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第1話 龍王の第九王子

◆ドラゴンと天使の異世界・異種族恋愛ファンタジーです。

毎週火・土曜日の夜8:00に更新予定。

第一章は龍界編。主人公の一人、アスランの話です。長くなりそうですがよろしくお付き合いください。



【アルディオ・オーシュ著 十界の幻獣 龍界編:ドラゴンとその宝について】


~中略~


 かくして私は龍界にまで足を運ぶこととなった。龍界、そう、あのドラゴンたちの住まう国だ! この本を見ている、幻獣が大好きな紳士淑女の皆さんは当然ドラゴンを知っているだろう。膨大な魔力の塊でもあるこの幻獣は、大空を自由に飛び、個体によってさまざまな力を持つ。炎を吐く者、氷の刃を降らせる者、風を操る者。伝説には、星を動かし、隕石を呼ぶ者さえもいる。


 そんな彼らは宝を溜め込んでいるという性質を持って語られることもよくある。もしあなたが人間界の住人なら、絵画や童話の挿絵の中で、洞窟のなかに金銀財宝を抱えて眠るドラゴンの姿を見たこともあるだろう。

 私もこれまで、ドラゴンは単に宝物が好きな生き物なのだと思っていた。そう、光るものを溜め込む鴉のように(それよりも実際はかなり貪欲・獰猛・そして頭がよい)だ。


 しかし、ここに来て知ったところによると、「宝物」はドラゴンにとってとても特別な意味を持つ。だが、それは我々が想像するような金銀財宝ではない。「ドラゴンの宝物」は、そのドラゴンにとってだけ価値のあるもので、他者にとっての価値があろうがなかろうが、まるで関係がないのだ。

 その証拠に、時にはまるでゴミ屑のようなモノを宝物にしてしまうドラゴンもいるらしい。ユニコーンの角や数千年の時間を経て結晶した金剛石なら上等で、ネズミの骨、木の根の化石、発芽しないまま数百年も経った何かの種など、大事に抱えているにはあまり絵にならないものも多い。


 しかし、それが何であれ、「宝物」を見つけたドラゴンはそれまでの殻を脱ぎ捨てたようにまったく次元の違う力を得る。魔力はより練り上げられ、たてがみ一本一本の先まで行き渡り、翼は大きく強くなり、空を駆けるスピードも岩を砕く力も子どもと大人ほどに変わる。

 だからドラゴンは必死に「自分の宝物」を探す。数千年も生きるというドラゴンの長い生涯をもってしても、見つけられないことも多い。だが、それならまだいいかもしれない。宝物を持つドラゴンは、選ばれた一握り。宝物がないとしても、全世界の種族から畏れ敬われる気高い一族であることに変わりはないのだから。


 ドラゴンが「宝物」においてもっとも不幸になるとされるのは、“命ある者”を宝に選んでしまった時だ。意思があるが故に手にすることが難しく、運よく手にしてもいずれ死んでしまうこの存在は、「ドラゴンを狂わせる呪われた宝」として忌まれている。そして、命ある者を宝物に選んだドラゴンも、その瞬間から「ルインドラゴン<破滅へと歩む者>」と呼ばれるようになり、一族から敬遠され、蔑まれる運命にあるのだ――。


***


 龍界の王宮図書室で、何百年か前に龍界にやってきた人間の幻獣研究家とやらが書いた分厚い本を流し読みしながら、イルカーラ=サマル=ヤティル=アスラン=バハムートは、長い足をゆっくり組みなおした。


 王宮図書室の本には魔力で劣化を防ぐ術がかけられているとはいえ、誰も読む者がいなかったのか、献本からも何百年か経っているのにほとんど汚れも傷みもない。


「まあね、確かに」


 龍王直系の者だけが持つ、独特の金色の瞳を退屈そうにすがめて呟く。


「この星に住まうすべての種族、言語、歴史を僕らドラゴンは概ね知っている。今さら、ということばかり書かれているからね……」


 それでも、ほかの種族から見た自分達の姿、性質というものを文字で読むのは面白い、と思った。あまりドラゴン同士の間では公に語られない、「ドラゴンを狂わせる呪われた宝」のこともこれだけはっきりと書かれている書物は他にないかもしれない。


