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フロンとクリスの嫁ぎ先とカレンの考査。



この後、作品世界の設定の一部を流します。では、お楽しみになってください。

 


 昔ある所に、それはそれは小さな少女が居りました……。


 その少女はお姫様でしたので、とても大切に育てられました。大切にされては居ましたが、少女はまるで自分は飾り棚に入れられた磁器人形(ビスクドール)の様に感じていたのです。


 どうしてかと言うと、少女は身分が高すぎて恐れられ、近しくしてくれる人が居なかったからです。立派なお母さんは見守ってはくれましたが、忙しくして余り構っては貰えません。


 少女は、自分はなんて孤独なんだと感じました。


 そんな時、少年が少女に輝いた微笑みを向けます。少女の中の氷が、少年の太陽の光の微笑みで溶かされて行きました。


 少年は、とても身分が低かったのですが、幼い少女には身分差なんかは関係ありません。直ぐに仲良くなって、一緒に遊び始めました。


 ある時、少女は、身分の高い者が願ってはならない望みを少年に告げます。少年は、女の子の望みならばと請け負ってしまいました。それが少年と、少年の家族の不幸の始まりだったのです。


 少女は全てが終わった後で、少年と家族が追放された事を知ります。少女は泣いて悔やみましたが、知ってからでは全てが遅く、たった1人の友人さえ守れない自分の不明を恨めしく思いました。


「それが、私の気持ちの始まりですの。アドリアンさんの抱えている物に比べて、随分と軽い悩みですよね。後は、お母様の"貴族として誇り高く生きる"という願いを教えられました。」


「………………悩みとか、それぞれの人生に重いも軽いも関係はないやな。姫さんは姫さんの人生を、真剣に悩んで苦しんで生きていなさる。それが、姫さんの優しさ強さに繋がったんなら、悔やむほどの事ではないとあっしは思いやすぜ。」


「旦那様を受け入れるのは宜しいのですが、私ってそんなに危うげに見えましたか………?」「正確には、いつも1番に気がつくのはクリスの嬢ちゃん辺りでやしょう。フロンの嬢ちゃんは、余り個人の名誉に関わることは口にしやせんが、多分、気が付いていると思いやす。」


 あの2人は、うちの側近の中でも古株ですから、見抜かれても仕方ありません。


「私は、人生の最初に躓いて友達を一家ごと不幸にしてしまいました。あの少年に直接支援をする事は、私の弱味になり少年に更なる不幸を撒きますから、直接何かして上げる事も出来ません。だから、この国ごと良くして行けば、あの少年にも恩恵が訪れると思って頑張っています。」


「良いじゃ、有りやせんか?それで姫さんが、沢山の人々を大切にしようとしてくれるのでがしょ。何もしない負け犬よりか、何千倍かマシでやんすよ。」「それでも、幸せになるのが怖いのです。旦那様を受け入れたら、多分私は変質するでしょう。私の様に業の深い女が幸せになっても良いのでしょうか?」


「逆に聞きやすが、姫さんくらいに他人を幸せにしたり、それを願う人が幸せにならなければ、誰がいったい幸せになれるので?幸せというご馳走の味を自らが味あわずに、他人にその美味しさを本当に伝えられるのでげしょうか?」


「私がまた戦争の度に人を殺して、その人と家族の方々を不幸にしてしまいます。」「じゃあ聞きやすが、戦争を起こしたのは姫さんで?姫さんが、自分から人を殺めたいと願ったんで?違うでやしょ!戦争は、起こす方が悪いんで、大切な人を守る事は別に悪いことじゃないと思いやすぜ。」


「なんで、皆んな私に女である事を要求するのですか?」「世の中は、男と女しか居ないんでやんすよ。姫さんは、身も心も飛び切り上等な女で、これから母親になろうってんでやすぜ、なんで女である事を望んでいけないので?」


