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07.咆哮の行方

 人は誰しも嘘を被って生きている。

 それは善と悪等しく、欲や願いが嘘となって形をなす。


 シトロンは昔からそんな嘘を何度も見てきた。人間は嘘をつく時、変わった匂いを出す。

 人間の感情は匂いで分かる、というのは本当の事である。嗅覚が鋭いほどそれはより鮮明に嗅ぎ分けられるのだ。



 その日の夜も、彼はオークション会場に来ていた。多くの競りが行われる中、何も買わず、ただ黙って商品が売られる所を見ていた。

 仮面で隠れて表情は読み取れずとも、彼がとても悲しそうにしている事は分かった。

 いや、それ無くしても彼は分かりやすいほどに苦悩していた。特に奴隷や貴重な生き物が乱雑に扱われ、売られていく様を見ている時の彼は、隠れた手を強く握りしめ、震えていた。


 シトロンはゆっくりとダレンと思しき人物に近ずき、彼に聞こえる声でハッキリと問うた。


「失礼。貴方はダレン・ノース様でお間違いないか?」


 ダレンはギョッとして数秒考えた後、軽く頷く。


「少し、いいですか?」


 そうして2人で別の場所に移動し、人気のない場所に向かう。

 彼は状況を理解してか、黙って案内してくれた。何度も来ていることもあり、彼は随分とこの場所に慣れているようだ。


「ここなら大丈夫でしょう。貴方が私を監視している事は、薄々感づいていました。初めは気付きませんでしたが、何度も見かけていたのでもしや、と」


「どうしても、貴方と話せる機会を得たかった。貴方は領主の屋敷では頑なに人と関わろうとしなかったから」


 そう言ってシトロンは被っていたフードを脱ぎ、素顔を晒す。


「!!…貴方は、そうですか。第4部隊の方でしたか」


 ダレンは少し驚いたあと、察したような仮面をはずし、フードを取った。

 隠れていた碧眼と灰色の頭髪が露になる。少しキツめの顔立ちをしているが、真面目で誠実そうにも見える。しかし特に特徴的なその黒に近い灰色の髪は、見る者からしたらエレハンドと勘違いしてしまう。

 彼はこれまで随分と、苦労してきたのかもしれない。


「貴方はこの件と、魔獣の出現についてどこまで知っているのですか?」

「……、全て、と言うべきか。あの兄が何を企んでいるのか凡そ検討はついてきました」


 きた、という事は最近分かった事なのだろう。


「ではやはり、魔獣を手引きしているのは伯爵で間違いないのですね?」

「ええ、半年前からです。兄が他国から違法に魔獣を買占め、領民を襲うようになりました。その後、魔獣を競売にかけ、貴族に魔獣の斡旋を行うようになりました。なんでも、魔獣を譲っているのは魔術師のようで」

「なぜ、領民を襲わせるようなことを」

「魔獣内の魔石の活性化です」

「!!、なんだって!」


 魔石とは、魔物の中にある魔力が凝縮された核の事である。近年この魔石を使ったシステムが進められ、魔法の素質を持たない者でも魔法が使用できるように開発が進められている。特に力の持った魔獣や人型の魔物がより強い核を持っており、核を目的とした討伐が頻繁に起きていた。

 だが最近、人を襲った魔物ほど強い核を持つという、良からぬ噂がたっていた。


 帝国は直ちにこれはデマであり、なんの確証もないとして否定、規制を行った。

 因みに、帝国で研究されている機会は魔力源を一切使わない研究を進められている。


「勿論止めようとしました。ですが、俺には発言の自由などありません。反抗する事を言うと、濡れ衣を着せられてしまって」

「伯爵から聞きました。貴方が他国と違法な取引を行っていると」

「そんな事、一切していません!」

「分かっています。落ち着いて下さい伯爵が嘘をついている事は分かっています」


 動揺するダレンを宥め、落ち着いたのを確認してからまた話し始める。


「ダレンさん、僕たちに協力してください」

「俺が、ですか?」

「貴方の力が必要なのです」

「でも、俺は街の人から嫌われてるから」


 およそ見た目を理由に彼はずっと虐げられて来たのだろう。


「貴方は、この領地の治安部隊として、ずっとこの街の人々を守って来ました。違法な行為が行われていると知って、貴方はこうしてどうにかしようと動かれているのだから」


「いえ、実際には何も出来ていませんが」

「先日オークションで、魔力を持った奴隷の子供を何人も、引き取ったそうですね。魔力を持った子供は酷い実験をウケると分かっていたからです。その後、貴方が隠れて援助している孤児院に預けた。それに、貴方はこの街の事を何よりも大事に思っているはずだ!」


