第8話 王都からの招待
領主の屋敷は、村とはまるで別世界だった。
石造りの立派な門、磨き上げられた廊下、豪華なシャンデリア。
悠人は場違い感に押しつぶされそうになりながら、クロを抱えて案内された広間に通された。
奥の椅子に座っていたのは、上品な顔立ちの中年男性。
この地を治める領主、アルヴェルト・フォン・グリューネ。
「よく来てくれた、黒竜の主よ」
領主は穏やかに微笑んだ。
「い、いや、俺はそんな大層な者じゃ……」
悠人は慌てて手を振るが、領主はかぶりを振った。
「謙遜せずともよい。盗賊を一掃したと聞いている。まさか“終焉の黒竜”を使役できる者がいるとは思わなんだ」
「えっ……終焉の黒竜ってクロのこと!?」
悠人が思わずクロを見ると、クロは平然としっぽを振っていた。
「昔の呼び名だ。懐かしいな」
もっと早く教えてくれよ!
「その力、ぜひ我が領で役立ててもらえないか」
領主の目が真剣になる。
――きた。
悠人は察した。
やっぱりこうなるよな。
悠人は慌てて言った。
「いえ、俺はただの旅人で、力を振るうつもりは……」
「そうは言うが、そなたの力はあまりに強大だ。このまま野に放っておくには危うい。わかるだろう?」
脅し!?
悠人の背中を冷や汗が流れる。
そのとき、扉が再び開いた。
現れたのは、豪華な衣をまとった文官風の人物だった。
「領主様、王都よりの急使が到着しました!」
王都?
文官が一通の封書を恭しく差し出す。
領主は目を通すと、少し驚いた表情をした。
「……そうか。これは想定以上だな」
「な、何がですか?」
悠人の問いに、領主は微笑んだ。
「君に――王都への招待状が届いた」
「えっ……」
思考が一瞬で真っ白になる。
領主が続けた。
「王都で、陛下が君とその黒竜に会いたいそうだ。近々、迎えを寄越すとのことだ」
……えええええええ!?
宿でのんびりパンをかじる生活がしたかっただけなのに。
いつの間にか、王都の王様に呼ばれるとかいう大事になってしまった。
悠人は両手で頭を抱えた。
「……俺、ほんとにのんびりスローライフしたいだけなのに……!」
隣でクロが愉快そうに笑った。
「主よ、王と謁見とは面白そうではないか」
「面白くないわーーーっ!」
悠人の叫びが、広間に虚しく響いた。