10回目だとしても
必ずしも一度目の人生と同じでなくてもいい。レイと一緒に生きていく。
普通に学校に行く。普通にお仕事に行く。週末には会う。会って話をする。
街に出かける。遠乗りをする。食事を楽しむ。領を案内してもらう。忙しくて会えない時には手紙を書く。
あの時のように、おじさまが無理な婚約だと思うならやめてもいい、そう言った。そしてあの時のようにレイは私との婚約を続けたいと答えた。
おじさま達には、無理にやめさせようという気持ちはなかった。ただ、親から押しつけられた婚約が苦になっていないかを確認するだけの言葉だった。この言葉も繰り返す中では欠けていた。とても大切な言葉なのに。
そして今までにない展開が起こった。どうしても、呪いの死神は私の命が欲しいらしい。
ちょっとした息切れから始まり、疲れかと思った体調不良はあっという間に私の体を蝕んでいった。
誰ともわからない殺意ではなく、病が私を死へと導いていく。
絶対に生き返らせない、と、私を殺したがっている誰かの呪いの強さを感じた。
最後の日。
私はウェディングドレスを着ることもできなかった。
レイの希望で、婚姻証明書にサインだけ書いて、私達の結婚式は終わった。
しっかりとペンを握ることができず、字が揺れて、きれいに書けなかった。
またレイを置いて行ってしまうことだけが気がかりだった。
それでも、絶対に二十四時は過ぎてみせる。例え一秒でも、レイのために。レイを元の世界に戻すために。
夜が更けていく。
死ぬ時にレイが傍にいたのは、私の知らない本当の死以外では初めてだった。
「いつも何かに邪魔されて君を守りに行けなかった。邪魔がなくなって駆け付けた時、いつも君は死んでいた。いつだって、ずっと傍にいたかったのに」
「今度は、あなたが傍にいてくれて、…嬉しいわ」
死を前にして、笑える自分が不思議だった。
少し眠り、目が覚める。
真夜中が近い。
自分の命がもうわずかだとわかる。
こんな私を殺しに来る人は、きっといないと思いたい。死は避けられなくても。
「レイ、もしね、…もしも、もう一度、生き返ったなら、お願いがあるの」
レイが無理に浮かべた笑顔から涙が流れている。彼も知ってる。私はもういなくなる、と。
こんなお別れは初めてだけど、言葉も交わせずに離ればなれになるより、ずっといい。
「私ね、9月生まれなの」
「知ってるよ。ちゃんと覚えてる」
やはり、ピンとこないよね…。レイらしいと思う。
「アクアマリン、嫌いじゃない。レイが…、くれたから、思い入れは、あるんだけど、…アクアマリンは、3月の、誕生石、なのよ」
「えっ…」
「もし、次にプレゼントを、くれる時は、自分で、選んでね。…他の、誰かの、アドバイスじゃ、なくて…、何でもいい。あなたが、私のこと…、思って…、くれるなら」
次があるなら。
まだ、まだ死ねない。もうあと何分?
時計が見えない。
あなたの呪いを解く。私はもう少しだけ、生きる。
私は死なない。
あなたを、私という呪いから、解放する。
「あなたを、 好きで よかっ…」
ほんのちょっと、一秒でもいい。この命を、
あなたのために。