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料理長の憂鬱。/後編<幕間>



では、お楽しみになってください。

 


 約600年前に始まるアイテシア王国の歴史は、英雄王(ロイ・ヘロイック)グザヴィエと智慧公(ル・サジェス)ボドワンに始まると言っても過言ではない。


 2人により、帝国が誇る精鋭軍と船団が海の藻屑と消えた後、20年も平和が保たずザームの侵略を受けて、我々の一方の祖先はガゾンブリア本島を放棄した。ゲール語で、Na hoileáin mhóra(=ノ・ホイレーン・ムヒラ/偉大なる島々)がクロンにとってのガゾンブリアの本来の名称だ。


 ガゾン=ブリアはアイテシア語の芝地(ガゾン)とゲール語から来た強い人(ブリア )から出来ている。ザームから言わせると、ソッド=ブリアンとなる。ガゾンとは、極寒の風が入ってくる北の海岸線地帯では、芝や低木が主に生えている為なんだ。強い人とは、ザームの事だ。


 我々カロリナの一方の祖であるLes Couron(レ・クロン)(=クロン人)は、キャナルの言語で冠などの被り物や髪型を指す。クロンとは、もちろんアイテシアから見た名称であり、ゲール人(ノ・ゲール)と称するのが正しい。


 それと、王国正史には余り出てこない、俺達カロリナの民が残した歴史書には2人の英雄の他に、このアイテシアを産み落とした母とも言える"フリジア"という女性の名が記されている。


 ボドワン公が唯一見染め、生涯を連れ添った女性だ。我々の歴史書によれば、常に困難な彼の戦いを陰から支えて建国を祈り、ロレッタ家に後継を残す偉業を成した。


 この地の人々にとっての辛い受難の時代であり、女にとっても正気を保つのが難しいくらいの艱難辛苦の時代と聞いている。そんな時代を生き抜いた彼女が、何故に正史の表舞台に出てこないのか?


 一説によれば、ドルイド出ではない彼女は後の貴族家の前提を覆すロレッタ家の不名誉なので、後世の史家が削ってしまったというのが有力な説であるが、陰惨な時代を生き抜いた彼女自身の不名誉を隠す意図があるとか、フリジア自身の苛烈な性格が災いしてという記述も見受けられる。


 マナは、誰でもが持つ。元素の力にまでに影響を及ぼすのは、神に認められたドルイドの力を持つ者の血脈だけだと一般には流布されているが、必ずしもその定説が正しい訳ではない。ボドワンとフリジアの血脈が、それを証明している。


 フリジアの何が智慧公と呼ばれるボドワンをして、その心を捉えて離さなかったのだろうか?今、目の前に立つ、この幼き少女はボドワンとフリジアの血を確かに受け継いでいる。


 その澄み切った瞳の色には、ただただ挑戦者の闘志が漲り、驕り高ぶる者の濁りは微塵も感じさせない。この少女とフリジアの目の色は同じだったのだろう、ボドワン公と同じくらい俺の心を捉えて離さない。


「でも、クレモンさんも何か言いたい事がお有りでしょうから、このまま、ウヤムヤにして後に禍根を残すのは、本意では無いのでしょう?」


 そう、またしても貴族のワガママかと、公爵様でさえ可愛い我が子と恋女房には勝てぬのかと、数日前にパーティで忙しい時なのにと放り出したクリームの件だ。第2夫人派というかカロリナ派なもので、正夫人であるミラベル様に便宜をはかるのは億劫なのもあった。


 それをこの少女は、公文書という証拠を揃えて一瞬で喉元に喰らい付いて来た。完全に、虚を突かれた感じた。だが、誰が予想をしよう、昨日今日別邸から本館に移ったばかりの幼児が、手厳しい監視者になると…。


 賢いとは聞いていた。材料や料理人にでさえ、感謝の気持ちを怠らない優しい性格だとも、、、お姫様なのだから躾は良かろうとも思ってはいたし、本気で平民である料理人を相手にはして居ないだろうとも甘く見ていた。


 だが、この少女はそんなスケールでは収まらない、賢い肉食獣の様に機敏で頭が回る。そして、平民相手だからと言って油断もされない。背中に、冷や汗が落ちたので、思わず間抜けな返事をしてしまった。


