第4話 『戦うばかりが解決策じゃない(には違いないんだけどさ……)』
プエルトス・コミューネス一帯は、例年通り雨季になった。
土砂崩れ現場の手前にコミューネス伯の軍勢は布陣し、まずは出口を封鎖する。ブエン・ヴェシノ王国軍ことヤンマラン伯軍は、街道が湖で途切れるあたりで布陣しているらしい。
ようやく斥候から戻ってきたアニマの報告を領主様と一緒に聞きながら、ファリスはどうして自分は領主様と軍議をしているのかと本日八度目の自問自答を行っていた。
「連中は地形も状況も変わっているのに戸惑っているようにも見えました。まあ、山越えてきたら湖があったとか、理解が追い付かないかと思います」
「とはいえ使節を送るでもなくいきなり武装して押し掛けるなど、不躾にも程がある」
「それでですね、礼儀を重んじる我々は堂々とこちらまで来て戦口上申してみよとヤンマランの連中を挑発している所です」
「ハハハ、煽てた豚は木に登ったか?」
「いきり立った連中が道もないのにやって来ましたが、簡単に返り討ちにしていましたね。崩れやすい斜面じゃ戦闘になりません。泳いできてみろと散々煽っている最中です」
「惜しいな、連中が青筋立てる所を目の前で眺めてやりたいわ」
「総大将は大人しく願います」
「わかっておる」
両国の緊張状態までいかないこういった小競り合いは、国境地帯では日常茶飯事らしい。コミューネス伯領とヤンマラン伯領が二つの国に分かれた理由が、両者の昔からの仲の悪さが原因とのこと。
どうも挑発して前線に張り付けるのは領主様の指示らしく、徐々に水かさが増す中で取り残されることを期待している所がある。
消極的時間稼ぎを装ってこんな挑発をするのは、雨期の行軍を考えると結構悪辣な策に思える。
降り出した雨がいつまで続くかにもよるが、土石流で出来た堤防が満水になるまでまだ猶予がある。その猶予をこの雨が埋めてしまう可能性もあるのだ。
そうなった場合、少なくとも水位はあと二メートルは上がるとファリスは予測していた。
「領主様、筏か追加のボートの準備が必要かと思います」
「ほう、積極攻勢で殲滅する方が良いという事かな?密使殿」
「いえいえ、決してそのような事は……そのですね、あと二、三日雨が続けば最上流域も街道が水没し始めます。そのあと彼等をどうするにせよ、今居座っている所から移動させないといけないと思うのです」
「ふむ、しかしその場に縫い付けて全滅させても良いと思うが?」
「ご遺体の始末、面倒ですよ?歩いて帰ってもらった方が後腐れ無いかと」
「それでは我らが被った被害も……まあ、今のところ被害はないが、楽に返させてやるのも癪に障るのだが、その落とし前は?」
「そうですね、降伏させて捕虜にして、ブエン・ヴェシノ王国に賠償請求を行うというのは如何でしょう?」
「…………ククククク、なるほどなるほど、密使殿も中々に良い性格をしておられる」
「いやあ、ははは、金銭の恨みより生き死にの恨みの方がタチ悪いですから。それに、峠を越えてコレジャナイ王国に来ようにもまともに道が使えないと、国内に帰って宣伝してもらったほうが良いと思うのです」
「ははあ、実体験を持つ者たちに勝手に向こうで宣伝してもらうという事か!」
「はい。嫌な思いをしていれば、勝手に宣伝してくれるかと……」
「うんうんうん、いいな。こちらに何の損もない。一石で二鳥も三鳥も得られる。さすが密使殿は知恵者だ」
「言うだけ無駄と思いますが、私ただの考古学研究所の所員ですからね?」
「ははは、そう言う事にしておこう」
その後アニマは一旦家に帰るとかで、ようやく肩の荷が下りた風で領主様の前から退出する。
ファリスも水不足になっていた街の西側が気になっていたので、領主様に断って退出した。
