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第17話 客人

 

 薪小屋でAと別れてから小銭袋の中を確認しながら街へ向かう。 


 銀貨7枚 銅貨16枚 鉄銭1枚


 治療される前と同じ枚数だったのでAが嘘をついて無い事がわかり安心した。

 この世界の物流や相場の知識は全くなく、現状分かっているのは宿屋と食事、トイレの料金くらいしか知識がない。


 素泊まりが銅貨3枚で、露店のパンが鉄銭1枚。

 仮にこのパンを100円とするなら鉄銭は100円、銅貨は1000円、銀貨は1万円のイメージだ。

 合計すると8万6100円を持っていて、現在は衣食住が提供される教会に奉公人として所属した。


 仮に教会に所属していなかった場合の日々かかる金のイメージとしては。


 宿屋   銅貨3枚(―3000円―)

 トイレ紙 銅貨3枚(―3000円―)

 シチュー 鉄銭6枚(―600円―) 

 エール  鉄銭5枚(―500円―)

 干し肉  鉄銭4枚(―400円―)

 宿屋パン 鉄銭3枚(―300円―)

 露店パン 鉄銭1枚(―100円―)

  

 仮にこれだけ一日にかかるとすれば、毎日|銅貨7枚と鉄銭9枚《―――――7900円―――――》の出費になる。教会の保証する衣食住がどんなものかわからないが、高級品のトイレ紙は支給されないだろう。


 贅沢は言いたくないがエールは我慢できたとしても、トイレは毎回紙を使いたい。

 奉公人になった事で、毎日の出費が|銅貨7枚と鉄銭9枚《―――――7900円―――――》から銅貨3枚(――3000円――)に減ったと考えて良いだろう。奉公人の仕事次第だが、神の奴隷とはいえかなり助かったのではないだろうか?


 ちなみに奉公人は無償の活動なので、このままでは資金が尽きる。何らかの形で金を稼ぐ必要があるだろう。


 これらの事を念頭に置きながら、俺は街で薪集めの算段をしなければならない。


 ベルフェ像近くまで来ると一人の少女が祈りを捧げている姿が見えた。少女は俺の事に気付いたようで一瞥される。

 奉公人として挨拶くらいしておくか。


「こんにちは」


 笑顔で声をかけたつもりだが、少女はこちらを見ること無く足早に街の方へと姿を消した。


 姿を見られて逃げられるというのは嬉しくはないが、人気が無いところで不審な男を見れば防犯の事から考えれば極自然な反応かもしれない。


 気を取り直してベルフェ像に挨拶しておくか。


『神様、暫くお世話になる事になりました。

 神様を慕う者の元に集えるのは幸運と感じますが、教会とは実際どういうものなんでしょうか?

 10年前から教会はあったんですか?

 あったとしたら初めて転送された時のこの辺りの荒廃はなんだったのか…。

 そのへんも調べてみたいと思います』


 ベルフェ像に挨拶を済ませ、巨石の門を抜けた。



 門を抜けると馬の水場にシトロがいるのが確認できた。複数の馬の管理をしているようで水を与えたりブラッシングをしている。


「シトロさん、こんにちは」

「これはBBの旦那、シュカンから聞きましたぜ」

「え、何をでふか」


 いかん、やましいことはないのに焦って噛んでしまった。


「いやね、シュカンから斡旋所(ギルド)で奉公人を紹介されちまったらしいじゃないですか」

「ああ、その話ですか」


 昨夜のみっともない話が広がってるのかと思ったがどうやら違うらしい。


「まさか旦那、奉公人に既になってたりしやせんよね?」

「先程試験に合格して奉公人になったところです」

「あちゃぁ…」


 シトロは大袈裟に天を仰いでいる。


「何かまずかったですかね…」

「兄者から旦那を客人として招くように言われたんですよ」

「え、客人ってどういうことですか?」

「客人てのは衣食住を保証される人でさぁ。何でも手元に置いておきたい優秀な流浪人を招待しておくと何かと特になるらしいんで」

「ええ!そんな何か目に止まることしましたか?」

「あっしはよく知りやせんが、シュカンが昨晩早々に旦那の部屋から出てきて兄者に耳打ちしてたのが関係するのかもしれねぇなと」

「な、なるほど?」


 やっぱり全てクエンに筒抜けだよ!?


「それでどうですか、今からでも兄者の客人として来ませんかね?奉公人を務めても無償なのをご存知なんで?」

「ええ知ってます、無償の変わりに衣食住の保証と修練に励めると聞きました。

 客人として行く場合なんですが、一度奉公人になったら許可が無くては異端者にされるみたいなんですけど、そこは大丈夫ですか?」

「それはまぁ、そうなんですがね。客人なら仕事せずに衣食住が保証されますぜ。神官長なら金を積めばなんとかなるんで、どうです?」


 金っていくら積むつもりなんだ…。

 それに、奉公人は教会の所有物という感じがかなりする発言だ。奴隷の売買みたいに感じる。


「いやぁ、Fさんじゃないんですよ、Aという若い娘なんですけど」

「そいつは…うーむ…」


 シトロは腕組みをして頭を捻りはじめた。

 何故だ、何故そこで止まってしまうんだ。


「何か、問題が?」

「噂ですがね、狂剣の使い手で奉公人を既に殺してると聞きましたぜ。他には確か、修道名を叫ばれたらすぐ逃げないと殺されるとかいう話も」

「…たぶん、その人であってます」

「こりゃ…金でなんとかなりそうな話じゃなくなっちまいましたね」

「え、なんでですか」

「神官長は奉公人を何人か抱えてるんで交渉できるんですがね、狂剣の方は確か居なかったはず…」

「ええ、俺が初めてらしいです」

「なら絶対に金で手放す事はせんでしょう、狂剣の噂は少なくとも1年くらい前から流れてるんで待ちに待った奉公人という事になりやすし」

「なるほど…」


 クエンの部下になるつもりはそもそも無かったのだが、話を聞いていると奉公人は失敗だったのではと不安になってくる。


「もしかして旦那、今なにか奉仕中で?」

「そうです、薪を用意するように言われまして」

「薪なら川を越えて森に入る必要がありやすぜ、それかそこの雑貨屋にだいたい売ってまさぁ」

「それは助かりますね、ちょっと見てきます」


 薪が売ってるなら話は早い、斧より先に値段確認を優先しよう。


「旦那、脅すつもりは無いんですがね、奉仕内容に失敗は許されませんぜ、お気をつけて」

「ありがとうございます」


 失敗するとどうなるか聞きたかったが、そんな事を話している余裕が無いように思えてきてシトロと別れ雑貨屋へ向かった。

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