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第三話 破られた前線を乗り越えて



 軍議を終えてから1時間後、支度を済ませた私とベロニカは軍のトラックに乗ろうとしていた。荷台部分を改装してビニールで囲い、イスを設置して10人程度乗れるようにしたもの。東の森までは徒歩だと数時間はかかる為、これで移動するのが一般的だ。

 トラックに乗り込む際、ふとライラの街を眺める。東門の軍支部のある辺りはインフラこそ整備されているものの、その日の食料にすら苦しむ人々が数多過ごしている。一方で、都市の真ん中方面に目を向ければ馬鹿高い高層タワーやマンションがその存在を強く訴えている。もどかしい光景だ、とはずっと思っている。



「カルミア、大丈夫じゃ?」



 私に続いて乗ろうとしていたベロニカに言われた。私は何でもないと言いながらトラックの奥に座り込む。ベロニカは不思議そうな顔をしながら隣に座ってきた。私達2人が乗ったのに合わせて、門番をしていた兵士がトラックの後ろで、



「ご武運を」



 と言いながら幕を閉じる。私たちは閉鎖的な空間に2人っきりになった。最も、電灯はついてるので真っ暗ではない。少し経つと、トラックも動き始めた。30分ぐらいで東の森に着くだろう。




「カルミア、サンフォールについてどう思うんじゃ」



 トラックが出発してから数分後、突然ベロニカから質問された。



「どう思う…?討伐すべき対象…ということではなく?」



「確かに奴らは許し難い悪党共じゃ。じゃが…サンフォールの者共が言うように、ライラの上層部が腐っているのもまたその通りなのじゃ。カルミアも出発する時街を見て思ったじゃろ、変な景色じゃと」



 変な景色…。貧民街のような街の外側とそこからでも見えるほど高く聳え立つ中心部の構図のことを指しているのだろうか。



「ライラの人間は力を視認させないと気が済まないんじゃよ。ティルナとの戦争で捕まえた捕虜数千人をまとめて民衆の前に晒そうとしたぐらいじゃからな。儂やリオネル司令官で止めたんじゃが」



「…」



「カルミアはどう思うんじゃ。この国について」



 限りなく難しい質問だ。国の腐敗は私もぼんやり分かっている。一応軍の、それもかなり上位の軍団にいる為嫌でも聞こえてくるのだ。



「…色々直すべきところはありますけど、それでも私はこの国が好きですよ」



 どう返答するのが良いのか分からなかった。ただ、少なくとも私はこの国が好きだ。それだけは間違いない。あの雨の日を思い出したとしても。



「…済まんな、カルミア。これから戦う敵に同情しておる場合じゃなかったのじゃ。忘れてくれなのじゃ」



 ベロニカから謝られてしまった。そんなつもりは無かったのだけれど。



「カルミア、例えどんな敵が来ようとも、必ず儂らで討伐するんじゃからな」



「…はい。よろしくお願いします、ベロニカさん」



 …東の森まではもう少しかかりそうだ。





 それは突然訪れた。



 「キキーッ!!!!」



 トラックが急ブレーキをかけて停車した。私もベロニカも危うく吹っ飛ばされるところだった。



「おい!運転手は何をしとるんじゃ!儂らを殺す気か!」



 運転席と後ろがやり取りできる通風口に向けて、ベロニカは大声で叫んだ。だが、運転席からは弱々しく、



「降りて、見て見て下さいよ…」



 と返答されるのみだった。プンスカ怒るベロニカをちょっと笑いながら、私たちはトラック後ろの幕を上げて外に出る。草の生い茂る荒野に出てきた。そして運転席方面に向き直り、トラックの前に来た時だった。




 遠めながら、森と荒野の境目辺りに設置されている5個ぐらいのテントが荒らされて朽ち果てた姿が見えた。人が倒れている様子も見える。テントの中には燃えているものも見えた。



「あそこに…軍の臨時拠点を設置していたんです。あなた方をあそこで降ろす予定だったのですが…」



 運転していた軍人はか細い声で呟く。私は返す言葉もなく呆然としていた。チラリとベロニカを見ると、何処か苛立っているようにも見えた。



「間違いなくサンフォールの奴らの仕業じゃろうて。めんどくさいことをしてくれたのう」



「…どうしましょう、ベロニカさん」



「どうする?進むしか無いじゃろう。ほれあそこ、見られておる」



 ベロニカは森の中を指さす。私がその方向を向くと、その先に一瞬だけ赤い光が見えた気がした。



「仮にここで引き返したとて、またヤツらが勢いを増すだけじゃ。そもそもこちらを視認しているなら、そう安易と返してくれるものか。背中を見せた瞬間、御陀仏じゃよ」



「…じゃあ、やるしかないんですね」



「そう言う事じゃ。カルミア、運転手を荷台に乗せといてやれ。儂が見張っておく」



「い、嫌だ!僕は僕は僕は嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!!!」



 運転手は急に叫び出して当てもなく走り始めた。三十秒も経たない内にズドンという轟音が響き、運転手が倒れた。



「…カルミア、行くぞ。儂らだけで何とかするしかないようじゃ」



「…はい」



 私たちは警戒を怠らずに東の森へ接近していく。いつもは涼しく感じる西風が、今日はやけに鋭く刺すように思えた。

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