「だって、だって……。」「男は、良い女を守る戦いが出来れば本望なんで、女は、命を慈しみ育てる戦いをすればいい。頑なになっちゃ〜いけやせん。それぞれの戦場で、それぞれの本分を尽くさないとでやしょ?」


 空が白みかけて、内湾に近い海の朝は靄が先程から出始めて居たのですが、濃い煙りの様な微細な靄が立ち込めて来ました。フクロウの鳴き声も、ヨーロッパヨタカの羽ばたきの音も静まり返って今は聞こえなくなりました。


 不意に靄が流れ、その場が潮風に洗われます。するとそこに、傷跡も生々しい敵兵であった者の姿が現れました。皆一様に、立ってこちらを向いて注視しています。青白い顔で脚を引きながら首から血を流す者、胸に開いた傷穴から血を吹き出す者、顎を刃物で切り裂かれた者達…。


 予感はありました。それは死者の葬列。この世に深い未練と、憎しみを残す者達の集まり。私は、両の膝を突き、手を合わせながら死者達に恭しく(うやうやしく)こうべを垂れて祈りを捧げます。







 "………………聖女よ"





 "………聖女よ………"




 "我等は、そなたの清い心に洗われた……"

 "その、美しい涙に洗われた……"


 風が流れて靄が辺りを掠めると、まるで最初から無かった様に、開いて血を吹き出していた傷口も体の欠損も瞬時に修復されました。


 "我等は、この地の怨霊となりしを……"

 "なりしを……"


 "そなたの清らかな心に救われた…"

 "救われた…"


 "さあ、立つが良い。そなたは、そなたの道を進め"


 "人の命は短い…"

 "短い…"


 "後悔で立ち止まる暇はない…"

 "立ち止まるな、立ち止まるな"


 "そなたのお陰で、我等は天に召される"

 "生まれ変われる、また生きる"


 "ごめんなさい"を口にすれば、この方々の誇りを傷付ける事になるのでしょうか?と、そんな埒のない事を心に浮かべてみました。


 "故に聖女よ、振り返るな"

 "後悔の涙にくれるな"


 "我等が守りしを、そなたに預け逝く"

 "我等の心を受け継いで欲しい"


 "聖なる魂よ"

 "魂よ"


 "さらばだ………"

 "また会おう………"


 頭の中で二重奏のように亡霊達の声が響いて、温かな心が私の気持ちの蟠り(わだかまり)を溶かしていきます………。亡くなった者達が、私の前で次々と敬礼して天に昇って往きました。その光景は、涙が溢れるほどに美しいと思いました。


 最後に残った人が緑色の毛布を肩に優しく掛けて、"母なる崇高な魂よ、どうか、自らの体を大切に。そのお腹の子は、我等が守りたかった命と同じ故、大切に愛しんでください"そう言葉を遺すと、彼も天に召されていった………。


 私は思わず、「ありがとう御座います……。」を口にしていました。いつか、自分の口にしたセリフが頭を過ぎります。"人は、美しく有れば美しい……"と、自分が何の為にこの世に生まれ、何の為に生き続けるのか?その疑問に朧気ながら気付かせて頂きました。





「………………ーム。」



「マダーム、大丈夫ですか?お昼です、そろそろ起きてください。」私は、体を揺すられ肩を軽く叩かれて目が覚めました。


「う…ん、どうしたのです?フロン。」「良かった〜。マダームがお目覚めにならないから、皆んな心配して居たのですよ?」寝床の上から見渡すと、フロンやクリスを始め、私の側仕えや馬廻りの女性騎士も心配そうに私を見つめています。


 こんなに皆様が心配をするのは、旦那様が目覚めた時に傍らに居るべき私が失踪していたからです。旦那様は、大慌てで捜索をしたんだそうです。フッと、行き先に思い当たるフシに気が付いたアドリアンが、海岸の岩場で私を見つけたみたいです。


 岩場に辿り着いてみると、ちょうど人1人分より少し大きく盛り上がったツタが絡み合っていましたのでかき分けてみると、緑色の厚い芝草の上で猫のように丸くなった私が静かな寝息を立てていたんだそうです。