何とか口実を付けて逃げ出したファリス。一体いつになったら本業の研究が出来るのやらと、館を出た後でため息をついて肩を落とす。
*
さて、三日ほど経過した所で戦線に何も動きはなく、互いに斥候を出したり、その斥候が野次を飛ばして挑発しあったりといったことを繰り返しているだけだという。
互いに雨で足元がぬかるんでいるので積極的に動きたくないというのがにじみ出ていて、両軍とも指揮官の意気の高さと兵のやる気のなさは共通しているようだ。
報告書を上げて自由時間が出来ると、ファリスは馴染みの店でお茶を飲みながら店の中の噂話に耳を傾ける。
港の倉庫がもう限界で、船便は数カ月先まで予約でいっぱいな事。
街道整備もシャンルー峠途中の石切り場に近付けず、舗装に使う石材が枯渇してしまった事。
ヤンマラン伯領拠点の商会が、予測を見誤って大量の鎧兜を在庫にしてしまい、かなり不味い状況になっている事。
ヤンマラン伯軍はこの三日位の雨で全員ずぶ濡れになってしまい、退避できるテントや岩陰も殆ど無いらしいこと。
仕事が激減した装蹄師がそろそろ暴動起こしそうな事――――
本来の仕事は考古学なのだけれど、生き物のように姿形を変える街中の噂を肴に杯を傾けるのが、最近ストレスに晒されまくりなファリスの何よりの楽しみだった。
「お疲れだなファリス」
「あれ?シャブナム、帰って来てたの?」
その日の夜、カウンターで一人酒を楽しんでいたファリスの横に、平服のシャブナムが座る。気心知れた人間がやって来て、ファリスは表情が一気に緩む。
「うん、領主様からの呼び出し。前線の状況報告と、ファリスの護衛だってさ」
「そっかあ、ご苦労さまでした」
「いやあ、まだ何も解決していないけどな。あと護衛の意味、解ってる?」
「私の護衛でしょ?わかってるよ。それより前線、どんな感じ?」
「敵さんもそうだけど、誰もやる気なんかない」
攻め込まれる話より天気や今年の収穫の話しかしない前線の兵士の事を、シャブナムが面白おかしくファリスに聞かせると、鈴を転がしたようにファリスが笑う。
昔からここの国境紛争のぐだぐだっぷりは酒の肴に聞いていたファリスだが、てっきり呑兵衛の与太話と思っていたのが事実に近いと知って、変なテンションで嬉しくなる。
「雨、大変だよね」
「敵さんは悲惨らしいぞ。雨除けになるのがテントしかないのに、この五日くらい雨が続いたせいでテントが水吸ってまともに雨よけにならなくなったんだと」
「うわあ、そこで寝るとか考えたくないにゃあ……」
「へ?……にゃあって何?」
「あ、失礼」
いや、いいけどと続けたシャブナムの頬が一気に赤くなって目を逸らしたのを、ファリスは理由が判らず首を傾げながら顔を覗き込む。
その後ファリスは少々酔いが回ってしまい、無防備になったのを自覚しないものだから、シャブナムどころか酒場の男全員の視線を掻っ攫っていった。
「ファリス、猫の真似して『にゃん』って言ってみて?」
「ねこぉ?……んーーー……にゃん?」
ファリスが冗談半分のシャブナムの言葉に応じた瞬間、酒場でどよめきが起こる。
貴重なものを見せてもらったとばかりに、いい感じで正体を無くし始めたファリスの座るカウンターの前には、他の客からのチップが積み上がっていく。
シャブナムはサムズアップでさっきのリクエストを称えられつつ、ファリスの魅力は恐ろしいなと感じていた。
やがてファリスが酔い潰れてカウンターにキスする頃には、チップの山は二週間くらい飲み食いがタダになる金額と化していた。
「この姫様、ホントずるいよなあ……色々な意味で……」
自分のジャケットを脱いでファリスに掛けて、意味不明な寝言を肴に暫くシャブナムは飲んだ後、ファリスを丁重に抱き抱えて部屋に運んで帰宅した。
翌日、記憶を無くした時の出来事をシャブナムにお詫びと共に確認しに来たファリスは、昨日シャブナムがやって来た理由を改めて説明される。
