コタツみかん大作戦/正月特別<番外-前編>
すいません、大幅に遅くなりました。時期も時期ですので、目先を変えて番外編からリリースします。正月かクリスマス特別編は、創作を毎年貫徹したかったのでお送り致します。是非とも、お楽しみになってください。
「ジ〜〜ル〜〜〜………、、、レカも、、、はぁはぁ、何処へ行くの?待って、息が切れちゃう、、、」「その呼び方は止めてって…。さっき、盗賊を見た。早く!貴族の乗った馬が襲われている。」そう簡潔に答えると、ジルマリク・サブロンは足にいっそうの力を入れ斜面を転がる様に、小高い丘の下を走る湾曲したモンティニー街道へと急ぐ。その後を、愛犬レカとポーリーヌが続く。
時は王国暦614年。収穫を祝う秋祭りが過ぎて、このフォンテーヌ・ベルオーの地に本格的な秋風が忍び込む季節。マリクと幼馴染のポーリーヌは、見晴らしの良い丘に上がって昼食を楽しもうとした矢先の出来事だった。モンティニーとは『標高の高い土地(ロマンス諸語でmontani)』を意味する言葉であるが、そこをグルリと迂回する様に設けられたのがこの街道であった。
救命公ルネ=ジャスランの戦勝を祝う為に訪れたメノルカ宰相マヌエル・エ・ドゴイは、戦勝地であるこの地に降り立った時に、岩が所々突き出て低木森林の丘が連なる土地を指して"人の居ない寂しい岩山"と評す。そんな人も疎らな荒地を、ロレッタ家代々の当主はサラザードから南に馬車で半日前後という気軽さも手伝って軍事演習を兼ねた巻狩りの場にしている。
フォンテーヌの森と呼ばれる事も有るが、単にフォンテーヌ・ベルオーと呼ばれる事も多い。昔は、小さな狩猟小屋が置かれていただけなのだが、巻狩りは大掛かりな物であり、次第に貴族の宿泊施設やら中央山脈を望む地に山の神モンテグレを祀る祠が出来てくる。
山を表す言葉"モン"と、峻険さの象徴"虎"が混ざってモンテグレとの呼び方が定着した。因みに山神の化身は"熊"であり、北ヨーロッパにティーグルは存在しない。地中海世界の影響であろう。
「こっちー!こっちだよ!!こっちを抜けると、フォンテーヌ宮があるから!」そう、この先の丘を抜けて暫く行くと、かつての質素な狩猟小屋が今や金銀ガラスのはめ込まれた豪壮な宮殿へと変わっていた。
「ちょ、止めなさいよ。盗賊がこっちに来ちゃう……。」マリクを追っていたポーリーヌは、走って息苦しいのと盗賊に対する怖さから半泣きでマリクを制止するが、「バカ!貴族様がお金を落としてくれるから生活が出来ているのに、見過ごして寝覚めの悪い事は出来ないよ。」
遥か先頭を行く白馬の馬上から、その子はニヤっと唇を笑みの形に歪めると"ありがとう"の言葉と共に誘導された方向へ手綱を引いて、馬蹄の音も高らかに走り去っていく。マリクはその後ろ姿を呆然と見詰めながら、「なぁ……ポーレット(=愛称)、アレって凄く変わった乗り方だよな………。」
貴族が感謝するのも驚いたが、その乗馬姿勢にも驚きは隠せなかった。それは、モンキー・ライドと呼ばれる物で、鐙の革紐を短くして鞍の上に中腰スタイルでニーグリップをする不安定な姿勢だ。
「馬の負担は少なそうだけど、道化の曲乗りみたいだなぁ……。」と、マリクは独り言を呟く。羽根の様な軽やかさで、岩が突き出たり、下生えや低木が枝を張る狭い間道の障害物を、ヒラリヒラリと躱しながら人馬一体の白い影は森の奥に消えていった。
ポーリーヌは涙目でマリクを揺さぶると、「お願いだから正気に戻って、早く隠れるよ!!」と巻くし立てた。2人と1匹は、近くの草むらに素早く身を潜めて盗賊達の様子を伺えば、暫くして30人ばかりの剣呑な人相をした集団がモンティニー街道をそのまま真っ直ぐに進んでいく。
「よし!盗賊に気付かれない内に、ボク等も宮殿の方に向かうよ…。」ポーリーヌの顔を見ながら腕を掴んだマリクは、フォンテーヌ宮に向かって駆け出した………。
ヴニュ・レ・サブロンは、2千人弱の小さな町だが一応町と言える体裁を最低限満たしていた。モン・ビヨンヌ川を挟んで対岸に、ワイン処で有名なシャンパルニュ・シュル・ビヨンヌがあって、そちらの方が人口が多い。寂れていたこの町は、隣り町のモンティニー・シュル・ロワンと丘を挟んで街道で結ばれている。
