれた。
「!?」
起きあがろうとしたが、あっという間に太いロープのような物で体をしばりつけられた。もがこうとしてはっとした。
(また傷が裂けたら、退院できないかもしれない)
この非常時にそう思った。僕はあきらめて、体中の力を抜いた。
「いい子だ。」
マスクをしているのか、何かを口に含んだようなこもった低い声が、上の方で聞こえた。男には違いなかった。
「のんびりと歌って…キャーキャー騒がれて…君は本当に恵まれた子だね。」
「!?」
僕は驚いて、見えない男を見上げた。
「息子は今も苦しんでる…。でも、君は楽に死なせてあげよう。じっとしていれば大した苦痛はないはずだよ。一瞬だ。」
僕は、片腕を取られた。そして、腕の内側をなにやらさすられている。
(注射!?)
なんの薬をやられるのだろう?もしかして、何も入っていない注射かも!?血管に空気を注射されると死ぬという話を聞いたことがある。僕は、ふたたびもがき、腕をふりほどこうとした。
「動くなといっただろ!?」
男はそう言ったが、だれが黙って殺されるのを待っているものか!僕は、壁側に非常ベルがあることを思い出した。ベッドから立ち上がれない人の病室のため、何もかもがベッドの周りにあるのだった。
ベルはちょうど、左手の所にあった。縛られているが、指は壁に届いた。やがてベルに指があたった。そのまま強く押すと、とたんに非常ベルが鳴り響いた。
男があわてふためいているのが、暗闇でもわかった。やがて、男はドアから走って出ていった。
……
「無事で良かったよ…」
家から呼び出されたマネージャーが青い顔をして言った。犯人はつかまらなかった。残されていたのは、空の注射器だけだった。やはり、空気を僕の血管に入れるつもりだったんだ。そう思うとぞっとした。
テレビ局での事故から担当してくれている刑事さんが事情聴取に来たが、僕は何も言えることはなかった。刑事さんは落胆して帰って行った。
「もしかすると、あのテレビ局での事故も故意かもしれんな。」
そんなマネージャーの言葉に、僕は何も答えなかった。
「とにかく、これから私が24時間、君のそばにいることにするよ。」
「それじゃ、マネージャーが大変ですよ。」
「いいんだ。これも仕事のうちだ。」
僕は笑いながら言った。
「トイレくらいは、行って下さいね。」
マネージャーが大笑いした。
……
「退院、おめでとう!!」
病院を出ようとしたところで、たくさんの女の子の声がそう叫んでいた。まだ足は完全というわけではないが、軽い踊りなら行けそうなので、早めに退院したのだった。
この病院のことは、内緒のはずだったのに、とっくにばれていたようである。マネージャーが苦笑していた。
「ファンというのは、ありがたいもんだね。」
僕は、女の子達に手を挙げて「ありがとう」と言い、車に乗り込んだ。ワイドショーのレポーター達にもいろいろ言われたが、何も答えなかった。
車がゆっくり動き出した。僕はほーっと息をついた。
「あ、そうだ。明良君に言われた通りに、花屋さんに頼んでおいたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「152号室でよかったよね。」
「はい。」
「しかし、気の毒だねぇ…自殺未遂だってねぇ…」
「ええ…。」
本当は直接その人を見舞いたかったが、騒がれるかもしれないので遠慮した。
「言われた通り、匿名で送ってもらったけど、よかったのかい?」
「はい。その方がいいんです。」
「そうか。君は若いのに、奥ゆかしいんだなぁ。」
僕は苦笑した。そして窓の外を見た。
(また、せわしない日が始まるんだ。)
そう思った通り、休む間もなく、殺人的なスケジュールが僕を待っていた。そして、行くところ、行くところでレポーター達に「命を狙われてるって聞いたけど・・・」と質問を浴びせられた。僕は知らぬ存ぜぬを貫き通した。あまり、悲劇の主人公のように仕立て上げられるのがいやだったからだ。
……
その日のスケジュールをやっと終え、僕は、マネージャーの運転する車の中にいた。
