カタストロフ 〜崩壊序曲〜 <内面世界への旅立③>
充電の必要があって、遅く成りました。では、お楽しみになってください。
「やめろー!!」ボドワンが、ヴィブとの間に割って入ってフリジアを庇う。「ヤァァァァーーーーーー!!!」そこへ、サーベルが振り下ろされた。
刹那、彼の体を引っ張り右に流したフリジアは剣の腹を素手で叩いて弾く。ハイエルフからすれば普通人の身体能力は10分の1以下で、特に優れた動体視力からヴィブの剣は余りにも遅過ぎて止まって見える。故に、弾くのは簡単だった。
「どうした?こんな腰砕けのヘナヘナ剣では、猫の子1匹も切れぬぞ。」「ワァァァァーーーーーー!!」今度は、持ち手を変えて突いてくる。フリジアはスッと避けて、手首を掴むと彼に雷撃を放つ。痺れたヴィブは、仲間によって取り押さえられた。
捻り上げられた手からサーベルが落ちて、「我れが王女なれば、護身術の一つも習って居ないと思ってか?残念だったのう、エルフの身体能力はお主らの数倍もある。それにヴィブとやら、どうして何の為に剣を振る?守るべき者の無いヘナヘナ剣では我に届かぬぞ。」
"この少年は救われて置きながら、フリジア様が預かりも知らぬ過去の事物をほじくって逆上して見せるのですから人間とはなんと愚かしい生き物でしょう" フリジアと意識を同化させていたカレンへ、ピサロが問いかける。
"私も人間ですわ。それに当事者でも無いのに、上から目線で斟酌できるほど卑怯では御座いませんの。フリジア様は狙いが有って、ヴィブさんを逆上させたのでは御座いませんか?ふふっ……" カレンは、軽く笑ってみせる。
「エルフは、こんなに強くても帝国と戦えないと言うのか?」フリジアは、手近な椅子に腰を落ち着けると、「はぁー、威厳を出そうと女王の真似をしたら疲れました。私はエルフの王族ですから、普通のエルフよりも強いのです。殆どの方は闇エルフと言って、単純に言って貴方達の2〜3倍程度の能力です。」
「それでも纏まれば戦力になる!」「この少人数でも纏まりに欠ける貴方が言いますか?特に今日の危機は、リーダーの指示に従わず、帝国兵に不必要な執着を見せた誰かさんの所為ですわよね?それで、本拠がバレた。」「ぐっ!それは、、、アルモリカと、昨日今日の話を一緒にするな!!」
「あら?都合が悪い時は、お逃げなさるのですね。貴方が先に、1000年前の話を蒸し返したのじゃないかしら。今では帝国人の残虐な支配は明らかですが、当時は部族間抗争の延長線上と考えてらっしゃった様ですね。
ですから、自分達の死刑執行命令書にサインしているのに気が付かず、帝国なんかと手を組む部族が居たのですよ。お分かりになりますか?敵より怖いのは、味方の裏切りなのです。エルフは、背後から味方に刺される事を危惧した。
何より私達は帝国の奴隷商品ですから、孤立して拉致される危険も有りました。そうなれば帝国と全面抗争に成りますがキャナルは付いて来ましたか?それに貴方達と違って、私達エルフは仲間を見捨てない。何百何千年掛かろうとも、帝国の暴虐を滅ぼして必ず仲間を取り戻します。」
「フリジアさん、貴女のご主張は分かりました。エルフが、非常に誇り高い事も理解しましたが、どうか戦力の半減した私達を助けては貰えないでしょうか?」「確かに、今のキャナルの置かれた状況は悲惨ですし同情も致しますが、貴方は乞うてばかりで宜しいのですか?」
