第7話:時を越えた再会と、最速のプロポーズ
ルインはそっと、隣に座るルイーゼの意識へと、極小の精神守護魔法を流し込んだ。
かつての彼女も、自分と同じように転生しているのか。もしそうなら、記憶はあるのか。
だが、視えたのは深い霧のような沈黙。
彼女の魂の奥底は静まり返り、前世の記憶は欠片も残っていないようだった。
(……そうか。彼女は、ただの『ルイーゼ』として新しく生まれてきたのだな)
少しの寂しさと、それ以上の安堵。
前世の自分は、触れるものすべてを滅ぼす「死」そのものだった。そんな自分を、彼女が覚えていないのなら、それはある意味で救いだった。
(諦めよう。そんなことより、また出会えたこの奇跡に感謝を。女神様、忝い……!)
ルインは決意を新たに、今世での「初対面」を果たすべく、精一杯の笑顔を作った。
「はじめまして、ルイーゼ様。ルインです。よろしくお願いいたします」
あどけない少年の挨拶。
しかし、ルイーゼはルインの瞳をじっと見つめると、不思議そうに小首を傾げた。
「……はじめまして、ルイン君。でも、変ね。あなたとどこかでお会いしたことはありませんか?」
「えっ……!?」
ドキリ、と心臓が跳ね上がる。
記憶は霧の中にあったはずだ。だが、魂に刻まれた「何か」が共鳴しているのか。
ルインが答えに窮していると、ルイーゼはふわりと微笑み、彼の小さな手を迷わず両手で包み込んだ。
「……決めたわ。ねえ、あなた! 私と結婚してください!」
――静まり返るリビング。
カシエルは飲みかけた茶を噴き出し、エルーカは「あらあら!」と頬を染めて硬直する。
そして、第一皇女シルフィアは、持っていた扇子をパキリと鳴らして凍りついた。
「「「「け、結婚ぉぉぉぉおおおおおおお!?」」」」
当のルインは、白目を剥いて固まっていた。
三歳児のルイーゼは、至って真剣な表情で、ルインの手をギュッと握りしめる。
「あなたの手、とっても温かいわ。私、この手をずっと離したくないの」
(……な、ななな……ッ!)
前世では、指先一つ触れるだけで彼女の命を奪ってしまうと怯え、一睡もできぬ夜を過ごした。
それが今、彼女の方から「手を離したくない」と言われ、あまつさえ結婚を申し込まれている。
『――クカカカカ! 主よ、最弱の生活どころではないぞ! 皇族との婚姻など、世界で最も「平穏」から遠い場所ではないか!』
リュックの中で魔道書が爆笑しているが、今のルインにはそれに応じる余裕すらなかった。
「ル、ルイーゼ、何を言い出すの……!? まだ三歳なのよ、あなたは!」
姉のシルフィアが慌てて割って入るが、ルイーゼは意志の強そうな瞳で姉を見据えた。
「お姉様、愛に年齢は関係ありませんわ。わたくし、ルイン君の側にいたいのです!」
かつての魔王は、今、人生最大の危機(と幸福)に直面していた。
誰にも触れられなかった孤独な王が、三歳にして最強の「逆指名」を受けてしまったのである。




