※EU支店長へのお仕置き
スポドリに沈めただけですよ、ええ。スポドリですから
会議室のような部屋だ。
絨毯もなく、グレーの床と白い壁。
机はどけられ、中央に空間が作られて、強化陶器でできた湯船がおかれた。
マスターキィとして来ていた男性スタッフ統括補佐が告げた。スタッフ長(最高責任者)は現場での対応で、こちらにはこれなかった。
「ハードモード・上級者対応モードに切り替えられました」
空っぽの湯船の中に、ロイドたちによって抑え込まれた支店長のミゼルがあがいていた。
当人そのままにあつらえられ、見た目は三十代後半ぐらいだろう。瘦せ尖った、神経質そうな黒髪の男だ。
アムリタに絡むスタッフは必ず、ミゼルを与えられる。商品を試したことのない販売員など、役に立たない。
EUの本体は今、それ用の医療ポッドの中に強制的に入れられているであろう。でなければ、パーソナルにカスタマイズされたミゼルは動かない。
「これが病み、か」
嫌そうに傭兵王が樽を見た。
白濁汁(病)と日本語と英語で表示されている。
「ハード・上級にしなきゃ、ただのスポドリなんだろう?」
「しなきゃね」
と、何人かの王から同時に返事が返ってくる。
「帝1さん、使ったことあるのか」
傭兵王がこわごわ聞くと。
「ほら、人食い植物(イベント賞品。現在入手不可。事故多発、危険)育てる時に、血よりこっちが買いやすくて」
「地味に帝1さん怖いな」
「ま、待ってください。セクハラで、訴えますよ」
支店長がグダグダ言っているが。
「立証できるといいね」
と、大株主でもあるサトムラ・アスレイ、ソドム帝がほほ笑んだ。
そして。
「先生、お手を汚させてしまって申し訳ありませんが、樽を割っちゃってください」
ソドム帝のロイドは畏まりましたとうなずいて、木槌でがこんっと樽の平たいところを叩き、壊した。
中からこぼれて湯船を満たす、グレーがかって変な緑っぽさも含んだ白濁粘液汁。臭いも相当酷い。体が病んだ人間の、を忠実に再現しているためだ。
悲鳴を聞きながら。
皇帝の半数は、ざまぁという顔をし、残りは別に支店長が可哀そうなわけではなく、この病み汁のえげつなさに眉を寄せていた。
触手姫が
「終わったら、これもらえる? 嫌だけれど、うちの触手、健康・ノーマルよりこっちの方が好きなのよね。本当に、なんで、せめて健康にしてほしいのに」
と、ぼやいた。
「好きにしていいよ。誰も(俺は・私は)ほしくないから」
と、全員がそんなような返事をした。
ちなみに、触手姫は本当に女性で、なんと公務員である。
絶対身バレしたくないと、顔も身長も変え、シルエットやら動きも無数の触手を背からはやすことでごまかしている。そう、最初は「その歩き方、○○だなっ」とばれるのを恐れて、触手を背負ったのだ。努力の方向性が、ユニークすぎる。そんなこんなで彼女は現在、アムリタにおける、触手界のプリンセスであった。
10分程度、悲鳴を楽しんだ後、ロイドたちに彼の頭を沈まさせた。
また、セクハラで訴えてやるーっと絶叫しながら、彼は沈んだ。
「セクハラ云々言ってるけれど、平気?」
と、触手姫が心配したが。
「風俗の支店長が、風俗のプレイをしているのです。職権乱用を咎めたら、強制されたと言われて、こちら運営と株主としては心外です。無料でプレイしたのだから、どちらかというとご褒美か、でなければ万引き。横領の類では、と証言しますけれど?」
と、軽やかに、腐女帝が答えた。
「サアヤ姉(腐女帝のこと。ソドム帝とは義理の姉弟)、人事の風さんとは話しついてる?」
「もう弁護士も入れてる。今回、お楽しみに水を差して、背信もいいところ。これがEU総支店長とか、再教育と人員あらためしないと」
ちなみに風さんは腐女帝のところの大公でもある。
げほげほっと咽せ、泣きながら、浴槽の淵にしがみついて顔を出し、死にそうな様子の支店長に、十皇帝は優しくほほ笑んで。
「じゃ、おいしくごっくん、しましょうね」
支店長が絶望した顔をした。
その後、彼はへろへろになりながら職を辞した。
たかが風俗のイベント、一つぐらいダメになったって問題ないと、思ったらしい。
もともと、高石グループに食い込みたくて、だから低俗な風俗のアムリタ関連に入ったのに、アムリタは子会社だが親会社に引き上げる制度はないと知って、やる気をなくしていた、というのがある。
風俗と馬鹿にするなら、こっち来るな、と言いたいところ。
「僕が、身内のわがままを網羅しながらも、全力で作り上げたアムリタを、ないがしろにされるのむかつく」
と、ソドム帝は珍しく剣呑な顔で言った。
「腹立つなら、戻ってらっしゃいよ」
「やだよ。僕はここで気楽に遊びたいんだっ」