カレンのラブソング。
では、お楽しみになって下さい。
「よし!カレンが言うなら、早速、明日の朝議で農業試験場と苗の購入の根回しをしよう。」「私も賛成いたしますわ。」母ちゃんが、父ちゃんを頼もしげに見上げる。はいはい、熱い熱い。リア充爆発して!(苦笑)
「最初の試験場は、無理ならさほど大きくなくて構わないので農家の方々を2〜3名は雇うようにしてください。先ほど確保した労働をしてくれる人に、農業を教えて貰うためです。あ、それと、労働の結果が出たら対価を支払うことも提案いたします。」
「なに〜、罰じゃなかったのか?」
「お父様は罰を与える時に、期限について口にされて居られませんでしたよね?最終的に、私が身柄をお預かりしたのですから、罰としての期間を定めるのも私が決定いたします。3か月のタダ働きで、あの家族の分は終わりにしましょう。ポマなら、丁度3か月くらいで結果を見れますので、労働結果に相応しい対価をお願いします。」
誰が、一生タダ働きなんて言った。モチベーションに関わるから、チャチャと出すもんはだしな。
「なんか、カレンに良い様にされている気がする。」「父様、娘に上手く騙されてやるのも父親の器量の内ですわ。」「そうか・・・な?」「はい、チュッ!」投げキスをしたら、父ちゃんがデレデレしてら。丸め込み成功!母ちゃんが、楽しそうに微笑んでいるわ。
これで、あの2家族は実質的にお咎めなしだ。あの2人は、給料は出るし家族をハラハラさせたんだからシッカリと調理場を磨いて貰おう。
「ギルドの方々は、早速プレとポマの苗を購入して納めてください。」「まだ、予算が通って居りませんが宜しいので?」「構いません、善は急げと申します。プレは時期が悪いので来年に回して、とりあえずポマの苗を200本ほど購入致しますので、10日後に納めてくださいませ。この程度の案と予算であれば、デュクとデュチェッセが頷けば直ぐに通るはずです。」
そうこうする内に、ジャガイモのロスティが来たわ。ポマを生のまま千切りして塩胡椒で味付け、バターで焼くと出来上がる。ポマのパンケーキ風の食べ物だよ。新鮮なポマなら、皮を剥いて洗って切るだけでポマのデンプンで引っ付くんだけど、芽が出て緑色になりかけたやつは水曝しをして小麦粉でデンプンを足したら綺麗に焼ける。
付け合わせは、シンプルな塩キャベツだ。ても、姫茴香の身とローリエは欠かさない(どちらも、アイテシアでは、割と古くからあるポピュラーな香辛料)で乳酸菌発酵させるなら多めに甘味を足すけど、そんな時間は無かったから少ししか入ってない。本当は、1週間〜1か月漬けたら食べ頃なんだけどね。
ザワークラウトの方が、馴染みがあるかな。酢キャベツとも言うけど、漬け物なんで保存発酵で嫌でも酸っぱくなるからビネガーが入るのは邪道だと思う。シュークルートは、前世でもよく作ってたからね。ハムや腸詰めには最高のお供なんだけど、日本ではあまり食べられて無かったかな?
「お嬢様、これは?」「ポマのロスティと、シュークルートです。」ロスティは前世のスイスでの名物料理で、シュークルートはアミエンス地方の伝統料理。「ロスティは初めて聞いた名前だが、なかなかに似合う名前だな。」「普通なら小麦粉は要らないのですが、水に曝すとデンプンが流れて、小麦粉をまぶさないとバラバラになってこんな風には焼き上がりません。」
あー、言って無かったわ。前世の俺って、高校の頃からレストランのバイトをしていた関係もあって、趣味は釣りと料理を挙げる位に堪能だった。当時から、手を動かしながら頭を使うのは得意だったし、文章のキモを探すのも不思議なほどに上手かった。
勉強と言うか知識を溜めるのが好きだったんで、試験に苦労した事は無かったなぁ〜。自分の頭が良いなんて一度も思った事は無くて、手を動かしながらでも思考が練れたんで、その辺りの違いじゃない?
