カレンの料理は時代を超越した魔法。
対面式とお披露目と誕生会の、なんか分からんけどジ○ェトス○リームアタ○クの当日。
対面式は神官長まで呼ばれて、父ちゃんと親子の名乗りを上げるんだってさ。前世からしたら、慣れない感覚だよなぁ〜。朝の8時からだから、お風呂にして身支度を整えたり、トイレをしたり、ともかく早朝からバタバタしてんの。洗礼式に着ていった、あの素晴らしく重い超豪華衣装も着せられてる。
儀式は、領館の敷地内にあるロレッタ家の礼拝堂で行われる。ザワザワとした空間に、サラザードにある6箇所の神殿の鐘が遠く鳴ると同時に、礼拝堂の鐘が注意を促すように響いて静謐な空気が流れる。そして、お式が始まった。
神官長が、「アル・カイン、貴方は父親として、ここにいるアンヌ・カレンを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、娘として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」「はい、誓います」
「アンヌ・カレン、貴女は娘として、ここにいるアル・カインを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、父親として愛し、敬い、従うことを誓いますか?」「はい、誓います」なんか、した事ないけど、これって結婚式の誓いの言葉じゃん。父ちゃんとなんて、ちょい嫌ぽぃ。
「今日という神の祝福を得た素晴らしき日に、アンヌ・カレンはアル・カイン、アンヌ・ミラベルの家族として受け入れられました。今日という日を忘れず、これからどんな困難も家族で乗り越え、幸福を分かち合い、幸せな家族である事を誓えますか?」母ちゃんも入れて、「「「はい、誓います」」」んー、もう対面しちゃってるんだけど、前世でも、こういうのって形骸化してるんだよね。ま、こんなのは様式美が大切なんじゃない?
対面式は、儀式だけしたら直ぐに終わって、お部屋で新緑色のドレスに着替えて、誕生日とお披露目会までお腹が保たないからビスキュイとミルクで軽い朝食にする。もち、貴婦人といえば手袋だけど、新緑のドレスに合わせて緑とか、銀糸の縁取りにビーズのお花とかは、まあ可愛いからいっか。
でも、手袋の上から指輪ジャラジャラとか、イヤリングとか、ブレスレットにアンクレットは勘弁して。俺は宝冠に、対のネックレスと銀の扇子で充分だから、ともかく要らなさそうなのはポィしてペィした。
そうしたら、担当の側仕えの姉ちゃんが、「お嬢様、酷いですわ。せっかく、可愛くしたのに〜。」って、涙目になるから、「若い内は、シンプルな方が映えるのですわ。若さは、何よりの装飾品って言いませんか?」って、"俺はあんたの着せ替え人形じゃないよ"を柔らかく諭す。
黙って放って置いたら、親指にまで指輪をしかねない雰囲気なんだぜ?幼児の指に、ジャラジャラとリングをするなっつーの。俺は、自分の指の動きを余り制限されるのは嫌いなんだよ。だから、ヒュアリエンの華紋判のリングだけにしといた。
お昼に神殿の鐘が遠く鳴ると、誕生会を兼ねてお披露目式を始めた。この国の習慣で、ケーキにロウソクの誕生会はしないけど、子供の最初の誕生日には森に木を1本植えるらしい。父ちゃんは、marronnier(=セイヨウトチノキ)の実を植えて、芽が出た分の中から良さそうな1m位の苗を会場に持ち込んでた。
成長すると樹高が30mオーバーになる高木で、ドーム状の樹冠が出来るんだ。葉は、結構大きなのがついて、落ちた後に枝に残る葉痕は、7つの「爪」を備えた特徴的な馬蹄形になるんで、苗でも直ぐにマロニエって分かる。
マロニエの実は、麻や亜麻、絹、羊毛等の脱色に用いられていたんだ。石鹸分を含み、バケツ一杯の水当たり30〜40個位の実の皮を剥いてヤスリをかけるか、乾燥させて石臼で挽き、リンネルや毛織物等の洗濯に利用することができる。
事前に、誕生日会についてリーラに説明を受けた時に、この習慣にどんな謂われがあるのか聞いたんだ。子供の死亡率が極めて高くて、木を植えるのは子供が死んだ時の棺用なんだ。木は、30年、40年と成木になるには時間がかかる。
つまり、木が成木になるまでは生きていて欲しい、子供の死に目に、自分が生きている間は会いたくはないという切なる親心の表れなんだそうだ。もちろん、本当に木が成長するまでに子供が亡くなる場合もある。そうした場合、別の木で代用する訳だが、森に木を植える行為そのものが大切なんだ。
