領経営とラヴィニアとの仲直り。
産業と経済は一体でして、本作のテーマからすると避けえない話なのでお付き合いください。では、お楽しみになってください。
インフレは陽気な悪魔、デフレは陰気な悪魔などと人々をして言わしめるが、公共事業は、まず資金が要るし、直ぐさま景気が良くなる訳ではない。アイテシア程度の経済規模ならば、上下水道整備などの公共工事でも周辺の波及効果を含め大きく状況を左右する。
インフレ・デフレとは、物価と通貨のシーソーゲームだ。物価が下がり通貨が上がるデフレ現象は、景気の浮揚にブレーキをかける。バブルの時もそうだが、通貨総量を増やし産業が好況で市場が拡大すると通貨が下がってインフレ気味になる。市場が拡大すれば、北の現行通貨量では買う物が有ってもお金が足りないというデフレ現象が起きる。
差し当たり建設領債を発行して、産業や税制改革による増収など、領の展望を明らかにして投資を募る。貴族などの富裕層から通貨を吐き出させると共に、通貨総量を増やす必要にも迫られる。そう、公共事業と金融緩和は、一体じゃないと景気刺激策としては成功はしない。
前にも説明したが、サラザードには王都と同じ権威が付与されている。つまり、通貨発行権があるから材料さえあれば自由に発行ができる。異世界チート並みに、都合のいい設定だとカレンは思う。
アイテシア国王が背負っている国債は、戦時国債として北アイテシアが受け持っている部分が1番大きい。中央政府に対するメノルカからの返済部分を銀で払って貰って、北が受け持っている国債を中央政府の銀で償還して貰えれば領内の通貨は賄える。
隣国で言うと、最大貿易国のメノルカが銀本位制、東のバンベルクやロースダールが金本位制、我がアイテシアは決算の都合で金銀副位本位制になる。金貨銀貨が流出しないように、含有量は抑え目にして通貨としての価値を優先している。他にも、合金にする理由は通貨としての耐久性の問題もある。
ロレッタ家では、北の国境線を守る為に王家が支払っている費用の内、国債の部分を受け持って纏めて現金に立て替えて国境線の各家に配っている。その影響力から北の惣領家と一体に成ろうとする家も有れば、試しを入れてくる家もあり、深い忠誠を抱く家もある。
余談だが国軍とは、王家が国境線を守る為の費用を負担した軍の総称である。全部が常備軍という訳ではないので、傭兵の様にガラの悪い連中も混じる。これにより、アミエンスやバーゼルなどの最前線軍家は、国軍・領軍併せて領総人口の6%〜7%の常備軍を保持している。
今の所、戦時に於ける貴金属通貨が全盛なので、紙幣による兌換または信用通貨の出る幕はない。まぁ、紙料が無いなんて言っている時点で、紙幣の発行は見送るしかない。紙幣といえば偽造が付き物なので、木製紙料の次に印刷と偽造対策を考えらければならない。
因みに債権は、貨幣に比べると一般に流通しておらず数が少ないので、偽造対策は額面や割符で対応をしている。だもので、債権の種類は多く偽造には向いてはいない。有罪だと確実に死刑が下るし、偽造するだけ割に合わない。
むか〜しと言ってもカレンの前世での事、大学時代の先輩にとても困った人がいた。その人は、クリスみたいな変な趣味の持ち主でもなく、人当たりが良くて面倒見の良い頼りになる人物なのだが、たった一つの悪い癖が無ければ満点だったろう。
先輩は酔うと偶に、硬貨を本物のお金、紙幣は銀行券なので本物じゃないと滔々と語る。
昔は兌換通貨と言って、銀行券で実際の取引きを行い、国際的な共通通貨として金のインゴットや金正貨がやり取りされていた。紙幣の裏付けは、金本位制なら金にしていた時代。拡大し続ける市場規模にも、貴金属の産出量が追い付かなくなって居たしね。