内容はいつもの三人でヤンマラン伯軍への降伏勧告の使者に立つという、例え密使が本当だとしてもなんて事させるんだという物騒な役目だった。
平民が貴族の頼みを断れないのを差し置いても、自身の昨日のやらかしのせいで断り切れず、ヤンマラン伯軍の湖畔の拠点に向かう事となった。
「ああもう……どうしてこうなった……」
うなだれて呟くファリスの頭を、子ども扱いでシャブナムがポンポン叩いて撫でるものだから、恨みがましくシャブナムを睨む。
結果シャブナムは両手で顔を覆ってしゃがみ込み、意味不明な呟きを暫く地面に吸い込ませた後、スンとした顔でファリスの前に再び立つ。
その後休暇明けのアニマも合流して今後の行動予定の方針を煮詰めた。
翌日、三人はプエルトス・コミューネスを出立し、最前線へ向かう。
*
到着したコミューネス伯軍の前線陣地は、昨日久々に止んだ雨のあと、今日また一降りやって来て小康状態となっている。しかし空のぐずつき加減から、この後どうなるか判らない空模様になっていた。
湖畔に急造された船着き場には、数隻のボートと筏がいくつか係留されている。 念のため湖上から急襲する事も想定して準備したらしい。
そのうちの一隻を有難く拝借して、ヤンマラン伯軍の野営地に向かう事にした。
「良く降るねえ……」
「この時期は毎年こんな感じだ」
「そうなんだ」
「それより使者殿は何をどう言うか考えてるのか?」
からかい半分のシャブナムの言葉に、ファリスは頭を抱える。
「うぅ……私ただの考古学研究所員なのに……」
「領主様の信頼、厚すぎるよなあ」
「家臣団の人が誰も領主様を止めてくれない」
「ああ、あの人たちにも領主様と同じくらい信頼されてるから」
「シャブナム!私平民!採用試験に受かっただけのお役人!信じてっ!」
「うん、よく知ってる」
サブメルサ湖を進むボートの中で、黄昏たり情緒不安定になったりと忙しいファリスを、オールを操りながらシャブナムが相手しつつ目的地に向かう。
降り続いた雨のせいで随分増水したサブメルサ湖は、明日にでも溢れ出すのではないかという状況になっていた。
「二人とも、そろそろ敵本陣だ。難しいと思うけど、真面目な顔を作ってくれ」
アニマの注意にファリスは渋い顔になる。
「交渉に行くのが平民三人って、捨て駒だからか信頼あるからなのか、判断できないよね」
「少なくとも領主様がファリスを密使と思い込んでるのは変わらないし、信頼されてる方と思うが?」
「むぅぅ、勘違いがベースの信頼とか怖すぎる……」
「まあ、その辺は俺とかシャブナムがフォロー入れるさ。ファリスは実績もあるんだから、ひどい扱いされる事は無いと思うけどなあ」
「だといいけど……国家権力の前じゃ、一平民の運命なんて風で飛んでいく花びらみたいなもんだし……」
「違いない」
笑ってごまかすアニマにファリスも苦笑いで返す。
そうこうしているうちに湖岸の人影がざわついて慌ただしく動き出すのが見えた。
「さあ、くだらない戦の真似事なんざ終わらせてしまおう!」
アニマはそう言うと『交渉の意志あり』の旗を揚げて降る。
仕方ないと覚悟を決めて両方の頬をばんと叩くファリスを、きっと大丈夫さとシャブナムはお気楽に励ます。
気の抜けた様なシャブナムの態度に毒気を抜かれたファリスも、そういえば自分たちが『彼の』コレジャナイ王国民だったと思い出した。
*
「それで?交渉内容は何だ?領土の割譲の申し出か?賠償金でも払ってくれるのか?」
「残念ながらどれでもありません。あ、ええとこちらがコミュ―ネス伯の親書になります」
尊大に親書を受け取るのはヤンマラン伯軍が騎士団の団長、ガッフェ・ド・クリエ氏だ。
エラそうな口調と態度そのままの人物とは、過去何度か対戦した事のあるシャブナムとアニマの話でファリスも把握していた。
