交じって混ざってまざりたくて<中編2>
狙い通りに材料となる段ボールを譲り受けて、元来た道を辿っていく。もちろん恵茉が持っている量なんてほんの僅かだが、異常な量を俺が抱えているせいで下校途中の小学生の視線が痛い。
「あれ、もしかして買い出し班の皆さんじゃないですか?」
恵茉が指さしたその先に、委員長と副委員長。あとその他女子が数人のグループが確認できた。
「あ、家入さん」
向こうも気づいた様子で俺たちの合流を待っていてくれる。あれ、コレは恵茉の言ったような友達チャンスなのでは?
「いやー、探したけど校内には全然ないですね。向こうのスーパーまで行ってもらってきましたよ。買い出し班は予定通り変えましたか?ずいぶん重そうですけど」
「ペンキ缶が重いんだよね、来年にも持ち越す可能性もあるぐらい結構量あるヤツを買ってきたからさ、四色分」
爽やかに受け応える副委員長。あのぐらいのコミュ力が俺には圧倒的に足りないのかもしれないなんて思ってしまう。
恵茉が副委員長と途切れなく会話を始めてしまったがゆえに俺が一人取り残される。あ、いや、別に俺だけでも無くて、委員長と肩を並べる状況になってしまったけれど会話がなさすぎる気がする。
「せっかくだし、みんなでどこか寄ってかない?」
先頭で舵を握る副委員長が軽い提案をした。そういえば恵茉も買い出しの醍醐味みたいなことを語ってたから、みんな考えることは同じなのかもしれない。それにしてもあの副委員長の立ち回りがうますぎて感動すら覚えてしまう。
残りの女子たちも賛同して流れは一気に買い食いムードに。
「高瀬君も行きますよね?」
念を飛ばすように恵茉が聞いてくる。もうちょっとよく見ていてほしいのが実情だが。
「今もってる段ボールもデカいし、先帰るわ」
さすがにこれを抱えたまま店に入るのは躊躇われる。雰囲気ぶち壊しってワケじゃないはずだから存分にみんなで遊んできたらいいさ。
「え、そうなんですか……じゃぁ恵茉も……」
「そっか、まぁそうか。じゃ一回帰ってからにする?」
副委員長の再度のフォローでうまくまとまりかけたのだが。
「あの……私もちょっと先戻ります」
俺の言葉に追随するように、俺の隣から委員長が手を上げた。
「あ、委員長も?」
「うん……みんな今日はありがとうございました、また協力してくれたら嬉しいです。じゃぁあとはゆっくり帰ってきてください」
流れ解散ということになるのだろうか、もうここで終わりな、という圧すら感じるぐらいに一方的に終わりを切り出す。強引にというには俺の間違いなのだろうか、それでも、さりげなさは無しに副委員長の持っていたビニール袋を奪い去った。
「委員長さすがに悪いって」
「大丈夫。付き合ってもらったのに何にもできてないし。というか別に気にしないで、ね」
既に恵茉除く残り女子は解散に乗り気なのだろうか、副委員長を急かしているようにも見受けられる。
「高瀬君も一緒に行きましょうよ、ね。チャンスなんですよ、これ」
小さく俺のそばに寄ってきて耳打ちではないが小声で訴えかけてくる。何が正解なのだろうか。
俺は恵茉が持っているモノを委員長よろしく取り上げる。
「いいから、行って来いよ。俺、ほら、今日このあと歯医者だから」
「初めて聞きましたけど……」
「歯医者の予定までお前とシェアするはずがねぇじゃん。じゃーな。また明日な」
とにかく。このチャンスはお友達メイキングにぴったりなはずだし、このタイミングを恵茉が逃してはいけないような気がする。それはもちろん俺もなハズだけど、結局、恵茉と俺がいたらなんだかんだ輪が広がっていかないような気もするからいない方が賢明だと判断させてもらうぜ。
もうこれ以上は話すことないし、との思いで俺も委員長の後を追う。重そうにビニール袋を持つ委員長に遅れること数歩、高校へと再び歩き出した。
沈黙が違和感を訴えかけてきている。人がいる中で喋らないのと二人っきりで無言なのはやっぱり何か変みたいで、あと少しの距離もだいぶ長く感じる。
打破するべきなのはきっとそれを感じている俺なんだけど、最初の一言目がどうも出てこない。よく考えると、高校生活の他愛もない世間話の切り出しは全部恵茉に任せていたからしょうがないと言えばしょうがないのかもしれないんだけど。
ふらふらと足取りが定まらない委員長になんて声をかけようかと悩んでいたら、鈍い音が鳴り響いた。
「痛っ……」
予兆はあったかもしれないけど、気づいて転ばないように手を差し伸べることも俺にはできないみたいだ。少し沈み込んだアスファルトに足を取られたようだった。怪我をしていないのが幸いだけど。
「大丈夫すか」
両手に抱えてた段ボールを脇に一時避難させて、転がったペンキ缶やカッター、事務用品を集めなおす。とりあえず、こぼれてないようで一安心ではある。こんな道の真ん中でカラフルと言っても四色ほどだが流れだしたら目も当てられない。
「いいよ、俺がうまく運んどくって」
「はぅわ……。いや、すみません、大丈夫です……」
「ていうかこんなに大変だったんなら、無理にでもみんなについてきてもらえば良かったんじゃないすか?」
