脱皮
彼は小さな頃から、人一倍正義感に溢れた人だった。
──やめなよ。人を殴っちゃ、いけないんだよ。
──いじめなんてやめて。かわいそうだろ。
──何してんだお前。そんなこと俺が許さねえからな。
──人の迷惑考えてないのかな。あんなやつはいつか痛い目見るぞ。
──まったく迷惑な野郎だな。いつか痛い目見ればいいのに。
──罪を犯すやつは腐ってる。いっぺん叩かなきゃ気が済まねえ。
──そんな犯罪者はさっさと捕まえろ。反吐が出る。
──死刑でいいだろ死刑で。擁護する必要ないだろ。犯罪者だぞ。
──○○は死ね!あんな奴はこの世に居ない方がいい!
人の為に振るっていた剣はいつしか凶器になっていて。
掲げていた“正義”はいつしか身を守る盾になっていて。
使い古した正義の皮を脱ぎ捨てる。
確かな悪意が、そこにはあった。