 "ぐぅ〜、キュルキュルキュルル……(赤面)"周囲に沢山の心配の目が有りますのに、なんだか落ち着くとお腹の虫が騒ぎ始めました。


「支度が済みましたら、朝食を摂りますので準備のほどをお願い致します。あと、食事は旦那様とアドリアンさんと摂りたいと思いますので、お済みでなければご一緒にいかがと誘ってみて下さいます?と、そう伝えて下さい。」天幕の外にいる男性陣にアニョスが声をかけに行きます。


 睡眠に落ちる前にアドリアンさんと話し込んで、とても切ない話だったとは思い出せるのですが、頭の中に靄でもかかった様にハッキリとした細部が思い出せません。優しい声をかけてくれたのは、アドリアンさんでは無いと思います。


 アニョスが困惑顔で戻って来たので事情を尋ねたら、「アドリアンさんは、近くにいらっしゃったのですが、この大切な時に旦那様が見当たりません。」「もう少し辺りを捜して頂けますか?」「謹んで承りました。」「あ、それと、糧食を調理している場所も捜索してください。」


 旦那様は、釣りを趣味にされるだけあって、少々の手料理くらいは作れますよ?そう思って居たらアニョスが直ぐにとって返して来て、やはり私の指摘通りにお料理をしていたそうです。追っ付け、旦那様もこちらへ来ると返事が有りました。



【1時間後】



 なかなか旦那様が来られ無いのでイライラして居ましたら、天幕の出入り口に人影がします。


 その人影に向かって、「もう〜、あなた!私に黙って勝手に居なくならないでくださいまし。まったく、名前の通りに(セルボラン)みたいに自由な良人(ひと)なんだから、少しは父親になる自覚を持ってくださいまし!」私は、ご主人様の何時も斜め上?を走る行いに悩まされていました。


「あっしは、"あなた"なんて呼ばれ方をされる覚えは無いんですぜ?嬢ちゃん。」アドリアンさんがニヤニヤしながら天幕に入って来ます。「入りやんす。よっぽど、旦那の事を待ちわびていた顔でやんすね。」私は人違いをした事に、思わず顔を真っ赤に染めます。


「おーお、昨日と今日で暫く見ない内に随分と可愛くなられやんしたな。」「だ、黙りなさい!取り違えた事は謝罪いたしますが、それ以上は揶揄わない様に。」彼が肩をすくめて、「へいへい、嬢ちゃんはご機嫌が悪いようで…。」と、了承したみたいです。


 私達は、側仕えが用意をしてくれた簡易テーブルに取り敢えず着いて、今朝がた何かを話し合っていなかったか?問い質してみました。「話し合うも何も、今朝方は嬢ちゃんが居なくなったんてんで、大騒ぎしていたんでやんす。そんな記憶は有りやせん。」


 んー、彼は詰まらない嘘を吐く性格では無いし、私もハッキリとは覚えて無くてフワッとした事しか言えないので、要領を得ない話にしかなりませんでした。何方にしても気分がスッキリとして食欲が出て来たので、不思議な所は幾つか有りますが"まーいっか"で追及するのを止めました。


 そうしている内に旦那様が、両手鍋を抱えて入って来ます。あまり食事の前に、旦那様に文句を言って険悪になるのは賢明な判断では無いでしょうね。何やら食事を作って来てくれたみたいですし、ここは有り難く頂いて置きます。


 他にも側仕えが、複数の鍋と食器も運び込みます。旦那様の鍋から開けると、以前に私が教えたクラムチャウダーが美味しそうな香りを立ち上らせていました。ジャガイモ(ポマ)と、ダッチオーブンで焼いたパンを千切ったのを入れてトロっとしています。チャウダー風味のパン粥みたいなものでしょう。


