カレン喧嘩上等。
本年、最後の本編です。皆様には、お読み頂きありがとう御座いました。
お正月特別番外編も、この後頑張って続ける積もりです。では、本編をお楽しみ下さいませ。
パタパタパタ・・・、パタパタパタ・・・、パタパタパタパタパタパタ・・・。
あー、もう、ムームーがウザす。いい加減にしなさ〜い!この、にゃんころめ!と、翌日、朝遅くまで惰眠を貪っていた微睡みの中で、「旦那様、大旦那様、いい加減に召しませんとカレン様が起きちゃいますよ?」「いやなに、後もう少しだけだから・・・。」「そうじゃ、そうじゃ、可愛い孫娘を、こうしてソッと見ておるのが分からんのか・・・。」と、何やら、ドアの向こうから、ひそひそ声が聞こえる。
「ここの所カレン様は、ローヌ・イズコールの為に睡眠時間が不規則だったのですから、ソッと起きるまで待って上げてください。」はい、それまーでーよ。こういう時のお約束は、ひそひそ声の方が良く通るし、注意してるジョーヌの声の方が良く聞こえるのよね。なるほど、ムームーの気が立って、その所為で羽根ボウキの様な尻尾をパタパタさせてた訳だ。
それにしても、、、いくらフワフワの白い猫に包まって天使の様に愛らしいからって、寝間着姿で無防備な娘の寝顔を覗き込んで観賞するなんて女の子に対する人権蹂躙じゃない。ね、皆んなも、そう思うよね?
「あら、お父様。そちらに居らっしゃるのかしら?」扉の向こうで慌てた様な雰囲気がして、「ゴホン、わしゃ用事があるから先に行くな。」じじぃ〜、逃げるな爺。流石に歳の功か、直ぐに撤退するたぶん祖父。こういう時に残されるのは、哀れな生贄(=父ちゃん)なんだよなぁ〜。
「カレン、起きたのなら、入っても良いかい?」父ちゃんが、ワザとらしくノックをして入って来ようとするから、「朝の支度が済むまで、しばらく入室はお断りします。ジョーヌと、他の側仕えは入って良いですよ。」側仕え達に髪を梳かして貰って、歯磨きと洗顔をしたら黄色いワンピに着替えて、早速、父ちゃんに入って貰う。
「おはよう、可愛い我が娘よ。」と父ちゃんが言うんで、チョイと会釈をしてから、「おはよう御座います、お父様。それで、なに用でしょう?」「実は、2つ用件があってな。・・・、」ふむふむ、父ちゃんによると、昨日の件でプレテさんがお話をしたいのと、ゴーフレット・コーンを500も買ったは良いけど、クリームの余分が無いって厨房に言われたらしい。
ま、プレテさんの方が身分は高いから、ますは優先で片付けるかな。その要件を伝えるのに、ドアの前で待って居るうちにデバガメに変身したとか、しかも、爺のオマケまで付けて・・・呆れた、寝起きもあって頭がハッキリしないわ。「はふっ・・・。」出てくる欠伸を3、4匹は嚙み殺して、照れ隠しに微笑んでみる。
部屋の振り子時計を見ると、午前10時頃だね。この世界でも、ゼンマイを動力に振り子でリズムを取って、長短の針で1日を24等分できるメカニズムはあるんだ。時計合わせは、朝6つの神殿の鐘に合わせる様に成ってる。
これは、専門の水マ法使いがやっているから、かなり正確な基準になる。結局、水マ法使いって液体を扱う事を得意とするんだ。他人の体内の水分まで扱えないけど、自分の体内の液体、血の脈動を正確に把握できる体内時計を持っている。でも、鐘と鐘の間を測るのには、こうしたメカに頼る必要が出て来る。
ま、父ちゃんが病的な娘スキーなのは、この一両日で良く分かったし、爺には後で隙あらばチクリと刺して置くからいっかー。さあ、バローロを呼んで、出掛ける手配でもしながら朝食にでもしますかー。しかし・・・、、、公爵って暇なん?