ボドワンはハッとして、「もし、将来的に帝国へのエルフ救出作戦が有れば、私達もお供をさせて頂きます。」周囲のメンバーも、1人を除いて首を縦に振って賛同の意を示した。「うんうん、それで合格!お互いに責任を背負わなければ、絶対に信頼は生まれませんもの。」
彼はフリジアに手を差し出して、「それで、宜しくと言っても良いのかな?」「勿論です。私は、先程名乗った様に、フリジア・ピエレット、貴方はボドワン?」「殿下、私はドルイドのボドワン・サラスゥゥイイー・ロレッタと申します。この団、ヴロンテ・デ・フェール(=鉄の意志)のリーダーをして居ります。」
2人が固く握手を交わすと、「これで、フリジアさんもヴロンテのメンバーだ。団員同士の私闘は禁止しているが、ヴィブは従う気は無いのかな?」ここで強情を張ると、彼は団を追放される。
「あ、ああ…、チッ!しゃーないな。エルフを認めた訳じゃないからな。」気の入らない生返事でヴィブが不承不承頷くと、「もう、放しても良かろう。」ヴィブが解放され、フリジアにメンバーが次々と族長に対するのと同じ略礼をして握手をした。
そこに、リーダーへ被害の概要が報告される。「何?団員の半数は死傷、全員が何らかの軽傷というのか……、」「光法術士の殆どが、煙りで喉をやられて詠唱困難なんです。現在は休み休み治療に当たらせていますが、回復に時間がかかりますので即時移動は難しいかと思います。」
「フリジア様、何とか出来ませんでしょうか?」エルフが光や風の法術を扱うのは、よく知られた事実だが、「私の属性は闇と風なのですが、アルマロスに神智が宿っていますので状態だけ見て相談してみましょう。」「「お願いします。」」一同が頭を下げて礼を尽くす。
フリジアが立ち上がろうとして、「ボドワンさん。ホッとしたら、足に力が入らなくなりました。宜しかったら、手を貸して頂けますか?」「勿論ですとも。」強いと思っていたエルフのお姫様が、気が抜けて足腰に力が入らなくなったのを見て一同は微笑ましく思った。
「なに、白刃の前に身を曝すのは初めての経験でしたので……。」赤面してボソボソと言い訳しながら、ボドワンの手を取って立ち上がらせて貰った。「それは無理をなさる。」と、軽く笑う。そうして、負傷者の元へ何人かで向かった。
「ゴホ…、ゴホゴホ…、オェ〜、ゴボゴボ……。」「母ちゃ〜ん、痛いよぉ〜…。」2〜3のランプが提げられただけの薄暗い洞窟の奥に無数の怪我人が横たわり、痛みに涙を浮かべて耐えていた。その中で3人の光法術士が治療をしているが、若くて術式の編み方も雑な上に喉をやられて詠唱もシバシバ中断を余儀なくされ治療はハカバカシク進んでいない。
フリジアはアルマロスを顕現して何人かを診ると、ボソボソと額の宝珠と話をして、「あのランプの火を消して、こちらへ持ってきてくださいますか?」と問いかける。頼まれた女の子が早速カンテラを持ってくると、フリジアはアルヴ古語を詠唱して両手の間に光精リュミスを召喚した。
リュミスの光は太陽の様に明るく、周りの人々が癒される温もりがあった。痛みが薄らいだ怪我人は、表情が安らかになって眠る者さえいた。「大丈夫でしょうか?」「心配ありません。これは光精リュミスの力で、この光は術法と同じ様な効果が有ります。朝からずっと緊張しっぱなしの人は、疲れが出たのでしょう。」
光法術士を手招きして、「貴方達も横になって、この光をしばらく浴びれば咳が治るそうです。この精霊術があれば、術士もかなり楽になりますよ。」「それは凄い。是非とも、その精霊術を教えて頂く訳には行きませんか?」「多分、無理だと思います。精霊術には、アルヴ古語が必須です。」
