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怠惰

「らみ おやつ持って来たわよ」


 ココの箱庭の中央に置いた光にあらわれたのはお母さんだ

 よく考えれば分かったことなのだが母が近年私におやつを運んできたことなどない

 私はいわれるがままいつもの自分の部屋でおやつをつまみながらテレビやゲームを楽しんでいた

 そして繰り返される怠惰な生活

 箱庭の中では時間の概念をも操ることができるのか私の生活は早いスピードで過ぎていった

 怠惰という名前のいごごちの良い空間、気がつけば私はまた箱の中に精神を囚われてしまっていた


「らみ 開けてぇなぁ ここ 開けてぇなぁ」


 誰かが私の部屋のドアをたたく

 私はドアを開けることすらめんどくさくなっていた


「ちょっと まってて」


 そういったまま寝そべったまま動かずまた自分の世界へと入り込んだ


 ドンドンとドアをノックする音が激しくなる


「らみ 開けてぇなぁ ここ 開けてぇなぁ」


「うるさい」


 私はついに怒りを表へだす


 箱の外ではナバとアスモが心配そうに箱の中を覗き込んでいる

 今回のココのお題である怠惰ではナバが最初に箱の外へと精神の脱出を果たすことができたらしい

 ナバはこちらの世界では怠惰とは無縁の生活をたんたんと送っていた

 習慣である普通の暮らしのサイクルに怠惰が入り込む余地はなかったのだろう

 ナバは怠惰に囚われかけていた純粋なアスモを説得して箱庭から連れ出しその後私のところへ来たようだ


「らみねえちゃん あけて」


 私はアスモの声を聞いてハッとした

 しかしまだ私は甘い怠惰から抜け出せはしなかった

 徐々に淀んでゆく感覚に勝てないのだ


「らみねえちゃん らみねえちゃん 開けて ここあけて」


 アスモが必死で叫んでいる私はなんとかけだるい腕を寝転んだ格好のままドアに伸ばす

 どうして寝転んだまま腕を伸ばすことができたのか?


 やっとの思いで開けることのできた扉は外からの光を一斉に吸い込みその光に照らされた私の精神は箱の外へと導かれた

 そこでようやく私は箱の中の自分の姿を見ることとなった


「ひどい」


 箱の中の私の人形は人の姿はおろか個体ですらなくドロドロとした液状の生物であり時折中から腐食したガスがボコボコと吹き出している醜悪なモンスターと化していた


「一体 どうすれば」


 私はココにすがるような眼差しで助けを求めた


「らみ 最初にいったはずでしょん 箱庭はあなたの精神の有り様で人形にかたちを持たせているのん らみ 考えてん 思い出してん あなたは本当はどんな人になりたかったのん どんな格好をしている人がすきなのん あなたのあるべき姿はどんななのん」


 ココは私をまっすぐ見つめた

(私は 私はいったいどんな人になりたかったんだろう 確かに箱の中にいる生物は私がなりたかったもの目ざしているものではない)

(そう私は子供の頃見たアニメの主人公のように明るくそして毅然とした人間になりたかったはずだ そうだ あのキャラクターのように美しい騎士になりたかったのだ)


 そして私は箱の中の人形に戻り自分の理想を思い描いた


 醜悪な生き物は徐々に人のかたちへと変化している そして私の人形は想像どうりの姿となった

 そして腰に備えた長剣で薄暗い部屋を一閃すると自分の部屋は崩壊し元のなにもない箱庭の空間へと戻ったのだった


 ココがパチンと手を叩くと箱庭からすべての精神が自分たちに戻ってきた


「はいん おつかれさまん らみ 最後はすごく美しかったわん その精神の有り様をしっかり持っていれば空間の移動の際にあなた自身が壊れてしまうことはないとおもうわん」


 ココは話しながらゆっくりと箱庭の中の人形たちを片付け祭壇の方へ持っていった


「さあ じゃあん あなた達をあなた達がやってきた世界へと帰しましょうん こっち 来てん」


 ココは私達を祭壇のほうへ案内した


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