ガリ勉の苦痛が好きな人は、それで司法試験を合格しちゃうんだろうけど、もし、何年もトライしてダメな人だったら、知識を溜める喜びを知った方が良いよ。(俺の時は無かったけど、司法試験受験資格は平成18年から法科大学院卒などで、受験上限は5年間に3回まで)法律は生活に密着しているから、幅広い知識が無いと法文の向こう側が見えないからね。
「ポマのフリットもロスティも、驚くほどに簡単に作れて、今皆さんが感じているように、すぐ満腹になります。この後、プレセチェスもご馳走いたしますので、余興を入れて腹ごなしにしましょうか。」
はー、満腹だわ。幸せって、ここに有ったのね。
今日は朝からキチキチのスケジュールでさ、息つく暇も無くて、いっぱい喋って、頭もいっぱい使ったから疲れて眠気がしてきたわ。お客さんも居ることだし、ここでウツラウツラする訳にも行かないから得意だった音楽で、おもてなしでもしよーか。
用意していた、吟遊詩人さんも使う小さなハープを取り出して心を込めて歌った。
「タイトルは、"西南の風と共に"です。」Avec le vent du sud-ouest(=アベック・レ・ヴォン・デュ・シゥーブェスト)
前奏なしのア・カペラでこの部分から始まり、
風の中で舞う花の精のように
Comme Clarice dansant dans le vent.
(=カミュ・クラリセ・ダンセント・ダンス・レ・ヴォン)
地の精を潤す水のように
Comme de l'eau qui hydrate Electra.
(=カミュ・デ・ルゥ・クゥイ・ハィドラター・エレクトラ)
この世界は共に生きている
Ce monde vit ensemble.
(セ・モンデ・ヴィ・アンサンブレ)
詩の後からスマートな曲調で、ごく簡単なコード進行の繰り返しなんだけどポンポンポローンとハープで奏でながら歌うんだ。後の詩は、長くなるから残念ながらカット。管楽器をするとは言ったけど、好きな弦楽器を使えないとは一言もいってないよね?リハーサルでは覚えているかよりも、寧ろこの体が付いてくるのかが心配だった。
どう、綺麗な詩でしょう?(エッヘン)"ダセント・ダンス・レ・ヴォン"とか、素敵な人に耳元で囁かれたら痺れちゃう。て、?、??、はて???、誰に言われたら痺れるって???まさか、お・と・こ!!!ひぃ、サブイボが〜〜〜〜〜。かわいいおんな、女の子だよ!(汗汗)
まさか公爵家の跡取り娘が、結婚をしない訳にはいかないよね?んー、んー、女誑しは好まないけど、夜のお役御免をするには背に腹は変えられない。好きじゃない、好きじゃない、嫌いだけど、誑しを婿にとるしか方法は無いかも・・・(泣)。
父ちゃん母ちゃんゴメン、我が家が断絶しない様に頑張って弟か妹を作ってくださいと、心の中の両親に手を合わせた。正直、これから訪れる思春期は、自分の体がどう出るのか分からないから怖い。とりあえず、先の話なんで今は未来の自分に丸投げしとこう。
神話によると、ケレースの7番目の末娘クラリセを、アネモイの3番目の息子ドゥエート(西南風を司る)が攫って強引に妻にするんだ。ケレースの目から隠すのにドゥエートは、クラリセをインパチェンスの花に変えてしまう。
懸命に愛娘を探すケレースの姿に次第に罪悪感を覚えたドゥエートは、クラリセを元に戻そうとするが、いくら元に戻そうとしてもインパチェンスの姿のまま、ドゥエートを拒む様にその実に触ると弾けるだけだった。
ケレースに全てを打ち明け、懺悔をしたドゥエートは変わらぬ愛の誓いを立てる事を条件に、ケレースの力を借りてクラリセを元に戻す。クラリセに許しを請うて、ドゥエートとクラリセは晴れて心からの夫婦になったという。今では、夫婦和合の象徴になっている。
ドゥエートのその強引なまでの情熱と愛情、クラリセの光り輝くような魅力は、この国の愛の語らいには欠かせない材料になっている。例えば、「私の風の神、攫って貴方のクラリセにして欲しい。」なんて、女性からの情熱的なプロポーズの一節だよ。
「俺のエレクトラ、君を潤す水になりたい。」となれば、大胆な閨への誘い文句だね。まー、神話はこんな風に、日頃の語り合いに使われているよ。何で知ったかって?それは・・・父ちゃ、ゲフンゲフン・・・本で読んだから・・・(笑)。
ま、ともかく、半分くらいはラブソングな方が、民衆には受けが良さそうだよ。
「ギルドの方には、ポマやプレを広める時には一緒にこのラブソングも教えて欲しいのです。助け合いの大切さは、まず夫婦恋人同士から意識させるのが良いと思います。難しい理論より、人々の心に訴えかける歌を流行させるのが良策です。」「はあ、何というかお嬢様は多芸多才ですなぁ。」「あら、それほどでも(微笑)」
へ、ミラベルさん?さっきから、手が止まって目が熱っぽくて虚ろなんですが・・・。「ほぅ〜〜〜、」吐息が熱そ。「カレン・・・、ほんとうに素敵な詩だわ・・・。」て、母ちゃんご臨終気味ですか、、、。くぅ、俺を男に産んでくれてたらなー、詩才で可愛い女の子を引っ掛けまくりなのに・・・。
まーね。母ちゃんとは言っても、18歳で俺を産んで今は21歳位だから、子供が居ても乙女盛りなんかな?