「アルヴ古語?」「神と人とが、同じ地上界に住んでいた時代に神代語が使われて居たのですが、現在ではアルヴ古語という形で白エルフ以上にしか使えません。」「どうしてですか?」「神代語は言葉に精霊力が宿っていますから、悪用されない様に神代語より簡易ですが高度な発音技術を用いる物に変えられました。」
「そこを何とか成りませんか?」「んー、ヴィとビに対する聞き分けが出来ます?」「すいません、どれも同じに聞こえます。」「先ず、口の形で判断出来ますが、ヴィと発音する場合には下唇を弾く様に、ビは下唇を軽く噛んで発音します。その他にヲ"とヴォいう鼻母音がありまして、これの半鼻母音はまず人間には発音出来ません。
これは最も簡単な区別です。音素にすると母音だけで50種類を超え、子音と合わせるとバリエーションは600以上に登ります。これに、アクセントや音素の長短が加わり、脳のチャンネルの少ない人間には口が付いて行けず発音不可能なのです。」
「!!!……、そんなに………。」「先程のリュミスを呼び出す簡単な精霊術でも闇エルフでやっと、白エルフ以上に成らないと自在に使いこなせません。」「つまり、人間には向かないと……、大変、残念です。」
フリジアは他のランプにも光精を宿らすと、「1週間置き位に太陽に当てると、長く光りますよ。大体、半年は保ちます。」「へえ、それで消す時は?」「退場のアルヴ古語が必要ですが、取り敢えず布でも被せて置けば良いかと思います。」
「ガハ!ゲホゴホ……、なんじゃこりゃ!?」治療中の怪我人や光法術士が、黒くて小さな塊を沢山はきだす。「それは、固めて体外に排出された煙の塊だそうです。これで、ひと安心ですね。」フリジアは、怪我人達の背中をさすっていて気付いた事を尋ねてみる。
「首の後ろのこれは何でしょうか?」「何の事で?」「ほらこの、燐光を放っているこれですよ。」それは、皮膚の下で確かに淡い光を放っていた。「どれどれ、本当だ。ランプの光と呼び合う様に、淡く光っておりますね。これは、抑制の種子かも知れません。」
「抑制?」「ええ、奴等が警戒するドルイドを縛るため、首筋に種子を植え込みます。マナ法術を使う時は体内マナを高速で循環させるので、種子が反応して芽を出します。実はそれで、この者達用に精霊術が使えないかご相談したのです。」「………ブツブツブツ………、あら!?取れちゃった。」
「なっ!そんなバカな〜。」「どこかで見た覚えの有る光り方でしたので、退去の祝詞を唱えたら普通に出て来ましたよ?」「そいつが定着すると、中枢神経に絡みつくので外科的除去は不可能なのですが……。」「私のアルヴ古語に反応して出て来たのでしたら、これは間違いなく聖樹の種子です。」
「!!……、エルフは何故、こんなに危ない物を保管しているのですか?」「危ないと言われても、エルフの生き方は"自然より生じたモノは自然に還るべき"という物なので、死期を悟れば聖樹と同化するのが習わしなのです。退去の祝詞も有りますし、エルフには無害なのですよ。」
「ヤッター!これで全てのドルイドを解放できる!」フリジアは、手と手を握り合って無邪気に喜ぶ一同をキョトンとした顔で眺めた。そして、急かされる様に、後5人の種子を取り除いたのである……。
翌日、軽傷者は全快、重傷者も歩ける程度に回復をした。本拠の場所がバレたので別の場所へ移動の話になった時に、フリジアがアルマロスの提案という形でエルファーナ国内へ拠点を移したらどうかと話をした。
