曇天の世界。
Ep.19です。
よろしくお願いします!
れんを家に連れて帰り、晩ご飯の下準備が済んだところで、父親に声をかける。
「晩ご飯の19時前には帰ってくるから。」
「おかずは作ってくれたんだろう。あとはコロッケを揚げて、ご飯炊くだけだから、俺がやるよ。ゆっくりしておいで。」
父親の優しい言葉に、俺は胸が温かくなる。
「ありがとう。」
「にいちゃん。行ってらっしゃい!」
無垢な笑顔で、れんは手を振る。
玄関に向かうと、部屋で過ごしていた母親が顔を出す。
「……またいくの。」
「……」
「まぁ、いいけど。」
母親の言葉と態度に、俺は胸が痛くなる。
数時間前、俺は母親と大喧嘩をした。
喧嘩しても、この状況が良くなるわけでも、俺の気持ちが晴れるわけでもないのに。
……本当に無駄な時間を過ごした。
俺の心は曇天だ。真っ黒い雲に覆われていて、辺りが見えなくなっている。
俺は、千夏さんの職場に行って、温かいミルクコーヒーを貰う。
コーヒーを流し込んで、そっと胸を撫で下ろす。
「今日も勉強してく?」
「……いや、今日はピアノ弾かせてください。」
「……うん。分かった。」
俺をみながら、千夏さんは承諾する。
ピアノを前にした俺は、溜まっている息を全て吐き出す。
俺の指が、振動する。太い音が曲の始まりを告げる。
今の気持ちを整理出来るのは、この曲しかないだろう。
ーーベートーヴェン 月光 第三楽章
何も考えずに、無我夢中で指を動かす。
曲そのものもいい。
この音色と共に、俺の葛藤も、苛立ちも、虚しさも、全て流されてしまえばいい。
そんな思いで、俺は曲を弾ききる。
ピアノから目線を外すと、目をキラキラさせた千夏さんがいる。
「……あゆむくん。さすがだねー!この曲自分のものしてる感じ!!」
千夏さんは言う。
「いや、そんなことは。」俺は慌てて否定する。
「さすが、おばさんの息子さんだね。」
……正直、今その言葉は複雑だけれど。
「ありがとうございます。」
そんなやりとりをしていると、後ろから声がする。
「あゆむ。お前ピアノ弾けんの?」
振り向くと、そこには泉と輔がいた。
「……なんで、お前らここに。」
「ここ、俺らたまに遊びにきてんの。というかさ、今度の文化祭お前ピアノ弾けよ!」
思わぬ泉の提案に、俺は息を呑んだ。
ありがとうございました!
これからも、よろしくお願いします!




