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仮面少女の空、異世界の光で輝く。  作者: 風使いオリリン@風折リンゼ
第一章 少女と勇者、邂逅する
7/24

#7 ひかり part 1.2 ~セクハラモンスター~

 アレッタちゃんの主の魔道具屋、黒猫の髭は、大通りから少し外れた路地裏にあった。

 全体が緑の蔦に覆われて、異様な雰囲気を醸している。


 シエルちゃん曰く、店主が変態なことも相まって、街の子供たちの間では「一人でここで買い物が出来たら一人前」という度胸試しの場にもなっているとのことだ。


「お帰り。遅かったから心配したよ」


 店に入ると、ローブを着た女性が奥から出てきた。

 おそらくこの人が店主なのだろう。

 緩やかにウエーブした長い髪と、かけているクールな眼鏡が目を引き理知的な印象を受ける。

 長身で均整のとれたしなやかな輪郭線を描く奇麗なスタイルをしていて――。


 一言で表すなら美人のお姉さんといった風貌だ。とてもシエルちゃんが言うようなセクハラモンスターには見えない。


「ただいまです。あるじさま。ましょうせきをしらないおじさんにとられそうになっちゃって……」


「なんだと? そいつはどこにいるんだ? ワタシが直々にお仕置きしてやろうじゃないか」


「だいじょうぶです。ひかりおねーさんにたいじしてもらいました。あ、シエルおねーさんとひかりおねーさんはうちにようじがあるからって、いっしょについてきてくれたんです」


「お邪魔します。サラさん」


 シエルちゃんがそうあいさつするのに合わせて、わたしも頭を下げた。


「ああ、ようこそ。シエル君。久しぶり……って、キミが誰かと一緒にいるなんて珍しいな。今日はどうしたんだい?」


「魔物と戦っていたら、面が壊れちゃって……だから、新しい物がほしくて……」


「なんだって? それは大丈夫だったのかい? キミは……」


「ええ。まあ、危ないところだったんだけど、ひかりに助けてもらったんだ」


「えっと、明日奈ひかりです」


 シエルちゃんが眼鏡の女性にわたしを示したタイミングで、わたしは自己紹介をした。


「ひかり君か。ワタシはサラ・ブラックキャット……その風変わりな格好と名前からして、キミも転生者か?」


「はい……えっ、キミも?」


「サラさんは二十年前、転生勇者とパーティーを組んで魔王軍と戦い、世界を救った一人なんだよ。一応」


 わたしが漏らした疑問に、シエルちゃんが答えてくれた。

 サラさんが想像以上に大物で、少し緊張する。


 というか、サラさんはいくつなんだろうか。二十年前に世界を救ったということは、それなりの歳のはずだ。けれど、ぱっと見では自分より数個上くらいにしか思えない。


「ワタシの年齢が気になるのかい? そういう顔をしている」


「あ、いえ。別に……すみません。失礼でしたよね」


「いいさ。ワタシはエルフと人間の混血だから普通の人より老化が遅くてね、これでもワタシは三十七歳のそこそこのおばさんなんだ。そんなおばさんだが、今後仲良くしてもらえると嬉しいな」


