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生足ちゃんはハカナイ  作者: ヒツジ
2/2

TV『今日は冬型の気圧配置が強まり、日本海側を中心に大雪になるおそれがあります。また、太平洋側の地域においても山間部を中心に積雪する恐れがあり、平野部含め路面の凍結等に注意が必要です』



あの日、生足ちゃんこと足立ひみのさんの秘密を知ってしまった昼休みから3日が過ぎた。


あれ以降、特に足立さんとは何もない。


屋上に行けば、彼女とは話すことが出来るのだろうけど勇気が出なかった。


どんな顔で話せばいいのか。


どうしても、スカートがめくれて見えたお尻が浮かんできて気まずい。


たまに足立さんと目が合うと、睨まれる。


『誰にも言ってないでしょうね?』


そういう目だった。



ただ…。


もっと足立さんのことが俺は知りたい。


あの日の昼休みで、よりその気持ちが強くなった。


昼休み。


今日も足立さんは教室にいない。


窓の外を見る。


雪が降っていた。


まだ積もってはいないけれど、このまま振り続けたら積もるかもしれない。


こんな日でも屋上にいるのかな?



ギギギ…



屋上のドアはやっぱり開いていた。


風はなかったけど、雪が深々と降っていた。


「あなた…何しに来たの?」


視線の先には足立さんがいた…裸足で。


「きれいだ…」


思わず、言ってしまう。


今の足立さんは、上履きを脱いで裸足でフェンスに寄りかかって焼きそばパンを食べていた。


雪の中と相まって、まるで絵のような光景だった。



「は??」



足立さんはこっちを睨むような視線で見ていた。


「あなた、言ってないでしょうね?」


「何を?」


とぼけてみた。


「見たでしょ…わ、私がノーパンなところ」


「言ってないよ」


「本当に?」


「言うわけないじゃん」


「もしあなたが誰かに言ってたら、噂されて私は学校に居づらくなるから…信じることにする」


良かった。


「ちょっと怖かった…一昨日は久しぶりにパンツ穿いた…すぐ保健室で脱いだけど」


じゃあ今は??


足立さんのことだから穿いてなさそう。


雪に濡れながら、焼きそばパンをかじる足立さん。


「寒くないの?」


「寒いよ。だけど、これがいい」


後ろ足で片足をフェンスに乗せたり、やめたり。


足立さんの脚は真っ白だけど、足の指や足の裏は雪と屋上の濡れた床の冷たさで赤くなっていた。


「足立さん、本当に裸足が好きなんだね」


「足立さんって言うの嫌。名字、あまり好きじゃない」


そうなんだ。


「じゃあなんて呼べばいい?。ひみのさん?ひーみん?」


「“ひみの”でいい」


呼び捨て!?


それじゃまるで恋人だ。


「ひーみんって何?ふざけてる?」


「スイマセン」


結局“ひみの”と呼ぶことになってしまった。




「くしゅん!」


ひみのがくしゃみをしている。


「やっぱり寒いんじゃん」


「寒いけど…くしゅん!」


「靴履こう?雪のなか裸足は風邪引くよ」


それにアレも穿いてないんじゃ、下半身はスカートだけだよな…。


「嫌だ!靴履きたくない!」


駄々をこねるひみの。


子供みたいだ。


「今は履きなさい」


「わかった…」


足の指を丸めていたひみのだったけど、渋々といった様子で素足をタオルで拭いて上履きに収める。


「校舎の中に戻らん?」


「もう少しここにいたい」


ひみのは壁を背に座ってしまう。


座るとき、スカートがめくれて中が見えそうになって、思わず目をそらしてしまう。



「……」



それに気づいているのか、いないのか。


校舎内外の声や、街の音が聴こえる。


お互いの吐く息は白く、雪の中ゆっくりと時間だけが過ぎていく。


…正直、寒すぎて中に入りたかった。


けど、この場所はひみのにとって特別な場所のよう。


「へっぷし!」


今度は俺がくしゃみをしてしまう。


「ふふっ。あなただけでも中に入ればいいのに、バカね」


バカと言われても。


「もうすぐ昼休みが終わるよ」


「そう」


ひみのは立ち上がって、肩や頭に積もった少しの雪をタオルで拭く。


「はい」


「え」


ひみのがタオルを渡してくる。


「肩とか濡れてるから使って」


ひみの…嬉しいんだけど、さっきそのタオルで足も拭いてなかった??


そう思いつつも、少し湿ったタオルを拝借して拭く。



キーンコーンカーンコーン…



チャイムが鳴る。


5時限目はすぐ側まで来ていた。


―――――


5時限目。


さっき、ひみのと一緒に教室に戻ったせいで友人にニヤつかれてしまった。


俺もひみのも濡れてたしな。


「お前、“生足ちゃん”と何かあった?」


「なんもねーよ」


ひみのもクラスメイトに『足立さん濡れてるよ?大丈夫??』と声をかけられていた。



授業中。


ふと、ひみのを見てみる。


上履きは“まだ”履いていた。


15分経って。



かぽっ。




ひみのは上履きを脱ぐ。


現れた、何も身につけていない素足。


その素足を、脱いだ上履きの上や机の脚に置いたり、素足同士で組んだり絡ませている。


真面目に、静かにノートを書いているひみの。


それとは対照的に、足元は真っ白な生足を大胆に晒していた。


その白い素足を授業中に晒しているのは、もちろんひみのだけ。


だけど、それを見ても誰も驚かない。


いつものことだから。


彼女が“生足ちゃん”だから。


入学してから毎日、その姿を見ているから。


ひみのは“生足ちゃん”の地位を確立していた。


笑われているわけじゃなくて。


“そういう子なんだ”と受け入れられている。


その証拠に、去年の夏…ひみのに影響されてか素足で登校するクラスメイトが数人現れた。


「足立さん、すごく涼しそうじゃん?ウチ、こんなクソ暑いのになんで靴下穿いてるんだろーって思ってさ♪」


夏の間だけとはいえ、少しだけ素足がクラスで流行ったこともあった。


俺は、夏が終わっても生足·素足を続けるひみのに惹かれた。


正直、その姿を『エロい』と思った。


靴下を穿いていないだけなのに、なぜだかわからない。


…まさかパンツまで穿いてないとは思わなかったけど。



数学の授業中、数人が答えを板書することになって。


ひみのは始め、裸足のまま黒板に向かおうとしてしまう。


「あ…」


裸足なことに気づいて上履きを履いて黒板に書きに行く。


「んっ……」


ひみののスカートは短い。


黒板の上の方から書くとき、後ろからお尻が見えてしまうんじゃないかとヒヤヒヤした。


「ふぅ……」


書き終わり机に戻ってから、しばらくしてやっぱり上履きを脱ぐ。


無表情で行うその仕草が、とてもかわいい。


結局、それから授業が終わるまで、ひみのが上履きを履くことはなかった。


俺はその姿をいつものように、さりげなく見つめていた―――。



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