「ほう、其方が王太女とエルファーナに入国したいと?」「はい、正確には、私と仲間達です。私達が本拠を発見され場所替えで行くべき所に迷っていた時に、殿下がこちらに世話になれば良いと申されました。」「陛下、この人達の帝国に対する怒りは本物だと思います。」
ボドワンとフリジアは、事情説明の為に先行して空間転移でエルファーナにいる。
メタトロンの重囲結界は、フリジアが一緒にいる事で効果を発揮しなかった。彼女が故国の周辺地理を克明に記憶していたので、拠点のカンピエーニュの森から西へ31里(=約120km)離れた町エヴルーに一旦飛んで結界の近くに来た時に、アルマロスがメタトロンに話を通してくれた様だ。
「ふむ…、王太女はこの人間達に加勢をしたいと申すのじゃな?」「はい。トリーア地域の人間は帝国の苛政に苦しみ、その支配を逃れたいと本気で思っている様です。この地域を独立させ、帝国から我が民を取り戻すという機は熟したのではないでしょうか?」
「機は熟したか……。ボドワンとやら王太女はこの様に申しておるが、まさか帝国への憎しみだけでその先を見ていないなんて事は無いじゃろうな?」「陛下へ、失礼ながら申し上げます。帝国の圧政に抵抗する意思は有りますが、毎日が必死でその先の国家とかはハッキリと意識はしては居りませんでした。」
「正直よのう。だがそれでは、一国の責任者と相対するには足りんな。何故、我らが国を名乗ったのか分かるか?」「エルファーナの建国は、二万年以上前と伺って居りますが想像も着きません。」「なに、一般論で構わん。」「国民を完全に守り切るためでしょうか……。」
「その通りじゃな。最初は、協力して助け合い守り合う。その内に誰かが指揮をして、誰かが守って、誰かが製産を行う。舐められぬ様に体面だとか権威が必要になり、そして統治され国という名前が付く。」トロリと微笑んだ126歳の女王は、フリジアと姉妹だと言っても通じるほど若々しい美貌の持ち主だった。
「王太女は、このトリーア地域を彼奴等から解放するには良い時期だと申しておったが、其方が不覚悟では如何ともし難い。今のままのお主等では、奴等にいつ踏み潰されても可笑しくはない羽虫にすぎぬ。我が前に国の代表として相対せずば、王太女との約定も其方の意思なぞは関係なく反故となってしまうだろう。」
ボドワンは、暫く目を閉じて考えを巡らせる。「なるほど、抗って、抗って、その先に国という希望が見出せなければ協力も無いと言う事ですか…。」「そうじゃの、ただ抗っている内は其方らが何を主張しようとも童の遊びよ。」「国を興せと?」
ボドワンの質問を手で抑えながら、「王太女よ、信頼を得るには双務契約は正しいのじゃが、事は個人の間では重過ぎる。国を預かる女王として支援をさせるのなら、相手もまた背負うべき物が軽ければ吊り合わぬ。それにな其方は次の女王、守るべき民はエルフであって人間ではない。」
「分かりました陛下、ヴロンテのメンバーになってもエルファーナの王太女としての立場は弁えます。」「それで良い。さて、ボドワン。この身の協力を得たいのならば、対等の盟約を結ぶという前提が必要じゃ。王太女の知恵を借りるのは構わんが、神器は我が国の宝である。特にアルマロスの貸し出しは罷りならん。」
「それは、神器の力に頼らず、自分達で独立を勝ち取れという意味でしょうか?」「うむ。神器の力は確かに圧倒的よ。故に、その魅力に取り憑かれて己れを見失う。帝国の何を敵とする?圧倒的力に自らを失えば、憎しみに捉われて彼等を滅ぼすだけじゃろう。それでは、帝国と同じ暴虐を犯す事になる。」