「ねぇ、カレン。」「お母様、何でしょう?」「今更驚かないけど、どうして習ったこともないハープが弾けるのかしら?」「芸術の女神でいらっしゃいます、ディアーヌ様から天啓を頂きました。」突っ込まれるのは想定してたんで、用意をしていた応えを返す。
「ほう・・・、ディアーヌ様からもご加護を頂いているとは、将来はミラベルと同じく絶世の美女になるかもな。」ディアーヌは、愛と美と芸術を司る女神だからね。「それはもう、お間違いは御座いませんよ。」ギルド長のお追従がちっとキモい。
当人より、恋人にしたり嫁にもらって外から見て嬉しい方は良いさ。紅いのが綺麗な外車に乗せて貰った事が有るけど、内側から見たら日本車と大差ないぜ?外から、走っているのを見るからカッコイイと思うな。特に俺は、美人は良いけど絶世の美女にまではなりたくないわ。運命に翻弄される、『佳人薄命』はヤダ。
そうこうする内に、たこ焼きの準備が整った。たこ焼き器は、普通のフライパンを丸く凹ませた鉄板を作って、タコの代わりにバコンが入ってんの。紅ショウガの代わりが、プレ・セチェスの千切りなんだ。ポロネギのみじん切りと、揚げ玉も一緒にピックを使って焼くと、バコン・グリルの出来上がり。
「シトンの皮を摩り下ろして入れた、シトン塩をチョンと付けて、皆さま召し上がってください。」「「「ありがとう」」」「これは、肉が主役なのは初めてだな。」「はい、昼食がしっかりとして居りましたので、ディナーは肉を控え目にしました。クレモンさんが、野菜を上手に使って居られましたのでシツコクは感じませんでしたけど、私には少し重めでした。」
「それは、申し訳ありません。」「いえ、パーティー料理ですから、気にしないでください。いつも私の健康に気を使って、野菜サラダやヨーグルトをメニューに取り入れて頂いている所には感心しております。」「それは、大変ありがとう御座います。」「所で、昼間のガトー・ア・プディング・ア・ラ・カラメリゼは、どの様に感じられましたか?」
「素材の選定から技術まで、非常に驚きました。何か、他に有りましたでしょうか?」やはり、「クレモンさんも、生菓子の方でプディングを出されて居られて、カラメルが使われてましたよね。」「ですが、お嬢様のとは比べ物にならな、」ニッコリとして、「気が付かれましたか?」
「同じ材料でも目の前でお料理をされるのと、厨房で作られて出て来るのとでは愉しさに差があります。」「ほう、という事は、」「お料理には狙った温度と、目の前で仕上げをする演出の楽しさが有るのですわ。この、バコン・グリルにしてもそうですが、目の前で仕上げられると、それだけ熱々なのと香ばしさを感じますでしょう?」
「そうか!サラマンダーで砂糖を目の前で焦がされカラメルが出来上がるのを見る愉しさと、出来立てのカラメルの香り高さが生地のナッツの味を引き立てて、あれだけ美味しく感じたのですね。」
「そうです。プディングは冷たい方が良く、カラメルは出来立ての熱々が良いのです。これは、どちらを優先するかの判断になりますが、私のガトー・プディングには、この方法が最適解ですわ。」
「お嬢様は、ラングドシャとお茶の件でもそうですが、いつもそこまで考えて?」「いえ、クレモンさんに日頃のご恩返しをする為には、私の全力を尽くして当たるのが正解だと思ったまでの話です。」"パチパチパチ・・・"「素晴らしい!」
ひとしきり、美味しい物を堪能したらギルドの人達は、「さて、一杯ほどお茶を頂いたら、今日はこの辺りで失礼いたします。」「ギルドの方には、まだまだお世話になりますが、このシュバツ月の初めにも食事会にお誘いしますので、次は工業ギルドの方達にも声を掛けてくださいません?」
「ははっ、畏まりましたが、工業ギルドに何用でしょうか?」「実は、色々とゲームを考えて居りまして、それを形にして貰いたいのです。」「なるほど、ゲームですね。」「知っての通り、アイテシアの人々は文盲率が高いのですが、決して頭が悪い訳では無いのです。」
テオとゲームをした時に楽しかったのは、その物覚えの速さがある。だいたいアイテシアの人達は、文字で書くよりも頭の中に留めておく習慣がある。帝国人が、アイテシアを野蛮人とバカにするのは、その文明の無さだが、物を書いて覚えるのと頭に留めて置くのでは、後者が優れた記憶力を持っているのは言うまでも無い。