フォンテーヌの一帯は広く、巻狩りをするのに街道の他に獣道に近い間道が幾つかある。巻狩りの勢子の収入と狩場・道の整備などと共に、獲物を挟んでの宴が行われてお酒など社交関連の産業も周辺住民を養っていた。そうでなければ、この荒れた大地にロクな収穫物は見込めず、季節の限られた木の実、草の実を出荷したとしても糊口をしのぐには足りない。
そうした状況が一変し始めたのは2年前からで、先ず勢子の日当が倍に増やされた。更に、スラムから人が戻り街道整備が進んで、通関・通行税関連が撤廃された為に商人の行き来が激しく領内の景気はウナギ登り!スラム住人の中には故郷を追われた三男以下の農家出身者も居て、良民も故郷で働き口がある事を喜んで仕事に精を出した。
お陰でサブロンは人口が増えて、隣接した地域にトムリ、マメスの様な集落が出来始める。都市部はスラムを縮小して治安は良くなるし、田舎町の人口増加に比例して税収も上がり、殖産興業で地元は栄えてウィンウィンである。
死者が出て悲しんでいる家庭に理不尽な死亡税も取り止められたし、子沢山農家にとって何よりも嬉しいのは人頭税の廃止だった。住民登録を渋って、保護を受けられ無くなる人が減ったのだ。景気が良くなって、この辺り一帯の町もマリク達の家族もホクホクだった。
"噂によれば、当代公爵様のご英断と、公爵正妃様のお知恵に寄るそうで、2人の仲睦まじさが窺える。それに、お2人の最初のお嬢様が聖女・神童と讃えたれる程に賢くて、サツマイモに荒地に強いジャガイモやトマトの食べ方から教示して広めているそうだ"
マリクは俄に信じ難かったが、商人が広める歌を聞くと、誰が発案者であっても領主夫妻が民衆の事を本気で大切にしようとしているのは理解できた。この新しい風は、自分達平民の心を暖めて心地よい。恩義を感じるマリクからすれば、他の貴族は知らないが領主夫妻にだけは敬意を払うつもりだ。
フォンテーヌ周辺で揉め事を起こされて、領主に迷惑がかかるのは我慢が出来なかった。12歳になるマリクは、レカと一緒に勢子もしていたので、この辺りの間道は熟知していた。
相棒のレカは、近所で仔犬が産まれた時に6匹兄妹内で1番体の小さな白い仔犬が可愛くて、病弱だったら大変だと反対する両親を押し切り、レカと名付けて家族に迎え入れた。犬種はポルスレーヌで、垂れ耳・鞭尾が特徴のビーグル犬に似た中型犬だ。
…
………
………………
【しばし時は戻る……】
俺の心は男だが体は女の子なんで、記憶の性と体が一致しなくて戸惑う事もシバシバだ。単純に生まれ替わりというやつで、神様も前世の記憶をキレイサッパリと消しといてくれたらと思ったり思わなかったり……。何やら、今世の父の親馬鹿で、公爵正嫡子を押し付けられて3年半になる。
今は、満6歳と半年を過ぎた辺り。世間は燦々と輝く太陽を懐かしく思い、涼やかな北風が襟首を撫でるころ。厨房の石釜で、ジックリ焼いてネットリとしたスゥーイトポテトの甘い香りが、鼻腔をくすぐって心地良い。我ながら、詩人だなw
"生まれ替わったら、少しは良い所に産まれて楽がしたい・・・" と思わないでも無かったのだが、まさかの女の子で付いてくるべき物が付いて無いわ、異世界だわ、中世で不便だわ、お姫様で母実家の都合で面倒臭い立場に立つとは思わなかった。
そんな、日常の一服の清涼剤と言えば食べる事。取り分け、甘い物に目が無い。前世と同じロールプレイとは、口が裂けても言うまい。これから寒くなるに連れ、コタツとミカンを懐かしく思いだす。前世では男だったので、甘い物は疲れた時に欲しくなる程度だった。今みたいに、毎日お菓子を食べる訳では無い。
所が、生まれ替わった先が女の子というのもあり、脳を酷使してブドウ糖が欲しいのも、この体の頭が優秀なのか燃費が悪いのも有って、更に食べる事に執着している食いしん坊バンザイさん。ん!?、誰だザンネンさんと呼ぶのは!
