第0話 神の切り札
とある世界の創造主、怠惰と好色の神ベルフェ。
ベルフェは創造した世界をゴールと名付け、ゴールの民を神の子として愛した。
神の性質が影響する世界で、神の子は独自の進化を遂げ種族を増やした。
種族の数だけ世界は広がり繁栄に繋がる。
ベルフェは最初の子をアークと名付け世界創造を共に楽しんでいたが、それは長く続かなかった。最初の子アークが寿命を迎えた事を切っ掛けにゴールへの情熱は次第に失われ、ベルフェは限りある生を嘆いた。
神の子は限りある命の中で生を謳歌する。その尊い生の輝きがベルフェにとって魅力的だったが、アークの死を切欠に大切な存在を失う恐怖を初めて意識する事となった。親しい者に迫る寿命という避けられない別れの恐怖が勝るようになった時、ベルフェは世界運営を完全に放棄してしまう。
ベルフェの心が落ち着きを取り戻すのに数百年の時を要した。懐かしさを思い出すようにゴールを覗くベルフェ。思い出の中ではアークと共に創り上げた多種族が繁栄を極めた世界があるはずだった。
ゴールの現状を確認したベルフェは困惑する。
世界から秩序と平和が失われ、怠惰と好色に染まった世界。
繁栄を一度極めればベルフェがいなくとも問題ないと思っていた認識は甘く、神の性質による影響は軽いものではない事を痛感する。
力ある者はより怠惰と好色を求め。
力なき者はより怠惰に逃避を求め。
多種族の均衡は崩れ繁栄に終止符が打たれた世界。
アークと共に創り上げた世界は完全に失われ、ベルフェはゴールの惨状を心から嘆いた。
世界が繁栄すると創造主には大きな力が付与され影響力が上がり、世界が衰退すると創造主には大きな罪が下り影響力も下がった。
均衡を崩した世界は創造主の力を弱める毒となり、簡単に調整できない世界へと変貌する。力の弱まったベルフェは通常なら絶対やらない強い影響が加わる処置を施す方法に頼る他なかった。
諸刃の剣ともなりかねない強い影響力に頼る他ない最後の手段。
神の切り札を使うしかない。
神の力を授けた強い影響力を持った者に世界を調整させる。
ベルフェは世界の均衡を取り戻すために異世界から『勇者』を転送した。
数々の転送は後に『神の異物』と呼ばれる事となる。