「敵は帝国ではなく、暴虐に置けと?」「国とは、人が人を守り活かす術、人々の平和が無ければ成り立たぬ。然らば巨大な帝国の平和とは他の民族を膝下に置く事にある。彼等は、帝国を維持する為に非情と暴力を置いた。お前達は、その支配に反抗して兵を挙げたので有ろう?ならば、ゆめゆめ同じ過ちは犯すまい。」
「ははっ!申される通りかと存じます。」ボドワンは、我が意を得たりとして女王の言葉に理解を示した。今までのヴロンテの活動は帝国に反発して来た物で、決してその先を考えた物では無かった。"フリジアが何故あれ程に、ヴィブに手厳しかったのか?怒り憎しみを向ける相手が違うと言いたかったのだろう"
その感情を、人に向ければ帝国と同じになる。この可憐な少女にしか見えない王女は、ヴロンテの弱点を的確に指摘してきた。「女王陛下。国を建てよと仰せなら、統治と国の理想像をお教え願えませんか?」ボドワンは、この人を統べる才に溢れた少女と並び立ちたいと思い更に願いを口にした。
「控えよ!卑小な人間如きが、神の恩寵深き陛下に軽々しく願い事とは身の程を弁えよ!!」謁見の間に陪席していた大臣の1人が声を荒げる。「よいよい、一時の恥を顧みず、虚心に教えを請うは若者の特権よ。良かろう、建国に付いて仲間達の同意を取り付けたら考慮する。」
「ははー、有難き幸せに存じます。」「陛下、本日は私のワガママに付き合って下さって有難うございました。」「うむ。王太女よ、話が纏まれば其方の領地でこの者達の面倒を見るが良い。異論が無ければ、そのまま下がれ。」2人は暇の礼をして、謁見の間を下がった。
"白エルフ達に取っては、今更の同胞救出は迷惑な話でしょうな" "どうしてかしら?" "まず人間が信用出来ないのと、現状を変えたく無い心理が働くからです" "それでは、決して見捨てないとのお題目は嘘ですか?" "いえいえ、建前は建前。それ故、表立って女王に反対は出来ない"
"なるほど、今日も明日も明後日も自分達が高潔な民族で居たいが為にお題目は唱えても、行動は起こさないのですか……" "左様で、今までの女王も救出作戦を行おうと議会に掛け合いましたが、時期尚早とケンもホロロに否決されました。その複雑な心境が、ボドワンの様な面倒事を持ち込む人間に向かう訳です"
"平和とは、いったい何なのでしょうね" "私には、トンと見当もつきません。体制に逆らえば、事情の如何を問わずテロリストの汚名を着せて処分に及ぶ。トリーア地域の人間は同情的ですが、帝国人にしてみれば彼等の平和を脅かす敵ですからなぁ〜。悪魔が狂喜する奴隷の平和でも、戦争をして居なければ平和と呼ぶのですから人間は愚かさの博物館ですな"
"ですから私は、法の正義が有るからの平和であって、平和であれば正義が踏み躙られ暴虐がまかり通って良い訳では無いと思うのですよ" "どうですかね。そもそも法の正義なんて、平和の犠牲にして良いと考える人間にとっては、いつでも書き替えの効く駄文でしょう。薄っぺらい紙切れ同然ですよ"
ピサロは、ニヤけた声でカレンを揶揄った。"ええ、法は人々の良識に基づいて居なければ、単なる落書きですわね" カレンは、余裕の声音で応える。"まあ、見て行きましょう。貴女が救おうとしている人間共は、悩んでまで救うに値いするのかを、今生は公爵令嬢なのだから苦労を背負い込まず楽をして愉快に暮らした方が無難ですよ?"
