触洗発動
特設された舞台の袖から会場を見ると何万とも思える職鬼たちが地平線まで所狭しとひしめき合っていた
声も出さず さわがず ただ集まっている職鬼たちの様子は異様だ
私は息を飲み舞台へと足を踏み出す
「あー」
試しに声をだしてみたが会場の端には到底声は届かないだろう
「らみ それを使用して使うのです」
舞台の袖からアガレスちゃんが魔王の杖を指差しマイクを持つ真似をする
(ははは この杖 マイクなの?)
私は杖を口の前にもってきて声を出してみる
「あー」
「アー・アー・アー・・・」
杖はほのかな光を声に合わせ放ったかと思うと空から自分の声がエコーのように降ってくる
「すごーい」
「スゴーイ・スゴーイ・スゴーイ・・・」
しまった思わず声を出してしまった私は赤くなりながら咳払いでごまかした
触鬼たちは無関心のようだ
緊張感で足がガクガク震える
「らみ 大丈夫ミュー みゅーがそばにいるミュー 落ち着いて息をするミュー」
肩に乗っているみゅーが私を落ち着かせる
大きな深呼吸をしたあと神の加護触洗を発動する
「みんな もとに戻って! 触洗!」
杖は私の声を増幅しはるか遠くにいる触鬼たちにまで神の加護を届けた
天から降り注ぐやわらかい光 そして頭上にはゴッドミカエルちゃんのセクシーなシルエットが浮かび上がった
「らーみー サービスよー」
天からミカエルちゃんの声がする なんだか壮大なエフェクトだがどうやら犯人は残念女神ミカエルちゃんのようだ
そして触鬼たちは一点から放射状に元の姿へと戻っていく。その光景はまるで水に落としたインクのようだ
元の姿に戻った駐竜車場の触鬼たちは飛び立つものや走り回って仲間に激突するものなど大騒ぎになっていたがそれもしばらくするとおさまった
「らみ お疲れ様でありがとうなのです これでこの世界の均等のバランスは徐々に良くなってくるとおもうのです」
アガレスちゃんは舞台袖から触鬼がまばらになった会場を見下ろしながら私に語りかけた
私は一気に力が抜けふぅと一息ついてしゃがみこんだ
「あらぁ らみ おつかれさま 大丈夫? 今日は川の温泉でゆっくりやすむのですわよ」
ナベちゃんは優しく声をかけてくれがっくりうなだれている私の手をとってくれたのだった