「あ・・・、ああ・・・??」


「今、思い付いたんですが、パーティーの余興で私とデザート対決などはいかがでしょう?………お披露目なら、私の印象をバッチリ付けるのが良いと思いますよね?」


 思い付きや余興などと誤魔化してはいるが、少女の目はそうは言ってはいない。触れたら、たちまち切られそうな澄み切った闘志だけが伺える。


「まあカレン、なんて素晴らしいアイディアでしょう。」そんな、ミラベル様の言葉が遠くに聞こえた様に感じるくらいにショックを受けた。


 そうだろう?厨房とは本来、やんごとなきお姫様が興味を持つやら近づけるやらの場所ではない。俺は下位の爵位を貰ってはいるが、本来なら卑しき身分の平民の料理人と顔を合わせる事も、会話をする事もなく料理という成果のみを味わうのが普通だ。


 当然、公爵様がお止めになられると思っていたが、この調理経験のなさそうな繊手の持ち主に意見される事なく会話は進んでしまった。


「クレモンさんも言いたい事が有ったら、料理人なら料理で言ったら如何ですか?私、うじうじイジイジされるのが、1番嫌いなんですのよ。…」


 Mon=(モン・)Beyonne(ビヨンヌ) キャナルの言葉で、モンは"私の"と言うほどの意味であり、それほど誇りに思う大河にゲールの言葉のVehiaidh(べライド)に語源を持つ造語が足されている。キャナルは、母なる水にまつわる言葉には〜ineなど女性名詞を使う。この場合は語呂の関係で、〜neと省略されているんだ。


 約2000年前のキャナルが、クロン(ゲール)をどう思い受け容れたのか想像も着かないが、海峡"を越え"(=〜Vehiaidh)来たりて、彼等の誇りとする河のほとりに住み着いたクロンを、少なくとも粗略には扱う意図は感じられない。


 我々カロリナは、クロンとキャナルの困難な時代を共にして来た証でもある。だが俺達の血には、ゲールの誇りが脈々と受け継がれている。ザームに侵略を受けて追い落とされた、ゲールの正当王家の血脈を受け継ぐカロリング家に立ち上がって欲しいという思いもある。


 ともすればそれは、今まで運命を共にして来たキャナルに対する裏切りと捉えられるかも知れない。


 同化したキャナルと離れる事を良しとしない融和派も、いずれガゾンブリアの地に再び我が王家の再興を目指す分離派も、単純一様な気持ちで己れの立場を明らかにしているのではない。


「分かりました。やりましょう。」


 俺は、この燃える瞳の小さな少女の挑戦を敢えて受ける事にした。勝っても負けても、とんでもない誹りを受けるだろうとも、キャナルがあの巨大な帝国に挑んだのと同じ、倦まず弛まずの闘志に満ちた瞳に嘘を吐きたくない。



 〜〜〜〜〜



 ………負けた………、言い訳のしようがない位の完璧な負けだ。あの少女は、この俺マジシャン・デ・レギュームでさえ眼中になく、パーティの招待客を楽しませる事を第一に考えていた。例え、パティシエで無くともシェフ・ド・キュイジーヌなのだ、パルティの代わりが務まらなくてどうする。


 少女は、部屋の設えからして香りや雰囲気にまで気を使い、味の技術に至っては平凡そのものの材料を使って、奇想天外にして理に適った手法を披露してくれた………。


 1作目のドライフルーツ入り(ヴィジタンディン・)フィナンシェ(オウ・フリテス・セク)は、一緒に出るのがハーブティに差し替えられても、アーモンド(カニッシュ・オゥ)プードル(・アマンデ)をふんだんに使用しているのだ、俺が負けるはずが無い、勝って当たり前の内容なんだ。


 獅子が仔ウサギを相手とした時でも全力を尽くす心根で、万全を期した積もりの菓子でさえ棄権が出た為に辛勝。実質は負けだろう。なんせ少女は、平凡な材料でありふれた手法をクッキーに利用しただけ。例え、ハーブティとマリアージュさせた結果であっても驚きの軽やかさだった。


 そして真の驚きは、2作目以降なんだ。俺が歯牙にも掛けなかったゴーフレットという素朴な菓子をコーン形状にして、2種類のサッパリとしながら滑らかなクリームを乗せ、仕上げは甘酸っぱい木苺(フランボワーズ)のギモーヴがあしらわれていた。


