第6話 英雄? ただの旅人です!
「すごい……本当に、ドラゴンが盗賊を一掃したんだ……!」
広場はざわめきに包まれていた。
悠人はというと、膝が笑って立ち上がるのがやっとだった。
クロは悠然とした姿で、悠人の隣に戻ってきた。
戦い慣れすぎてて怖い。
そのとき、村長が前に出てきた。
「おお……旅の方! あなたは一体……!」
「い、いやいやいやいや!」
悠人は必死に手を振った。
「俺はただの旅人です! 英雄とかじゃありませんから!」
「いや、あの竜はどう見ても……」
「ちょっと懐かれただけです! ね、クロ?」
クロはちらりと悠人を見て、しれっと言った。
「我が主は偉大な御方だ」
「何言ってんだお前ーーーっ!」
バカ正直に言うな!
だがもう遅い。
「すごい……」
「あんな竜を従えているなんて……!」
「勇者様かもしれない!」
村人たちの視線が熱い。
悠人はその場で溶けて消えたい気持ちになった。
それからしばらくして――。
悠人は宿の部屋でベッドに倒れ込んでいた。
「……終わった。俺の平穏な異世界ライフは終わった……」
クロがベッドの足元で尻尾を揺らしながら言う。
「主よ、村人たちはお前を英雄と呼びたがっているようだな」
「呼ばなくていいから!」
「なぜ嫌がる?」
「だって……目立つじゃん! 俺は目立ちたくないの!」
悠人の必死の抗議にも、クロは楽しげに微笑むだけだった。
その夜。
宿の女将が夕食を運んできてくれた。
「今日は本当にありがとうねぇ、旅の人。村のみんながあなたに助けられたんだよ」
「いえ……僕は何も……」
お礼のパンとシチューを前に、悠人は完全に居心地が悪い。
「明日、村長がぜひ改めてお礼をしたいってさ。少しだけでいいから顔を出してやっておくれ」
「……(断れない空気だ……!)」
こうして、“のんびり旅人”として暮らしたい悠人は、村で英雄扱いされることになった。
――しかも、それはこの後もっと面倒なことを呼び込むのだが……今の悠人はまだ知らない。