帰路
「このあたりも 凶暴な触鬼がいなくなってずいぶんと通りやすくなったもんだ」
私を御者台へアスモとナバを荷台にのせ一般の竜車よりゆっくりとしたペースで進むおじさんの竜車
あたりは暗くなりはじめ精霊たちがチラホラと飛び始めている
おじさんの竜車はキッチン王国との中間地点近くである森の温泉の近くまで移動していた
ガタン
「きゃあ」
突然乗っている竜車の荷台が右に傾いた
ゆっくりと止まる竜車
「ありゃあ 車輪の軸受折れちまってる なんてこった ああ こりゃこまったな」
おじさんは苦虫を噛み潰したような顔をしながら車輪の脇にたち腕を組んでいる
「嬢ちゃん 悪いが近くの温泉街に行って誰か呼んできてくれないか」
出会ってからいつでも威勢のよかったおじさんが悲壮感漂う小さな声で私にお願いしている様はこちらも心苦しい
「あ すぐ行ってきます ナバ アスモ 行こ」
私はアスモとナバをつれて助っ人探しに温泉街へと入った
「えっと 確かこの旅館がサキ・ホテルアンドリゾーツ所有だったね」
私はアスモの記憶に変化がないかアスモの顔を伺いながら足を進めたがアスモは始めてきたところのようにまわりをキョロキョロとみまわしていた
私は悲しくなりながらも旅館のフロントに立ち寄った
「いらっしゃいませ」
旅館のフロントで店員さんがにこやかに笑っている
「こんにちは 私はらみといいます こちらのオーナーのサキさんに連絡をしたいのですが」
私がそう言うと店員さんは少しの怯えと不信感を持った様子で笑顔を固くしながら私に切り替えした
「え どういったご要件でしょう」
私は不審がる店員の対応に少しだけ苛つきながら移動中の竜車が故障で困っていることを伝えた
店員は旅館のクレームではないことに安心してかしぶしぶと本社の秘書課へと従魔を飛ばした
しばらくロビーで待っていると旅館の従魔は帰ってきたらしくパタパタと女将らしい人と店員が駆けてきた
「大変 失礼い いたしました ひとまずこれをおつけください」
女将らしい人は旅館の金庫に大切にしまってあったであろう魔力レシーバのペンダントを私に渡してきた
使い方のわかる私はそれを首にかける
「あ もしもし」
「ラミ ラミなのね はぁ 大丈夫? いろいろ 聞きたいの とにかく ねぇ」
サキさんはひどく動揺しているようだった
私が簡単に今の状況を説明するとサキさんはいつもの落ち着いた感じに戻りセクシーな声でゆっくりと話す
「ラミ だいたい わかったわ そのまま その竜車の所に イッて ねぇ 私も すぐ いくわ あはん ねぇ」
私達が竜車の場所に戻るとおじさんは竜車の傍らに疲れた感じでへたりこんでいた
自分でなんとかしようと必死でいろいろやってみたのであろうことは疲労困憊のおじさんの様子を見れば一目瞭然だ
「おじさーん」
私が手を振るとおじさんは力なく右手をあげて私に答えた
「ラミ様 竜車の御者様に竜車証を出してもらうように言ってもらえますでしょうか」
魔力レシーバからはサキさんの専属専門の竜車エンジニアがサキさんにかわり私に指示をだしてくれている
サキさんはその間にこちらに来る段取りをするということだった
おじさんはサキさんの竜車エンジニアに言われた通りに御者席の下に置いてあった竜車証を取り出し松明で照らしながら番号やら竜の種族やらを私に伝え私は言われるがままそれを竜車エンジニアに伝えた
手続きも一通り終わり夜もふけ疲れ果てていた私達はサキさんの旅館にはいかずおじさんの竜車の中で仮眠をとることにした
おじさんは竜車の御者台で横になっているようだ
私が目覚めると外はしらみ始めていた
「ふぁぁああ」
私は朝の冷たい空気をすいながらあくびをしていた
緊張感のあまりない私に巨大な黒い影が頭上をおおう
「きゃあああああ」