 女の子が作りましたと言わんばかりの、クリームとギモーヴ(コロネテ・デ・)を宝冠に乗せて(クレメ・ギモーヴ)と名前に相応しい可愛いらしさ。


 鋭敏な舌を持たねば分からぬ丁寧な仕事で、時にはギモーヴの酸味をスポイルしてしまう重たいバタークリームを、メレンゲで軽くして全体的に酸味を前に出しつつ調和をさせている。


 味は言わずもがな、パリパリとしたコーンの食感と、フワクニュとしたギモーヴの食感。両者を繋ぐ滑らかなクリームが、舌にとろけて楽しい。


 ガトーに至っては、俺が2作目で出したプディングのより洗練された物が入っていて、カラメリゼの見た目と香りの演出が追加されていた。


 プリンケーキガトー・ア・プディング・カラメル風(・ア・ラ・カラメリゼ)だったか、新大陸産のカカウエッツテを使ってナッツの香ばしさをスポンジに加えて、それまで余り使われて居なかった素材に光りを当てている。


 値段だけみていたら見落としがちの、低価格で有用な素材を自分の舌で探したとしか思えない。でなければ、神様のご啓示か?それが、領の経営ともマッチしているのだ。さすがに、貴族家のお姫様だけあると思わずにはいられない。


 いずれにせよ、少女が半年以上前から料理人と接触を持たなけば、どんなアイディアであろうとも、こんな多くの出席者分のデザートで繊細な味の再現は不可能だ。


 俺は3年で厨房を掌握して、シェフ・ド・キュイジーヌに上り詰め巡爵まで下賜されたと思っていたが、あの少女は産まれて3年も経たずにメイドと側仕えを統御して今回の件に当たらせた。


 ストーブ番はトゥルナンやロティシエールに属する別邸勤務のパルティだったし、報告が上がりながらマサカと無視をしていた。少女から配下の掌握が足りないと言われたら、実際の話一言もない。


 掌握し切れていない甘さと、カロリナに傾注し過ぎる危うさと、アイテシアの弱点と、獅子身中の虫の可能性を示唆した少女。料理の技術でさえ、全部渡されると言われる寛大さ。勝負にならない訳だ。最初から俺の事は問題ではなく、その先の国と人々を見ておられたのだ。


 誰よりもこのアイテシアを憂い、純粋無垢な愛情を注ぐこの方以外に人の上に立たれるのに相応しい方はいない。領民を養う為に新大陸の作物を導入され、俺の料理人としての腕は姫様に必要とされている。


 何や彼やで対決の日は終わり、通常勤務に戻ったと思ったら、姫様が厨房に来られて俺に技術指導をしてくださる。


 この方は意外に、聞き上手なんだ。調理技術習得の為に色々とお話をする際に身の上の事を細かく聞かされた。そして、俺の方からも相談に乗って貰った。


 どうしても理解できなかったのは、母の心情だった。それを、面識のない間柄にも関わらずズバと言い当てられた。その姫様の分析以外は、まずあり得ないだろう。


「それはクレモンさんのお母様が、クレモンさんに真っ直ぐに育って欲しいが為の演技ですわね。」「どうして、そうなるのですか?」「んー、お父様のペンダントが有るのに、遂に亡くなられるまでお父様の事だと口に出されなかったのですよね?」「はい。」


「ならば、お母様はお父様に捨てられた事は遠に悟られていたのです。」「なぜ?」「子供にとって、父親というのは尊敬の対象で無いと、素直な良い子に育ってくれないからですわ。お母様は、思春期の貴方に自分のルーツであるお父様を恨んで、人生の浪費をして欲しく無かったのです。」


 この姫様は、亡くなる前の母と同じ慈愛に満ちた微笑みで、「母親が父親の愚痴をこぼす家庭は、多かれ少なかれ荒れてしまいます。それは、愚痴をこぼして軽んじてしまうパートナーを選んだその母親も大した事はないと賢い子は思うからです。だから、人間不信になって言う事を聞かなくなる。」


 幼い少女なのに何故だろう、こうした時の姫様はとても大人びて見える。「子供の心に、愚痴で空洞を穿つようなら親失格でしょう。その点、貴方のお母様はご自分の中の不安やドロドロとした感情を飲み込んで、慈愛ある笑顔でクレモンさんを包まれたのです。」


