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第11話 星を喚ぶドラゴンの国

◆ドラゴンと天使の異世界・異種族恋愛ファンタジーです。

毎週火・土曜日の夜8:00に更新予定。

第一章は龍界編。主人公の一人、アスランの話です。長くなりそうですがよろしくお付き合いください。

 それから数日して、アスラン達の予想通りクレディアは塔から移動することになった。間に合っていなかった居室がようやく完成し、後宮の一角に広い部屋が用意されたのだ。

 後宮には11人の王妃(クレディアを入れれば12人)と3人の姫が住んでいるが、1部屋1部屋は回廊と庭に隔てられ、妃同士や姫同士はほとんど顔を合わせない造りになっている(母娘の関係にある妃と姫の居室は近くになっているが、それでも独立はしている)。


 クレディアの部屋は、新たに増築した回廊の先に、熱帯の植物が生い茂る中庭に囲まれて佇む離れだった。侍女の部屋も併せて4つの部屋と、厨房、庭に面した広い浴室があり、これまでとは打って変わった豪華さだ。引っ越しの日、真新しく広々とした居室に驚いているクレディアの元へ龍王が姿を見せた。


「お気に召したかな?」

「……静かで子どもを育てるにも十分な広さがあり、感謝しております」


 クレディアは淡々と礼を述べて頭を下げた。龍王からは、未だに子どもが出来たことに関しては一言も触れられていない。既に12人も王子や姫がいるのだから、今更増えても何の感慨もないのだろうか、とクレディアは思う。それなら、構われることもそうあるまいと考えると気が楽だった。


「ふむ……順調そうか」


 龍王は頭を下げるクレディアの腹をちらりと見ながら言った。


「王妃に贈り物を用意しようと思ってな。部下に今、そなたの喜ぶものを探させているところだ」

「……? いいえ、私はそのような。この部屋だけで十分です」


 龍王の言葉に、クレディアは怪訝そうに顔を上げ、頭を横に振った。


「そう遠慮するな。そなたが、もうここから逃げ出そうとしないよう、この国が気に入ってくれるよう、私も必死なのだ」

「……」


 妙に優しい言葉がかえって空々しく聞こえる。クレディアは、「もったいないお言葉です」と頭を下げながらも、なんとなく不安な気持ちにさせられるのだった。



***



 その頃、クレディアの故郷であるテオライト=アースドラゴンの国。

 この国の若き王であり、クレディアの夫でもあったアスターシュ=スウ=テオライトは、元王妃であるクレディアの居室をそっと訪れた。

 そこにはもう、部屋の主はいない。ただ、窓辺に置かれた20㎝ほどの小さなブランコが、窓は締め切られているのに、ゆらゆらと揺れていた。


「アエリタ殿。元気かい」


 アスターシュ王が声を掛けると、ブランコに乗っていた者――淡い銀色に輝く女の小人だ――は、うれしそうにぴょんっとブランコから飛び降り、カーテンにすがりついて器用に床に降りると、王の元へ駆けてきた。


「クレディア かえった?」

「……いや、すまない。まだだ」

「そうかー……」


 アエリタと呼ばれた小人は、それを聞くと、またカーテンをよじ登ってちょこんとブランコに座り直した。クレディアがいる時に作ってやったものだ。


「……アエリタ殿、食事はとっているかい?」

「うーん」

「食べたいものはあるかな?」

「うーん」


 王自らが心配して様子を見に来ても、アエリタは上の空だ。アスターシュは、クレディアがいなくなってから明らかに元気がなくなっているように見えるアエリタに内心で溜息をついた。


(アエリタに何かあればクレディアも……。いや、下手をすれば龍界も)


 窓際にある、かつてクレディアが座っていた椅子に腰かけてブランコで遊ぶ小人を眺める。アスターシュもこの数カ月、まともに眠れていない。

揺れるブランコを眺めるうち、いつの間にかあの日の記憶を辿る夢の中に誘われていった。



***



 テオライト=アースドラゴンの国は、龍王バハムートのラグーンから見て遥か北に浮かぶ、岩と砂漠、鉱山ばかりの小国である。

 天から降ってくる星の破片が集まりやすいこのラグーンでは、磁気や魔力を帯びた珍しい鉱石が種類豊富に産出し、その石をヒト族やドワーフ族に売ることで、食料や酒はもちろん、宝石や黄金、伝説級の武器をいくらでも手に入れることができた。

 ドラゴンの国には珍しく、異界との貿易による産業で成り立っていたのだ。そのために他のラグーンとの外交は少なく、経済も文化も独立している。

 一族の能力としては、「星を降らせることができる」という伝説があるが、そんな桁外れの力を持っていたのは、遠い昔、テオライト王家の始祖となったドラゴンたった一頭だけだ。

 現在のテオライト=アースドラゴン達は、希少な石の貿易により、狩りをし、戦って領土を広げなくても十分に潤った生活ができることしか知らない世代。さらに、異界の生き物たちとやり取りをするために、相手と目線の近い人型でいることがほとんどだった。

 結果、能力はほとんど退化し、ドラゴンに変わった時の姿もヒト族よりやや大きい程度の、本来のドラゴンからすればかなり小型になった。文明を手に入れた代わりに弱体化したのだ。そのことを他のドラゴンの一族に知られないために、彼らは伝説を利用してきた。


――テオライト=アースドラゴンは星を降らせることができる――。


 ただでさえ北の辺境にあったため、ここまで来るドラゴンも少なかったが、たまに異種のドラゴンが来た時にはドワーフの作った機械と燃える鉱石を使い、あたかも星が降るような目眩ましを装って追い払った。

「星を降らせる一族」の伝説には尾ひれが付き、テオライト=アースドラゴンの国に故意に近付くドラゴンはこの数百年、皆無だった。



半年前、バハムートがやって来るまでは。



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なかじま ひゃく

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