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ギスパニア分離計画

 ゼスティア帝国と接する地、ギスパニア地方。エーデンゲール王国が誕生した当初からの王国所領であり、何十年も前には帝国との戦争で多くの血が流れたものの、現在まで他国に占有されたことはない。

 平坦な土地が多く、農耕が盛んなギスパニア地方は代々ブルフハット家が支配している。

 そして現在、この地方を管轄しているのがブルフハット家当主、ザリアス・ラウム・ブルフハットである。


 彼は書斎で一人、お気に入りの羽ペンを使って帝国への手紙を書いていた。すると、真っ黒いローブを身につけた一人の侍従魔術師が、ドアをコンコンとノックする。


「ザリアス様」


「ラグーダか。入れ」


「失礼します」


 この男はラグーダ。私の(しもべ)である侍従魔術師のリーダーであり、私の兵士を統帥する指揮官でもある。40を過ぎながらも、がっしりとした体格を持っており、私より少し歳が上だ。彼の左の頬には大きな傷があり、これまで数々の戦闘を経験してきたことが垣間見える。私は彼に絶大な信頼を置いており、今回の“大事な仕事”も彼に任せた。


「どうだ。帝国との交渉は上手くいったか?」


「……残念ながら成功とは言えません。“作戦”を実行する際には、帝国の援軍は1000人までしか送れないとのことです」


「……ふむ。こちらの要求よりも随分と少ないな」


 私は歩兵8000人、騎兵500人、魔術師100人を帝国に要求した。もちろんこれは私が望む人数であり、ある程度の譲歩が必要であることは分かっていた。

 ……しかし1000人は随分と少なすぎる。私の持つ正規の兵士が約5000人。これでは私の計画において不利益が生じてしまう可能性がある。

 咄嗟に出た苛立ちで、羽ペンを強く押し付けてしまっていたのか、紙に黒いインクがじわーっと広がっていく。


「……なぜだ。なぜもっと援軍をよこさんのだ。帝国はこの計画に興味がないのか……!」


「いえ。ただ単にこの計画が無茶過ぎると考えてのことだと……」


「お前は無茶だと言うのか」


「……いえ、私はそう思ってはおりませんが」


 そう言うとラグーダは軽く首を振り、短いため息を吐いた。この計画の素晴らしさを全く理解できていないのだろう。私の腹心の部下なのだが……。まぁ学の無い者であるから仕方ない。

 

 この計画は、私が三年前から練っていたものである。

 三年前、私は貴族間における階級闘争に敗れた。古くからの政敵である王国貴族、クリューシュ公をはじめとする多くの貴族に妬みを買われて、父、ラニウス・ラウム・ブルフハットから受け継いだ『副宰相』の地位から蹴落とされたのだ。しかも国王は、私の代わりにクリューシュ公を副宰相にする更迭案を黙認した。私の能力が秀でているのは元より、貴族をはじめ、国王までもがその秀でた能力を妬むような国に未来はない。その上、食糧難であることを言い訳に、更迭後、更に多くの小麦の納入を命令されてしまったからには、私も王国に対して離反せざるを得なくなる。

 こうして王国に見切りをつけて計画したのが、今回の作戦である。簡潔に言えば、ギスパニア領と帝国との間で個別に秘密同盟を組み、ギスパニアを王国の領土から分離させ、帝国への編入を目指す、というものである。そのためには戦争も厭わない覚悟だ。

 王国軍は貴族の兵も含めて約13万人。しかし、王国の兵力はそれぞれ分散しているため、移動距離も考慮して、5日以内に、ギスパニア内の王国直属の地方監視役所『パノプティコン』を攻略し、帝国軍がギスパニアの地に足をつけ、帝国所領となるための諸々の作業を完了すれば、少ない兵力でも問題はない。帝国に編入が完了すれば、王国よりも発達した帝国の産業、商業を享受でき、ギスパニア、及び我らブルフハット家も共に繁栄できるという算段だ。

 これを帝国側へ提案をしたところ、あっさりと了承を得ることができた。そしてここ三年間で、たくさんの傭兵を雇ったり、農村の若い男性を兵役に就かせたりして軍備の拡張を行ってきた……のだが。

 やはり援軍1000人は流石に少なすぎる。パノプティコンを攻略するのは容易いだろうが、これでは次々とやってくるであろう王国軍を塞ぎ止めることは難しくなる。となると短期決戦……。2日が限界か。

 いつの間にか私のお気に入りの羽根ペンが折れてしまっていた。そんな私の様子を見かねたラグーダが、やっと重そうな口を開く。


「お怒りのご様子ですが、ここは一度冷静になって考えてみては?援軍を含め、今の兵力で王国軍を足止めできるとは到底思えません。ですから……」


「ですからなんだ?『王国と手を取り合え』とでも言うのか!?今更そんなこと言われてももう遅い」


「いえ、もうしばらくは兵力の増強を……」


「駄目だ!もう既に帝国側へ提案してしまったのだ!この情報が王国に漏れている可能性だってある。次に宮殿に招集される前に、全てを片付けなければならぬ!」


「……わかりました。それでは失礼します」


 ラグーダはそう言うと背を向け、ドアの方へ重そうな足取りで歩いて行く。私には彼の気持ちがよく分からないが、きっと彼の提案が受け入れられなくて寂しいのだろう。ここで妥協案を考えてやるのも上司の役目だ。


「待て」


「なんでしょうか」


「今から魔術師たちで手分けして各地の村へ行ってこい。そして今度は、兵役に就かせられそうな子ども、老人も招集の対象にする。もちろん隠れて残っている若者もだ。とにかく多くの農民をかき集めろ。お前の言った通り、今は本当に兵力が足りない。よろしく頼むぞ」


「……畏まりました。それでは失礼」


「うむ」


 私が視線で激励すると、ラグーダは軽く一礼して、すぐに書斎から出ていった。

 村の若者を兵役に就かせるにあたって心配なのは、パノプティコンに戦争の準備をしていることがばれてしまうことだ。連れてきた若者は辺境にある収容施設に閉じ込めている上に、とある魔法をかけているため、外部からばれたり、逃げられたりするようなことはないはずだが、どうやらパノプティコンは、若者が村から消えている、という状況だけは認識しており、何度か理由を尋ねてきたことがあった。私はその度、『新田開発をさせるため』と言って誤魔化しているが、いつまでも言い訳が通じるとは限らない。

 しかし、ラグーダをはじめとする私の侍従魔術師は、学はないが、魔術においては優秀。何かあっても、きっと上手くやってくれるだろう。

 




 





 

読んでいただきありがとうございます!どうでしょう……。ちょっと計画の内容が分かりにくいかもしれません……!何か改善点などあればぜひ教えて欲しいです。評価、感想をいただけると嬉しいです!

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