コホン………という訳で、冬の定番のコタツみかんにレッツラゴー!"今日び、聞かねぇw"コタツは、家具屋に図面を渡して頼めば何とかなりそうなので、先にミカンから片付けようと思う。
前世でのミカン類の原産地は、約3000万年前のインド、タイ、ミャンマー辺りとされている。 日本でも柑橘類の歴史は古く、『日本書紀』や『魏志倭人伝』にも古くからの果物として橘が登場していた。三国志で有名な群雄"袁術"が、僅か6歳の"陸績"を招いた席にミカンが出てくる。
陸績が席を立とうと袁術に暇の礼をした拍子に、袖からこぼれ落ちたミカンを見られて、"泥棒の真似は良くない"と窘められた。「こんなに美味しいミカンは食べたことがなかったので、母上に食べさせたかったのです。」と、陸績は恐縮して話す。袁術は感心して、その場にいた人々と共に幼い陸績の孝行心を褒め称えたという。
紀元前からアジア近辺には広く伝わっていたんだけど、ヨーロッパに入って来たのは意外と新しい。地中海マンダリンとして広まった内から、地元柑橘類と交雑しながらタンジェリン、クレマンティーヌ、クレメンティンなどなど、様々な種類が19世紀辺りで交配により出来る。
名前の由来は、マンダリンが16世紀に勃興した清朝の官服の色で、タンジェリンがタンジール人(=モロッコ)から、クレマンティーヌもクレメンティンも発見者の名前から取られた。クレマンティーヌがフランス原産の苦味が有って酸っぱいオレンジとの交配なのに対して、クレメンティンはスゥートオレンジと交配されて見た目は小ぶりだが甘くて温州ミカンに近い。
やっぱり気温の所為か、北ヨーロッパでは甘いミカンはハウス栽培でもない限り育たないみたい。この時代の流通は、船に揺られ馬車のガタゴトに痛め付けられ、普通の荷物は雑な扱いを受けるから皮の硬いオレンジなら良いけど皮の薄いミカンは輸入には向かないのかな。北でこそ、温かなコタツに入ってミカンをムキムキする楽しみが欲しいのにね。
て、部屋の中で腐っていてもしゃーない。取り敢えず、北アイテシア原産のオレンジでも眺めに洒落込みましょうかねとは思った物の、ここで一つ問題がある。そう、父ちゃんだ。ちょっと自由市視察で揉めた位で、熊の母親みたいに過敏になってゴザル。
深窓の令嬢でもあるまいに、とにかく領館に閉じ込めて置こうとする。抜け出すと追っ手を巻くのも却って面倒だし、人を大量投入されても困る。執事のバローロを呼んで、早速、父ちゃんとの渡りを付けて貰う事にした。
「お父様、ご機嫌麗しゅう。」「カレンも元気そうだ。で、何事だね。」朝の挨拶と政務以外で、執務室か自室に籠る事の多くなった最近の俺は、久しぶりに自分から父ちゃんを訪ねて行った物で意図を測りかねてツッケンドンな対応になったらしい。
眉を八の字にして、少し拗ねた表情をする。そうして置いて仔猫が亡くなった時とか、悲しい出来事を思い浮かべた。直ぐに眦から涙が溢れ出し、口惜しげな表情で父ちゃんを詰る。
「お父様は、私の事を可愛いと思って下さらないのですね………。」滅多に泣かない俺が涙を零す物だから、周りはアタフタとし始める。特に、標的にされた父ちゃんの動揺はシッカリと態度に出ていた。
「な、、、なな、何を……、」"バカな事を言う"と言いかけて、「あなた、落ち着きましょう。」傍らの母ちゃんが落ち着く様に背中を摩って宥める。
「だって……、"可愛い子には旅をさせろ"と云われますのに、お父様は私をお外に出してくれませんのでしょう?……ううぅぅぅ〜……。」よよよ…と、ばかりに父ちゃんの前で嘆いて見せた。
