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第7話 神龍の末裔を名乗る臣下

◆ドラゴンと天使の異世界・異種族恋愛ファンタジーです。

毎週火・土曜日の夜8:00に更新予定。たまに週末はゲリラ更新があるかも?

第一章は龍界編。主人公の一人、アスランの話です。長くなりそうですがよろしくお付き合いください。

 朝食を終える頃、父王の側近の一人であるガウリウス=カーが現れた。

 片腕を失った醜い老人で、今は絶えてしまった神龍の血筋だと自称しており、龍王以外のドラゴンをすべて見下している。--いや、龍王さえも心の中では見下しているかもしれない。

 だが、肩から先がすっぱりと切り落とされた左腕が物語っているように遠い昔に龍王とガウリウスの間で優劣は付き、彼は今、龍王の最も忠実な下僕ということになっている。


「第九王子」


 ガウリウスは、アスランを決して名前で呼ばない。敬称である「殿下」も付けないのだから、畏れ敬っている訳ではないのは確かだ。

彼が名前に「殿下」を付けて呼ぶのは、最も王位継承権に近い第一王子のバラクと第二王子のルアフだけだ。そして、それを龍王も黙認している。ガウリウスに一目置いているというより、自分の後継となる可能性がほとんどない息子たちには興味がないのだ。


「……ガウリウスか」


 許されてもいないのに部屋まで入ってきたガウリウスをちらりと見て、アスランは息を吐いた。朝から見たくない顔だ。


「ヒッヒッヒ。ウィスタリアから聞いたでしょう。王子はこれから、クレディア王妃の世話役になって頂く。なに、食事や着替えは侍女がやる。話し相手をすればいいんです。芽の出ない魔力の修練よりよっぽど有意義……おっと」


 わざとらしく口を押えると、ガウリウスは首を振った。


「いやいや、第九王子とはいえ、龍王の直系が異国の王妃の世話係など。お気の毒ですなあ」


 ガウリウスの嬉しそうな顔を見ながら、なるほど、とアスランは思った。父王本人に言えない鬱憤を出来の悪い王子に言っているのだ。龍王の血(・・・・)も大したことはない(・・・・・・・・・)、と。


「さらに第三王女も。方や魔力なし、方や花を育てるしか能のない……龍王の直系ともあろう者が、ああお可哀そうに……、」


 その瞬間、ドンッ、と部屋が揺れてガウリウスが尻もちを着いた。


「ひぃっ?」


 訳が分からず見上げると、目の前で金色の瞳が燃えるように光っていた。その右手には黒く禍々しい魔力の塊が地獄の焔のように揺らめいている。


「魔力なし……。では、例えこれをお前のよく喋る口の中へ解き放っても」


 ゆらりとアスランは右手をガウリウスの目の前へ差し出す。焦げた匂いがしてガウリウスが悲鳴を上げた。ヒト型を取っているとはいえ、ガウリウスの、ドラゴンの皮膚が焦げたのだ。


「きっと偉大なる神龍の末裔殿はけろりとしているのだろうね?」

「ひ、ひぃい! な、なんで、いつの間に……!」


 70年前の成人の儀式の日、龍王に謁見する前のドラゴン達を王の間へ取り次いでいたガウリウスは、黒と茶色のオッドアイだったアスランを見て、「これはいい! 龍王の息子が来るというのでどんなのかと思っていたら、まるで“雑種”じゃないか。魔力も、ああ、なんてささやかなことだ! これはいいぞ!」と笑い転げた。


 その頃の記憶のまま、アスランの成長など夢にも思っていなかったのだろう。皺が刻まれた肌に冷や汗が浮かび、白濁した瞳はただただ恐怖に見開かれている。

 アスランは、ふ、と息を吐くと魔力を握りつぶした。冷ややかな瞳で座り込んだままのガウリウスに問いかける。


「それで、お前は花を育てられるのかい? リリカのように?」

「……ふ、ふんっ! ドラゴンにそんな能力は必要ない! そ、それより早く北の塔へ行かれよ!」


 ガウリウスは杖を支えになんとか立ち上がると、そう吐き捨てて逃げるように部屋を出ていった。


「あれ? アスラン様、今のってカー爺……。すげー音がしてましたけど大丈夫ッスか」


 ひょっこりと、入れ替わりにルルが入ってくる。何も事情を知らなさそうなのんきな顔だ。主が今日からクレディア王妃の世話人になったことや、ウィスタリアがテオライト一族のラグーンへ派遣されることになったことを聞いたら、どうなるのだろうか?


