6回目
十四歳、ダッシュモンド伯爵家での婚約式。目の前のレイナールが目に映る。
とたんに、昨日まで記憶になかったことが、湧き出すように蘇る。一回目も、二回目も、三回目、四回…
意識を手放す。
深く、深く沈んでいく、真っ暗な闇の中。
知らない声が響いた。
-そろそろ死なないでもらえないもんかね
「誰?」
どこにも声の主の姿はない。
-自殺未遂?
-おまえさん、そんな柄じゃないだろう
-しっかりおしよ
-このままじゃ、あの男、時の狭間に飲まれちまうよ
「あの男?」
-おまえの死に耐えきれず
-闇の魔法に頼ってまでおまえを死ぬ前に戻らせた男だよ
「男…」
私の近くにいる男の人と言えば、父以外は…
「レイナール?」
-おまえは結婚の日に殺される
-そういう呪いを受けている
-おまえが死に戻るのは十回だ
-十回目に死ねば、もう生き返ることはない
-だが、あの男はもう諦めてしまっている
-あの男は二つある道のもう一つを願うようになってしまった
-なのにそれさえも叶わない
「二つある道って?」
-この繰り返しを終える方法は
-おまえが 結婚の日を乗り切るか 結婚しないか
「結婚しない…」
そんな方法があったなんて。
でも、レイナールはそれも試してる。そして解消することはできない、と私に謝った。
-どう頑張ってもおまえは死ぬ
-あの男は、死んだおまえを抱いて、絶望を繰り返すうちに
-何もできなくなってしまった
「頑張った…? いつだって、私になんて大して興味なくて、何もしてない。何も…」
-おまえが覚えている最初の死は、どんな死に方だった?
「結婚式の後、果実水に毒が入っていて…」
-それは、最初の死じゃない
「えっ?」
-その前にもおまえは死を繰り返し
-あの男は何とかしようともがいたが、救えなかった…
これは六度目…じゃない? その前にも、私が覚えていないだけで…
もしかしたら、これが十回目かも…?
「レイナールが何とかしようと動いていたのは、何回?」
-そんなこと、知るものか
-本人に聞くといい
-まずはおまえの最初の死因を知ることだ
-そして、死なない方法を考えな
-でなければおまえは呪いに負けて死に
-あの男は永遠に孤独の闇をさまようことになるよ