この場合、中央都市が戦争などで封鎖されると取引きに影響がでる。実際に第一次世界大戦の時は、日本の手持ち金の3分の2がロンドンに有って、取引きに支障が出たらしい。本位制だと度々、国際市場が停止する為にブレトン・ウッズ体制が発足した物の、1970年代までに世界各国の金本位制は有名無実化していた。
日本では、1988年3月で銀行券を金に交換する事を止めて(本位制兌換通貨の廃止)、管理通貨制度を敷いている。政府の信用(徴税権、国庫財産など)という財源を裏付けに、経済規模などに合わせて通貨を発行している。廃止は、中身の無い制度を追認した感じかな。
通貨の裏付けを金銀なんかの有価物にすると、産出量が多過ぎても少な過ぎても経済の足枷せになるから、これから伸びる市場の妨げになる。他の理由もあるけど、GDPが、裏付けになるのが理解できないのってお手上げでは無いだろうか。
ブッチャケると、通貨そのものに金属価値は必要ない。通貨は、物との引換券としての価値で十分だ。本人が悪い人間ではないので、恥を掻かさない様に説明するのが難しい。いつかいつかと先延ばしにする内に結局、剛(=カレン)は説明をしそびれてしまった。
預金通貨や電子マネー全盛の時代に、貨幣通貨が本物って感覚が分からない。分からないと言えば、経済学者の、国債と税収のバランスが如何とかで、国の借金ガーの部分。某党が、"箱物から人へ"って通貨総量も増やさないし、公共事業もお粗末で世の中の景気が悪くなった。
この世界もそうだけど、政治家や官吏なんか偉いと言われる人間ほど、汚職ばかりで経済の仕組みに疎いとカレンは感じた……。
「姫様、放課後まで待ってくださいよぉ〜。」「お友達になったのですから、学内ではカレンと呼び捨てで結構です。午前中に使いを出しましたので、真っ直ぐに領館の方へ職人さんが来ているはずですわ。」2人とも似た者同士で気が合うし、クリスが強引に迫るのも有って渋々友達になったようだ。
「カレン様〜、友達がOKならもう一声、婚約にしませんか?」いくら自由なアイテシアでも、同性婚は認められてはいない。「ああはいはい、また今度ね。早く帰って新しい衣装の仮縫いと、白銀の馬車の新作が出来たそうなので、お昼にしたらそのままお茶にしますので、学院には戻る積もりは有りませんよ。」
シャレオ・プラチナムとはゴーフレット屋の事で、看板娘アザレアの名付けに拠る物だそうだ。大通りに移転した時に、カレンの初回訪問の印象に因んで名付けられた。
前世、男だったので、迫られるのは何となく嬉しいのだけど、ズボン姿の男装だが小柄で目がパッチリとした可愛い少女が、結婚、結婚って騒ぐのは流石に引く。アイテシアでの神官・王族・貴族は、必ず結婚をしなければならないのは周知の事実なので、クリスのは親友になりたい意思表示だろうと思われる。
カレンは前世の記憶から、クリスは兄の件で、お互いに男嫌いの気は有るのだが………。
"どうしてそう、結婚に拘泥わるのです?"カレンは、試合の後、クリスにそう問い質してみた。"だって、一緒になるなら同年代で私より強い人が良いんですもん"って、性別は気にしないのか?と尋ねたら、"女の子なら、自分より強い相手に守って貰いたい物です。私の場合は、たまたま姫様が私より強かっただけ、同性なんて気にしません"
"これは、地雷を踏んだ?"と、カレンは頭を抱えた。テオドール卿からもヒソヒソと、"詳しい事は話せんがクリスの家は一家離散状態でな、これだけ熱心なのは剣の稽古以来だ。婚約とは言わないが、是非とも友達に成って欲しい"悩んでも仕方ない無いので、テオドール卿に領債を買って貰う事を条件にOKを出した。