「……、流石に全部お見通し見たいですね」


 シトロンの説得に、ダレンは諦めた表情で答えた。


「俺に、出来ることなら」

「ありがとうございます!」


 * * *


 ある夜、伯爵領から5キロほど離れた森の奥の深くをゆっくりと進む、馬に乗る男の姿があった。走らせて数分で、大きな洞窟に辿り着く。一件ただの洞窟に見えるが、中には隠し扉があり、そこから地下深くまで繋がっていた。


 ランプを片手に、長い通路を渡り、開けた場所まで進むと徐々に奥から人とは違う鳴き声が木霊する。


 ようやく辿り着いた場所で男を待っていたのは、見渡す限り広がる多数の檻に入った魔獣たち。それぞれ見た目が違うが、大きいものから小さなものまで多数居り、どれも並のハンターが手に負えない強さを持っていた。

 男はそれを見てニヤッと微かに笑うと、誰がこちらに来ていることに気が付き、振り向く。


「や〜!、ノース伯爵じゃないか」

「…進捗は如何程かな?」

「うーん、まぁまぁかな?」

「何を言ってる!これで結果を出して貰わなくては困るぞ!」


 飄々とした態度の男に、伯爵は痺れを切らして怒鳴りつける。


「まぁまぁ、これは研究の第1段階だよ!でも、いい感じに魔物が育ってる。これなら良い感じに強力な魔石が手に入っちゃうよ」

「やはり、やはりあの噂は本当だったという事か!おい、勿論その時は分かってるんだろうな?」

「せっかちさんだね〜。約束は守るよ」


 男はそう言って、檻の中の魔獣を不敵に見つめる。


「そう言えばさ〜、帝国騎士がこの街に来てるんだっけ?しかも、噂のエレハンドの特殊部隊」

 男は心底面白そうなものだと言いたげな声色でエレハンドの名前を呟く。

 とても不気味で、フードを外さずとも、その異様な雰囲気が男にまとわりついていた。


「ああ、奴らの事か。どうやら周囲を嗅ぎ回っている様だが、あんな薄気味悪い奴ら、すぐに魔獣の餌にしてくれる」

「えー、僕的にはいい実験材料になると思うんだけどな〜。あ、でも、強いエレハンドを食べれば、こいつらもっと強くなるかも!」


 フードの男は笑いながら、壁に一点だけ付けられた装置を操作する。すると檻のひとつが動き出し、徐々に魔獣が入っている檻の柵が上がる。

 魔獣が奥からゆっくりとをか


「さぁ!今宵も頑張って暴れてくれたまえ〜!」

 

 その声と同時に、男の手から魔法陣が浮かび上がり、その次に数匹の魔獣の足元に魔法陣が展開された。紫の決して美しいとは言えない魔力の光に当てられ、一瞬目を瞑った後には、魔獣の姿は跡形もなく消えてしまっていた。

 転移魔法だ。この檻にいる生き物は自動的に領地付近に転移される仕組みになっており、これによって魔獣が気付かれる心配がなくなる。

 また、魔獣に精神魔法を使い、特定の人間意外さ襲わないようになっている。それには伯爵の餌がトリガーとなる。餌の存在が消えると、自動的にこちらに戻ってくる。このような芸当並の魔術師でもそうそうできるものではない。そもそも人以外に精神魔法を行使できること自体が前代未聞だ。

 彼らはこのようにして人道的な実験を繰り返す事で、国が手を付けられない組織まで成長を遂げ、あらゆる力と知識を我がものとしてきた。



 最も敵に回したくない相手である。


 今は利害の一致により、一時的にだが協力関係にあるが、いつ寝首を取られるかわかったものでは無い。油断はしない。が、上手くヤツらの利害を得て仲間となれば、身の安全は保証される。