「私は、このゲームを通して、アイテシアの人々に教学の筋目を通したいと思っています。」「それは、貴族院幼年学校以外でなのか?」「はい、いずれ、向学心のある、全国民を対象とします。」俺は微笑んで、10桁ばかりの算盤をメイドに出して貰って、「これがゲームが行き着く先、最終形の一つです。」と見せてまわる。
さすがに、23桁以上のフルサイズの算盤は間に合わなかったんでな。「ほう、どう使うのですかな?」「これは、今までの暗算や筆算、計算表などを革新する計算器ですわ。」皆んな、初めて見る機器に興味しんしんだ。
「この算盤は、10進数で計算する様に出来ております。この紙に、それぞれ5桁の数字を2段づつ5セットを適当に書いてください。」ギルド長が、紙を受け取り数字を書いていく。
5分もかからず書き終わったんで、今度は母ちゃんに渡して、「それぞれに好きなように加減乗除を入れて、数式を完成してくださいますか?」「分かったわ。これで良い?」「はい、大変結構です。」数式が書いてある紙を受け取って、クリアとリカウント(=ご破算で願いましては)と、算盤を握って珠を弾く。」
皆んな、俺の指さばきの速さに驚いて固まる。「アディション・スーストラクション・マルチプリカッション・エ・ディビジョン(=加算、減算、乗算、除算)」と、呟き終わる暇も無く計算終了。あ・と・わ、父ちゃんに検算してもらおっと。
たっぷり、10分かけても終わらないから、途中からギルド長に代わって貰って流石に10分以内で検算終了。結果は、皆んなが驚愕を顔に張り付けているので推して知るべし。「検算に、こんなに時間を使うなんて思いませんでしたわ。」俺が、ちょっと膨れ面で拗ねてみせる。
「いや〜、すまんすまん。所で、どうしてそんなに計算が早いんだい?」この体は、本当に優秀だな。5桁位の暗算なら、平気でこなす。算盤なんか必要としないのだが、算盤のお披露目もあるから使っただけ。
「えー、普通の速さですよ〜。23桁の算盤なら、10桁10段の計算でも、あの位の速さでクリアします。検算の効率を考えて、こうゆう様式で簡単にしたのに〜。これくらいなら、暗算でも楽勝ですわ、お父様。」
そのセリフに場が凍て付く中で母ちゃんだけが、"ほぅ〜・・・"「リーラからの報告に、カレンの計算力は凄いとは聞いていましたけど、まさかこれ程とは思いませんでした。今の領の政庁の官吏でも、この計算力に追い付けるのかしらね。」
「あら嫌だ母様ったら、褒め過ぎですわ。この算盤という物に慣れたら、頭の中に見えない算盤ができるのです。誰でもその内に、算盤に慣れたらこの程度の計算力は付きますよ。」「そう思えないのだがな、本人が言うのだから、そうゆう事にして置こう。」
「工業ギルドの方達にも、ゲームの話と共に、この算盤の制作を頼みたいと思います。あ、23桁の方でね。父様、私に算盤を作る為のお小遣いをくださいませんか?」「良いとも、カレンのお勉強の為なら、お小遣い程度はいつでもだすさ。それよりも、政庁に導入したいが、使い方を教えて貰えまいか?」
俺はニッコリと、「お給料を下さるのなら、いつでも算盤教室を開かせて頂きますわ。」「大丈夫だ。実のある事なら、誰でも説き伏せて見せよう。」「それは重畳(=喜ばしい)です。」
そんな和やかな雰囲気の中で、ギルドの2人がお暇乞いをしてこの場から去っていく。
「今日のお料理は、とても美味しかったです。また是非、ご馳走に上がらせて頂きたいものです。では、この辺で失礼いたします。大変ありがとう御座いました。」「それは、良う御座いました。それでは、またの機会に。」父ちゃん母ちゃんも、答礼を済ますと散開になった。
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<その夜遅くのサラザード某所/客観視点>
豪華な館の一室に、皮肉混じりに愉しげな笑い声が響く・・・。
「ハッハッハッ!それで、海千山千の商業ギルド長とあろう者が、とんだ"おみやげ"を持たされて帰って来た訳だ。」「と、申しますと?」「察しが悪いな、ギルド長。いや、バタイユ。」
愉しげな笑い声の主は、バタイユと呼ばれた男を睨んで、言葉だけは優しげに「あの、小娘の方が、お前より役者が一枚も二枚も上手だと言う事さ。今頃、私を釣り上げて喜んで居るだろうな。」
「まさか・・・。」




