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呪い、呪われ…  作者: 河辺 螢
Another World
10/12

とある呪い人の話 1

本編の前提となる最初の死がそのままだった世界

 あの女が死んだ…。

 ちょっとしたいたずらだった。

 異国の果実から作ったジュース。未熟な実だと、ちょっとおなかを下す。

 式の最中におなかを下してしまえばいい。みんなの笑いものになればいい。

 そんなささやかないたずらだったのに…。


 誰かが毒を入れた、と新聞に載っていた。

 良かった、私じゃなかった。私のせいじゃない。そうよ、下痢をするだけ。死ぬような物は入れてないもの。あんなささやかないたずら…。わからない。誰にもわからないわ。私が黙っていれば…。


 三年の月日が過ぎ、オーウェン男爵からのダッシュモンド家への援助も終わった。

 娘が死んだというのに、律儀に約束は守るなんて…。その間、ずっと婚約は受け入れてもらえなかった。ほんと、長かった…。

 一時は存続が危うかったダッシュモンド伯爵家は見事に復活を遂げ、今では繊維産業ではノルディア地方がダントツ。

 お父様のおかげでダッシュモンド家との縁談はすすみ、私はレイナール様の婚約者になった。

 元々シャイな方だったけれど、婚約者だった人を亡くされ、ますます笑うことがなくなってしまった。私が慰めて差し上げなければ。でも、つれないお顔もすてき。氷の伯爵といった感じかしら。


 アクトン侯爵の夜会にご一緒したとき、周りがみんな私達に注目していた。

 あの悲しい事件の後、全く社交に参加しなかったレイナール様が、新しい婚約者を連れて参加したのだもの。

 羨む視線が突き刺さるわ。素敵でしょう? 私の婚約者よ。

 レイナール様の復活を信じず、婚約者をとっとと決めてしまった人達が睨んでる。もう少し待てば良かったかしらって。

 待っても無駄よ。だって、お父様の申し出をダッシュモンド伯爵が断れるわけないもの。


「ご覧になって、あの二人」

「ああ、前の奥様の喪が明ける前からアタックしていたらしいわね」

「レイナール様は無関心らしいわよ。お金で婚約者を買ったんじゃないのかしら」

「前の方もそうだったでしょ?」


 …何、お金で買ったって。私はあの女とは違うわ。一緒にしないでもらいたいものね。


「あの方が飲んだジュース、あちらの方からの差し入れだったってもっぱらの噂よ」

「あえて珍しい、うちの国にはない果実を差し入れたんですって」

「毒を入れても味がわからないようにしたのかしら」

「毒を入れたのは、違う方でしょう?」

「協力したんじゃないの? あの方を引きずり落とすために…」


 あまりに悪意ある噂話、不愉快だわ。

 でもレイナール様は、気にすることなく傍にいてくださった。

 妬みを噂話に変えて、表面では笑みを浮かべる…。まあ、私もかつてはああやって嫉妬する側だったこともあるわ。でも今は違う。私はうらやましがられる側。愛の勝者。自分を卑下することはないわ。


 結婚式の前日。

 最後の打ち合わせも終わり、ワインを空けて軽く乾杯した。

 少し酔ったのか、レイナール様はいつになく笑みを浮かべていた。ようやく私のものになってくださるのだと思うと、明日が待ち遠しい。

 テラスで二人きりになりキスをねだると、いつも触れるだけの短いキスなのに、この日は酔っていたからか、長く深い口づけをかわした。途中でワインを口に含み、口移しで私の口に注いでくる。こんなに積極的なレイナール様は初めてだった。このまま帰したくないほど切なくなって、両手を首に回してしがみつくと、

「明日は朝が早い。ほどほどで切り上げなければ、腫れた唇で式に出るのは嫌だろう?」

 そう言いながら、片手で赤い木の実をかじり、まるで鳥が餌を分け合うように私の口に移してきた。同じ甘い果実を口にして、私は愛に酔いしれた。

 ようやく私のことを見てくださった。もうあの女の亡霊はいない。彼は私のもの…。


 その日の夜中にしくしくと感じたおなかの痛みが、明け方猛烈な痛みに代わった。

 着替えをしなければ間に合わなくなると言うのに、激しい腹痛を繰り返しながら、波のように周期的におとずれる便意。私はトイレから出ることができなくなった。

 式だけ。式だけでいいから、どうしても挙げたい。

 そう思う気持ちとは裏腹に、体調は一向に良くならない。

 教会まで移動するため、下痢を止める薬と痛み止めを処方され、すぐに水で流し込んだ。

 少しづつ収まってくる。良かった、これできっと間に合う。

 着替えは教会の控室でいいわ。きっと間に合わせてみせる。

 侍女が私の衣装を馬車に積み、お父様とお母様は先頭の馬車に乗った。

 道中の不安はあるけれど、時間が気になり、馬車に乗り込もうとしたその時、

 急激な眠気に襲われ、その場に倒れ込んだ。

「お嬢様?」

 ただの転倒だと思った侍女が、私を立ち上がらせようと手を伸ばす…

 その手が、…掴もうとしてるのに…

 早く行かなきゃ。レイナール様が、待ってる…。

 私は…今日、幸せに…なるの…




この物語は、フィクションの中で更にフィクションです。

(回避してます)

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