危機と救い
私達をとりかこんだ男たちは口元を緩ませながら徐々に距離をつめてくる
「あー オネイサン達 これから遊びに行かない? お金は全部払うからさ 暇なんでしょ あそぼうよ」
「なにこれ かわいいぬいぐるみつけてるよね なになに どこでとったの クレーンゲーム? 」
「どこの学校 これ制服だよね? 」
男は目についたものすべての情報を使って私達の会話の取っ掛かりになるものを探査する
「あ 私達これから行くところありますんで」
普段の会話の中ではナンパ男などは回し蹴りだ などと豪気な事も言ってみせる美里であったが実際の現場では余裕はなさそうだ
美里は怯えとパニックで完全に固まってしまっている
私は美里の腕を引き右へ2,3歩よけ前へ出るが男たちは先に回り込む形で通路を塞ぐ
私達を逃がす気はないらしい
そして一人の男が私の腕を掴む
「大丈夫 大丈夫 遊びに行くよね 楽しいよね」
「やめてください 大丈夫じゃありません」
「大丈夫 まじ楽しいんだから大丈夫 あはは」
私は腕を振り払おうとするが男は何も聞かず私と美里を道の脇に停めてあるバン型の車のほうへ連れて行こうとしているようだ
「お前はこっちだよ」
私と美里は力ずくで引き剥がされる
美里は私の方を懇願するような眼差しでみているが恐怖で力が入らないのかだまったまま連れさられていこうとしていた
「マヨネーズ」
異世界から帰って来たばかりの私は魔法を行使すべく声を上げるが現実世界で魔法が発動するわけもなかった
「え なになに マヨネーズプレイが好きなの いいねえ わるくないね あはは」
(だれか たすけて)
「おい おめえら 俺のいねえところで何楽しいことやっちゃんてんの? そいつら今から俺のものな」
「なんだ てめえ って ア アストさんじゃないっすか どど どうして今日はこんなところに」
輩のリーダーと思われる男は急に逃げ惑うネズミのような雰囲気を発しだす
私は唐突にうしろから現れたその男の様子に唖然とした
(ア アスモ)
「ああん 俺がここ通っちゃ だめなのかよ」
アストと呼ばれる男は輩のリーダーににらみをきかせる
「あ いえ そういうつもりじゃ おい お前ら今日は帰るぞ アストさん この女達は置いていきますんでこれからもひいきにしてやってくださいね えへへ お前ら帰るぞ 早くしろ」
男は私達から手を離し路上に止めてあったバンに乗り込み逃げるようにどこかへ行ってしまった
「ジャジャーン 呼ばれてないけど来ました アストでーす 大丈夫? ねぇ 大丈夫? 遊び行く? あはは」
(ああ 間違いない この人やっぱりアスモの生まれ変わりだ チャラい チャラいぞー)
「アスモ・・・・・・ 」
私がおもわず口に出してしまった言葉にアストは動きを止める
「アスモって何だよ 気持ちわりいよ アスト 俺の名前はアスト」
そういって私を見つめたアストの目から涙が流れる
「あれ なんだ 俺泣いてるのか? ゴミでもはいっちゃったのかな あれ あれ」
それを見た私も涙をながす
きっと 魂が泣いているのだ アストは何もわかってはいないのだろう
抱きしめたい 私はそんな衝動を抑えながらじっとアストの顔を見つめた
「ちょっと 待て だめだ 遊びにいくどころじゃねえ 涙が止まらなくなった あれだ きっとアレルギーだ ちょっと薬買うからお前らついてこいよ」
「美里 多分大丈夫 この人は大丈夫よ」
いまだ固まっている美里に私はそっと耳打ちした
美里はいまだ恐怖が抜けきらないのか怯えた表情のままコクンとうなずき私の手をとった