クリスは怖い事に、人付き合いらしい人付き合いをした事が無い。肉親がマトモに相手をしなかった所為で、他人との距離感を上手く調整できないようだ。同年代で武術の心得があり、話が合いそうで何より凛然とした美しさに憧れている様だ。そんなカレンとの強い絆が欲しくて、プロポーズという手段に出た。
カレンが、何故かクリスに追いかけられて居るのは、学院に居る時は昼食時に必ず食堂に姿を現わす食いしん坊だから、昼なら食堂で捉まり易い。朝の領政会議の時は昼から登校なのだが、普通に昼食を食べて授業をこなす事もある。
カレンとクリスではそもそも学年が違うし、カレンの授業免除と高等部への出入りも有り、ヴァン・センヌ政庁の珠算塾や領政会議の参与もある。彼女は、歳の割には多忙な日々を過ごしていた。今日はカレンにしては珍しく、領館の方でお昼を食べるようだ。
妹枠は、第2夫人ジュヌヴィエーヴ(=愛称ヴィヴィ)が去年、女の子を出産したのも有るし、学院ではリリアも居るから、もう妹は要りそうにない。でもクリスは、身長も2学年上なのにリリアと同じ位の4ピエ(=130cmクラス)代で、カレンの身長より4プース(=10cm)も低いので、どういう育てられ方をされたか想像に難く無い。
結局は、仮の妹としてクリスは受け入れられる。その時は、いずれ好きな男が現れるとカレンは気楽に考えていた。
そういえば貴族院に来て驚いたのは、一般の貴族家の子が小型や中型馬車で通っている事だ。クリスなんか、二輪一頭だてのカブリオレタイプに乗っている。カレンは、学院への行き帰りだけでも、護衛4人の四頭だて大型馬車1台、下働き2人の側仕え2人で勘弁して貰っていた。
良家の子女が、使用人の1人も連れず単独行動などハッキリ言って出来る訳がない。出会いイベントの定番、"落としたハンカチを拾いました"も、使用人が拾うから先ずあり得ないんだ。
カレンの父公爵が、自由市を視察中に襲撃が有った件で護衛の人数に対して過敏な反応を見せる。最近では、領館や政庁のある、この中央街区からは中々だして貰えなかった。大通りにあるシャレオ・プラチナムに買い物に行く時でも護衛騎士が20人で、警察まで出張ってくる位に大掛かりになる。
驚いた?か如何かは微妙だが、予想の通りに異世界物の定番である冒険者ギルドが無い。似たり寄ったりの傭兵や猟師ギルドは有るのだが、魔獣が居らず、人や野獣の脅威が高い世界なら当たり前の結果だろう。同業者の自主的な集まりがギルドという存在では有るが、互助会程度なら目を瞑るが大きくなり過ぎて市価をコントロールするようになると厄介になる。
昔は、商工業ギルドだったのを、商業と工業に分けて、今回は土木関連の事業者を別にする必要がある。商業ギルドは、海千山千の商人がゴロゴロいるから少し苦手に思っている。ギルド員の福利厚生を考えるのは結構だが、物品の取引価格の制御や新規業者の参入をブロックするのはおかしい。
だからカレンは自由市を立てて、物価の需要と供給バランスを自然にとれる様にしたのだ。品質保持を名目に、ギルドへの加入強制と新規業者の排斥処置は許せない。そうした規制の裏に、不正官吏の姿がある。自由市が首都民に好評なら、今後も規模を拡大して行くつもりだ。
不正は、関わった官吏の私腹を肥やし、掛かった賄賂は商品価格に跳ね返る。それもこれも領民をまるで奴隷の如く扱い、産業を起さず市場を育てない貴族と官吏の不合理な頭の所為である。メトリーズ勲章は、真面目な業者を選定して公爵家の後ろ盾を与える為にも存在している。
先ず、優良な商工業者を育てた後に、場合によっては官吏や不正業者と共に市民権を剥奪して追放をする。その為に、経済関連の規制法を整備する事を公爵と煮詰める積もりだ。
〜〜〜〜〜
【領館奥、中庭に設えられたパーティー会場】
クラスメートの4年Sクラスの9人と、カレンの友達のフロン、リリア、クリス、仲直りをしたいラヴィニアとパーティーを開いた。