"フリジア様の人生を垣間見させて頂き、本当に勉強になります。ありがとう御座いました。さりながら、人間が救うに値するか否かは私の目で見て判断いたします" "貴女も強情ですね…" "ええ、諦めが悪いのが、私の欠点で美点ですわね"
フリジアとボドワンは、空間転移術でカンピエーニュに戻ると国家についての重要性を説いて建国を促した。圧政の無い"自由"と、民族の"平等"と、多部族から一つの家族になる事の"祖国"、この3つのスローガンを掲げて女王に協力を求めた。
「ほう、中々に興味深い目標だが、して建国の方はどうじゃ?」「それは、女王様と宰相様、私と王女様だけで内々に話したく存じます。」女王は、ボドワンの顔をジッと見据えると、「あい分かった、人払いを命ずる。」その場に陪席していた、大臣を始めとする廷臣は全員が居なくなった。
「お母様、サンダルフォンで人払いを確認しました。」「うむ、大義である。」「もちろん、ヴロンテの仲間には建国の同意は取り付けましたが、今は理由があって国を宣言するのは待たせています。その一つは、国の中に国が出来ると帝国が全力で潰しに掛かるからです。」
「さもあろう。敵になるなら、早い内に希望の芽を潰すのが常道ゆえにな。」「敵に戦力集中の機会を与えず、こちらの迎撃体勢を整える時間を作ります。帝国は、その侵略体質により、必ずこのトリーア地域を足掛かりに偉大なる島々や、バンベルク方面に進出しようとする筈ですから、その後背を討って建国を宣言します。」
「ふーむ、道理じゃな。建国せずして、我が方の協力は如何とす(=どうするのか)?」「それはもう、女王陛下にも利得の有るお話に、先行投資をして頂くしか御座いませんでしょう。」「何故に、我が身の利得と吐かすのか?」
「議会と申して置きましょう。」フィーヌがニヤリと笑って、「同胞を取り戻すというお題目を、議会は本気で考えて居なさそうでした。」「何処で、それに気が付いた?」
「簡単です。人間を嫌悪する視線以上に迷惑がった目をしていましたので、これは陛下を始めとした王室の意思との乖離があると見たからです。それに殿下の勧めとは言え、どこの馬の骨とも知れない私に謁見なさる事を重ね合わせると、我々に利用価値を見出されたのと違いますか?」
「良かろう。」女王が快諾過ぎてボドワンは、一瞬キョトンとした。「だから、先行投資に乗ると言っておる。」彼は、また条件を付けられないかとヒヤヒヤしていたので、イエスの言葉に嬉しくてフリジアの手を取って叫び出したい気持ちに駆られた。「その上で、王太女とサンダルフォンを貸し出そう。必要じゃろ?」
ボドワンは、重ねてお願いしようと思っていた事の図星を指されて驚いて言葉を失くした。これから秘密裏に各部族ドルイドの解放と、トリーア全域の反抗勢力を協合するにはフリジアは欠かせない戦力でもある。流石に一国を背負う女王だけあって、こちらの意図を的確に読み取られてしまった。つまり、女王はそれだけ本気で救出を考えていた証左でもある。
「実はな、其方が我れの言う通りに子供の使いを果たしていたなら体良く切り捨てる積もりであった。しかし、先程の目標の様な理想に偏り過ぎても同じ判断を下したで有ろう。国の協力というのは、大きいだけに責任も重大での。人心が読めない者には、軽々しく約束はしてやれんものよ。未熟ながら、人を統べる才能に投資をしよう。」
「わーい!やったー!!ありがとう御座います、お母様。」「王太女は、ちと甘いの。幾ら其方が身体能力に優れ神器の加護があろうとも、素手で白刃と相対するなぞ一国を継ぐ立場としては不用意すぎる。大方、ヴィブリートやらを憐れんで彼の思いを受け止める気になったのじゃろ?受け止めるのは誰彼ではなく、生涯ただ1人にせよ。」
「なっ何を………!!」フリジアが、耳朶の先まで真っ赤になって母親に苦情を言おうとして言葉にならなかった。ボドワンは、何の事かサッパリ分からず手を束ねている。女王が母親の顔を見ると、ため息を吐いて首をユックリと横に振った。
"そうか…、娘の好みド真ん中かの。繊細で慎重かと思えば必要な事は大胆に述べて、我が前に有っても恐るる所なく堂々としている"