「そんな、母親とはそこまで偉大になれるモノでしょうか?」「子供を心底愛していれば、どこまでも偉大になれるのです。愚痴をこぼさず、人を恨まず、他人の悪口を言わず、倦まず弛まず愛情を注ぎ続けられる。人生の手本を示される母親とは、そうしたモノでしょう?」


「なるほど確かに母の口癖は、"他人の悪口をこぼしたり、嘘を吐いて人を騙したり、暴力を振るって他人を傷付ける様な人にはならないで"とよく聞かされました。そして、自分で言った事を実行する人でした……。」


「それは、貴方に語ると同時に、甘やかしたい自分を戒める言葉なんですのよ。人は、美しく在ろうとすれば美しく、醜く在れば醜い生き物ですから、お母様は貴方の為に自分を厳しく律した。クレモンさんを、何より愛して頼りにされていた証拠です。」


 そこまでの愛情を注がれて居たとは、目頭が熱くなる。「だから片親であっても、いえ片親だからこそ、自分の犠牲を厭わず、貴方を立派な人間に育てようとなされた。今、貴方の側にも別の母親が居ますよ?」「誰の事です?」


「まだ、ボケのくる歳では無いのに嫌ですわ。コリンヌさんは貴方のお子さんを産んだ立派な母親でしょう?父親の役目は、人生の手本となるよう妻子を命を懸け魂を懸けて守る切る事です。そして夫婦は仲良く、お互いに感謝し合うのが最上です。」


 う………、俺は思わず目をこすった。母さんと、姫様がダブって見えた。母さんは、"夫婦は仲良く、ありがとう"と言って死に臨んだんだ。「夫婦円満の秘訣は、どんな小さな事でもお互いに感謝をする事です。今日、帰宅したら、コリンヌさんに何でも良いから、ありがとうを伝えると良いですよ。」


「そうなんですか?」「はい、ご飯を有難うでも、子供を産んでくれて有難うでも、君がいてくれて有難うでも、考えれば理由は沢山あります。"ありがとう"と言われて、不機嫌になる人はまず居ないでしょう。」


 帰宅して早速、言われた事をコリンヌに試したら、「あら、貴方どうなされたの?」と大きな目を見開いて尋ねて来て、そこはかとなく嬉しそうだ。


 だものでバツが悪くなって、思わず姫様の言われた事を話したら、「そう、姫様が言われたのね。凄く良い事を聞かれました。」種明かしされても、まだコリンヌは嬉しそうに声が弾んでいた。


「貴方が不器用なのは付き合う前に知ってはいたけど、女はね、"ありがとう"や"愛している"の気持ちは、形にして貰わなければ不安に思うものなの。」「お前もなのか?」「ええ、どんなに不器用で僅かでも良い、形にして貰わないと無いのと同じです。」


 そして自分の胸に俺の手を導いて、「私が選んだ貴方は自分に嘘を吐けない人、その言葉の重みは千金に値します。ほら、貴方の言葉は私の胸をこんなに高鳴らせますわ。」そう言うと、肩にしな垂れかかって来た。


 夫婦になって、もう15年という歳月が流れて夫婦の間に5人の子供を設けようと、今夜の2人は新婚当初の気持ちが蘇った。「貴方は100年に一度、出会えるかも分からない良い主人に巡り会われたのです。」「つい、数ヶ月前に3歳になられたばかりの少女でもか?」


「人生の師に、年齢は関係ないです。経験をどこで積まれたのか分かりませんが、神様の思し召しを言葉になされておられるのかも知れません。なら、その方に付き従う限り、ずっと幸せな人生を歩むことが出来ますわ。私達と同じ、お互いを幸せにする出会いとはそうしたモノです。」


 その夜は、姫様のお陰で久しぶりに夫婦の甘い時を過ごさせて頂きました。


 それにしても、カレン様はとても不思議なお方だ。喋れば大人顔負けなのに、時には歳相応のイタズラをなされる。


 そう言えばこの前なんか、姫様がキャッキャと笑って話されるイタズラの内容が可笑しくて、シェフも下働きも関係なく厨房の皆んなで笑い転げたな。


 先代様ご夫妻と公爵様ご夫妻に、ベーク・ド・(パタ・ドゥース)スイートポテト(・オゥ・フォー)(=石焼き芋)を、身がねっとり半透明のクリーム状になる位にジックリと蒸焼きされて出されたそうだ。


