抜け殻
そこにはベッドに横たわりくくりつけられた小さなアスモの姿があった
「ひどい」
私はベッドに駆け寄りアスモに寄りかかろうと一歩踏み出した
「オッオオオ グガァ アアアアア」
「アスモ アスモ どうして」
アスモはまるで屍のような感情のない顔をしていたが黒い涙を流しながらくくりつけられたベッドでもがいていた
「アスモ 今助けるね」
私は苦しそうに見えるアスモの拘束を解いてあげたかった
アスモの体を滅っそうとしているアガレスちゃんから逃してあげたかった
そして拘束用のベルトに手をかけた時テントの入口が開いた
「らみ 拘束を解いては危険で駄目なのです 」
「アガレスちゃんお願いだからアスモを殺さないで」
私は拘束されたままのアスモに倒れかかり泣きながらアガレスちゃんに懇願する
「それは 無理でできないのです らみ 何も言わずこのテントから退去して出ていってほしいのです」
私はアガレスちゃんの言うことも聞けないほど狼狽しアスモの拘束具をはずそうとしていた
「らみ ごめん なのです これは魔王の職務で仕事なのです らみ ごめん ね」
アガレスちゃんはそう言って涙を流し私の方へ手のひらを向けると短く魔法を詠唱した
その瞬間私の体にショックが駆け抜け眼の前が真っ暗になった
私は今サキュバスの街の東に位置しているという砂漠の中にある赤顔族の村にいる
魔気の根源のベースキャンプの出来事のあとアガレスちゃんとアスモは私達をベースキャンプにのこしたままいなくなってしまった
残された私達は帰路につき私とナバは丘の家で暮らすことになっていた
不安の中生活の準備を始めようとしていたそんな時アガレスちゃんの従魔が手紙を咥えてやってきた
「らみ アガレスちゃんから手紙だでぇ」
ナバが持ってきた封筒を受け取った私の手が悪い予感で震えだした
私はゆっくりとその封筒を開いたあとそのままその封筒を胸に抱きその場に座り込んだ
そして 空を見上げながら大声で泣いた
封筒に入っていたのはアスモが魔王時代からつけていたブレスレッドであった
私は涙が枯れるかと思うほど泣いた ずっと泣いた 朝も昼も夜も
そして数日が経ち私はアスモとの思い出がつまったこの家と土地を少し離れることにした
「ナバ ここ 好きに使ったらいいからね」
私は旅の支度をしながらナバに伝えた
「らみ うちもいっしょにいくけぇ ひとりでおったらいけん うちがいっしょにおったげるけぇ」
ナバはここ最近の私の行動を見ていて私と共に旅に出ることを決めたらしい
「ナバ ありがとう」
私は素直にナバに感謝し共にたびに出ることを決意した
「らみぃ それでどこいくだぁ 」
「どこ行こうかな はは」
アスモがいなくなってしまった今もうこの世界で起こることの全ては色あせてしまったような感覚だ
私は力なく笑顔を作った
「ナバ 行きたいところある? 」
私がそう聞くとナバは不思議な言い伝えと美しい滝があるという赤顔族の村へ行こうと言い出したのだった
ナバがタマちゃんから聞いたという村の言い伝えを聞いた
昔々赤顔族の村に2人の中慎ましい夫婦がいたそうだ
いつものように夫は触鬼を狩りにでかけたがその日ドラゴンによって殺されてしまった
いつまでも帰って来ない夫を心配していた矢先嫁の夢枕に賢者がたち赤顔族の村の滝へゆき滝に打たれよと示されたそうだ
半信半疑であった嫁もいてもたってもいられなくなりついに滝に打たれることを決意した
無心で滝に打たれていたところその滝のほとりに女神が現れ死んだはずの夫を連れてきた
というようなことらしい
風穴が空いたような私の心にはこんな嘘のような話でもすがりたくなる
「ナバ 行こっか」
私は精一杯の空元気でナバに声をかけたのだった