第12話:深淵の告白と、新たな影
正体の開示 ― 「触れても、いいの?」
庭園の茂みに潜む「影」の気配を、ルインは微弱な結界で完全に遮断した。この空間だけは、誰にも邪魔させない。
ルインは三歳児のあどけない仮面を脱ぎ捨て、かつての魔王アシュタロトとして、静かに彼女を見つめ返した。
「……そうだ。私がアシュタロトだ。君を置いて、独りで逝こうとした大馬鹿者だよ」
ルイーゼは目を見開き、そして震える手でルインの頬に触れた。
かつてなら、この指先が触れた瞬間に彼女の命は霧散していただろう。だが今、そこにあるのは、ただの子供の柔らかな肌の感触だけ。
「……本当。本当に、アシュタロトなのね。……壊れないわ。私が、壊れない……っ!」
ルイーゼの反応は、拒絶でも恐怖でもなかった。
彼女は溢れ出す涙を拭おうともせず、ルインを力いっぱい抱きしめた。
「私、あの後すぐに死んだのよ? 貴方がいない世界なんて、呼吸の仕方も忘れちゃったから。神様にね、『あの方の毒ですら死なない、最強の体にして』ってお願いしたの!」
(最強の体……だと?)
ルインは驚愕した。彼女が第二皇女として、この時代に、これほど高い魔力適性を持って生まれた理由。それは、魔王の「死」を克服するための、彼女なりの執念の結果だったのだ。
「ルイン君。もう、離さないから」
「……あぁ、分かったよ。私の負けだ」
国王の試練 ― 監視下での学園生活
感動の再会も束の間、結界を解いた先で待っていたのは、腕を組んで仁王立ちする国王ガルディア三世だった。
「装置を粉々に破壊し、さらには皇女を泣かせるとは(※嬉し泣きだが)。……ルイン、お前の『未知の力』、そのまま放置するわけにはいかん」
国王はニヤリと不敵に笑う。
「責任を取れ。お前を本日付で**『王立魔導学院』**へ特待生として入学させる。飛び級だ。そこで余の目の届くところで、その力の正体をじっくりと見せてもらうぞ」
それは事実上の「王都への拘束」と「24時間監視」。
ルインの望む「田舎でのひっそり最弱生活」は、ここに完全に絶たれたのである。
第三の転生者 ― 懐かしき「殺気」
国王の命に従い、学院の手続きのために廊下を歩いていたその時。
ルインの背筋に、冷たい氷の刃で撫でられたような感覚が走った。
(……この気配。覚えがある)
曲がり角の先から現れたのは、一人の少年だった。
学院の制服を纏い、腰に一本の聖剣を下げた、ルインより数歳年上の少年。
その少年がルインとすれ違いざま、耳元でだけ聞こえる低音で囁いた。
「――見つけたぞ。魔王アシュタロト」
ルインは立ち止まり、背後を振り返る。
そこにいたのは、前世で幾度となく刃を交え、最後には自分にトドメを刺したはずの、勇者の魂を持つ者だった。
勇者は冷徹な笑みを浮かべ、ルインを、そして隣にいるルイーゼを一瞥する。
「今世では『守護』の魔法に逃げたか? 偽善だな。だが……俺は忘れていない。貴様が奪ったすべてのものを」
王宮、学園、そして因縁の勇者。
平和を願う元魔王の周囲に、かつての戦乱の残り火が再び集まり始めていた。