誕生日とかの記念ってさ、食べたら消えたり、遊んで終わるオモチャとかより、こうした由縁を感じさせるのが1番良い。やったね父ちゃん、合格だわ!俺は、感激して父ちゃんに抱きついて、ぽっぺにチューして上げた。まー、これだけされたら、いくら男嫌いでもこのくらいはサービスはするさ。
3年分が凝縮されたプレゼントを貰ったり、祝福されて幸せ気分だから父ちゃんのジョリジョリ攻撃も我慢できる。で、父ちゃんに抱えて貰って、親戚一同の前で改めて紹介を受けて、「この、神に祝福を頂いた日に、我が一族に新たなるカレンという一員が加わった。皆の者、宜しく頼む。」「初めまして、アンヌ・カレン・ドヌゥブ・エンフォート・ロレッタ・デュエンファンです。皆様、今後とも宜しくお願いします。」と、ハキハキ自己紹介したら、会場から拍手を貰った。
そうして、お誕生日会兼お披露目式の豪華な食事が始まった。流石にクレモンだわ、良い味してる。
特にスープは、琥珀色の宝石を溶かしたようなコンソメも良いけど、そら豆のポタージュに豚の皮のねっとりゼラチン質が入って風味が豊かになっている。ん、どうして分かるかって?簡単、水と一緒にスープを含むと味の成分がハッキリしてくるよ。フレッシュ・チーズと、パリパリ野菜のサラダも、いつもながらに美味しい。
食前酒に合わせた、完璧な主菜は、色とりどりのカナッペに、白身魚の塩漬けを塩抜きしたフライと、ココット型のパイの中身は、干し貝柱を戻してキノコと香味野菜と魚出汁で煮たのにベシャメル系のソースを合わせている。とても、お上品でシェリー酒に合う。
主役の肉料理は、子豚の丸焼き。香草と下味をつけて漬け込み、下拵えした肉を串で広げて焼きながらハチミツを塗って、パリパリに仕上げている。副菜の、野菜のゼリー寄せも見事だわ。ざっと見ただけで、ふ〜って、ため息がでちゃう。
え、これに腕で勝てるかって?もちのロンロンよ♪パラレルワールドとは言え、俺の前世から推定400年は古い時代だぜ?で、これって、コース料理じゃないんだわ。大きなテーブルにドンって、並べてあるのをお付きのサービスで取り分けて食べてんの。
熱い物は熱い内に、冷たい物は冷やして、常温の物は常温に合わせて、料理の適温管理がなされてはいない。現代のフランス料理では、キチンと適温管理されるから、あれだけのウェイターが要るんだぜ。ただ単に、フランス料理=高いじゃないんだよ。
例えば、さっきのアントルメのゼリー寄せだけど、前世ならショートグラスに入ったシャーベットになる。重ったいメインの後のアントルメに、ジュレよりグラニテの方が向いているよね?つまり、時代によっては調理できる、できないの違いやら、技法の進化がある訳さ。クレモンは、この時代なら卓越した腕前の料理人だろうよ。
クレモンは、まず400年の技法進化の壁と戦わなきゃいけない。じゃ、ボチボチ発進しますかね。俺、いっきまーす!( 'ω' )ゞ ビシッ
〜〜〜〜〜
料理が一段落して、そろそろ甘味が欲しくなるタイミングで、「では、歓談中では御座いますが、カレン様のお披露目の余興に、カレン様と料理人クレモンのデザート対決を致したいと存じます。」と、執事のバローロから案内がされた。「ほー、幼いカレン様が料理の専門家とね。」皆んな、興味津々でザワザワしている所に、「あちらのテラスの方に、お茶席を用意しているから移動をお願いします!」と、父ちゃんとメイドさん部隊が案内をする。
テラスは、初夏の風が爽やかに吹き過ぎて行く。ヒタキがピーピロピーと歌う中に、時折アオゲラのキョキョキョンというユーモラスな鳴き声が混じって、その生命溢れる躍動感が心地よさを演出している。前世では、コンクリートジャングルに囲まれて貧弱になっていた生態系が、この世界では驚くほどに極彩色に感じるられる。
風の中で、カミツレ草の花の香りと炭の落ち着いた匂いがする。もち、俺が会場の演出の為に、大量のカミツレ花と炭を用意して窓下のカゴに入れてセットするように指示したんだ。日本人なら拘る、おもてなしの演出だよ?これで、会場の空気が落ち着いて柔らかくなる。
この時期になると、市場でもカミツレ草はごくポプュラーな商品だし、干してポプリに使ったり、苦目のハーブティに使うのに、ローマン・カモミールを安く沢山売ってるって情報を入れてるから早速利用したんだ。お茶の香りとケンカしない、生花はリンゴの香りだよ。ラベンダーは好きなんだけど、アールグレイ以外の紅茶の香りと微妙にケンカしている気がする。
今日のお茶会のテーマは、"初夏の爽やかな風"って所かな?