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今朝は、オレンジと、大根と薄切り玉ねぎのサラダにカッテージチーズを乗せて、オリーブオイルと岩塩とレモン汁で作ったヴィネグレット・アィセーズが掛けてあるの。セル・ジェムって、ピンクで所によりキラキラしてるかな。中央山脈原産なんだって、見てはないけどアイテシアの塩湖では、赤い水が発生するのと関係ありそ。
ピスタチオ入りヨーグルト(=ヨーグルト・オゥ・ピスタッシュ)と、メノルカ風オムレツ(=オムレット・ファソン・ミノック)メノルカの伝統的なオムレツで、卵白を別にメレンゲしてサックリ合わせ、チーズを挽たのを入れてオーブンで焼くと出来る。これ見る度に思うのが、出汁を入れて卵汁を伸ばし、層にして焼いた出汁巻玉子に、大根オロシを乗せて醤油をチョンの純和風朝食だよな。
あー、ご飯と味噌汁が懐かしい。どっかで大豆を見つけて、麹にはアテがあるから醤油と味噌を作りたいな。クスクス(=小麦粉をダマにした粒)を蒸してカビ付けして、麹をガッツリ増やすんだ。そうしたら、麹室が要るよな。麦麹味噌?お米が有って欧州米なら、お粥でも良いや。佃煮と漬け物に、お粥は最強コンボだわ。
後は、大きめで細長いビスケット2枚に、タップリあるミルクかな。ビスキュイは、サックリ柔らかなパンって感じ。元の世界のビスケットを想像して甘いだろうと思ってたら、この世界のは余り甘く無い。小麦粉は、全粒粉を使って自然な甘さは有るけど、フスマでもそもそするのは頂けない。パン・ド・カンパーニュだと、くり抜いて柔らかな中だけ出される。カンパーニュの側(=硬い皮の層)は殺人的な硬さだもん。パンで殴って、人が殺せそう(笑)
あ、オランゲは、この世界の高級品だよ。庶民でも買えない事は無いけど、1年1回のオメルテのお祭りの時に、子供がプレゼントで貰う位は貴重みたい。皮を擦るくらいなら、あまり使わなくて済むけどね。カンパーニュの皮は、ミルクに漬けてベシャメル・ソース(=同量のバターで小麦粉を炒めて、温めたミルクで伸ばした後、シトンの汁と塩胡椒で味付けをするの)とチーズを入れて、グラタンにしたら美味しく食べられるかも。
てな事を考えながら、優雅な朝食を自室で摂ってたら、コンコンとドアをノックする音がしてバローロが来たみたい。早速、入って貰って、朝の挨拶を交わしてから用件を伝えたら、今日はリーラが出仕しない日だから、バローロが付いて来るそうな。リーラって、普通に若奥様だからね。俺の家庭教師の仕事は週に3日で、後は家庭に入っている。
大型馬車2台にそれぞれ、御者2人と従僕2人が付く。なぜかと言えば、6頭立ての馬車って大きいし取り回しが悪い。ちょっとしたトラックを思い浮かべて見れば分かると思う。従僕は、カーペットや踏み台を出す務めもあるけど、取り回しの補助もするし、馬車の下に強めの板バネが入っているから軽いと安定を保てないので、安定を保つ為にも外側に4人乗らなきゃいけない。
御者と従僕の他に、話相手2人と護衛兼力仕事の侍女2人、毒味役のメイド1人、護衛騎士が12人、バローロと俺がそれぞれに分乗する事に決まった。今度は、小大名行列?皆が外出の支度をする間に、食べて外出着に着替える。ムームーをギュッとして、行って来ますして出る。
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はあはあ、ほうほう。"はあはあ"だけなら、まるでヤバイ人みたいだな。プレテさんの要件は、ゴーフレット屋のオジサンが、なんか朝早くから試食品を持って駆けつけたんだけど、その件に絡んで、なんでそんな事を思い付くのか?って聞かれたから、「分かりません」つーて伝えたけど、根掘りされたから「何となく」って、木を鼻で括った、まて、鼻を木で括った返事をしといた。
いっぱいレシピを教えて、どうすんだっても聞かれたけどね。あのね?あの程度の工夫だったら、真面目な職人さんなら、何時か気付く工夫じゃないのさ。周りも、本人も気付いて居なさそうだったんで、情報が古くなる前に先んじて流しただけの話じゃん。そんなので、対価を求める様な事はしないさ。だから、好きにしてって、序でに、なんか感動できる話をでっち上げたんだ。俺の男を、今は女か、見損なって貰っては困るよ、プレテさ〜〜ん。
さらに序でに、マナが発現しなかったら何うなるのか聞いたけど、推測になるが平民と変わらないらしい。マナの循環が悪いから病気に罹り易く、毒耐性も無くて、老化も早いそうな。"ガーン・・・。"でも、俺は恐らくマナの発現の仕方が神像にじゃなく、頭の中身に来たんじゃないか?と言われた。だって、普通じゃ有り得ない位に賢いからって言われても、前世の記憶があるからって、それで賢いんだってよう言わんかった。ともかく、ショックだ・・・。
はい、この話は終わ〜り。30分も掛からんかった。ショックだからって、いつまでも悩んだってしゃーない。現実なら変わらんし、変えようもない。なるように成るさ。
