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第3話:パパとママの魔術教室



「よし、ルイン。今日はパパと一緒に『プロテクション(守護の盾)』の練習をしてみようか!」

 庭に降り注ぐ柔らかな木漏れ日の下、父・カシエルが頼もしげに胸を叩いた。

 ルインは「わぁい!」と短足で駆け寄り、カシエルの足にしがみつく。

(ふふ……パパの足は太くて、温かいな。前世の玉座よりずっと落ち着くよ)

 中身は数千年生きた魔王だが、両親の溢れんばかりの愛情を前にすると、ルインの精神は自然と幼児退行してしまう。というより、このぬくもりを堪能することこそが、彼が転生してまで手に入れたかった「至高の贅沢」なのだ。

「いいかい? 魔力は波のように、優しく広げるんだ。こうして……『プロテクション』!」

 カシエルが唱えると、淡い光の膜がふわりと二人を包み込んだ。

 ルインは「すごーい!」と目を輝かせ、パチパチと手を叩く。

(なるほど。パパの術式は『空間の密度を高める』タイプか。非常に丁寧で安定している……が、少し隙が多いな。ここを『絶対固定』の術式に書き換えて、一点に収束させれば、飛来する矢を粉砕する「破砕壁」に転用できるのだが……)

「さあ、ルインもやってごらん?」

 母・エルーカも期待に満ちた眼差しでこちらを見ている。

 ルインはコロン、とあざとく首を傾げた。

「えっとね……こう? 『ぷろてくしょん』……えいっ!」

 ルインが小さな手を突き出す。

 彼が意識したのは、父のような「広域の膜」ではない。

 **「特定の対象のみを徹底的に拒絶する、不可視の極小結界」**だ。

 瞬間、ルインの前に現れたのは、光の膜などという生易しいものではなかった。

 あまりに高密度に圧縮された魔力により、背後の景色がぐにゃりと歪む「空間の歪み」が発生した。

「……あれ?」

 カシエルが小石を投げてみると、石は結界に触れた瞬間、パウダー状の塵となって消滅した。

「……ルイン? 今、石が消えなかったか?」

「ううん、パパのまほうみたいにキラキラしただけだよぉ。あ、パパ、抱っこ!」

 ルインは両腕を広げて「抱っこ」のポーズを決め、追及を物理的に封じる。

「ああ、もう、可愛いなあルインは!」と、カシエルは鼻の下を伸ばして息子を高く持ち上げた。ルインは父の首に腕を回し、満足げに微笑む。

(危ない危ない。つい効率を求めすぎて、消滅属性アナイアレイトが混じってしまった。最弱として生きるなら、もっと『弱くて可愛い結界』を研究しなくては)

 続いて、エルーカによる治癒魔法の講義が始まる。

「いい、ルイン。ヒールは『愛』よ。相手の痛みを、自分のことのように想うの」

 エルーカがルインのすりむいた膝に手をかざすと、柔らかな光が傷口を塞いだ。

 ルインは「ママ、あったかい……!」とエルーカの胸に飛び込み、その優しい香りを吸い込む。

(ママの癒しは、細胞に活力を与える『活性型』。素晴らしい。だが、これに『増殖制限の解除』を組み込み、敵の眼球に流し込めば、視神経を視覚情報ごとパンクさせる最強の目潰しになるな。……あ、今度あのお喋り魔道書にやり方を聞いておこう)

「ルイン、お顔がニヤけてるわよ? ママの魔法、そんなに嬉しかった?」

「うん! ぼく、ママの魔法だいすき!」

 ルインは満面の笑みで答える。

 その純粋無垢な笑顔の裏側で、彼は着々と「最弱(という名の裏最強)」への道を突き進んでいた。

 父と母を守るためなら、神さえも「癒して(無力化して)」みせる。

 甘えん坊な元魔王の修業は、今日も今日とて平和に(?)進んでいくのであった。

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