 私の体を気遣ったメニューに、思わずホロっとしてしまいます。他に、ポマと香味野菜(ミルポア)のトマト煮にウズラマメが入ったのと、乾燥ポマを戻してピーナッツと塩漬け豚肉を煮てザッと湯がいたサヤインゲンを彩りに添えたのです。


 ミルクとヨーグルトを混ぜてピスタチオを散らしたのと、カブ菜(ナベェ)のゴマ油和えなども有りました。もちろん、パン粥以外に私の大好きなカンパーニュも一緒です。これって、チャウダー以外は兵達と同じメニューです。


 私が軍隊に入って、1番に矯正したのが食事の不味さです。偶に、粗食に甘んじるなら納得しますが、何時もカロリー優先の不味い食事は許せません。こんなだから鬱憤が溜まって、敵地を征服した後で民間人を襲う輩が出るのです。


 バーゼルの軍隊食って、カエルやカタツムリ(エスカルゴ)ザリガニ(エクルビィス)なんて言うのも有りましたし、虫も揚げて食べます。前世で、蜂の子やらイナゴなんかも好きで食べて居ましたし、余り気になりません。イナゴは、脚のトゲトゲが無かったら、小エビの揚げ物のように香ばしくて美味しいんですよ。


 ひと通り毒味が済むと、神様にお祈りを捧げて3人で歓談しながら美味しく食事を頂きました。


 旦那様のクラムチャウダーは、アサリ以外のブイヨンに昨日のスズキの骨から取った出汁が使われているそうです。ジョルジュが気をきかせて、廃物利用を私が喜ぶもので、肉を取った後の頭や中骨でジックリと旨味を煮出したそうです。道理で、香り高いはずですわ。


 食事をしながら、旦那様に黙ってフラフラせず、もう少し父親になる自覚を持って欲しいとお願いしました。お願いという形にしたのは、ギャンギャンばかり怒っても、自分の顔がブスになるだけだと思うからです。


 アドリアンに遺骸の埋葬状況を尋ねて、問題が無いようですので、明後日の朝にバーゼルに向いて帰る予定です。あ、申し遅れましたが、私のバーゼル領モンテローザ軍での立ち位置は、軍師という役職が無いので総参謀と言った所です。


 モントイユ伯爵家とモンテローザ子爵家は、モンテローザ家の始祖の時代に兄弟という近しい間柄でした。モンテローザ家が代々、この北アイテシアの要の地を守護してきた功績で、子爵を拝命した時にバーゼル領を分け合う形になったのです。


 バーゼル総軍が動く時は、モントイユ家の当主に指揮権が有りますし、モンテローザ家のみで動く時は当主が指揮を執ります。私は、言わば当主代行になります。



【翌々日】



「ふう……、ただいま!私の町、私の猫達。」このシェルブールの町は、今までの人生で3分の1の期間を過ごしましたし、新婚生活などの大切な想い出が詰まっています。家令と下働きが、港までお迎えに来ていました。


 私達の新居は、シェルブール・アン・コタンティン港の丘の上に有ります。人口で、約1万人ギリギリの大きくも小さくもない丁度良い大きさの町です。


 バーゼルの領都はサン・ローですが、モンテローザ家は第2の都市バローニュを子爵家の領都と定めました。シェルブールから領都まで、だいたい7リュー(約27km)位の距離で、早馬なら30分程度で到着します。


 皆様が、それぞれの家に帰宅する前に、フロンとクリスに声をかけて翌日のお昼を共にする事を約束しました。


 はあ〜ん!我が家だー、落ち着きますわぁ〜。温泉の次に、我が家がいっとーリラックス出来ますね。玄関を入ると、尻尾をピーンと立てた猫達がお出迎えに来ます。ザッと50匹位は居て、足に絡むので踏み場に困ってしまいます。


 それにしても、お気に入りのあの子が見当たりません。「あれ、ボンは?」その場の召使いに、猫のボンが居ないか尋ねてみました。「ボン・シャンなら、馬小屋か鶏小屋に入って寝ていますでしょう。あの子はイタズラだから、余りご心配をには及びませんよ。」


