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プロローグ

「気付いたら」と言う言葉は何とも滑稽だ。

 劇的な出来事は案外一瞬に起こるもので、そのあっという間で人生が大きく変わる事もある。


  気付いたら、私たちの人生は終わりを迎えようとしていた。


 昨日昼頃までは友人たちとお茶をしながら楽しく語り合っていたのに、今はボロボロの身なりと裸足の足で森を駆けていた。もう体は疲弊していて、一歩も動けないのに、動かなければならない。でなければ私たちは死んでしまう。一変する状況を受け入れる余裕すら与えてくれない。打開する手立て何てものはそんなに簡単に転がってくれてはいないのだろう。


 息切れて喉も枯れている。

 これまでこんなに走った事があるだろうか。


 元イムシア王国の聖女アイリス・ヴァンスタインは、15歳にして早くも人生の節目を迎えていた。


 諦めそうになる度に、背中に感じる微かな鼓動と温もり、首にかかる吐息が現実に引き戻す。自分だけの命だったらとっくの昔に投げ出していた。

 大切だと思っていた友人たちや愛した人は呆気なくアイリスを差し出した。アイリスの味方となるもの達の首はとうに胴体と離れた。

 唯一残された隠された第一皇女の身柄はアイリスが握っている。彼女が生きている限り、自分を見捨てる訳には行かないのだ。


「いたぞ!こっちだ!」


 追ってがそこまで来ている。


 もう身体は限界だった。心身共に疲弊していた。足の感覚はとうに無い。体が震えて、心臓が異様に高まる。


「そこ迄だ!止まれ」


 目の前にまで兵士が来ており、ここまでかと思った。


「大人しく拘束されろ、大罪人」


 虚ろになり掛けの心でも、その言葉は痛く胸に響いた。いつから私は人々を救う者から罪人になってしまったのだろう。

 いや、もしかしたら最初からそうだったのかもしれない。

 これは罪なのだ。何もしなかった、という。


「お前に逃げ場などない」

「こいつのせいで何人の命が犠牲になったか」

「裁きを受けろ」


 私は民にとって悪であり、これは罰なのだ。

 人々が向ける憎悪の目は真っ直ぐ私に向いている。

 ここで潔く頭を垂れて命乞いをするか、大人しく拘束されるか。そうすれば簡単だ。最悪死は逃れられるかもしれない。それが人としての性なのだろう____。


 いや、なぜ聖者で居続ける必要がある。


 なぜ許しを乞うて懺悔する必要がある。


 罪を受け入れ事が本当に正しい道なのか。


 正しいとはなんだ。


 悪とは、なんだ。


 ならば私は、悪でもいい。



 一瞬力が抜ける感覚がして、目を閉じると。

 何かに包まれたような感覚がした。

 暖かいそれを感じ、目を開けるとそこは、深い闇が広がっていた。


ご一読ありがとうございます。

ダークファンタジー寄りの作品になってます。

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