「姫様、その飲み物は、泡がプチプチ弾けますのでとても変わっていますね。」カレンが持ったシャンパングラスの中身を、フロンが感心したように評した。可愛い色の液体が、シュワシュワと音を立てている。
「これは、アルコール控えめのロゼワインに、炭酸ガスを溶かした物ですわ。このグラスとセットで、今度、売りに出す積もりです。」「へー、凄く華やかな気分になりますから、パーティー向きですね。」
「ええ、このグラスはシャルドーニュを美しく魅せてくれます。」「それが噂に聞く、シャルドーニュですか。」「このグラスは、ガラス細工屋さんに新たな富をもたらせてくれます。それでは、神と犠牲になった命と料理を提供してくれた人々に、今日の糧の感謝を捧げて乾杯と致します。」手を合わせて黙礼をすると、
「チンチーン!」「「「チンチーン!!」」」
今日のカレンは、炭酸ガスを吹き込んだナンチャッテシャンパンで乾杯をした。シャルドロン区で採れた石灰を使うから、"シャルドーニュ"ってネーミングにしてみた。子供のパーティーの定番、フルーツポンチも用意はさせている。もちろん、炭酸水いりだ。
先ず一品目の、グリンピースのポタージュで口を湿らせる。その間にカレンは、「本日集まって頂きましたのは、私の入学記念のパーティーでも有りますが、招待状でお知らせした通り、1学期目で飛び級してこのクラスとは今学期限りと成りました。」Sクラスは、飛び級の可能性が最も高いし、授業が免除されている関係で皆には予想の内だった。
「「えー、せっかく姫様とお近づきになれましたのに〜残念です。」」フロンを別にして、あまり残念そうでない残念を貰ったカレンはソツなく愛想笑いを振りまく。「私は、まだまだ学院には通いますし、長のお別れでは無いので、そんな事情とは関係なしに今日は食べて飲んで楽しく懇親を行いましょう。」"パチパチパチ………。"拍手が、緑の芝生の上に鳴り響く。
前菜は、子供達の大好きなピッツァを各種取り合わせて焼いてみた。皆んな、熱々のチーズに目を白黒させている。次に、イギリス定番のフィシュ&チップスにした。モン・ビヨンヌ河には、琵琶湖大ナマズに匹敵する1トワ(約2m)に及ぶ巨大ナマズが生息する。
新鮮な海の幸が入手できないサラザードでは、河の魚が食卓にあがる。そのナマズの身に、ビールの入った衣を付けて天ぷらにしてサクサクの揚げ芋を付け合わせる。これには、タルタルソースとトマトソースが良く合った。
剛(=カレン)の若い頃の学生バイトで、大量のタルタルソースを作らされていた時期を懐かしく思い出す。
「ラヴィニアさん、どうかしましたか?先程から、食が進まない様ですが。」パーティーの参加者自体は、14〜5人程度なので、お互いに顔が近い距離にある。問われてラヴィニアは、キッとカレンを睨むと、「当たり前ですわ!貴女の方こそ、先日の件から考えて、よく平気でパーティーに呼べます事ね。」
その話をされて、存外にラヴィニアは気位が高いだけで素直に気持ちを表情に出せるほど正直なんだと評価を修正する。フムリと熟考する雰囲気を漂わせて、「ラヴィニアさん、貴女は何時まで生きられるお積りでしょうか?」「な、何よ!急に、私に死んで貰いたいわけ?」
「人間には、誰もが寿命という物が有るのですよ。私達の寿命は、長くてせいぜいが60〜70年位かしら、それも若くて元気な時は20〜30年位ですよね?その時計は誰にでも公平に刻まれます。」「そんな事は、承知の前ですわ!お父様が、貴女と仲良く出来ないなら他所に嫁がせると言われなければ………、」