俺が、この女性特有の機能に気が付いたのは、アドリアン達を子分にした時だ。流した涙はもちのロンロン嘘ではないのだが、悲しい事を思い浮かべるだけで後から後から涙が溢れて止まらなくなる。女の嘘泣きは知ってはいたのだが、いざ自分が女の子になってみると、"思うだけで" 涙線がコントロール出来るのには驚く。
少々あざといが、まあ自由になる為だ背に腹は変えられない。「それでカレンは、何処かに出かけたいの?」嘆いた顔を銀の扇子で隠して居たのだが、さすがに女に女の涙は通用しないか?"しくしく………、しくしく………" 「オレンジを見に、サラザードの外へ………。」「ちょっと待った!何だって、そんな所へ行きたいのか?」「あなた、カレンだって何時までも子供では無いのですから……。」
母ちゃんが、慌てて父ちゃんの手綱を握り直す。その後、「いいや、まだ子供だ!」「閉じ込めて置けば、いつまでも子供のままです。」と、父ちゃん母ちゃんの間で口喧嘩になり、もちろん夫婦喧嘩ならボンボンの父ちゃんが勝てる筈もなく、俺は母ちゃんに釘を刺されたが目論見通りの外出が決まった。
でも父ちゃんには、シッカリと爺ちゃんというお目付け役を付けらるわ、行き先も宮殿があり猟期直前で貴族の集まるフォンテーヌを指定されるわ、ガチガチムチムチにされたのでムクれて子分達を連れて行く事にした。父ちゃんに「イカン!彼等は去年、カレンを攫おうとしたのだぞ!」と抵抗を見せるも、「今は私の家来ですし、お父様お母様の肝煎りの警察の官吏ですよ?」
「あなた、私の産んだ子が、少し位の事でどうにかなる訳が有りませんわ。」と、母ちゃんは相も変わらず泰然自若とした微笑みを浮かべて、「じゃあカレン、元気でいってらっしゃい。」とビズをして送り出してくれる。父ちゃんも妻子には勝てず、嫌々ながら送り出してくれた。
実際の所、子分達のトレーニングは職務の傍ら仕上げの段階に来ている。サラザードの堀りを下水溝として埋め立てるのも、攻城兵器が進んで経済が戦争を支える現在では、貴族のみが生き残っていても意味が無く有害だからだ。街中は、経済的にも軍事的にも、効率重視の環状道路を整備するのが正しい選択だよ。
戦争の天才ナポレオンは、パリに区画整理を施して環状と放射状道路を通したお陰で大砲を効率よく運用する事に成功した。もちろん、商工業も興隆して彼の覇業に一役買った訳だ。彼の様に、ドラスティックな改革は必要ないが、橋や道路を作った端から高い税を取るのでは無く、自由に通行できる事が何れだけの利益を産むのか実際から教えないと理解できないのだろう。
軍事は、一にも二にも機動力が優先される。遊兵を作り、兵力分散をさせるのは軍事上忌避されるべき事柄だ。逐次投入を避け、火力・兵力共に集中させ一気呵成に叩くのが現代の常識、中世の非常識かな?その為の機動力の確保なんだけど、これは一事が万事に言える事だね。情報も賞味期限が有るし、となれば情報を伝える機動性はとても重要でないかい。
東西南北に警察署を配置したとしても、拠点間の連絡や連携に齟齬をきたしたら意味がない。都市の治安を向上させるには相応の人数が必要だけど、設立されたばかりの警察署は人材に乏しいので、環状道路で少ない人を効率的に運用してやる必要がある。ただ衛生面だけで、堀を埋め立てる訳じゃないよ?その上に、道路網の整備を予定しているんだ。
何故ここまで警察力に拘るかって?父ちゃん母ちゃんは飽くまでも住民自治に拘るかも知んないけど、現代知識バリバリの俺は、軍隊の"制限なき治安出動"は宜しく無いと思っている。だいたい仕事の質が違うし、ポジティブリストやネガティヴリストって知ってる?
