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申し訳ないけど、そういうプレイにしか見えない

作者: 小雨川蛙

 

 あてもなく続けている旅の途中。

 若い二人組の旅人に出会った。


 一人は男性。

 もう一人は女性。

 一見すると夫婦に見えるがまだ結婚はしていないらしい。


 僕と彼らは数日の間、共に旅をした。

 生まれも育ちも全く知らない者達同士が意図せず出会い、そして別れていく。

 旅の醍醐味の一つだ。

 そして、そんな旅の三日目。


「ところであなた達は何故旅をしているのですか?」


 何となしに旅の目的を僕が問うと二人は顔を見合わせた。

 男性の方が無言で頷いたので女性は咳ばらいを一つして笑う。


「呪いを解くために旅をしているんです」


 朗らかな女性の声と対照的に隣で男性は仏頂面で黙り込んでいる。


「呪い?」


 そう問うと女性は頷く。


「ええ。実はですね……」


 そう言って女性は突如男性の上着をひったくる。

 突然の行動に驚いたが彼の肌を見てもっと驚いた。


 見るも無残な傷の数々。

 獣の牙や爪で出来たものだ。

 しかし、これほどまでに大きなものは見たこともない。


「狼……いや、もっとデカいか?」


 僕の呟きを聞いていた女性は頭を軽く掻きながら笑う。


「これ、私がつけたんです」


 女性の腕の中にあった上着を取り戻しながら男性はため息をつく。


「彼女。人狼なんだ」

「人狼?」

「あぁ。満月の晩にだけ狼に変わる。そんな呪いを身に受けている」

「そうなんです。そこで私と彼はこうして旅をして呪いを解く方法を探しているんです」


 なるほど。

 そう言いながらふと気づく。

 ――満月の晩って。


「そう。今晩です」

「あぁ。だから、ここで別れよう」


 二人の言葉を受けて僕は頷いた。

 意図せず出会い、そして別れていく。

 旅の途中の出会いなんてそんなものさ。

 縁があればまた出会うこともあるだろう。


「だけど、夜までまだ時間があります。もう少し一緒に居ませんか」


 僕の問いに男性は気まずそうに頭を掻く。


「ありがたい話だがね。夜に向けて準備があるんだ」

「準備?」

「ええ。私が暴れても大丈夫なようにしなくちゃいけないことがあってね」


 そう言うと男性は荷物の中から鎖で結ばれた首輪を取り出す。


「これを木に括りつけてな。暴れても大丈夫なようにするんだ」

「は、はぁ……」

「それだけじゃなくてね。両手も拘束するの。狼になった私、びっくりするくらい力が強いんだから」

「な、なるほど?」

「そして服を破ってしまわないよう予め全裸になるの。私の裸、見てみたい?」


 女性の悪戯っぽい笑いを受けて僕は首を振る。

 どう考えてもここにいるのは危険だ。

 何せ男性の方が殺気立った視線でこちらを見ているから。


「それじゃ、そろそろ準備をしなきゃいけないから」

「あぁ。達者でな」


 彼らに見送られて僕は足早に二人の下を後にした。

 あとはもう二人でごゆっくりという感じだ。


 それにしても……。


「難儀な呪いもあるもんだなぁ」


 僕は思わず呟いていた。

 人狼になってしまうなんて。

 おまけにそうなってしまえば恋人の身体だって傷つけてしまう。


「まったくもって恐ろしい」


 だけど、全裸の女性を鎖で縛るなんて……僕は頭に浮かんだ邪な考えを振り払う。

 少なくとも当人達はあんなにも真剣なんだ。

 多分。


「いかんいかん……」


 呟きながら僕は歩を進め続けた。

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