 そうサラさんが手を差し出してきたので、わたしは握手で応じる。


「……ふむ。それにしても、標高は低くともとても奇麗な山じゃないか」


 呟いた後、サラさんは曇りなき眼でわたしに言った。


「どうだろう? このワタシにキミのお山を登らせてはくれないだろうか?」


「……え?」


 言葉の意味が分からずに戸惑っていると、サラさんの手がわたしの胸に向かって伸びて来た。


 瞬間、シエルちゃんがわたしの前に割って入り、サラさんの両手首をがっちりと掴んだ。


「なんでサラさんはいつもそうやって人の胸を触ろうとするの⁉」


 シエルちゃんが捕まえた手首をグイッと捻ると、サラさんは情けない声をあげながら悶絶した。


「痛たたたたたっ! だって、そこにすてきなお山があったからあああああっ!」


 どうやら、サラさんの言うお山とは胸のことだったみたいだ。

 やはり事前に聞いていた通りのセクハラモンスターだったようだ。用事でもない限り、なるべく近づかないようにしよう。


「まったく、こんなのが世界を救った勇者パーティーの一員だなんて冗談でしょ……というか、サラさん、アレッタさんにまでこういうことしていないよね?」


「当たり前じゃないか! ワタシを何だと思っているんだ! 娘同然の子にそんなことをするとでも? だいたい、幼女に手を出すのは犯罪だぞ!」


「幼女じゃなくても犯罪なんだよ! このド変態!」


 シエルちゃんがサラさんをシメているのを眺めていると、アレッタちゃんが、


「ひかりおねーさん、これどうぞ」


 と、お茶を持ってきてくれた。気付かないうちに用意してくれていたようだ。


「ありがとうございます。あの……止めなくていいんですか?」


「はい。あれはスキンシップみたいなものだから、とめなくていいといろんなひとにいわれていますので」


「シエル君、そろそろギブギブギブ。ああああああああああっ!」


 サラさんの苦悶の叫びが店内中に響き渡るのだった。


「――えっと、新しい面がほしいんだっけ。採寸するからシエル君はこちらへ」


 魔道具店内でいろいろと騒いだ後、ようやくわたしたちは本題に戻って来た。


「じゃあ、私は仮面を作ってもらうから、ひかりは適当に店の中を見て待ってて」


「アレッタを表に残して行くから、何かあればアレッタに聞いてくれたまえ」


「わかりました」


 カウンターの裏に入っていくシエルちゃんとサラさんを見送り、わたしは店内を見回してみた。

 いかにもゲームやファンタジー映画に出てきそうな道具が棚にところ狭しと並んでいる。


 好奇心の赴くまま、わたしは近くの物を手にした。

 それはシールが貼られた動物の牙のようなものだった。


「それはごふをはがして、なにかにつきたてると、そこからひばしらがたつ、サラマンダーのきばというどうぐです。あぶないから、ぜったいにごふをはがさないでくださいね」


「あ、うん」


 アレッタちゃんに警告され、びびったわたしはサラマンダーの牙を元に戻す。


 次いで、その隣の瓶を取る。中には、雪の結晶のようなものが入っていた。ふたにサラマンダーの牙に貼られていたような護符がついている。


「それはグレアムランドのゆきのけっしょうです。そのびんのふたをあけたら、なかからもえさかるほのおすらこおらせるようなれいきがでてくるので、ぜったいにあけないでくださいね。このおみせのなかがカチカチになっちゃうので」


 わたしはそっとグレアムランドの雪の結晶の瓶を片づけた。


 今度は触らずに、雪の結晶の横にあった瓶を指して尋ねる。

 これまでと同様に護符が貼られたその瓶の中には、電気が迸っていた。


「これは、どんな道具なんですか?」


「それはらいじゅうのいかりです。らいじゅうのでんきをふうじたもので、あけるとなかからつよいでんきがながれだします。それもあぶないやつです」


「……魔道具って、危ないやつばかりなんですか?」


「ううん、そういうわけじゃないですよ。そこにあるものはまものとたたかうときにつかうどうぐだから」


 と、そんなことをしているうちに、シエルちゃんとサラさんが裏から戻ってきた。シエルちゃんは新しい仮面を持っている。無事に作り終えたようだ。


「お待たせ、ひかり。ここでの用は済んだし、もう行こうか」

「え? あ、はい。サラさん、アレッタちゃん、お邪魔しました」


 妙にそそくさとしているシエルちゃんに手を引かれるまま、わたしは魔道具屋を後にした。


「……後悔だけはしないようにしたまえよ、シエル君」


 店を出る時、サラさんがそんなことを呟いていたのが聞こえたけれど、仮面の作成中、二人は何を話していたんだろう。


 少し気になってしまった。

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