ネガティブリストでは、原則として規制が無い。すべき目標をリスト化し、リスト内の目的を達成する為に手段は選ばない。一方、ポジティブリストでは、原則としてすべてを禁止する中で、認めるものをリスト化する。軍事力は目的の為に手段を選ばないネガティヴリストで、警察力はルールで決められた内でしか行動できないポジティブリストなんだ。
地域社会に取って法律というルールを遵守させるのに適切なのは、ポジティブの方なのは分かるよね?為政者として、生産性のある民衆を治安維持の為に手段を選ばない方法でバンバン殺されたら敵わない。まだまだ軍隊が警察の代わりを務める世界で、こうした考え方を話しても理解される事はないな。
爺ちゃん婆ちゃんに官吏の連中は、この機動防御的考えとか、ポジティブネガティヴを話しても理解できんかった。亀の子じゃ有るまいに、都市は堀割りと高い塀で囲んで固い拠点防御が最上とされているのよね。唯一、母ちゃんだけが直感的に俺の言葉を擁護してくれたし、父ちゃんは遅ればせで "カレンの言う事だから間違いは無かろう" スタンスで実行を承認してくれた。
そんな事を、フォンテーヌへの道すがら考えながら周囲の景色を堪能しちゃったw
普段は、ゆったり走る馬車の中からなんだけど、今日は相性の良いお馬ちゃんの背中に乗ったので視点が大分上にある。父ちゃんは幼い娘が馬に跨るなんてと不満そうだったけど、館を出る時にヒラリと馬に跨って1人乗りで出てきたや。
それでサラザードの外門を出るまでは、爺ちゃんの馬車に合わせてポックリポックリ進んでいた。「お爺様、私、家来達を鍛え様と思います!」と言って、サラザードを出た辺りで乗馬姿勢を変えて、アドリアン達警吏を従えて走り出したよ。
皮とビロードの赤い乗馬帽にゴムとガラスで出来たゴーグルを被って、赤い上着と白い乗馬ズボンに落ち着いたレンガ色のブーツを履いて、颯爽と全力疾走を始めた俺に追い付く騎馬は軽装な子分達しかいない。だって、護衛騎士は決して軽くない鎧を着込んでいるんだしw
まー、側から見たら、美少女を狙って追いかける盗賊集団にしか見えないかなw
そんな訳で、追いつ追われつ宮殿に向かうサモア町別れを過ぎて、フォンテーヌの南東斜面サブロンからモンティニー街道を抜ける道を目指して全力疾走をしちゃった。それもこれも、可愛い子分を鍛える為だと嘘臭い事を思って居たり……。
子分達は、全力疾走でもヒィヒィ言いながら付いてくる。乗馬姿勢って、大切だよね。モンキー・ライドなんて馬に極力負担をかけない乗り方は、この時代に俺だけかも?