「……」


 じっとルルを見て、アスランは説明を放棄することにした。面倒な予感しかしない。


「僕はこれから出かけてくる。今日は特に、ルルに頼むことはなさそうだ」

「あ、ハイ……」


 目に見えてしょんぼりとしたルルを置いて部屋を出る。ルルは曲者だらけの王宮内でも付き合いが広い。自分が言わなくても、今日のうちにでも、よその部屋付きか召使に聞いて事情を知るだろう。


***


「イル兄さま!」


 北の塔へ着くと、先に来ていたリリカが泣きそうな顔で駆け寄ってきた。


「イル兄さま、ごめんなさい! リリカがクレディア王妃のことを相談したから、イル兄さままで巻き込んでしまって……、リリカだけがお世話人になるってガウリウスにも言ったんだけど聞いてもらえなくて……」

「……バカだね? お見舞いに行こうって言ったのは僕だよ。それに、これで堂々とクレディア王妃に会えるようになったわけだし何も問題ない。違うかい?」


 光によって淡い紫やピンク、黄色に色を変えるやわらかい髪を撫でながらなだめるように言うと、リリカはぎゅっとアスランに抱き着いてもう一度「ごめんなさい」と呟いた。

 怒っていないことを伝えるためにぽんぽんと背中をたたき、扉へ向かう。今日は、リリカがガウリウスから鍵を預かってきていた。


「退塔する時に鍵を閉めろって。……これ、一つずつ持つように言われているの」


 合鍵を1本渡されて受け取る。なくても開けられるけどね、と思いながら、アスランは受け取った鍵を懐へしまった。

 扉を開け、1階の牢獄と2階の粗末な部屋を通り過ぎて3階の前室まで上がる。扉をノックすると、侍女が現れた。昨日のような勢いはなく、ふたりの姿を認めるとただ深々と頭を下げる。


「どうぞお入りくダさい」


 部屋に通してもらうと、アスランとリリカはクレディアのベッドに近付いた。


「お加減はどうですか、クレディア王妃」


 アスランが先に声をかける。窓の外を見ていたクレディアは、そこで初めて気が付いたように「ああ、」と振り返った。


「……王子ト王女が、血ノ繋がりもナい異国ノ女ノ世話人にナッてしまっタのデすか」


 言葉は皮肉めいていたが、異国なまりの混じった口調は穏やかだった。


「……私たちが来たことが父王に分かってしまったようです。王妃にご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 アスランはそう言って頭を下げた。クレディアは僅かに目を見開き、ぽつりと言う。


「昨日から思っていタが、アスラン王子ト ザハーリヤ王女は龍王に似ていナい……」


 アスランはどういう顔をしたものかと、リリカと顔を見合わせた。するとリリカが先に笑った。


「うれしいです!」

「リリカ……」


 屈託のない彼女の返事にアスランは額を押さえ、クレディア王妃はまた目を丸くした。


「……迷惑を かけるのは、私ノ方。デも、ナぜ龍王は、あナタタチを私ニツけタノダろう」


 クレディアにも理由は分からないようだった。やはり、彼女が頼んだわけではないのだ。


「……リリカはともかく、私はすることもなく毎日本を読んでいるだけの身ですので。仕事をくれたのでしょう」


 アスランは肩を竦めて答えた。


「えー、リリカだって暇だよ? お花を育ててるだけだもん」

「……ふ、」


 龍王の王子と王女が自分たちの無能ぶりを競うように挙げるのに、クレディアは思わず笑った。この国へ来て以来、王宮のドラゴン達は自分たちの地位を鼻にかけ、クレディアのことは王の戦利品としてしか見ていないように感じていた。だが、このふたりはクレディアのことを同じ目線で見ている。


「アスラン王子はまダ、エレメンタルを見つけテいないノデすね。ザハーリヤ王女は、花ノ精霊を率いるドラゴン。私タチ アースドラゴント、古い親戚デす」

「え! 本当ですか!」


 リリカがきらきらと目を輝かせて身を乗り出した。


「はい。遥か昔は同じラグーンにいタはず。テオライトアースドラゴン、ガイアドラゴン、フラワードラゴン、フォレストドラゴン……幾つかノ種族が生まれ、それぞれノエレメンタルがより強いラグーンニ住処を求めテ旅立ッテいきましタ」


 主が自分たち一族のことを話し始めたのを見て、侍女は驚いた顔で三人を眺める。だが、そのうちに表情を緩めると、お茶の用意をし始めた。


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なかじま ひゃく

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