時間が空いたから、クリームが足らんって厨房が言ってるつーから、平民街の商業ギルドまで足を伸ばした。バローロは、供回りが寂しいから反対をしたけど、"足りない"って裏取りしなきゃ話にならんわ。話を、鵜呑みにするほど子供じゃない。まだ3歳だけどな。裏取りしないなら、公爵家の名誉に関わりますよって言ったら、バローロも反対しなくなったわ。
情報の裏取りは、引っかかりが有るなら普通にすべき事だよ?どういう事情があるにしても、適当な報告をするのは許さないし、その通りだったら、正直な報告をする人だなと評価が上がる。でも、引っかかるのが、パーティーの主役のカレンの要望であれば、少しはバターやクリーム類を融通すると思わない?まあ、底意が有るのは、お見通しだけどね。
商業ギルドの会頭と酪農業筆頭担当と話したけど、やっぱり、対面式とお披露目式の日の前後は一時的に注文は多いけど、チーズなんかの加工品の製造を一旦止めれば対応できない訳でも無いんだそうだ。グラン・ブルンとの取引の過去半年分の記録を出して貰い、現状は決して足りない事は無い旨を正式な書面起こしして貰って、サインと公印を押して貰った。
実は、サインと公印どころか文書に認める事(証拠で残るから責任もある)も渋られたんだけど、パーティーに招待するって条件を出したら、アッサリとオッケーになった。デュエンファンのお披露目式のパーティーに出られるのは、親戚同士が慣例であるし、滅多に出られない所に招待されるのは光栄なんだと。ま、商人だったら、相手により、引き際を弁えているって感じかな。
だからご褒美に、赤セル、茶セルの将来ビジョンを話して上げた。セルって、セルクル=丸の意味だけど、鑑賞用栽培されていたトマトの事を赤セル(まんまプチトマト)、ジャガイモは茶セル(栗の様にホコホコ)と呼ばれていた。
どちらも、元の世界の栽培種とは違って、ほぼ原種でピンポン玉前後の丸いのが特徴的。俺は、荒地や寒冷地でも育つ、これからの戦略作物だって知っているから、リーラを通して既にいくつかを手に入れて、赤セルはドライトマトにしてある。これらを、パーティーの後に食べさせる約束をして、帰路に着いた。
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「それでは、申し開きが有れば聞こうか?」挨拶なしで、父ちゃんの硬い声が響く。
グラン・ブルンの一室、狭い目の謁見室に、俺と父ちゃん母ちゃんと、料理長のクレモン・アソエ・ノワゼンハレンが顔を並べた。もちろん、バローロと護衛騎士も4名ほど同席している。
父ちゃんは、軽いお怒りモードだな。そりゃー、そうさ。母ちゃんの倹約令に文句を言ったばかりか、今回のクリームの件でも、フザケタ返答を寄越したのだから。なるほど、クレモンは傲岸な顔をしてるな〜と、センスでパタパタしながら眺める。料理人で、その腕前だけで家名を下賜されるだけ有るわ。妻子の顔を潰されて、幾ら温厚な父ちゃんでも腹に据えかねたらしい。
「貴方、それでは、クレモンが何も言え無くなりますよ。」母ちゃんが、絶妙なフォローを入れる。「ご機嫌よう、クレモン。いつも美味しい料理を出して頂いて、ありがとう。紹介するわね、こっちが私達の娘で、今回のパーティーの主役のカレンよ。」俺は、微笑みを絶やさず会釈をして、「こんにちは、クレモンさん。私からも、いつも美味しい料理を、ありがとう。」場の空気が、少し緩む。
話しやすくなったのか、「クリームの件でしょうか?」父ちゃんが頷いて、「そうだ、先ほど、商人ギルドの方から、公印のある文書でクリームやバターは、お披露目のパーティー分を使っても、余分が無いほどではないとの返事だ。」「それは、厨房もパーティーの件でバタバタして居りまして、お返事が雑に成りまして申し訳ございませんでした。」「ふ〜ん、料理長なのに、厨房を把握していらっしゃらないと言う事でしょうか?」俺が、思わず口を挟む。
丸め込まれるとは思わないが、俺のお披露目の件でなぁなぁで済まされたく無い。何か有れば、今度こそ父ちゃんが噴火する懸念がある。「私、プレテさんの所に寄った帰りに商人ギルドに行って、この件の現状とこの半年のグラン・ブルンの乳製品の納入状況を公文書で出して貰って、領館の平均人数から、現在の滞在人数もバローロから出して貰って居ます。つまり、パーティー当日の乳製品の消費動向がそれで分かりますが、これに関して、ご意見は有りますか?」「いや、それでも、パーティー当日は特別な料理が有りまして、」
はぁー、墓穴ひとつ。「私が言いたいのは、料理長は料理だけ見てて勤まるのかと言う事ですわ。上司に、適切な報告を上げるのは、長と名の付くものには必須事項ですわね。忙しかった?それが、理由に成りますか?」俺は、ニンマリとして舌でクレモンを刺す。君の腹は、見え見えなんだよ。第2夫人派なんで、正夫人の子供に協力したく無いんでしょう?
