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呪い、呪われ…  作者: 河辺 螢
本編
4/12

5回目

 十四歳、ダッシュモンド伯爵家での婚約式。レイナールを見た途端に思い出す。

 正直、もういい。

 頼むから、忘れさせて。百歩譲って殺されてもいい。思い出させないで。

 殺されるのに怯えて四年も過ごす方がよっぽど嫌。

 何だってこんなに何度も繰り返すのよ!!


 またしても婚約者になる。逃れられない。

 よし、嫌われよう。婚約を破棄してもらおう。

 他の男と仲良くなって、浮気でもして…と思っても、誰も寄ってこない。男の人を寄せ付ける方法も知らない。

 大人っぽい格好をしてみた。化粧を濃くして、肩の広く開いた服を着てみたけれど、胸の辺りがスカスカで、胸もさほど大きくない私は完全に服に着られ、似合わなかった。その姿でお茶会に行っても、何か言われることもなく、いつも通りだった。

 それなら、と黒縁眼鏡をかけ、地味な服を着て、髪は後ろでひとくくりにして、ひっそり隠れるように暮らしてみた。

 どんな格好をしてもレイナールは何も変わらなかった。そもそも私の服装になど関心なく、気付いてもいないかもしれない。まるで道化だ。自分が悲しくなった。


 お茶会の日になっても逃げて、図書館にこもってただひたすら時間が過ぎるのを待った。

 三回目には居所がばれて、突然現れたレイナールは黙って前の席に座り、新聞を広げた。

「私との婚約が嫌なのか」

 そんなことを言われたのは初めてだった。

「…すまない。解消することはできないと父に言われた」

 広げた新聞越しに言われた。薄い新聞が壁のように感じた。

「…ごめんなさい」

と謝った。


 それからは今まで通り、普通に月一回のお茶会には通った。

 どうすればこの状況を変えられるのか、わからなかった。

 何かを変えたい。何度かあの日より先に死ぬことを試してみた。でも死にきれなかった。手首に残った傷は装飾品で隠され、死にかけたことは絶対に言わないよう諭された。レイナールは気付かなかった。


 そして時が来れば結婚式を挙げ、伯爵家へ。

 何事もなく部屋にたどり着き、ほっと息をついた。

 軽く湯浴みをしようとした時、背後から何かを口に当てられ、妙な匂いのものを吸い込むと意識を失った。

 恐らく、そのまま湯船に投げ込まれ、溺れて死んだのだと思う。

 自分では死ねなかったのに、この日になるとあっけなく死んでしまった。

 最後の苦しみはささやかで、四年間、殺されることに怯えて生きる方が恐かった。


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