二人はいけ好かない野郎だと嫌っていたが、いざ対面しているファリスはそこまで嫌悪感を抱いていない。エラそうで尊大なのはその通りだが、何とも言えない人の良さが滲み出てしまっていて、思わず表情が緩んでしまう。
そのためファリスは表情と共に、口調もどこか優しさや親しみが滲んだものとなる。
「その、敵対している我々が言う事ではありませんが、よく我慢されてますねえ、この状況」
「フン、戦場というものはそもそも理不尽と不条理の上に成り立つもの。この程度の逆境、ヤンマラン騎士は歯牙にもかけぬ」
なるほど、平坦な部分はすでに浅い所で足首まで水に浸かる有様。長雨で食料は腐ってしまってまともではなく、水はいっぱいあるが飲み水は火も起こせないので確保できない。
眠ろうにもテントや寝具はずぶ濡れ、馬は水辺を嫌って斜面地でまばらに生えた草を食むが、こちらもいつ逃げ出してもおかしくない気概に溢れる。
そんな状況で兵士がまともな筈もなく、輜重隊や平民が主な槍兵は全くやる気も出ずに撤退命令を今か今かと待っている状態。すでに鎧を最低限しか装着していない貴族中心の騎兵も、本音は早く家に帰りたいのだろう。
領主様の策は見事にはまり、コミューネス伯軍の挑発に前線を下げずに対抗して張り付いているうちに、退路は長雨で水没してしまっている。
そのため身動き取れなくなってじり貧となり、前にも後ろにも行けないのがクリエ団長の現状とお察しする。
しかしこの手の人物に淡々と事実を指摘するのは悪手に過ぎる。
さてどうしたものかとファリスが思案している最中、領主様の親書を読んでいたクリエ団長の肩が震えている。
ハテと不思議に思ったファリスは、憤怒の形相のクリエ団長にぎょっとする。
「コミュ―ネス伯は!ウン・レーニョ・ドゥヴェ・ラ・スフィデ・スペリコラーテ・スィ・リベルタ・ブオネ・ペル・カーゾ王国は!我々を愚弄するおつもりか!」
「へ?」
「まだ一戦も交えぬうちから降伏勧告をするだけに留まらず、我らが虜囚となる前提でのわが国への返還費用という名の身代金の提案をのうのうと申し立てるなど、戦を舐めるにも程がある!」
激高するクリエ団長に同情する気持ちがファリスにも芽生えた。ファリスが領主様と話していたこと、そのまんま文書にした可能性が頭をよぎる。
コレジャナイ王国の正式名称を、一部間違えつつちゃんと言ってくれる人を初めて見た感動で、どうにかしないといけない現実を胡麻化そうとしたが駄目だった。
『万事この親書を相手の総大将に渡せばすぐに解決する』と、中身の説明もせずにファリスに託したのは、我らが強かで勘違いの激しい領主様だ。
てっきり勝手知ったる対戦相手の痛い所を突いて、交渉に応じる糸口を用意してくれているものとばかり思っていたら、内容は挑発ときたもんだ。
泣きたい気分で頼れるアニマに目配せすれば、アニマはふいっと目を逸らす。
もうあなたしかいないとシャブナムを見ると、柄頭をポンポン叩いていざとなれば一緒に散ろうと示唆してきた。それを目にしたクリエ団長の目も据わる。
「なるほどつまり、我らを駆り立て一戦交えるおつもりか。良かろう、受けて立とうではないか」
「いやいやいや、まあ領主様の親書はさておきちょっと落ち着きましょう!」
「そのような文官風情の甘言に貸す耳など持ち合わせておらん。手始めにそなたらの首を掲げて推して槍の穂先に参ろうぞ!」
あ、これは最悪の状況とファリスが観念しかけたその時、山肌から噴き出す伏流水の勢いが増して、ブチッ…ブチッと、なにかが切れる音が不気味に聞こえ始める。
少し離れた斜面では、結構大きな石が斜面を転がって湖に飛び込み、大きな波紋を作った。ファリスの背中をざわっと悪寒が走り抜け、クリエ団長から一瞬で集中を周囲の異変に切り替えた。