女王もため息を吐いて額を押さえ、"大体、メタトロンの結界を抜く程に思い込む相手がグループに居るとは思ってはいたが、この小僧なら納得できるの。ボドワンがエルフなら添わせてやりたい所だが、天寿の違いは如何ともしがたい。
王嗣も遺せる事やら、王配が人間では白エルフ共も黙ってはいまい。ボドワンは意識はしているやも知れぬが、少年ゆえに本気で惚れているとまでは言えない。フリジアが己れの気持ちに気が付く前に、仲を割かなければならぬか…。可哀想だが、致し方ない"女王の悩みは尽きなかった。
…
………
………………
そうして、若者達の時は過ぎ行き…………、
フリジアはあの後、急かす様にバタバタと侯爵家令息との婚約が決まった。フィーヌから、くれぐれも王太女の立場を忘れぬ様にと釘を刺される。ボドワン達ヴロンテの主要メンバーは、フリジアの領館で彼女と一緒にメリザンデの薫陶を受けて国の経営の精髄を掴んでいった。
合間で、各地域のドルイド達を解放して、自由・平等・祖国のスローガンを静かに広めて行った。そうして、建国の時は一斉に立ち上がる事を約束する。もちろん、各地を回るにはフリジアの助力が必要不可欠だった。
各地から沢山の抵抗勢力が、続々とフリジアの領地に案内されて結界を超えてやってくる。その数、1000人足らず。
ヴロンテは、各地の反抗勢力を共合する内に、名前をヴロンテ・デ・フェールから"トリーア解放戦線(=Front de libération Trèves)"略称FLTと変えて名乗る。代表は、ドルイド名家で1番勢力のあった団のリーダーであるグザヴィエという青年が選ばれる事となった。
その日、帝国からカンピエーニュの悲劇と言われた3万人余の黒焦げ死体と共に彼らが狙っていたヴロンテのメンバーの失踪から約8年。彼らはアミエンス北の海峡の海岸辺りで、来たるべき時を今か今かと待ちわびていた。海峡を渡るは、彼方の島々に橋頭堡を築く為の帝国の精兵4万余人。対するは、FLTの精鋭1000人足らず。だが、意気は盛んだ。何故なら、彼らの勝利の女神がいるからである。
グザヴィエが声を張り上げて、「我らトリーアの民は、長年に渡って帝国の支配に呻吟して来た。だが、それも終わりを告げる。今日、この時を持って帝国の支配を崩壊せしめ、新しい祖国の下に我ら悉く虐げられない自由と、民族の平等を享受しよう。この時を持ってトリーア解放戦線を脱し、国号を"アイテシア"と改めん!!!」
「「「うううーーわぁーーー!!!」」」解放を待つ諸人、挙りて歓喜の雄叫びを上げた。それは風マナ法で拡声する必要もなく、辺りに轟き渡って木霊したと伝えられる。
感極まって抱き合い泣き出す人波みに向かって、「あれを見よ!アレこそ帝国の暴虐の化身、彼方の島々までその支配を及ぼそうと侵略の爪を掛けるが如き者共なり、我らはその後背を討って正義と国威を示さん!」「「「わー!アイテシア万歳!くたばれ帝国!」」」
「じゃ、フリジアちゃん宜しくぅ。」グザヴィエは、至極軽く後をフリジアに託す。砂浜に大規模な精霊術の法陣を描いた彼女は、風精エアリアル、水精ウンディーヌに美しい歌の如くアルヴ古語で願う。"どうか、彼の地の人々に暴虐の雨が降りません様に、帝国の侵略の牙を折ってください"
…………こうして、帝国の崩壊序曲が始まった。
※精霊術には、以下の縛りが有ります。
術者の属性により、光系統(光・風・火)と闇系統(闇・土・水)に別れて、それぞれの系統の眷属精霊しか呼べません。同じ系統で呼べても、術者の属性でない精霊はコストが掛かります。フリジアなどは、光と闇の両系統の属性を持って居るのでオールマイティに召還可能です。
最近は旅行をしないので、休日に執筆活動か好きな小説を読んでいます。最近読んだラノベで、"塩が純粋で美味い"との記述があって、"はあ?"っと成りました。純粋といえば精製塩(=塩化ナトリウム)で、塩辛い以外はなんら特徴の無いものなのです。天然塩(=藻塩、岩塩など)というブランド塩は様々ありますが、その全ては雑味(=ミネラル分)が旨味を添えています。嘘過ぎると、覚めてしまうので勘弁して欲しい。
次回も、1週間〜10日ペースでリリースします。この後に、黎明期編の山場を持ってくる予定でしたが、一通りのメーヌ関連も結構な山場に成りましたので遅筆が更に遅くなりました。申し訳ございません。