 また、メスでも追いかけて、家出でもしているのかなと思います。夜中にでも、鈴を振って探しに参りましょうか。



【さらに翌日】



 食卓についてお祈りを済ませて食事を頂きながら、アーヴルの地で予感した事を2人に伝えます。「フロンさんは、アドリアンさんと結婚すれば宜しいと思います。」「いきなり、どうしてでしょうか?」「アドリアンさんは、ぶっきら棒に見えましても、あれでなかなかに優しい性格をして居ります。」


 フロンは驚いた顔をして居りましたが、元来が貴族家の娘である事からお相手を選ぶという感覚は有りません。それに途惑ってはいますが、そんなに嫌そうな顔をして居りません。些か、向こう見ず気質の婿君とシッカリ者の細君で、良いカップルになりそうです。


 隣でクリスが他人事の様に「おめでとう!フロン。」なんて、両手を打ち合わせて握手をしていますが、「クリスさんは、旦那様の第2夫人として嫁いで来て頂きます。」「いー!!!あの旦那様と?嫌ですよ、それにムッシュはマダームに夢中じゃないですか?マダームも、それで宜しいのですか?」


「貴女と私は、とても仲が良く女同士の争いには成りませんし、光マナ法使いなら家族の不意の怪我や疲れを癒してお世話も出来ます。お嫁さんに来て貰えたら、凄く助かります。それに、私に貴女達の嫁ぎ先を任せるのでしたよね?」


「あー!アレを聞かれて居たのですね。やだなぁー、あれは嫁ぎ先に困ったらの話ですよぉ〜。」「えー、私は都合の良い話しか耳に入りません。ともかく、私の希望の通りにしてくださいましね(ウインク)。」なんて、すっ惚け(すっとぼけ)てみせました。


「さーて、アドリアンさんの方にも話して、子爵家の養子にして貰いましょう。エリニエのアンジェ城には、私から説得の手紙を認めます。フロンさん、良いですよね?」「ああ、はい。マダームのお世話なら問題は無いかと……。」「やった、平民出身のアドリアンさんと、伯爵家出身のフロンさんの結婚は決まったようなモノです。」


「クリスさんは、早い内に母屋の方に引っ越してくださいね。旦那様には、後で話を通して置きます。やー、2人も片付き先が決まって喜ばしい限りですね。」クリスさんが私の強引さにアゥアゥして居りますが、普段から私達を揶揄って楽しんでいたお返しも有ります。多少、強引なのは勘弁して頂きましょう。


 クリスさんの幸せの為にもなりそうですし、私達と上手くやって行けると思います。どちらにしても、貴族の旦那様に第2夫人は欠かせませんしね。


 その日の夜、ベッドに横になって居たら、肩にユサっと重みを感じました。肩口に、ボンの黒くてツヤツヤした毛並みが見えます。お腹側は白くて、黒い瞳がムームーにソックリでキョロっとしています。


 私の唇を舐めると、体の上に乗って来て胸の膨らみに頭突きをして、ゴロゴロ喉を鳴らしながらフミフミして来ました。私は、ボンを撫でながら枕にした旦那様に、「このひと時が、猫好きの至福の瞬間なんですのよ。」と話します。


 あれから、何故か旦那様との間に距離を置かなくなりました。月に1日位なら、夫婦の睦み事も良いと約束しましたしね。あくびをして、ボンの背中に手を滑らしながら、クリスさんの事は明日話しましょうかと、眠気に我が身を委ねました………。



 〜〜〜〜〜



【カレン7歳貴族院クラス分け考査】


 算数は、ソロバン(アバック)を導入してヤル気のある官吏達に俺が教えたもんで、2桁程度の足し引きのテストは必要ないんだってさ。てか、初等部で算数について教えられる事は何も無いらしい。