「お疲れさん。ちょっと今日は無理させたね。」
「本当。今日退院したってこと、忘れてましたよ。」
僕がそう答えると、マネージャーは笑った。
「そうだった。今日退院したんだっけ。」
「ひでぇ話」
今度は、2人で笑った。
「明日は、昼からだから、ゆっくり寝ていいよ。」
僕のアパートの前に車を止めながら、マネージャーが言った。
「ありがとう。じゃぁ、明日。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
僕はドアを閉め、立ち去る車に手を振ると、階段を上がった。この世界に入っても僕は独り暮らしをしていた。マネージャーが一緒に住むように勧めてくれたが、家族の中に他人が入り込むのは良くないような気がして、断った。
僕の部屋は4階だが、エレベーターに乗らないようにしていた。事故がおこったら大変だからだ。4階まで一気に駆け上がり、廊下を歩いた。足はまあまあ大丈夫なようだ。時計は9時をさしていた。
「なんだ。まだ、こんな時間だ。」
そうつぶやいて、自分の部屋を確認し、鍵をポケットから取り出した。その時、反対側の階段から黒ずくめの男が飛び出してきた。
「!?」
僕はとっさに体をかわした。男の手にはナイフが光っていた。目だし帽をかぶっているため、顔は全くわからなかった。男は再び襲ってきた。僕は再び体をかわし、階段に向かって走った。うしろから足音が聞こえる。僕はとにかく走った。逃げるしかなかった。
……
僕は必死になって逃げた。雨が降り出している。
まだ後ろから男が追ってきていた。怪我をした左足が疼きだしたが走るしかない。僕は公園に逃げ込んだ。そして林の中へ入り込んだ。男も息を切らしながら追いかけてくる。
僕はとうとう足が動かなくなり木にもたれた。それに気づいた男は走るのをやめ、ナイフを構えたまま、息を切らしながらゆっくりと僕に近づいてきた。
「…土井さん…」
僕が息を切らしながら言うと、男がぎくりとしたように立ち止まった。
「!?」
「土井さんですよね…?…僕が入院していた病院に息子さんがいるんですよね?」
男は雨の中で、目だし帽を取り払った。僕のステージでの事故の時、大道具のチーフをしていた土井さんだった。
「どうしてそれを…?」
「襲われた次の日に、看護婦さんに聞いたんです。そしたら僕が入院する1週間前に、土井さんの息子さんが自殺未遂をして運び込まれて、まだ意識不明の状態だって…。」
「……」
強くなってきた雨が僕たちを濡らしている。
「…受験…のことで…自殺しようとしたんですか?」
「そうだ…行きたかった大学の試験に落ちて…。あろうことか自分の首を刺したんだ。」
土井さんの声は泣き声になっていた。
「それなのに君は…新曲発表というだけで、ちやほやされて…いい気になって…受験も…何の苦労もしていないくせに…!」
土井さんが僕にぶつかってきた。僕は目を閉じた。
左の脇腹に強い痛みを感じた時、姉の顔が浮かんだ。
「…姉さん…」
僕は思わず呟いていた。そして涙が勝手にあふれ出てくるのを感じた。
「!?」
土井さんの体が離れ、僕はそのまま座り込んだ。脇腹に手をやると、ナイフが刺さったままだった。
僕は痛みが強くなるのを感じながら、少し目を開いた。土井さんが雨に濡れたまま、驚いた表情で僕を見ている。
「…僕は…」
痛みが僕の息を切らしている。
「僕は…息子さんの方が…うらやましいです…。こんなに…心配してもらえる家族…がいる…息子さんが…。」
土井さんは顔を涙でぐしゃぐしゃにして、その場に座り込んだ。
僕はそのまま闇に吸いこまれていった。
……
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
僕は、前を歩く姉に呼びかけていた。幼い頃の僕。そして、前にはいつもの優しい姉。
「明良君。」
姉はいきなり振り返って、僕に微笑む。
「いつまでも、そんな甘えっ子じゃ、大きくなれないぞ。」
「いいもん。大きくなりたくないもん。」
