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第三章 病院 ─ビョウイン─ 3 第2話

 夕刻、担当の看護師が食事を運びに病室に姿を見せた。わざわざナース・コールを使うのは申し訳なかったので、少年はこの時まで待っていたのだ。少年が売店まで車椅子を押してもらえないかと頼むと、看護師は快く引き受けてくれた。

 なにを買うのかしら、看護師が興味深そうに尋ねたので、暇つぶしですよと少年は答えた。週刊誌を三冊と新聞を二種類購入した。いちいち中身を確認しなかったのにはわけがあったのだが、看護師は別に気にとめる風もなかった。本当に暇つぶしだと思ったのかもしれない。

 病室に戻った少年は、看護師が出て行ったのを見届けてから、夕食を口にせずに、まず週刊誌を広げた。少年が巻き込まれた事故に関する記事が掲載されていないか、そのことだけが頭の中を占めていた。

 一冊目の週刊誌からは残念ながら必要な情報は得られなかった。続けて二冊目に目を通した。こちらにも気になる記事はなかった。最後の週刊誌を広げようとして、表紙に大書してある文字を目で追った。少年の眉根が寄り、慌てて週刊誌を広げた。

 旧中仙道で起こった多重事故は、死傷者十人を出した大事故だと記されていた。十名のうち四名は死亡し、二名は重症で、まだ意識が回復せず危険な状態にある。残りの四名は軽傷で済んだようだ。そのような内容の記事だった。

 軽傷者は後続車の乗客だったはずだ。死亡した四人のうち三人は、父と母と妹だ。残る一人は相手の車の助手席に乗っていた女性だったはずだ。少年は記事を追った。どうやら昼にやっていたワイドショーの内容と符合する。ただ、やはりというべきか、相手の名前は伏せられていた。

 次に少年は新聞を広げたが、二紙とも事故に関する記事は載っていなかった。

 少年が意識を回復したのは今日のことだ。二日間昏睡状態にあったので、その間に少年への記者の接触があったとしても面会謝絶であり、患者のプライバシー保護のために病院側は詳しくは話さなかったと思われる。ということは、被害者の身元はまだ明らかにされていないということになる。

 ワイドショーでは加害者が持ち直したと司会者が語っていたが、あちらもまだ話を聞けていないということだろう。明日の新聞かワイドショーか、明日発売の週刊誌、そして刑事。少年が情報を得るには、この四つの方法しかない。

 少年は頭を振った。

 いや、もう一つ、あるかもしれない。自分は危険な状態にあり、事故現場近辺の救急病院に搬送された。なら、相手の運転手も、もしかしたら、この病院内にいるのではないか。相手も自分と同様危険な状態にあったとワイドショーの司会者が語っていた。雑誌の記事にもそう書かれていた。その可能性は、あるはずだ。なら、看護師に話を聞くことだってできるかもしれない。

 刑事がなにも教えてくれないことは、今日のやり取りから察せられた。看護師も、おそらく同様だろう。あとはマスコミ頼みだが、どこまで情報が開示されるかは、正直わからなかった。

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