「んー、貴女は寿命まで必ず生きれると思いますか?人間は、事故や病気に戦争でも亡くなります。今日の1日1日、一瞬一瞬が欠け甲斐のない大切な時だと思えれば、面白くない思いを引きずって過ごそうと思わないと感じませんか?」カレンは優しく包み込むように微笑む。
「そんなに大人ぶって背伸びをしなくとも、いずれ時が来れば大人になるのですよ?」「だって、沢山の兄弟姉妹の中で優秀さを示さないと要らないと言われるじゃ有りませんか………。」これには皆、身につまされる物が有ったと見えて下を向く人が多かった。
「それで貴族の誇りが如何とかですか?貴女のお父様は、領の経営者としては優秀かも知れませんが、1人の父親としては難がありそうですね。」ラヴィニアは反論しようと口を開きかけたが、逆に唇を噛んで言葉に出来なかった。
「良いですか貴族の誇りとは、領民に生きる目的を持たせて、それを全うさせる事です。生き甲斐を与える事が、人の上に立つ器量では無いですか?知恵を頼りにする者は知恵に溺れ、力を頼れば力に優れる者に敗れをとる。競争とは、こうしたモノです。ですが、人々に希望を与える者には敗れが無いのです。」
"智者は惑わず、勇者は懼れず、仁者は憂えず(=他人を大切に出来る人は、憂慮する事が無い)"と、孔子の言葉でカレンはその後も続けた。
皆が顔を上げる。もちろん、ラヴィニアも上げた。「人々に生き甲斐を与え続けて、どうして兄弟姉妹に敗れを取りましょうや?私はその点で、日夜自分と向き合っています。」ラヴィニアのは誇りに対する勘違いかも知れないが、多かれ少なかれ貴族の子の共通の悩みが"優秀さの証明"にあった。
真面目な話で、ちょっとだけ場がシンミリとしてしまったのでカレンが愛らしい笑顔で、「皆様、お食事の手が止まってますよ?ラヴィニアさん、ケンカが有っても、次の瞬間に仲良しになれるのが子供の特権では無いでしょうか。こうして美味しい物を食べて、ワイワイ楽しく過ごすのも楽しい人生の内ですわ。それで私は、貴女と仲直りしたくてお呼びしました。」
「姫様………、私はまた貴女に何か恥を掻かされるのでは無いかとビクビクして居りました……。」カレンが立って手を差し出すと、ラヴィニアはオズオズとその手を握った。この出会いが、後々両者の運命にプラスの働きを見せる事になる。
その後も、ムール貝の白ワインクリーム煮やら、鱒が材料の 魚の香草ワイン蒸しが続き、メインは 鴨のロースト・ビガラードソースが続いた。
「カレン姉様の着想の秘訣はなんでしょう?」リリアが無邪気に質問して来た。皆んな、まさか領地経営の秘訣を軽く教える訳がないと顔を見合わせるが、「簡単です。民がして欲しい事を、して上げるだけです。」リリアが目を丸くして、「そんな簡単な事ですか?」
「リリアさん、例えばこの鴨のローストのオレンジソースはいかがですか?私は、人生経験の浅い少女ですが、食べ物を摂らなくて生きて行ける人は、未だかつて聞いた事も、見た事もありません。」「私もです。」「なら、食べる事は、して欲しい事の筆頭ですわね。」
「姉様は、食べる事が大好きですね。」カレンは、クスクス笑うと、「このオレンジソースに使われているのが、アイテシアでも古くから栽培されている寒さに強いダイダイなのです。皆さんは、高価なオレンジを気楽に食べられたら良いと思いません?」
カレンが目の前の籠からダイダイを1つ取ると、ナイフでクルリと剥く。忽ち、柑橘系の爽やかな香りが辺りを包む。そういえば、この会場に来た時から、密かにシトラスが香っていた。
「ダイダイに、オレンジを接ぎ木してやる事で、アイテシアでもオレンジが作られると共に、今までのダイダイでも皮を蒸留に掛ける事で、このシトラスオイルが抽出できます。この様に、人々が求める事を満たしてやる事から産業が見い出せます。これは需要と供給の関係と申しまして、領地経営の基盤となす考え方です。」