 神学と国語については、神様のお名前が5つも書ければOK、俺みたいに120も正確に書けるのは異常だと。

 歴史も同じ、王室の系譜を3代も遡れたら上等なのに、英雄王リュイン家の家系と幸運王バロッテ家の嫡流から傍系までの系譜を上げたら、もういいと呆れられた。


 地理も、首都の名前とどちらに有るのかと主要都市5の名前を上げれば上等なのに、エンフォートの都市名は俺の名前だから当たり前に答えられたけど、北部の主だった都市名を上げようとしたら途中で止められた。"ぷー"っと、少し頰を膨らますよ?失礼するわ。


 国学についても、初等部に教えられる事は無いんだってさ。後は、午後からの教養科目と、俺の追試だけかな。


 奏楽とは、楽器を奏でる事を言うんだ。1人ずつテストを受けるのに、人数が人数なんで5つの教室に分かれて、初等部から中等部の音楽教諭が採点にあたる。課題曲を全部弾くのでは無くて、採点の教諭が良しと言ったら止めて次の人に交代をする。


 俺は面倒なんで、奏楽と詩歌を一緒に採点して貰った。普通は、楽器なら楽器だけとか、詩なら詩だけを個別にしないと、この歳で同時に上手く楽器を操れないのさ。


 子供用のハープの前で、俺は大好きなサッチモかヘプバーンかで悩んだけど、ヘプバーンの『月の河』を弾いたよ。詩だけは、この世界用に変えた。


 流麗な旋律と情感を込めた歌が、教室に響いていった。静まり返った教室からは、教諭のヤメの声がしない。"??"このまま、全部を弾いても良いのかな。演奏が終わりを告げて周りを見渡して見ると、誰もが陶然とした顔をしていた。


 タップリ、1分は経っただろうか、パラパラとした拍手が起こったと思ったら、教室の中が割れんばかりの拍手に包まれたよ。せんせー!って、先生からしてスタンディングオベーションかぃぃ…、両手をウェーブさせているよ…。ダーメだコリャ、採点はどーなるの?


「カレン様は、たいへん素晴らしい音楽の才能と詩才をお持ちでいらっしゃられますね。」いや〜、オリジナルは作って世間に広めたけど、今日のは気に入った他人の曲をチョイスしただけですよなんて、言いたくてもいえない。前世なんて言っちゃうと、頭がイカレたかと思われる。


「その曲は、カレン様の作曲による物かしら?」「ええ、まぁ…。」はぁ〜、誰だー!名曲は万国共通なんて、異世界で文化が違っても共通じゃんか!音楽教諭の若い女性が、キラキラした目で俺を見つめているよ。カリスマでも見るような眼の輝きを向けられて、良心がさっきからズキズキと痛む……。


「もしかして、目の前で作られたとか?カレン様は、音楽の天才でしょうか?」ヤメレ〜、もうホントに離してください。背中がさっきからムズ痒い。「そ、それよりも、採点をお願い致します。」「もちろん、音楽なら文句なくA(アーレト)クラスですよ〜。カレン様、私凄く感動しています。先生を弟子にして貰えませんか?」


 この先生、ひっっっじょ〜うに軽いわ。子供に教わろうなんて、大人のプライドを何処かに置き忘れたんじゃない?もち、「それだけは勘弁してください。デュエンファンテの公務もあって、大変忙しくさせて頂いて居りますの。」「そうですか………、残念です。でも、気が変わったら、ぜひぜひ宜しくお願い致します(ペコ)。」


 この後、大講堂に移って、俺の追試から始まった。のは良いのだけど、妙な衆人環視の中にいたり。入学者が一緒に観るのなら分かるけど、明らかに先生と思われる年嵩の男女が最前列で俺の手元に注目をしている。


 んー、まぁ良いや。人数が増えても、やる事は変わんないし、ザッと書くだけだからね。俺は、羽根ペンの先をインクにつけると。スラスラっと両手に持った筆記用具を走らせた。