「しかし、鴉は酷いな」


 ほかのドラゴンなら激昂して作者を引き裂きそうなものだが、彼はくくっとおかしそうに喉を鳴らして笑う。

 黒髪で長身、左の目元には小さな黒子があり、それが妙な色気を出している。二十歳前後の青年の姿をしているが、その正体は龍王バハムートの第九王子だ。


 母親は黒龍一族の長の娘だが、王族ではない。なおかつ、幼少期には彼の瞳の色が金色ではなかったために龍王の子としても認められておらず、父を見たこともなかった。


 それが、成人の儀式で王宮を訪れ、龍王と対面した瞬間にまるで全身に電流が走るような衝撃があり、突如瞳が金になったのだ。儀式が終われば黒龍の谷に戻って幼馴染や年上のドラゴンと飲み明かす約束をしていたのが、そこから黒龍の谷へは帰れなくなった。


 いきなり「バハムート王家の第九王子」という肩書をつけられ、豪華な部屋と召使を与えられ、王家の作法を叩き込まれる毎日が始まったのだ。それからもう、70年ほどが経つ。


 とはいえ、龍王である父は健在で、冷淡だが優秀な第一王子と野心家の第二王子、その他もろもろのとにかく上に八人もの王子がいるのだから彼などいてもいなくても変わらない。

 誰にも期待されることなく、構われることもなく、かといって城を出ることも許されず、ただ図書室で本を読み漁る軟禁状態のような日々が過ぎていった。


「アスラン様、こちらですか?」


 ふいに図書室の扉が開き、派手なピンク色の頭がひょっこりと覗いた。


「ルルか」


 最近部屋付きになったドラゴンの、ルルシィー=セグリッド=サラマンダー。炎を操る古いドラゴンの一族で、いわゆるいいところの坊ちゃんだ。教育係のウィスタリア=オース=リンドブルムが連れてきた。

 アスランよりもほんの20年ほど後に生まれたようだが、なんでも、半年前に王宮で開かれた龍王の「生まれ出づる月」の祝宴に参加していて、「第九王子のオーラに撃ち抜かれた」と押しかけてきたらしい。堅物のウィスタリアが断り切れなかったというのだからある意味すごい。


「! アスラン様!」


 毎日顔を合わせているのに、主の姿を認めるとこの若いドラゴンはぱっと顔を輝かせて赤い瞳孔をまん丸にする。

 隠し切れない高揚が瞳に現れていて、その習性は人間界にいる猫という動物のようだが、この性格は犬か……と、アスランは書物の知識を思い出しながら興味深くルルを眺める。


「何か用か」


 本を閉じ、元の棚に戻しながら聞く。

 高い天井までびっしりと備え付けられた本棚が壁を埋め尽くすこの図書室は、王宮の第三図書室だ。第一と第二図書室の本は読み尽くして、この第三図書室の本もあと1/4ほどのところまで読み終えた。その残り1/4が、異世界の筆者が書いた書物がかためられている棚で、アスランはこの一角が気に入っていた。


「あ、はい! おっさ……、いえ、ウィスタリア様が探してるッス! や、探してます!」


 ルルはサラマンダ―家の令息とは思えない奔放な性格で、言葉使いもどこで覚えてきたのか、チンピラのようだ。ウィスタリアにさんざん怒られて最近ようやく気を付けるようになってきたようだが、本人がいないところでは主の前でさえウィスタリアのことを「おっさん」と言ってしまうことがある。


 兄王子たちなら即時に追い出しているだろうなと思いながら、アスランは意外とこの若いドラゴンが嫌いではない。古い血筋のドラゴンに多く見られる冷酷で高慢なところがなく、心配になるほど真っ直ぐだ。

 ともあれ、ウィスタリアが探しているという言葉にアスランはゆっくり頷いた。


(何だろうね? 今日やるべきことはすべて終えているはずだけど)


 第九王子に仕事などほとんどなく、ウィスタリアが出してくる課題も魔力の修練も午前のうちに終えている。それでも、退屈な日常に変化があるのなら歓迎とばかりにアスランは扉へ向かった。


 自分を探して王宮の中を走り回っただろうルルには、それ以上の声をかけない。労いも次の指示もない。ドラゴンにとって、下位の者への気遣いは、あることがおかしいというくらい無用の感情だ。


 それでも、いつもキラキラと目を輝かせて自分が出ていくのを見送るルルに、何か一言くらい声をかけてもいいのではと、アスランは思う。その「一言」が思いつかずに今日も見えないところで苦笑を零すしかないのだが。


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なかじま ひゃく

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