 これを利用しない奴は馬鹿だ。


「こちらも好調だ。早く魔石の高額取引にのり出したいものだ。さぞ良い値が着くだろうな」

「いい実験場所を提供してくれて感謝するよ〜!伯爵、しっかしあんたも悪い人だね〜!」


 僕は好きだよ!っと付け足しながらケラケラと魔術師が笑う。顔は見えないが中肉中背で若い魔術師だ。どこか鼻につく物言いと人を小馬鹿にした態度が伯爵には気に食わなかった。本当なら関わりたくは無いが、これもビジネスだと伯爵は割り切っている。


「ね〜そういえば、今日は何人の餌を用意してくれてるの?」


 魔術師が質問すると、伯爵はニヤッと笑った。

「今日は取っておきの場所に撒き餌を置いてある。場所は____。」


「わっるーい!あは!、今日は豊作だね」

 魔術師は不敵に笑って答えた。


「わざわざ私がセッティングしてやったんだ。そろそろ結果が出る頃だろう。さぁ、待っている間に商談の話を進めようか」

「いいよー」


 そう言って伯爵と魔術師は奥の部屋へと入って言った。


 時計の針が一回りした頃、魔術師が何かの異変に気付き、首を傾げた。


「あれ?おっかしいな〜、魔術たちがまだ帰ってきて居ないようだよ」

「なに?」

 確かに、既に現地について行動を起こしているはずなのに、未だ戻らないなんてこれまでに無かった。


 おかしい。

「まさか、討伐されたか」

「うーんかもね〜。あー勿体無い」


 魔術師は焦る様子もなく、頭に手を置いて背もたれに倒れる。

 魔術師が送る魔獣は選りすぐりのクラスであり、皆餌に飢えた凶暴な獣だ。そう易々とやられはしない。やられたとしてもまず全滅は有り得ない。


「あれは特注の筈だろ?あんな雑魚どもにやられるような玉では無いはずだ」

「そんな事言われてもね〜。もしかしたら彼女が来たのかもね」

  「彼女?」

「そ!僕たちの麗しき死神さ」

 その呑気な返答に痺れを切らした伯爵は、直ぐに出ようと立ち上がった。


「どこに行くの?」

「決まってるだろ!魔石を取り替えにし行くんだ」

「ん〜行かない方が良いかな〜。あんた、捕まるよ?」

「ふん!本当は使いたくなかったが、私の部下とペットを使う」

「あそっか!じゃあさ、彼らを生きたままさらって来てくれたら、倍の値で買おう!それも1人辺りね。どう?悪くない話でしょ」

「倍だと?!あんな奴らのどこにそんな価値が」


 そう聞くと、魔術師はヘラっと悪そうに笑ってからこう言った。



「企業秘密ダヨ!」


 * * *


「今回のターゲットは恐らく町外れの教会です。あそこは孤児院も兼用しており、多くの子供たちが生活しています。少ない賃金で賄われていて、裕福とは言い難いのですが、あそこの神父様は非常に誠実な方で、兄とは昔から折り合いが良くありませんでした」


「惨いことを考えますね」


 ダレンに協力を持ちかけた次の日の昼下がり、伯爵に動きがあったと彼から連絡が来た。


 伯爵はひと月に一度施設や街の見回りを行い、街の人の声に直接耳を傾けていた。聞こえはいいが、実際やっている事は餌の選別と撒き餌の配置。自分に逆らうは平気で切り捨て、魔物に襲われた事として処理する。