 お母上のミラベル様には、事前に皮ごと召し上がる様にお話をされたそうなのだが、公爵様と先代様ご夫妻にはお話をされず、中身だけ美味しい美味しいと食べた人はオナラ()(=pet)が止まらなくなったとか。


 あの、厳格な先代様や公爵様がぺが止まらず目を白黒されたり、特にマナーが服を着られたような大奥様が慌てて自室に戻るさまを言葉巧みに解説される姫様の語り口が上手くて、お腹が捻じ切れるかと思った位に笑った。


「そんな事をされて、後で叱られなかったのですか?」と聞いたら、「そんなのは澄まして、"お爺様とお父様が私の寝顔を覗いたからですわ"と言うのです。そうすれば、お祖母様のお怒りはお父様親子に向かいますもの。」ははっ、この方には公爵様も形なしだ。


「それでも、叱られましたけどね。」チョンと舌を出されて頭に手をやる仕草をされると、歳相応のイタズラな少女にしか見えない。姫様の可愛いイタズラに、誰もが笑顔になる。


 サプライズ(シュープリーズ)と言われたと思ったら誕生日のプレゼントを下されたり、この前はあの見事な銀髪を紅く染め上げられて下働きと一緒に昼食を摂られたり、下働きの食事は残り物だから姫様に合わないのを注意するリーラ様が大変そうだ。


「何で?あの子達も同じ人間でしょう?それに私、食べ物を粗末に扱うのは性格に合いませんの。」という姫様にリーラ様が、下働きだけでなく残飯整理も口にしますので残らないとマズイと言われて、やっと諦められた。


 そして遂に厨房の一角を占拠されると机と椅子を出されて、クリームブリュレやソッフレは厨房で食べないと味が落ちるとゴネられオヤツの時はそこに居座られた。


 もう慣れて、姫様が居ても誰も緊張し過ぎる事は無くなって厨房が明るくなる。農業試験場や厨房に関係のある平民達は、姫様と適度な距離を見つけたみたいだ。試験場や厨房の皆が、飢えから人々を救う為の意義ある仕事だと理解して気合いを入れている。


 そう、姫様と関わると、誰もがヤル気になるみたいだ。俺の身の上から、橋や街道の流通関係の税が撤廃された。


 ヴァン・センヌの官吏達を睨みながら、「経済(エコノミエ)とは何なのか、誰か説明ができますか?」と問われ官吏がしどろもどろする中で、「物流サービスです。」と簡明に述べられた。


 それは何かと問われ、「物を作り、右から左に流し、売り買いする事です。売り買いする市場があって初めて、利益が出て税金が取れるのです。流通に税金を掛けるのは、市場を狭め経済を鈍磨させる愚かな行為ですから、直ちに市場を圧迫する税金の取り方を改めなさい!知恵のない者のやる事ですわ。」


 これまでの、どんなお偉い貴族の千言万言より、姫様の一言の方が分かりやすい。歴史を通して間違いなくこの姫様は、最も民に興味を示した名君と呼ばれるだろう。


「外形的に税の先取りをするのは、経済を失速させて皆の不幸を呼ぶ最低の政策ですわね。利益から税を頂戴するってプリンシプル(プリンシーペ)が、怠け者の官吏には理解できないとでも言うのですか?そんな有害な頭なら、肩凝りするだけ無駄だから捨ててしまいなさい!」


 そんな、貴族院高等部の学生でさえ及ばないであろう貴重な天才が厨房に出入りしているのだから、事故でも起きないかハラハラしてしまう。


 とりあえずリーラ様とのお約束で、体が大きくなる初等部に上がるまでは厨房の人混みに入ってはいけないと言われたみたいだ。俺も、それだけが気がかりだ………。


 この姫様には、カロリナもザームもキャナルもロマもなく、それ所か貴族も平民も神官でさえも重要な事ではない。ただ、皆んなが響き合って共に生きる生命なんだと言われているだけだと思う。


 俺は何を頑なに拘って居たのだろう、我々はこのアイテシアの地に生きる同じ国民だと叫ぼう!






当作を3/2日分といたしまして、3週間の頭の休養と書き溜めを行いたく思います。'20-3/23日0時〜再開する予定です。

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