「姉様は、こんな食べ物からでも領地経営を思い付かれるのですか?」「そうですよ?世の中は、工夫をすれば幾らでも産業の種には事欠きません。ラヴィニアさんのお家からミネット鉱を沢山買い付けましたが、これも反射炉と転炉の技術で1トンの鋼鉄を30分で作れる様になります。」
「どうして、そこまで領の事、民の事を考えられるですか?」と、フロンが聞くので、「私は"して頂くより"、誰かに"して上げたい"と思っているだけですわ。貴族とは、そうした存在では有りませんか?誰にでも胸を張って誇れる生き方が、貴族としての身の処し方でしょう。」これには、その場の貴族の子は衝撃を受けた。
彼等の知る貴族は、民を搾取の対象と見做して搾り取るだけ搾り取り顧みない、産業を起こし人々を豊かにして報いようとしない者達が多かったからである。カレンの言葉の裏には、そうした貴族に対する痛烈な批判が込められていた。
「所で、フロンさん。アンジェ城へ招待して頂けませんか?」「もちろん、お友達の姫様なら歓迎させて頂きますが、ご訪問の意図を伺っても宜しいでしょうか?」「遊びに行きたいと言えば可愛いのでしょうが、サラザードの建設領債を発行したので購入のお誘いと、いくつかの商談があります。」
「分かりました。領地に居るお父様に早速、問い合わせてみますね。」「お願いします。」その後も、楽しくパーティーは続いた……。
後日、フロンから訪問の承諾を聞き、旅行の日程と宿の予定を聞いた。片道1週間の旅程だが、途中の領で歓迎会があるはずなので予備日を含めて10日として、公爵夫妻が王都に出発する前に帰宅する予定で、合計1ヶ月を見る。
カレンは予備知識として、以下を調べていた。
・ヴェール・アンジュ区エリニエ領
○領都アンジェ=サン=ロード〈メーヌ川の畔の大都市。近くのラック・ドゥ・メーヌ湖に船着場がある〉
☆Château d’Angers(=シャトー・ド・アンジェ/アンジェ城)ロワール河とメーヌ川の合流点がほど近い。
○メーヌ川の支流
マイエンヌ川・サルト川・アポリネール川
○ロワール河の主な支流
アリエ川・シェール川・アンドル川・ロワレ川・ヴィエンヌ川・エルドル川
【旅程】
◎サラザード出発→
エランクール宿場町→
(山谷)エペルノン宿場町→
(ウール=エ=ロワール領都シャルトル寄り道)クールヴィル・シュル=ユーレ村→
(山谷)ノルジャン・ル・ロトルー宿場町→
サルト領都チヴィタス→
サブレ・シュル・サルト宿場町→
☆エリニエ領都アンジェ到着
一応カレンは、旅行で見聞を広めて、隠していた趣味を楽しむ積もりである。そうしてこの旅先で、意外な出会いが待ち受けていた………。
私事で恐縮ですが、コロナ禍で仕事が暇になるかと思いきや、今は日に3〜4件の相談と比例して仕事の依頼が増えて忙しくして居ります。登記も、法務局が2週間待ちの所、今は3〜4日とお役人さんは暇そうだ。その分こっちは忙しい、暇だった連休前後が嘘見たい。うちの事務所だけかな?
面白さのみで知識が伴わない物も、見かけの知識のみで実践の伴わぬ物もカレンの取る所では有りません。彼女は、産業は経済に影響をし、経済は政治に繋がるという事を知っています。ですから本作では普通に、公共事業と金融緩和、インフレとデフレに国債なんかの難しい概念と用語が出てきます。
というのが某有名ラノベで、"輪栽式農法"や"通貨経済"を軽く扱っていて流石に嫌になって途中から見なくなったからです。知識は良いから、作中ででも実験と実践をして見ろよと思う訳です。最近、忙しくてフォースの暗黒面に落ちている筆者でした......。
次回は、20-6/3日0時〜のリリース予定です。少し身の回りがバタバタして居りまして、都合により予定が前後します。