 事前にそこで撒き餌を設置して夜に魔物に襲わせる。朝が来れば悲劇の始まりだ。


「兄は出会った時から、倫理的に何処かズレた側面がありました。頭のいい人ですから、きっと私たち家族に隠している事は一つや二つではないのでしょう。…ですが」

「詰めが甘いですね」


 間髪入れずリオーネがは出した言葉に、ダレンはその通りと言わんばかりに黙る。


「私たち第4部隊を舐めています。それに欲深さは、隠しきれないものです」

「皆さん本当に、兄がご迷惑をおかけします。これは家族としての責任です。私共々どうなっても構いません」


 ダレンは深々と頭を下げる。身分が全く逆の立ち位置のため、シトロンは狼狽する。


「どうか頭を上げてください!貴方が全ての責任を負う必要などありません」

「……甘いですよ、クラークさん。国家間の問題に発展した以上、没落では済まさないかも」

「そんな!どうにかならないのすか?」


 難しいことは何となく分かっていた。

 貴族社会はそこまで磐石ではない。キッカケさえあれば簡単に崩壊する。産業が発展し、資本主義思想が生まれ始めている帝国では尚のこと信頼を失うという事がどれほどのものか、考えが及ばないほどシトロンも馬鹿では無い。


 しかしあまりにも、ダレンのこれまでの努力や、ノース家のしてきたことが報われない。

 シトロンはやるせない気持ちでいた。


 自分の事のように苦しそうにするシトロンに、ダレンは少し嬉しそうに微笑む。

「心配して頂きありがとうございます。ノース家の事は、自分で何とかしてみます。兄を止められなかった私にも責任があります」


 たとえ他人同然の関係だったとしても

 そのダレンの小さな言葉を、シトロンとリオーネは敢えて触れることは無かった。


「早速町外れの教会に行きましょう」


 その言葉にシトロンとダレンは頷く。

 そう簡単に事が収まる話ではない。そもそも、魔獣が正確に何匹現れるのか把握しきれていない。


 早速3人は教会への道を急ぐ。


  こちらの推測では恐らく、伯爵の協力者はイムシア国に常駐する魔塔の魔術師だ。イムシア国家側との繋がりは未だ掴めていないが、裏は取れてる。


 魔塔は世界に五つ存在する。

 国や環境によらず、世界のあちこちに点在しており、西のイーデン、東のビナ、北のバーハル、南のサバス、最果てのゲルトラード。ほぼ全ての魔法使いがこの地を目指し、魔法を磨き続けているのだという。


 そのうちの一つ、西のイーデンがイムシア国内に置かれている。イムシアの発展はこれが大きいように、イーデンもまた魔法使いの憧れの園である。

 魔法使いは魔塔での厳しい審査を経て、魔術師の称号が与えられる。つまり魔塔の許しがない限り、魔術師と名乗ることは許されない。


 魔塔は系統が分かれると聞くが、中でもイーデンは変わり者が多く、あまり良くない噂も少なくはない。

 奴らが何を企んでいるのか定かではないが、少なくともこのような非道なことに関わる者イーデンの魔術師を良くは思わない。


「ですが大丈夫なのでしょうか?もし、大群で襲ってくるような事があれば、僕に倒し切れるか」


「流石にそうとなれば私たちでは難しいでしょう」

 リオーネは溜息を零しながらそう言うと、伏し目がちで表情の乏しい顔を悲しく歪める。


「もしもの時のために、策は講じてあります。今回に関しては、そうせざる負えませんから」


 何か考えのありそうなリオーネの言葉に、イマイチ考えの及ばなかったシトロンはやや困惑する。そんなシトロンなどお構い無しに、リオーネはすぐ近くの木の幹に黒い影を見付ける。

 何となくだが存在は少し前から認知していた。


 まったく、どこで聞きつけたのやら…


 リオーネの目線の先には、一羽のカラスがこちらをじっと見つめていた。


「リオーネさん、どうかされたんですか?」

「いえ、何でもありません。先を急ぎましょう」

「…はい」


 そこは小高い丘の上にポツンと立つ小さな教会だった。柵で覆われた内側には、小さな畑や洗濯物がかかっているのが見えており、生活を感じさせる。近くまで行くと、多数の子供たちの声が聞こえてくる。見た目は質素だが、綺麗にされており、清潔感すら感じさせる。