姉は笑った。優しい響きで。突然、姉の顔が暗くなった。
「明良君。もうすぐ、お姉ちゃんとはお別れなのよ。」
「どうして?」
「お姉ちゃんね、もう行かなきゃいけないの。」
「…いやだ…」
僕は呟くように言った。
「いやだよ…離れるのはいやだ!」
幼かったはずの僕は、いつの間にか、今の僕になっていた。
「明良君。」
姉は何事もないように、悲しい顔をする。僕は姉の両腕をつかんで引き寄せた。
「姉さん…僕も一緒に行く!独りになりたくないんだ!」
姉の目から涙がこぼれおちた。
「姉さん!」
……
僕は目をさました。見慣れない天井…。
「明良君!」
マネージャーの涙で濡れた顔が見えた。
「よかった…明良君…!ごめんよ…独りにするんじゃなかった…」
「マネージャー…」
僕はやっとここが病院だということに気付いた。
「土井さんが…土井さんが救急車を呼んだんだ。」
「土井さんが?」
「それで…自分が君を刺したって…救急隊の人に言ったらしい。」
「!?」
「…救急隊の人によると…救急車がつくまで、土井さんはナイフを抜かないまま、傷のところをずっとハンカチで押さえていたそうだ。そのおかげで君が出血多量にならなくてすんだって…。」
「…土井さん…」
僕の目から涙が溢れた。
「土井さんが警察に捕まった時、マネージャーの僕と話をさせて欲しいって言ったそうだ。それで僕が警察署まで行ったら、土井さんが明良君の家族のことを教えて欲しいって言うんだ。」
僕は目を閉じた。
「僕は君に両親がいないこと…そして唯一の家族だったお姉さんが事故で死んでしまったこと…全部言った。それから、息子さんの病室に君から匿名で花束を贈ったことも言ったんだ。そしたら土井さんが…取り返しのつかないことをしたと、その場に泣き崩れてたよ。」
マネージャーは、涙をぬぐうと、何かを決意した顔で僕の方を見た。
「芸能人というのは、どんな時でも笑顔を絶やすことなく仕事を続けなければならない。もっと言うならのんきに歌って踊っているように見せて、こうして命を狙われるのも仕事の一つかも知れない。…君は、僕がスカウトして、半強制的にこの仕事をやらせたようなものだから、僕に責任がある。・・・・今からでもかまわないよ。この仕事やめるかい?」
僕はマネージャーの顔を見つめて答えた。
「いえ、やります。僕はこの世界でしか通用しない人間だと思います。」
マネージャーの思い詰めたような表情が、緩んだ。
「・・・僕からしたら・・・・大学を受験することを勧めてくれて、心配してくれる親がいる土井さんの息子さんの方がうらやましい・・・。でも、僕の方が幸せに生きているように見せることも仕事なら、そう見えるよう努力し続けます。僕の下手な歌でも、喜んでくれる人がいる限り…。」
マネージャーは「そうか」と何度もうなずいた。
……
数日後、土井さんは釈放された。マネージャーから警察に被害届を出さないことを伝えてもらったのだ。土井さんはすぐに僕の病室に来てくれ、泣きながら僕の手を何度も握って謝ってくれた。僕はその土井さんの大きな手の温もりを感じて(お父さんの手ってこんなのなんだな…)と思った。
……
2ヶ月後-
キャーキャーという悲鳴の中をくぐり抜け、僕は車に乗り込んだ。
「命を狙われてから、君の人気はうなぎのぼりだ。ほら、この雑誌見てみろよ。君の歌唱力が数段アップしたってさ。」
車が動き出してから、マネージャーが手に持っている雑誌の上をなぞりながら言った。
「ほんとですか?」
僕は、その雑誌を受け取り、マネージャーが指さす所を読んだ。
「ほんとだ。」
僕は心の底からうれしかった。
「訓練を重ねた甲斐があったってもんだ。次はドラマ、そして舞台…。よーし!がんばろー!!」
マネージャーが大声を出した。僕も同調した。
「がんばろー!!」
「選挙じゃないんですから・・・・こんな狭い中で、大声出さないでくださいよ。」
運転手が迷惑そうに言った。
「ごめんなさーい」
マネージャーと僕は同時に言った。運転手が苦笑した。
…また忙しい生活が始まる。
(終)