戦略的攻防
私はトゥルーネームを使いブースの中にいる商人を眺める
喋り方は明らかな触鬼訛りであったがトゥルーネームの情報では確かに猫人族と三眼族となっている
「タマちゃんと アルミみゅー」
私の髪に隠れていたみゅーが私にこっそりと耳打ちした
(ああ この人たちがタマさんとアルミさんかぁ アガレスちゃんが密偵を頼んでるって言ってたよね)
「オキャクサン ヒヤカシニャラ カエッテクレ」
「カエッテクレイ カエッテクレ」
2人が同時にそういうとナベちゃんとサキさんはちらっと目線を送りあう
「らみ いきますわよ」
もちろん私も気づいていない感じで歩き出す
「皆さん こちらですっス 」
会場中央付近まで来た私達はビルドによってドームの形をしたひときわ大きなブースの中に案内された
「こんにちわ サキ様 早速ですが商談を始めようと思うのですが その前におすすめしておきたいことがございます」
ビルドが受付を済ませると髪の長い美しい女性が私達の対応に出てきた もちろん触鬼だ
「私達は長年取引を通じお互いの信頼関係を築いてきたとおもっております そこで今回サキ様に特別な契約を用意させていただきました 年間1000ゴールド以上を3年間使っていただくことを条件にどの商品も30%割引させていただきます。ただこの契約は3年自動更新で契約月以外解約できません。途中解約の場合50000ゴールドの違約金が発生いたしますのでご注意ください。まぁサキさんの取引量を考えれば年間1000ゴールドは問題になりませんし仮に解約したくなりましたら契約月であれば違約金もかかりませんのでご安心ください そして今回のこの契約は無料で登録することができますので是非この機会にご登録ください」
(うわ これって...)
触鬼たちはスペランクの一件以来私達の行動をシュミレーションし契約で取引の継続をもって行動を縛ろうとしているのだろう
「少し 考えさせて いただくわ ねぇ」
サキさんは唇に指をふれながら自然に受け流す
「そ っそれでは 契約はまたの機会にお願いいたします 」
触鬼は用意した契約によほど自信があったのか少しのいらだちと焦りでおもわずうわずった声を出したのを私達は見逃さなかった
「少し失礼いたします」
席をたちブースの奥側に配置された倉庫から出てきた触鬼は両手になにかをかかえて出てきた
「今回用意いたしましたのはこちら 腕装着型魔法砲でございます どんな魔法であれこちらに装填するとオート追尾機能により一度ロックした相手がどこにいようと追尾し魔法を付与できる代物です 昔 一世代前の勇者が魔王討伐に際し特別に自分のスキルでこの中に機能を入れ込んだと伝えられております いかがでしょう 保証は別契約で3年保証をつけることができます」
「30もらうわ ねぇ 保証はもちろんつけるわ ねぇ」
サキさんは即買いでこの商談をまとめる
「サキ様はうちの薬部門でのお取引もございますがよろしければこちらの武器部門の請求書と薬部門の請求書一緒になさいませんか?
請求が一枚になりますので見やすいですよ」
(うわ これって)
請求をひとつにすることでさっきの武器の3年保証にからませて3年間は薬部門からの撤退を許さないしばりだ
「それは いらないわ ねぇ ふふっ」
さすがは百戦錬磨のサキさんだ自分の得になる部分だけを手際よく選ぶ しかし触鬼もいろいろな策を練るものだ
サキさんに後で聞いた話なのだがこの腕装着型魔法砲はもともと私のお父さんがつくったもので大量にギルドの武器部門に納品していたらしい なぜ触鬼がいまこの武器を持っているかを考えれば王国のギルドの上層部が触鬼とつながっていると考えるのが妥当であろう
しかし 触鬼はなぜ自分たちの同族を殺す道具を売って平気なのだろう きっと触鬼の世界は横のつながりはなく縦の主従の関係以外はないのであろう そしてそれならばトップを倒せばこの侵略はおわるのかもしれない そんな考えが頭によぎったのだった