 ヒソヒソしていた会場に、"おー"とか"ああ"とかの声が上がって、腕を組んで斜に構えていた先生も目をシバシバさせている。俺は、会場の皆に喋りかけて、「そうですね、適当に書いていると思われない様に、皆さんが良くご存知の神話で、ディアーヌ様の誕生の一節と、去年の学術論文でも要約して書面に起こします。」


 喋っている間も、手は止めない。10分ほどで書き終わったので、先生方に採点をして貰う。神話は修飾語が多く、語彙の抜けや表現の思い違いが出るから書くには難しい文章だ。原文と違えまいと思えば、相当な記憶力を要求される。


 多分神学教諭が、俺の書いた物と聖典と見比べて一字一句たりとも聖典と違わないと呟いたのは聞き逃さなかった。右手で書いた文章を見ながら、ヴィリエ先生が信じられなくて呆れた顔をしていた。なんせその論文は、去年のヴィリエ先生が書いた物だからだよ。


 論文は原文を書くよりか、要約して骨子を抜き出して文章に再構成をするのが難しい。論文を理解しつつ骨子に抜けが無いように、表現も最大の注意を払わなけれならない。


 ホンの10分、衆人環視の下で臆する事なく両手のそれぞれで完璧な文章を仕上げたのだから、集中してるよね?今後は、教室で書き物をしても叱られ無いと思うよ。


 何故俺が、やり過ぎとも言えるヒケラカシをするかと言うと、貴族の派閥力学が関係をしている。つまり、母ちゃんの実家が政治力・社交力に劣って派閥が小さいのがいけない。軍閥だから、しゃーない所も有るけどね。


 最初のお誕生会で、デザート対決に名刺とクッキーを配ったのは幼いながらの社交の一種だよ。先ずインパクトと共に、名前を売らなきゃいけなかった。


 父ちゃんは、ロレッタの当主とは言え、母ちゃんを娶った件で大きく貴族達の信用を下げたから、爺ちゃんの力が無いと公爵としての影響力に問題が有ったんだ。父ちゃんが母ちゃんを選んだのは間違いないと、俺が優秀さを示して2人を援護する必要があったわけ。


 驚くなかれ、暴政を振るうなどして貴族達の支持を失うと、絶対君主制の王様でさえ暗殺されたり幽閉されて、王の血族から新王が生まれたりするんだ。今のところ俺は、順調に両親の派閥を伸ばすのに貢献しているよ。


 全く、両親のハンデを幼い子供がカバーしなきゃって、どんだけ〜………。同じ公爵の子でも、母親の実家の派閥が弱いと幼い時から苦労を買わなきゃいけない。ましてや俺は、父ちゃんの陰謀でデュエンファンテを任されたから、"出る杭は打たれる"に負ける訳にはいかない。


 逆に、"出過ぎた杭を打とうとしたらハンマーで足を打った"位にしとかないとね。先生達が俺が書いた文章を見て、評価はまた後日になったみたい。クラス分けならば、相応の時日がかかるのは仕方ないかな。


 この後は、基本の社交ダンスを踊って終わり。5つのグループに分かれて、この大講堂でダンスを踊る。基本ステップを覚えていてさえいれば多少は下手っぴでもOKだったはず。



【ダンス】



 もう気楽に行こうっと、思っていました。終わって、論評されるまでは………。なんとなんと基本ステップでも、神経の行き届いた優雅過ぎる所作に講評は絶賛でした。狙った訳じゃ無いのに〜〜〜。


 後日のクラス分けが怖いかも………………。





※ちょい宣伝です。前から少しずつ書いていた、『リュウの世紀』という小説の1話めをアップしました。『産革しました』と違って、ハイファンタジー要素を強くして居ります。別に、"あり得ない要素"が嫌いな訳ではなく、産革はアンチテーゼとして書いているだけです。気になる方は、是非とも検索して読んでください。


今回は、カレンとミラベルの立場的に弱い面を書きたいと思いました。貴族って、派閥力学を大切にしますよね。


次回の本編は、'20-4/27日0時〜の予定で、多分また前倒しリリースをします。



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