お茶も、ペパーミントのハーブティに、多めの水飴にして貰ってる。胃が食べ過ぎで重くなっている時に、紅茶のタンニンやカフェインは禁物だから、ペパーミントティーなら、食べ過ぎ・飲みすぎなどで胃の調子が悪い時に消化を助けてくれるし、腹痛や胸焼け、胃けいれんなどの症状を緩和してくれる。それに、鎮静効果があり、精神的な緊張を和らげ、イライラをしずめ、心身をリラックスさせてくれる。
前の世界の中東でも、暑い時には熱くて甘いミントティーが常識なんだよね。
「カレン様、今日はおめでとう御座いました。おめでたい席の余興で、まずは干菓子と生菓子、焼き菓子と3品を、カレン様と私めのそれぞれがご用意さし上げました。申し遅れて、大変失礼いたしましたが、私、対戦相手のクレモンと申します。どうぞ、お見知り置きを宜しくお願い致します。」会場のテラスが、割れんばかりの拍手に包まれる。
先ずは、クレモンのお菓子からだわ。ほうほう、最高のお茶菓子とは、また気合いが入ってるね(微笑) お菓子を、会場のウェイトレスがサービスして行く。
「クレモンさん、これってヴィジタンディン(=フィナンシェの古い呼び方)ですか?」「はい、さようです。 ドライフルーツ入りヴィジタンディンと申しまして、お茶受けに最高のクッキーです。」「そう、私ごときに全力でお菓子を作られるのですね。」俺は、ニマリとした。
クレモンにデーターに基づいて突っ込みを入れた件で、並みの子供じゃないって警戒してくれて何より。全力で、ぶつかってくれなきゃイヤん。子供だからって甘く見て手を抜かれたら、せっかくの対決を出来レースと思われちゃう。
フィナンシェは、粉全体の分量の半分をアーモンド・プードルで賄った贅沢なお菓子で、薄い台形の金塊型が基本。食感は、干菓子とはいえパウンドかマドレーヌが近い。クッキーのケーキと言われる由縁。それにクレモンは、宝石に見立てて、ドライフルーツのみじん切りを加えて来た。惜しいな、ドライフルーツをブランデー漬けにすれば最高なのにな。
「おう、これは!贅沢な食感の中に、アーモンドの香ばしさが鼻に抜けて、菓子がトロリと舌で溶けるぞ。」あちこちで、感嘆の声が上がる。
「じゃあ、私はこちらを食べて頂きますわ。自信作ですのよ?」俺は、逆カトルカール技法で作った、何のへんてつも無い楕円のクッキーを出して見せる。うちのメイドさんズが、皿に乗せたクッキーに粉糖を粉雪のように茶こしで振るってゆく。
「ムームーの舌と申しまして、ザラザラしていますから、うちの可愛い猫ちゃんの舌って感じです。」会場中から、微笑ましげな笑い声が上がる。そんな可愛いもんじゃ無いんだがな。
クレモンが、「え⁉︎、これは、え?」「どうしましたか、溶けました?」卵白中心の生地だから、メレンゲクッキーの次にサクサクトロけるような食感が味わえる。ラングドシャが溶けた後、舌には爽やかな甘味が残る。
「そこで、ハーブティーをひと口含んでくださいましね。」そう、この菓子は、ミントティーと結婚して初めて完成する味なんだ。フィナンシェの軽やかだが香ばしくて腰の有る味わいは、紅茶には最高のお供だがミントのハーブティーには微妙に合わない。
前世では、『美味しくとも、美味し過ぎる』という言葉が料理人の間にあるくらい、調和を妨げる出過ぎた味はマイナスに捉えられる。ラングドシャは控えめだけど、決して自己主張をし過ぎないのさ。
「なんだ、この繊細で計算し尽くされた味わいは!」クレモンが、思わず立ち上がって声を上げた。「まぁ、クレモンさん。楽しいお茶の時間に不粋ですわ。これが、マリアージュと言う現象なんです。」マリアージュをクレモンが意識してるか、してないかの違いだね。
「ゴホン!クレモン君、先に進めてくれたまえ。」判定は、会場に来ているお客さんから無作為抽出して10人に頼んでいる。
判定は、5:4で1人は棄権でクレモンの勝ち。
ラングドシャに対するお客さんの反応は、普通のクッキーだと思って口にしたら驚くほどの軽やかな食感で溶けて、ハーブティーとも良く合うからって褒められた。でも、アーモンドのリッチさに負けたのかな?確かに、単体ならフィナンシェが上だと俺も思うけどね。
