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仮面少女の空、異世界の光で輝く。  作者: 風使いオリリン@風折リンゼ
第一章 少女と勇者、邂逅する
8/24

#8 ひかり part 1.3 ~だとしても、わたしは~

「次は冒険者ギルドですよね?」


「うん。討伐達成の報告にね。今日はスカルスパイダーの討伐依頼を受けて、あそこに行ったんだよ。それで、一匹倒して油断したらあんなことになって……ひかりが来てくれなかったら、私は死んでたと思う。この借りは必ず返すから」


「わたしはただ異世界転生してはしゃいでただけですけどね」


 魔道具屋を後にしたわたし達は、最初の予定通り冒険者ギルドへ向かっていた。

 表の大通りに出て、街の中心部へ進んでいく。


「仮面を作っている間、サラさんと何を話していたんですか?」


「別に大したことは。なんで?」


 そう答えるシエルちゃんの声は、少し冷たいものが混ざっているように感じた。私はそれ以上、掘り下げることは出来なかった。


「ほら、あそこが冒険者ギルドだよ」


 シエルちゃんが指さした先には、巨大な建物があった。シエルちゃんは先程入手した仮面で顔全体を覆う。


「……今から、私の口調とかが変わるけど、あんまり気にしないでね」


 仮面をつけている時のキャラがあるのだと察し、わたしはこくりと頷いた。


「……さて、それでは行こうじゃないか」


 宣言通りサラさんのような口調に変化したシエルちゃんに促され、一緒に中へと入る。


「いらっしゃいませ。順番に対応するので、しばらくお待ちください」


 どことなく薄暗い施設内で、受付の女性が愛想よくわたし達を案内してくれた。

 シエルちゃんと列へと並びながら、わたしは周囲を見回す。


 そこかしこに鎧姿だったり、ローブをまっていたりというような人たちがたむろしている。アレッタちゃんに絡んでいたようなガラ悪そうな者も混ざっていて、警戒心が高まる。


 なんて、落ち着きなくそわそわしている内に、シエルちゃんの番がきた。


「お待たせしました。どのようなご用件ですか」


「討伐達成の報告に来たのさ」


 シエルちゃんは懐からカードを取り出して、受付の女性に渡す。身分証のようなものだろう。


 女性はそれをカウンターに描かれた魔法陣の上に置いて、浮かんできた文字を確かめる。


「……はい。サブリサイドの森の魔物の討伐依頼の完了を確認いたしました。危険な討伐をその日のうちに終えるなんて、さすがは『仮面のシエル』さんですね」


 女性がそう口にすると。


「やっぱり『仮面のシエル』だったのか。仮面がいつもと違っていたけれど、もしかしたら、と思っていたんだ」


 隣の列に並んでいた男が、興奮したように声で言った。

 施設内が途端にざわめく。


「シエルって、あの? ソムニア最強の一角の?」


「この前はドラゴンを数時間で倒してきたって聞いたぞ。すげえよな」


「ちょっと、私、パーティーに入ってもらえないか相談してみるわ」


「無駄じゃない。シエルは誰とも組まないんだから」


 そうして、あっという間にシエルちゃんの周りに冒険者たちが群がってくる。それに流され、わたしはシエルちゃんから離れてしまった。


「今度はどんなことをしてきたんだ?」


「高難易度の依頼を受けようとしているんだけど、手を貸してくれない?」


「一緒に来た珍しい格好の子は?」


「本物を見たのは初めてだ。握手してくれ」


 取り囲まれているシエルちゃんを、わたしは少し遠くから眺める。

 シエルちゃんは淡々と、飛んでくる声に応じていた。


 それにしても、すごい人気だ。

『仮面のシエル』はこの街のスターのようだ。


 急に、自分なんかがシエルちゃんの隣にいるのが申し訳ないような気がしてきた。

 異世界転生してハイになったテンションにまかせて、勢いでシエルちゃんに絡んでいたけれど、これまでわたしはずっと病院のベッドの上にいて、他人とまともに関わったこともないのだから。


 なんて事を考えていると。


「すまない」


 シエルちゃんが突然、周りの冒険者たちの言葉を遮る。


「今は人を待たせているんだ。悪いが、そろそろ開放してもらえないだろうか?」


 それから、わたしの方へ仮面の下の視線を送ってきた。

 まっすぐにわたしを見つめたまま、シエルちゃんが戻ってきて、そのまま、わたしの手を引いてギルドから連れ出した。不思議と、心臓が鐘のようにどきんと鳴った。


 いつの間にか、日が陰りはじめていた。


「ごめんね、ひかり。バタついちゃって」


 ギルドの建物から少し離れた裏路地で、シエルちゃんが仮面を外した。


「いや、別に……それにしても、シエルちゃんってすごいんですね。わたしなんかが気軽に絡むべきじゃなかったのかも……」


 つい、口にするつもりはなかった不安を漏らしてしまった。


「あっ、ごめんなさい。こんな事言ったら困りますよね」


「……『仮面のシエル』は確かにすごいのかもね。ソムニア最強の一角なんて称されているし……。本当の私は、仮面がなきゃ何もできないようなやつなのに。 正直、あんな風にもてはやされるのは、ちょっとね……」


 と、シエルちゃんは首を振る。


「でも、みんなが『仮面のシエル』を必要としているから……。私、【無限の魔力】というギフトを持っていて……。その力を使いこなせれば、どんな魔物にも負けないようになるって……。私の価値はそれだけだから、しんどくても戦わないと……」


 不意にシエルちゃんの心内を聞かされて、わたしは言葉を探す。


「……今まで、頑張って来たんですね」


「え?」


 シエルちゃんは困惑の色を瞳に浮かべていた。

 わたしはシエルちゃんから視線を外し、自分の斜め下を見た。


「わたしもシエルちゃんと似たようなものだったんです」


「どういうこと?」


「前の世界では周りが求めている人物像のままに演じていたんです、わたし。病気と前向きに戦っている子を。実際のところはとっくに心が折れていたけど、そうすることが病気を治そうとしてくれている人たちに出来る唯一の恩返しだと思っていたんです。でも、それはすごくキツくて……」


 泳いだ目がシエルちゃんと合う。ついついすぐに逸らしてしまったけれど。


「えっと……だから……本当の自分と違う自分であり続けることの大変さは少しわかるんですよ。だから、シエルちゃんは今日まで頑張って来たんだろうな……って、会ったばかりなのに、わたしったら、何を知ったようなことを……すみません」


 と、シエルちゃんの顔色をうかがう。その瞳は揺れているような気がした。


「……いや、ありがとう」


 それだけ言うと、シエルちゃんはわたしから顔を背けて、再び歩き出した。


 逸らされる前の一瞬に見えたシエルちゃんの表情は、どこか切なげで、つらそうで、放っておけない気持ちにさせられた。


 友達であることは否定されている。シエルちゃん自身は重荷に感じているとはいえ、わたしなんかじゃ不釣り合いな街の英雄でもある。


 それはわかっている。だとしても、わたしはシエルちゃんのそばにいたい、いてあげたい。そう思わずにはいられなかった。

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