「おのれっ!人でなし領主に違わず領民どもも人非人揃いか!」
剣の柄に手を掛けたクリエ団長を目で制し、ファリスは青筋を立てるクリエ団長に人差し指を差し出して、唇に押し付ける。
虚を突かれたクリエ団長は指を凝視して言葉を失うと、何かが軋むような、緊張の果てにブチ切れてしまう音が不気味に響き、徐々に大きくなる。それと共に土の匂いが強くなってきて、居合わせた誰にも異常事態と察する事が出来た。
「クリエ団長、で、よろしかったでしょうか?」
「そ、そうだが?」
「何も聞かずに軍を二手に分けて全力でここから走って逃げてください。時間ありません」
「しょ、承知」
「シャブナム!アニマ!」
「ハッ!」
「船まで走ります、後ろは振り返らない!いいね?」
「了!」
言うが早いかファリスは乗ってきた船まで足をもつらせながら全力疾走を始める。
背中にクリエ団長が自軍に全力で上下流に分かれて走るように指示を出しているのを感じつつ、両脇に追いついてきたシャブナムとアニマにほっとする。
二人が両弦を確保した船に乗り込み、とにかく沖合に出るように二人を急かした。
二人は素直に指示に従い、呼吸を合わせてオールを漕いでその場から離脱を始める。
船尾に移動したファリスは、湖岸のヤンマラン伯軍の避難状況に目が釘付けになった。
結構大きな岩が斜面を転がり落ちて野営地のテントに突き刺さる。それを潮にしたように大小の岩石があちこちで転落をはじめ、やがて地面が地響きを立ててそのままずるりと湖面になだれ込んでいった。
散々雨が降った後だというのに、土砂が流れ出した部分は土煙に覆われる。船上の三人はその有様に目が釘付けになるが、水面の異変にいち早く気付いたファリスがまた叫ぶ。
「大波が来ます!オールが流されないように確保して!舳先を土砂崩れに向けて立てて!」
「イエス!マム!」
なんだそりゃとファリスは思ったが、二人は即座にファリスの指示に従う。
その後十数秒で大波は押し寄せ、二人は苦労しながら舳先を波に立てるようにオールを捌いた。
沖で波に翻弄されつつ次第に落ち着いた後、ホッと一息ついたファリスが目にしたのは、崩れた斜面で生存者を助け出しているヤンマラン柏軍の兵士たちの必死な姿だった。
「シャブナム、と、アニマさん」
「どうするファリス?」
二人を代表したシャブナムの言葉に、犠牲が出た事にショックを受けつつ、ファリスは目線を上げて答える。
「いったん陣地に戻って、用意してたボートと筏を出しましょう。これはもう戦には、ならない」
「そうだな。それじゃあ取り急ぎ戻ろう」
「…………ありがとう」
自分達だけ逃げおおせる罪悪感を抱えながら、ファリスは船尾から遠ざかる土砂崩れの現場を眺め続けた。
湖岸に急造した船着き場では、コミューネス側の兵士が様子を見に来てくれていた。
岸に着いた途端ファリスは、船着き場に来ていた騎士団長をすぐさま捕まえると、ボートと筏を総動員して、被災したヤンマラン伯軍への救済を願った。
幸い非常事態というのはすぐに伝わったようで、先行して三隻のボートが救援に向かい、残りの筏を動かす準備と救護所設置のための段取りも始められた。
結果的に土砂崩れに助けられた形となったファリスだったが、その事にほっとするより、目の前で死者が出たかもしれない光景を目の当たりにしたショックで、指示と報告を終えるとその場にへたり込む。
慌てたシャブナムに支えられ、ファリスはそのまま気を失う。抱えたシャブナムは異常に高い体温にぎょっとして、慌てて野営地まで駆け降り、横抱きに馬に乗せて領主様の館に連れて行った。
その日から三日ほど、ファリスは寝込むことになる――――
つづく
ファリスさんはしばしば寝込みますが、病弱なのではなく、リミッターがぶっ壊れてるからですw