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第10話:深まる謎と王都からの招待状


魔道書の仮説 ― 祈ったのは一人ではない?

 ルイーゼの寝言に衝撃を受けたルインは、深夜、魔道書を叩き起こした。

「彼女が……ルイーゼが『アシュタロト』と呟いた。記憶はないはずなのに、なぜだ?」

『……クカカ、それは興味深い。あるじよ、一つ仮説を立ててやろう』

 魔道書はページをめくり、古の禁呪の記録を示した。

『神に祈ったのは、主だけではなかったのではないか? あの女性もまた、死の間際、あるいは主が消えた後に、神に願ったのだ。「次こそは、彼に触れられる世界へ」とな』

「彼女も……祈ったというのか?」

『そうでなければ、主が転生したこの時代、この場所に、これほど都合よく彼女が現れるはずがなかろう。彼女の魂は「主を見つけること」を最優先に構成されておる。記憶は霧のなかでも、主を愛でる本能だけが暴走しておるのだな』

 ルインは震えた。彼女の「結婚してください」という無茶苦茶な執念は、時を超えた祈りの結晶だったのだ。


シルフィアの焦りと「お遊戯」の挑戦

 翌朝、ルインの家の前には、凄まじい覇気を纏った第一皇女シルフィアが立っていた。

 彼女の背後では、昨日「安らかな寝顔」で全滅した隠密魔導士たちが、恥ずかしさに顔を伏せている。

「ルイン君。貴方には、何か『人を腑抜けにする呪い』の才能があるようね」

「ふぬけ……? ぼく、ただお花をみて笑ってただけだよぉ?」

「白々しいわ! こうなったら、わたくし自ら貴方の実力を確かめてあげる。……いい? これは『お遊戯』よ。わたくしを少しでも動かせたら、貴方の勝ちでいいわ」

 シルフィアが構えたのは、王家に伝わる高密度の魔力剣。

 ルインは(最悪だ……)と溜息をつきながらも、にぱっと笑った。

(仕方ない。彼女の剣を「防御」するのではない。彼女の周りの「重力」だけをほんの少し『守護(固定)』して、バランスを崩していただこう)

「えいっ!」

 ルインが手を振る。シルフィアが踏み込んだ瞬間、彼女の足元だけが「昨日と同じ重力値」を維持しようとし、動こうとする肉体と衝突した。

「きゃっ!?」

 シルフィアは何もないところで盛大に躓き、ルインの目の前でズザザーッと滑り込んだ。

「……ま、また……!? なぜわたくしがこんな無様な……ッ!」

「おねえさま、だいじょうぶ? いたいいたいの、とんでけー(強制治癒・微)」

 ルインの放った「癒し」により、シルフィアのプライドと打撲傷は一瞬で完治したが、彼女の疑念はもはや恐怖に近い確信へと変わっていた。


王都からの使者 ― 断れない召喚

 そんな喧騒を切り裂くように、黄金の鎧を纏った騎士たちが村に現れた。

 彼らが掲げるのは、現国王の紋章が入った正式な書状。

「カシエル殿、エルーカ殿。……および、そのご子息ルイン殿。国王陛下より伝令である。『第二皇女の婚約者候補を、至急王都へ連れて参れ』とのことだ!」

 カシエルがその場で白目を剥いて倒れ、エルーカが悲鳴を上げる。

 ルインはルイーゼにぎゅっと腕を掴まれ、逃げ場を失った。

「やったわね、ルイン君! お父様に紹介できるわ!」

「あはは……王都、お菓子いっぱいあるかなぁ……(死ぬ、これでは最弱としての平穏が死ぬ……ッ!)」

 かくして、元魔王とその一家、そして喋る禁忌の魔道書は、豪華な馬車に揺られて王都へと運ばれることになった。

 

 待ち受けるのは、百戦錬磨の国王と、ルインの正体を暴こうとする宮廷魔導士たちの包囲網。

 ルインの「完璧な最弱偽装」の真価が、今、問われようとしていた。

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