アイテシアの貴族は、第2夫人以上を持つ事を推奨される。アイテシア全土で、1000家2万人の貴族が居るが、半分以上が中央山脈より北部のエンフォート領などに在住する。もともと、帝国の大虐殺(反乱すれば5歳以上の男子は皆虐殺)で男子の数が減って居たのに、度重なる戦乱に男子貴族の人口が少ない為の処置。なお、マ法の関係で、貴族同士しか婚姻はしない。
父ちゃんにも第2夫人は居るが、困った事に母ちゃんが輿入れする際の元婚約者。デュチェッセを譲っても良いからって食い下がったというのが有って、微妙なバランス関係にある。バローロに、料理長をあまり刺激するなと言われたが、所がどっこい、俺は戦闘民族なんだよ。だから、弁護士が出来たんだ。
貴婦人は、微笑みを武器に戦闘を仕掛けるんだよ。
母ちゃんは、いつも通りにデーンと構えて微笑んで時々うんうん頷いてるし、氷の微笑ってやつ怖らしい。時々思うけど、肝の座ったデュチェッセと気真面目な感じのデュクは立場を入れ替えたら?
「カレン、クレモンが困って居るわ。相手は料理人なんだから、理屈で締め上げるのも程々にね。」ナイスアシスト母ちゃん。笑顔でニッコリとしているのに、背筋に氷を当てられた冷たさを感じる。「奥様も、カレン様も、パーティーの事を考えるべきかと思います。」バローロがちょいと口を挟む。「そうですわね。パーティーの事を考えたら、クレモンも充分に肝が冷えたでしょうし、もう解放しても良い頃合いですか・・・。」
まさか、子供だと舐めていた相手が、証拠を揃えて理詰めで責めて来るとは思わないでしょう。クレモンは、明らかにホッとした顔で、「そうです、パーティーの成功の事を考えましょう。この度の事は、私の不手際でした。お詫びで、今日の所は済ませてください。」「でも、クレモンさんも何か言いたい事がお有りでしょうから、このまま、ウヤムヤにして後に禍根を残すのは、本意では無いのでしょう?」
「あ・・・、ああ・・・??」「今、思い付いたんですが、パーティーの余興で私とデザート対決などはいかがでしょう?実は、コーンを500個も頼んだのも、パーティーに来る方に、私の好きな味を知って貰いたいからですわ。あのシンプルで素朴な味のゴーフレットに、貴族向けにクリームを乗せたら、どんなに素敵なお味になるか皆さんに味わって欲しかったのです。お披露目なら、私の印象をバッチリ付けるのが良いと思いますよね?」「まあカレン、なんて素晴らしいアイディアでしょう。」
「クレモンさんも言いたい事が有ったら、料理人なら料理で言ったら如何ですか?私、うじうじイジイジされるのが、1番嫌いなんですのよ。美味しい物を作る戦いって、平和ですよね。誰も死ななくて。」軽く挑発すると、「分かりました。やりましょう。」と、小気味よい返事がする。言外に、父ちゃんを怒らせると処刑もあり得るよと教えて上げる。伝わってるか微妙だけど〜。
これからの予定に、沢山の人の協力は必要不可欠だから、デザート対決で、自分を売り込みたいのも有るしね。クレモンの余計なプライドをバッキバキに叩き折って、料理人本来の消費される材料を活かし切るという事に目覚めさせなきゃいけない。そう、それが本来母ちゃんが言いたかった事。
弁護士の論戦は、落とし処を弁えた平和的な喧嘩だからね。料理は、相手方のフィードかも知れないけど、事、喧嘩に関しては、こっちのフィードだよ。今日も、予定していた落とし所に、まんまとハマってくれた。強敵だけど、現代知識がある俺は負ける気がしない。
悪いけど、父ちゃんは蚊帳の外に置かせて貰って、「それでは、こんなのは如何?」と、千菓子と生菓子と焼き菓子にテーマを絞って優劣を競うのと、俺の勝ちなら、料理人としてこっちの計画に協力する事。クレモンが勝ったら、父ちゃんから勲爵を賜る事。以上を、ここにいる皆で約束した。
どう転んでも、誰も大した損はしない。それが、上等な喧嘩と言うもんさ。
それでは、良いお年をお迎えください。