必死な顔をした男の子が、街道脇から間道に出るように指示してきた。そりゃ〜、本職も真っ青な凶悪な見た目の集団に追いかけられて居たら誤解もするわな。まーいっか、人助けをしようとしてるんだもん。ちょっと、乗ってみるかな?目的地も似た様な物だしね。
少し間道を行くと、丘の斜面に数人の農民が出てた。もう直ぐ、狩猟期間なので、スッキリと晴れた日はオレンジの収穫に余念がないみたい。イジェルは、スゥートオレンジに比べて苦味と酸味があるけど、安いし、数少ない冬の果実としては貴重な存在になる。でも、リンゴの方が、人気があったりするかな。
俺は、馬をユックリ走らせて、馬体をクールダウンする。こうする事で、突然動きを止めて心臓に負担が掛かるのを防ぐ。疲れ物質を追い出して疲労回復が望め、筋肉の柔らかさが維持されるんだ。肩凝りのメカニズムを知らない?疲れ物質が神経を興奮させ、筋肉繊維が強ばって硬くなる。針は、神経内の電気信号をショートさせて興奮を抑えるから効くんだって。
神経の興奮は、筋繊維の間を走る血管も締め付けて余計に肩凝りが取れない=疲労物質が流されないという負のスパイラル状態になる。馬体も筋肉に関しては同じ事が言えるので、筋肉を柔らかく保つのは重要なんだ。例え、何時間と走れるタフな馬でも、こうした細やかなケアは忘れない。
徐々に速度を落として並足にして止めると、こっちに気が付いた人がペコリとお辞儀をしたので手を上げて応えた。馬から降りて足元を見ると、大人の背丈程もあるオレンジの木の根元に、敷かれていたある物に気が付いて足を止めて質問してみる。
フードとゴーグルを外して、「こんにちは、私は首都より参りましたカレンと申します。」「こんにちは、可愛いお嬢さん。」可愛いの表現は幾つか有るけど、父ちゃんが言う時はミニョンヌ(愛らしさを含む)で、立場が下の人達が言う時はジョリー(キレイさを含む)って感じ。
人の良さそうな農夫が進み出て挨拶の後、自己紹介などを始めた。彼の名は、ナゼール・サブロン。この辺りの地区は、サブロンの町が昔からオレンジを栽培しているそうな。「ここに敷き藁がして有るのですが、何方かの発案ですか?」農業試験場でも、麦を収穫した後の藁を畑に還す事は知って居たんだけど、他の植物に敷き藁をして居たとは知らなかった。
「ああ、そこの木は、うちの子が北の地でも工夫をすれば甘いオレンジが作れるとかで、特別に藁を入れて管理をしているのです。所が、苗木を入れてもう5年に成りますが、結果はサッパリでして………。やはり、北で甘いオレンジは無理なんでしょうね……。はぁ………。」ナゼールは、ため息混じりにそう応えた。
「別に工夫が悪いとは思えませんが、他に原因が有るのかも知れません。」と、俺は鞍のカバンから色々な道具と小さなスコップを下ろして敷き藁を退けるとオレンジの木の下を掘り始めた。「や!まだ、こんな所に居らしたのですか?早く逃げないと、盗賊が追って来ますよ!?」
俺がマゴマゴしている内に、女の子と犬を連れた男の子が戻って来て焦った様子でそう告げたよ。その様子に只ならぬ物が有って、ナゼールは子供達の紹介を後回しにして俺に逃げる様に言うんだけど……。その盗賊って、多分いや絶対に俺の子分だよね。まあ、人相が悪いしなぁ、仕方ないかも…。
"盗賊"と聞いて場は騒然とするけど、「あー、あの、それは多分、私の知り合いかと…、」「??!貴族のお嬢様が、あんな物騒な人達と知り合いですって!?」女の子が驚きの表情で、俺の言葉を遮ってくる。他の農夫から、"これ、失礼じゃないか!"と、咎められてた。
「はい、多分……、」俺がマゴついて応えると、「では、何故逃げていたのですか?」頭をポリポリやりながら、「それはその、家来達の訓練をしていたのですわ。」モジモジして応えれば、男の子はそれでも心配そうに、「分かりましたが、どうして間道に入られたので?」「咄嗟に、どれくらいの時間で私を探し当てるのか知りたくなったのです、ごめんなさい。」
俺は、母ちゃん譲りの優雅な所作でお辞儀をした。重ねて言うが、普通の貴族は平民に感謝も謝罪もしない。貴族がへり下ると、平民に甘く見らるというのが理由。況してや、頭を下げる何て言語道断。立場が上になるほど、その傾向が強まる。だが、俺は筋を通す事に拘り、相手が何者で在ろうが、自分に誤りが有るなら頭を下げて謝罪をする。それが、前世の日本人である俺のポリシーだよ。