 ウェストイン教会

 そう名前が刻まれた入口に立ち、ドアノックを4回叩く。


 少し経ってから、重そうな木のドアがゆっくり開き、中から若いシスターが出てきた。

 3人の姿を見たシスターは怪訝そうな表情を見せる。

「…参拝者の方でしょうか?」


 現在3人は非常に怪しかった。

 シスターの表情を見るまで気付かなでいたが、シトロンたちは全員真っ黒なローブを目深く被っており、初見では怖がられる風貌だった。


「失礼、ハリス神父様はご在宅でしょうか?」

 ダレンが最初に顔を隠していたローブを脱ぎ取り声をかける。

「まぁ!神父様ですか?ええご在宅ですが…」

 ダレンの姿を確認したシスターは驚き、答える。その表情から、ダレンが何者なのか直ぐに分かったようだ。


「何用ですか?神父は私ですが」

 シスターの後ろから男性の声が聞こえ、すぐ向こうにハリス神父と思わしき老年の男性がそこには居た。

 比較的背が高く、未だ現役と言える体格と慍色の顔立ち。元からだろうが、纏う雰囲気はあまり歓迎しているものとは言えない。


「ダレン様、貴方様が何用でこの辺鄙な教会にお越しなのか。それに、そちらの御二方は」

「こちらは私の護衛の者たちです。怪しい者たちではありません。実は折り入ってお話したい事があるのです。兄はこの事を知りません」


 兄、という言葉を聞いた瞬間ハリス神父がやや反応する。元々険しい顔を更に険しく曇らせ、ダレンの真意を探る。

 ダレンはそれに応じるように神父を見つめ返す。


「……分かりました。奥へ案内しますのでそちらで。シスター、お客様にお茶を用意してくれ」

「はい」


 ハリス神父はそう言ってダレン一行を奥へと促し、執務室へと案内してくれた。


 向かい合わせのイスに座り、少ししてシスターが持ってきたお茶と茶菓子を頂く。

「それで、何用でこちらにまいられたのですか?まさか先日の事でなにか…」

「いえ!その事に関しては貴方に非はないと思っています。兄が身勝手なお願いをして皆さんにご迷惑をおかけした事は大変申し訳なく思っています。ですが、兄は貴方を酷く邪魔に思っていることは事実です」


「…ダレン様、ハッキリ仰ってください。貴女様の誠実さは、私の耳にもしかと届いております」


 ハリス神父は一息置いてからダレンに問うた。


「そして、其方の御二方の身元も、どうか教えてく下さいますか?」


 ハリス神父がそう言って部屋の隅で佇んでいたシトロンたちに向いた。

 シトロンは隣のリオーネの方を向き、リオーネは少し考えてから被っていたフードを脱いだ。

 それを見たシトロンもフードを脱ぐと、隠れていた色彩が空気に晒される。

 瞬間、同じく神父の後ろで話を伺っていたシスターが息を呑む様子が視界に入る。


「ご挨拶が遅れたことをお詫びします。私たちは…」

「黒の騎士団の、方々ですね」

「ッ!隊長をご存知なのですね」


 "黒の騎士団"

 その言葉にリオーネが心底驚いている事が分かった。しかし、シトロンはその言葉に聞き馴染みがなかった。


「ええ、数年前に命を救って頂いたことがあるのです。その時に、あの方がそう名乗られておりました」

「リオーネさん、黒の騎士団とは?」


 リオーネはそこでやっとシトロンの方を向き、少し考えたように話し始めた。

「黒の騎士団とは、他ならぬ隊長が考えた敬称です。表舞台で目立った活躍を見せる第1部隊を白の騎士団とするなら、我々は反対に黒の騎士団だと常々言っていました。きっと、皮肉も入っているのでしょう。隊長と関わった事のある者や救われた者にはそう名乗っているのですよ」

「当時あの方は言っておられました。光と影は表裏一体だと。どちらも欠けてはいけないし、離れてもいけない。必ずツイを成して存在するからこそ、初めて存在に立体感が生まれる。故に帝国の影を司る我々は黒の騎士団なのだと」


 リオーネに続いて、ハリス神父が当時の事を説明してくれた。


「邪な物に屈するような方ではないでしょう。あの方が家族と称するあなた方、"黒の騎士団"ならば 、貴方々を信じる事ができます」


「…ハリス神父、ありがとうございます」


 鉄仮面のリオーネの表情が、ほんの少しだけ綻んだのを、シトロンは見逃さなかった。


「どうぞお聞かせください。我々に出来ることがあれば良いのですが」




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