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風俗枠ですから  作者: 無夜
触手の島というイベント
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御前は性欲を止めているので、性に対して理解がない

企画からしてあたまおかしいですよね



 息子が一人いたが、今は妻も子もない。

 里村アスレイを息子のようにかわいがっているが、姪の娘の養子で、血縁関係すらない。

 御前は妻が死んだ後は、煩わしいので性欲抑制剤を使用している。二の腕に埋め込むもので、基本的に一回埋め込むと三年ぐらい効いている。

 これを使用する者は多く、たとえばフィールドワークで風呂に入れないところにいくプロフェッサーは使用している。若かりし頃、一緒の班の女性の体臭であおられて、理性でブレーキはかかったが、これはいけない、作業がおろそかになってしまうと、さっさと使用した。

 高石グループの大半が住んでいるハイウイングの若者も、妻帯していない男性はほぼ使用している。この都市では性犯罪者はワクチンの最終実験に使われる。頭髪がごっそりなくなったり、十年ぐらい目が乾いて開けられなくなったりという副反応で地獄を見るから、ならば性欲はカット、する方が安全である。


 そんなハイウイングに里帰りさせられた里村は上機嫌な御前と食事を約束した。

 ハイウイングは人口20万人。身内しか居ないので、企画書を持ってレストランでもかまわないが、それは外星系で仕事して暮らしている里村には許せなかったので、仕切られた多目的ルームに、出前をしてもらった。