ここで、爺ちゃんから物言いが付いた。フィナンシェは、ケーキじゃないのか?という疑問だ。まあ、前の世界でも、プチ・フールなんて小さなガトーも有ったけど〜、フィナンシェは歴史ある干菓子だからね。
ここは、譲っとこか。3連勝しても、つまらないし・・・。「ヴィジタンディンは、ギリギリ干菓子で良いと思いますわ。私の方は、ありふれた材料ばかりですし、クレモンさんがガトーで反則って、勝ちを譲ろうとしてくれていたのかも知れません。」と、適当に流して置いた。
昨日の内に、ゴーフレット屋の親父さんから500枚のゴーフレット・コーンを納入がされていたんだ。今朝は早速リーラの監督で、メイドさんズや側仕え部隊を招集して、人海戦術で生クリームと、パタボンブにメレンゲを混ぜて軽くしたのを作って貰ってた。
コーンに、メレンゲ入りのバタークリームと生クリームをニュニュと絞って、フランボワーズのギモーヴをチョイと乗せて完成。「名付けて、クリームとギモーヴを宝冠に乗せて ですわ。ゴーフレットのコーンを、この宝冠に見立てて、あしらわれた真紅のルビーをギモーヴに見立てました。」
「うははっ、なんじゃこれは!シャクシャクのコーンに、フワッと爽やかなフルーツの酸味の効いたギモーヴ。それを、この軽いクリームがクッションになって繋いでおるわ。」「マリアージュとは言い得て妙な気がするが、これは正にマリアージュだ。」「本当ですわね。おまけに、コロネテなんて、見映えも名前もリッチに聞こえますわ。」「フランボワーズのギモーヴが口の中で自己主張しても、クリームで受け止めて居るので少しもうるさく無いですわ。」会場中、大絶賛。
あやや、クレモンさんはプリン・ア・ラ・モード(=プリンお気に召すまま)ですかぁ〜。赤肉メロンに、洋ナシとオレンジに、口直しのビスキュイ2つに生クリームだね。メインのプリンは、まだまだ初期の荒さが抜けて無いのね。プラムが入ってて、ネッチョリした食感があって、とってもカスタードプリンから遠いわ。
初期のプディングは、航海中、食材の無駄が出ない様に卵液になんでも食材を突っ込んでいたから、肉や野菜や穀物が入ったりしてたんだ。日本の茶碗蒸しみたいなの?中には、ほぼ焼き菓子に近いのも有るしね。
何にせよクレモンが、滑らかなプディングを目指したのは評価出来るんだけど食感が荒すぎ。フルーツとのまとまりが、イマイチ取れてないわ。カラメルソースと生クリームで、なんとかって感じ。アイスクリームが有って、プラムに拘らなきゃいいとこ行けたのにな。
結果はやっぱり、8:2で俺の勝ち。
俺のコロネテ・デ・クレメ・ギモーヴの方が、味の方向性にまとまりが有って、似た様な方向性でギモーヴのクニュクニュ爆弾に絞った俺の方が洗練されてるってさ。何より、名前がオシャレらしいよ。
元いた世界では、コンビニスィーツが有ったくらいに甘い物は一般化されていた。砂糖が貴重品のこの世界とは、スィーツの進化に雲泥の差がある。ソッフレも無いみたいだし、失伝しているか、発見されてはいない調理技法がテンコ盛りだよ。
でも、普通に時代の隔たりを考えても、クレモンさんは割りにやるよね。ま、頑張ってるクレモンには悪いけど、焼き菓子は必ず勝ちに行かせて貰うわ。
せーの、とったるどー!!!
クッキーとケーキの違いは、食感がフワッとしているか?カリカリと固いのか?の違いです。当然、製法や焼成温度の違いが出てきます。ナンシーの修道女によって17世紀に作られたビジタンディーヌは、ケーキと同じく卵白を泡だてて作ります。約200年後にパリで作られたフィナンシェ(=訳:金融家/金持ち=金塊のイメージ)は、紅茶のお供としてクッキーに近い感触になりました。本作では、フィナンシェの旧名ヴィジタンディンとして、クッキー化はクレモンのオリジナルという設定です。因みに、ナンシー〜パリ間は、東京〜名古屋間と同じ位です。