大抵の大人は、俺の態度に目を丸くして驚き慌てふためくが、この男の子は好感を持ったらしい。破顔一笑して、「これはこれはご丁寧な謝罪で、こちらこそ痛み入ります。さしたる事では御座いませんので、頭をお上げください。」と、田舎の子に有るまじき教養ある言葉と態度で答礼をしたので感心したよ。こんなと言えば失礼だけど、田舎にも人物は居るもんだね。
「失礼しました。この男の子の様なのが、娘のジルマリク。それから、ご近所のポーリーヌ。」ナゼールが紹介をして行くと、2人は順にお辞儀をする。俺は普通の貴族と違って偉ぶらないので気を許したのだろう、ポーリーヌもギコチない笑みを浮かべながら犬を紹介してくれた。「お貴族のお嬢様。この子は、マリクの大切なお友達のレカって言うの…。」
「そう、可愛いわね。初めまして、私はカレン・モンテローザ。母は、子爵家の出身なの。宜しくね、ジルマリク、ポーリーヌ、レカ。」俺が父方の姓を名乗ると、領主の名前だから周りをビックリさせて心臓に悪い。只でさえアタフタさせたのだから、これ以上は可哀想だと思う。
それにしても、ジル+マリクで名前も格好も男の子だよね?そう思って居たら娘って、ジルは"ジルベール"の短縮系で名前のアルファベットを読み替えると"ギルバート"。もち、男性名。後ろが女性名なら全体で女の名前だけど、マリクはクアルーン教圏の"王"という意味で男+男の名前だ。女性名にしたかったら、マリ"カ"にしなければ成らない。
ふむ……。「この子、凄く可愛い。ね、マリカ。」俺は、レカのアゴの下から手をやって可愛がるフリをして、マリクの様子を伺う。周囲は困惑気味でも、彼女は僅かに口の端を上げて此方の意図を察した様だ。名付け親はいざ知らず、彼女は確かに本を読んで知識が有り、柔らかな物腰に余裕を感じさせる。
作業ズボンという格好は男の子なんだけど、輪郭線が細く、白くてキメ細かな肌をした顔にはソバカスが散っていた。栗色の髪は麦わら帽の下に纏められていても指先は繊細で、声質も鈴を転がした音の様に高い。帽子のツバの下から、理知的な青い瞳が興味深げに輝いている。
マジマジと見返せば10歳を過ぎた位か?、「貴方が、この敷き藁を提案したの?」「はい、私めが応用いたしました。」"理由は?"と言いかけて、「……はぁはぁ、はぁはぁ………い、い、いた、こ〜んな所にいらっしゃいましたぜ………。」と、汗みどろで肩を上下させた息も絶えだえの集団がちん入して来たw
いずれも、切羽詰まった様な凶相が見苦しい。「はぁはぁ……、お、おじょ〜う………。あ、あんたという人は………、う、馬に慣れない連中を引っ張って全力疾走しやがりまして、ここ、こんな所に隠れてやがるなんて、ひ、ひでぇ………。」
「あら、アドリアンさんご機嫌よう。警吏は、犯人を探してナンボじゃなかったのでは?」
「で…、魔物だ……、魔物だと、、、思っていやしたが、体力が鬼で、心は悪魔で、やんしたか!?」
「泣き言ですか?私に、泣き言は通用しませんよ。文句が言える位に元気なら、早くそこいらの土を掘り返して下さいましね。」俺はニッコリとして、「言って無かったですか?女は魔物ですし、私は悪魔ですよ?」
アドリアン達の目が点になって、「全力疾走の後に、穴掘りですかぃ…。」
「「「ほんとに、ひでぇ。悪魔だ………。」」」見事にハモってるw
悪い事は重なる物で、遂にお古のiPhone 6がオシャカに成りました。前々から誤動作で、機械が勝手に字を打ったりしていたんです。法人契約の関係で、1週間の間を開けてiPhone 11が手元に届きました。今は、快調です。
家族が先月末に退院しました。複数骨折で直ぐにリハビリに取り掛かれ無かったので、未だ未だ完調に程遠く車で送迎をしております。
当初は年間100話は行けると思ったのですが、50話も怪しかったり、、、。次回の予告はしませんが、後編は正月休みでシコシコ書く積もりです。本編の続きは、7千字位書けていますので正月明け位でしょう。