 ハイウイングでは寿司を食べられる。というよりハイウイング以外で寿司はなかなか難しい。

「アスレイ、アースレや、前はお前が絡めなくて、拗ねてしまったからな。今回は、仲間はずれにしないから、むくれないでおくれ」

「拗ねたんじゃなくて、ですね。後始末が大変だったんです」

 そして食事時だというのに、風俗企画を見せられた里村は、ただれ切った性快楽の楽園と言うより、地獄のありさまに遠い目をした。

 初っぱなから飛ばしている。

「えっとう、この目覚まし時計にレイプされて起きる、のが、えっと、目覚まし時計と言う名の人間とか、擬人化されてるんですかね」

「触手の島だよ。時間になって起きないと、目覚まし時計から触手が溢れてあれこれされるよ」

 楽しそうに解説してくれた。

 風俗のユーザーさんがこぞって、「頭おかしい」と罵るだけの、突き出た才覚である。

「部屋を出ようとするとドアノブさんにもレイプされるんですか。はー、念のため、信さんとかいう人間ではなく、ドアノブで?」

「ドアノブだよ。レイプって書いてるけれど、老若男女問わず、気持ちよくさせるよ」

「自室の・・・だけじゃない」

 企画を、今時紙でまとめてきた、それをめくってみて、地獄というかもうコメディではと思うレベルの執拗さに、里村は一瞬言葉を失った。

 なにせ、自室を出る前に一度、出ても一度。ドアノブはドアに二つあるから。

 そして、トイレに入ろうとしても四回(出るからね)、ついでにトイレももちろんレイプしてくるが、ドアノブだけ数えようぜ、進まないからねっ。

 食卓について、朝ご飯を食べるときも、あれこれされて。

 通勤通学するために自室に戻るときに、また二回、そして出るからまた二回。

 玄関のドアノブ君も二回。

 朝、家を出るまでに数えるの嫌なぐらいレイプされてるんだが、ほぼドアノブに。

「ああ、ちくせう。御前、海で反省してませんね」

「改善はしてるだろう」

「どこがっ」

「バリエーションって、どっかの嬢ちゃんが言ったっ。だから、増やした」  

「知ってた。好きな言葉しか聞かないんだった。っていうか、御前、あなたが普通に性行為していた頃を思い出して。こんなに何度もできないでしょ」

「アスレイ、わかるだろう。突っ込むのはそりゃあ何度もは無理だが、突っ込まれて気持ちよくなるのは、無限回いけるから。妻は、すごかったぞ」

「故人の名誉にかかわりそうなんで、やめてっ」

 とりあえず、イベントにするにしても、こんなレイパードアノブが無数にいては話が進まない。

 削ろう。

「なんでっ」

「削るんです、削ります、削らないと、イベントにならない。ドアノブくんは自宅玄関で一日一回のみっ。こんなに何度も気持ちよくされたら、海と変わらないっ」

 そう叫んだとき、ドアがそっと開いて、企画担当の仲間が、顔を出し、うんうん頷いて、『もっと言ってやって』とテレパスで訴えてきた。

『おまえらの仕事だよっ。僕は降りてるよ』

 里村もテレパスで返した。

『最近、御前、意固地で言うこと聞かないんだよー』

 対面に居るんだから、口に出せばいいものを。

 なにせ、御前も、聞こえてるんだから。


 都市伝説といわれるESPユーザー。

 ハイウイングでは二十人に一人と、乱発生しているため、珍しくはない。


 そんな具合で、イベントとして成り立つように削りまくった。

「なぜそこまで無慈悲に削るんだ。一生懸命、わしが考えたのに」

 御前の文句に、

「推敲したのです」

 と、答えた。付き合いが長いので、好きな言い回しは知っている。

「推敲、か。なら仕方ないな。いっぱい参加すると良いな。参加者が多ければ常設するが、いなかったら、『触手の海』の第2弾を」


 海は駄目だ。

 削れるもんがない上に、ただの絶頂地獄。楽しめるのは、超上級者だけ。

 性癖が歪んだ、男に戻れないと言う怨嗟の声で溢れかえる後日を考えると、まだ島の方がまし。


 寿司はうまかった。

 惑星イザナミでは養殖が少し進んでいるが、ここほどではない。

 紙の企画書を撫でる。

 紙はほとんど見かけない。だから、他星系では筆記具もない。3Dプリンターはあっても、紙に転記するプリンターは博物館にしかない。

 ガラパゴスとも呼ばれているハイウイングにしか、稼働している印刷機などはないだろう。紙幣や貨幣もハイウイングにしかない。ほかは皆、電子マネーに完全に切り替わっている。

 米もイザナミでは作っているが、政府在籍惑星のイザナギでは麦と蕎麦が主体。

 イザナミはハイウイングの、高石のものであり、日本政府とは隔意がある。




 企画に携わったので、口座にお金が振り込まれていた。

 どちらかというと、御前の守り代。

 それでも一千万yenが無造作に放り込まれる。

「無邪気に遊んで、好き勝手に文句言いたいのに」

 とはいえ意固地なところもある御前である。

 負い目のある里村の言うことはわりと聞くが、他の身内にはわがままいっぱいである。

 負い目。

 11才の里村は母のネグレストと兄からの虐待で死にかけて、父方の祖父のつながりでハイウイングに引き取られたとき、極度の鬱を煩っていた。

 死にかけたのだ。

 しかも本来なら最大の味方であるはずの、母と兄からの虐待によって。精神が病むのは無理もなかった。

 御前がその里村にしてしまったのが、精神への働きかけ、ESPユーザーであった彼が、同一化というのを行った。

 精神が壊れきっていた、と思ったらしい。

 同一化とは相手の自我を自分に塗り替えてしまう、荒技。

 食事も取れず、外に意識を向けることもない壊れた子供に、とりあえず体を起動させるために手っ取り早かったのは確かだ。

 同一化した、と周りは思っている。御前も。

 が、里村もESPユーザーだったので、皮肉なことに自我を打ち砕かんとする攻撃に、反撃するために、起きた。

 だから、同一化されてないのだが、言いそびれている。

 同一化してしまったと思っているから、死んだ息子の代わりぐらいには思っているようで、言えないままずるずると来てしまった。

 そんなこんなで、成長したあと、周囲は御前の暴走の抑止力として残ってほしそうだったが、生まれた星系に戻ることにしたのだ。

 しかして、それでも。

 ハイウイングに戻ることを、里帰りと認識している。

 家族はここにしかいない。


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