第6話:再会、そして皇女の試練
数日後、ルインの村は騒然としていた。
この国の第一皇女・シルフィアと、第二皇女・ルイーゼが、護衛の騎士団を引き連れてやってきたのだ。表向きは「村の視察」と「先の騒動のお礼」だが、真の目的はルインを探ることにある。
「エルーカ殿、カシエル殿。先日の街での騒動、貴方様のご子息の『祈り』が魔物を退けたと聞き、ぜひお礼を申し上げたく参上いたしました」
シルフィアは朗らかに微笑むが、その目は油断なくルインを捉えている。
そして、シルフィアの隣に立つ、もう一人の幼い少女。
ルインは、その姿を見た瞬間、呼吸を忘れた。
(……そんな、まさか……)
第二皇女・ルイーゼ。ルインと同じ三歳。
しかし、その顔は、かつて魔王として恋い焦がれた、たった一人の女性と瓜二つだった。
あの時、触れることさえ叶わず、ただ遠くから見つめることしかできなかった、愛おしき面影。
「……あ、あう……」
ルインは何も言えず、ただ呆然とルイーゼを見つめる。
ルイーゼもまた、不思議そうにルインを見上げていた。
皇女のテスト
歓迎の茶会が終わり、シルフィアは本題に入った。
「ルイン君。貴方は将来、素晴らしい僧侶になるでしょう。そこで、わたくしが特別に『魔力測定』をして差し上げましょう」
シルフィアが取り出したのは、周囲の魔力量を正確に測る「魔力測定器」。
宮廷魔導士の一人がそれを構え、ルインに向ける。
「さあ、ルイン君。その小さな体に秘められた力を、見せてちょうだい?」
シルフィアの挑発的な瞳。
(やはりか。あの時の魔力の残滓を感じ取ったのだろう。魔王時代の『隠蔽』の技術を応用しなくては……)
ルインは震えるふりをして、俯いた。
(「魔力測定器」という『対象』に、現在の『状態』を維持させる「プロテクション(維持の守護)」をかける。これで、いかなる測定も意味をなさなくなるはず)
「……うう、こわいよぉ」
ルインが小さな指先を測定器へ向けた、その瞬間。
宮廷魔導士が「それでは失礼し――」とスイッチを入れる。
【魔力値:0】
測定器は、まるでそこに魔力が存在しないかのように、最低値を表示した。
「……え?」
宮廷魔導士が目を疑い、何度も測定を試みるが、結果は変わらない。
「おかしい……。これほどの高精度測定器が、反応しないとは……」
「ふふ。ルイン君はまだ、力が目覚めていないのかしら。少し残念ね」
シルフィアは口元に手を当てて笑う。
だが、その瞳はまったく笑っていなかった。
禁忌の書と、魔導士の疑惑
その時、エルーカがルインの小さなリュックから、最近お気に入りの「お喋りする魔道書」を取り出した。
「ルインったら、いつもこの本を抱っこしてるのよ」
『む、主よ、今このタイミングで我を晒すとは……!』
魔道書が顔を赤くして(文字が震えて)喋り出す。
それを見た宮廷魔導士の一人が、ハッとした表情で書物へ視線を向けた。
「な……ッ! その紋章は……まさか、失われたはずの『深淵の禁書』!?」
彼の顔から血の気が引く。
その本は、数百年前に封印されたとされる、魔法の根源を記した危険な書物。
そして、並大抵の魔力では、封印を解くことすら叶わないはずの禁書だった。
(まずい、バレる……ッ!)
ルインは内心で焦る。この魔道書は、自分が「最弱」であることを証明するために、決して存在を知られてはならない。
しかし、それよりも彼の心を占めていたのは、隣で心配そうに自分を見上げるルイーゼの瞳だった。
彼女に、自分が「魔王」だったと知られるわけにはいかない。
「……うう、おなかすいたよぉ」
ルインは、今できる最大の演技で、幼児特有のワガママを叫んだ。




