みにくいアヒルの子 ~The First Incident~
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
特定の作品を馬鹿にするような意図もありません。
むかしむかし、あるところにアヒルのお母さんがおりました。
大きな大きな森の中の小さな小さな池のほとり。
アヒルのお母さんは、このほとりの巣で大事な卵を温めます。
数日後、一羽また一羽と小さなアヒルのヒナ達が生まれました。
しかし最後に残った大きな卵はなかなか孵りません。
やっと卵から孵ったそのヒナの、なんとみにくくて大きい事。
それはアヒルと言うには、あまりにも大きすぎた。
大きく、重く、羽も小さく、足には水かきも無い。
その姿は正に、みにくいアヒルの子だった。
みにくいアヒルの子が、生まれて初めて目にしたもの。
それは自分に対して罵詈雑言を浴びせる兄姉の歪んだ嘴と、相反する感情を持った母の申し訳無さそうな瞳であった。
母が震える嘴を開く。それはみにくいアヒルの子にとって初めて聞く母の声だ。
「ま、まあ。なんてみにくい子だろう。いっそ、どこか遠い所へ行っておくれ」
パァン!
瞬間。母の頭が弾け飛んだ。
飛び散る脳漿。母の体は自分が死んだ事を理解できなかったのか、羽を数回バタつかせた後、力なく倒れ込んだ。
池の中まで飛んだ母の脳漿を貪りに来たのか、みにくいアヒルの子の視界の端では鯉たちが水飛沫を上げている。
パァン! パァン!
まただ。また耳をつんざくような鋭い破裂音が聞こえる。
今度は兄姉の頭が次々に弾け飛んでいく。これが何らかの攻撃であると理解したみにくいアヒルの子は、近くの茂みへ身を隠して息を殺した。
「チッ‥‥、逃したか。まあガキの一匹や二匹、逃がしても構わんだろう」
親元から離れたヒナなど、森の獣に食べられて終いだろう。
声の主は猟銃に弾を込めるとまた獲物を求めて立ち去った。
男はこの森で狩りをする猟師であった。
数年前、森に棲むオオカミが老婆と少女を食い殺すという凄惨な獣害が発生し、その場に遭遇してしまった不運な男でもある。
あの時、すぐに発砲すれば少女を助けられたかもしれない。
だが男には引き金を引くことができなかった。
害獣に対し発砲するにはいくつかクリアしなければならない条件がある。
その発砲に緊急性はあるのか。猟銃以外での害獣の無力化は本当に不可能なのか。発砲によって人の生命に危害が及ぶおそれはないのか。
緊急性はあった。
だがもし少女に弾を当ててしまえば、確実に自分が罪に問われるだろう。
デキ婚した嫁。ついに生まれた我が息子。三五年ローンで買ったばかりの家。
男は引き金を引けぬまま、こちらに泣いて助けを求める少女が腸を引きずり出される様子を、ただ見ていた。ただただ見ていた。
男がようやくオオカミを撃てたのは、少女の被っていた頭巾がその血で真っ赤に染まった頃だった。
仕方がなかった。自分は悪くない。法律が悪かったのだ。そう自分に言い聞かせながら村に戻った男だが、一部始終を森へキノコ狩りに来ていた第三者に見られていたらしい。
長い長い牢屋暮らしの後、村付きの代官から「森に棲む全ての鳥獣を駆除する事。駆除が完了するまで村への立ち入りを禁ずる」という無茶苦茶な罰を言い渡された。
最後に、家族を一目だけでも見ようと向かった家の窓から男が見たのは、笑顔のデキ婚した嫁。笑顔の我が息子。そしてその息子を抱きかかえる笑顔の代官であった。
害獣に全てを奪われた男は、今日も猟銃を担いで森を徘徊する。
この森に棲む全ての鳥獣を駆除するまで。そして三五年ローンで買った自分の城に居座る三匹の豚を駆除するまで。
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数年後。
森で孤独に鳥獣を駆除する猟師は、遭遇する獲物の数が減少してきたと感じていた。
近いうちに村に帰れるかもしれない。いよいよ豚共へ復讐の時だ。
そんなふうに気が緩んだ男を睨む鋭い瞳があった。
あの、みにくいアヒルの子だ。
彼は飛べない鳥だった。大きな体。真っ青な皮膚。ヘルメットのような頭の突起。両足には短剣のような鋭い爪。
この森で。この国で。この大陸で。生息していないはずの怪鳥。
ただのみにくいアヒルの子だったはずのその怪鳥は、復讐の機会を狙っている。
母を、兄姉を、一人ぼっちの自分を暖かく迎え入れてくれた友を、その家族を、この森の仲間達を、惨たらしく殺した男への復讐の機会を。
精神的には猟師×ヒクイドリのBLです。
この後の展開でそうなるはずです。でも続きません。