買い出し分も一緒に持ち直すとそれなりに負荷が強くなる。けれど、ここで手放してしまったらヤンキーの名折れかもしれないので、意地でも持って帰るけど。いや、ヤンキーでもなくなっていってるのが現状だね。
「でも……ハイ、そうですよね……」
さっきよりもだいぶ軽くなったはずのビニール袋を持ち直してゆっくりと立ち上がった。聞こえるぐらいの大きなため息と、憂いの帯びた横顔に何かあるんじゃないかなんて邪推してしまう。
「あのさ、委員長の仕事ってやっぱり大変?」
空白を埋めるタイミングはココしかないはずだから多分切り出すとしたらあっていると思う。会話の内容に自信は無いけれど。
委員長は少し驚いた様子だったけれど、すぐに下を向きながらぽつりぽつりと話し出した。多分、何にも関係のない俺だから喋ってくれたんじゃないかって思うのは考えすぎなのだろうか。
「うんうん、大丈夫です。……私は頼りないかもしれないけれど……クラスの、副委員長もそうだし、みんな助けてくれるから……」
小さく確かめるようにつぶやいて、再び首を振った。
「でも、どうなんだろうね……」
「え?」
「だってほら、私、委員長って感じでもないじゃん。向いてないんじゃないかって」
多分委員長の持つ微妙な空気はココから出ていたのではないだろうか。たかがクラス委員と割り切ってもいいが、高校生活の1年生としてのクラス委員は彼女には重くのしかかったのかもしれない。
もしかしたらそれは俺のせいなのかもしれないし、うまく事を運べない自分のことなのかもしれないけれど。
「文化祭だってうまくまとめられる自信もないし、みんな部活とか大変そうだし。そう言ってるうちに副委員長や周りの子たちに頼ってばかりで……」
出てきた時とは違う二人になって校門をくぐる。いつもなら聞こえてきそうな吹奏楽の音も、運動部の掛け声も今日はあまり響いていない。夕暮れまではいかない赤と青の混ざり合った空の色が良い感じに映えていた。
教室まで向かう廊下の中で委員長の後姿を見ることはできても、かけられる言葉はみつからない。それは彼女の悩みの一つは俺であるかもしれないという申し訳の無さと、お前が言うなよっていう当事者意識のせいなのかもしれない。
ただ、それでも多分俺から彼女に伝えられることもあるのは事実だろう。
「ごめん、手伝ってくれてありがと……多分まだ文化祭まで何回かあるからなるべく参加してください……お願いします」
教室について荷物を片付けて、今日のタスクは全部処理されたようだった。委員長は、うつむきながらも俺に話してきてくれて、少しだけ申し訳なくなった。
「あのさ」
二人しかいない教室の中で俺の声だけが低く反響した。
「えっと、委員長の仕事とかさ、多分俺にはなんというか、別によくわかんないんだけどさ。その、恵茉が。委員長は結構話しかけてくれてうれしいって、言ってた」
そういえば、途中別れたグループの荷物も教室内に放置されている。ということは恵茉たちもいずれは戻ってくるのかもしれない。
俺は自分の席からスクールバックを取って、そのまま委員長に向き直る。
「だからさ、別にそんなに悲観することは無いんじゃねぇの?って俺が言うのもおかしい気もするけど。とにかく、ほら、恵茉は助かってるって言ってたし、大丈夫なんじゃなえぇの」
少し恥ずかしくなって駆け足気味に教室を出ようと扉に手をかけた。
「そうかな……」
「大丈夫だろ。じゃぁな、また明日。というか明日やんの?」
小さく首を縦に振る委員長。そっか、と俺は呟いて昇降口に向かう。これ以上話すことも、一緒にいることも難しい気がした。
「で、聞いてくださいよ」
翌日の昼休み、部室に退避していた俺にここぞとばかり恵茉が話しかけてくる。ほとんど一歩通行な会話なのだが、それは今日に限った話ではないのかもしれない。
昨日の別行動は恵茉にとって非常に大きな一歩だったらしく、やたらテンション高めで俺に熱く語ってくる。だったら、なおさらこんなところに来てんじゃねぇよ。
「だから、今日の準備もきちんと参加しましょうね」
恵茉に言われるまでもなく、参加はするつもりなのだが。
開けっ放しの窓から風が吹き込んでカーテンが少し揺れる。俺は視線を外へと移動させて、恵茉とは違う昨日のことを思い出す。
なんというか、マジで恥ずかしいことをしゃべったのではないだろうか。
「クラスに打ち解けるにはやっぱりイベントは外せないんですよね。恵茉はこのビッグウェーブをきちんと乗りこなしつつあるんですから。高瀬君も外さないようにするんですよ。そう言えば、昨日副委員長さんにも聞かれましたし。恵茉と高瀬君は仲いいの?って。そこに興味はあるんでしょうかね」
きっと俺じゃなくてお前に興味があるんじゃないんすか。
「恵茉はさ、その今日も手伝うわけじゃん?」
「?いきなりどうしたんですか?」
「いや、なんつーかさ。ほら、俺ら以外というか、みんな結構部活とかで忙しそうじゃん。でも昨日とかそれなりに人手不足だったし、こう、もうちょっと参加してもらうわけにはいかないんかなって」
「あぁ、まぁそうですね。じゃぁ何人か声かけてみます?高瀬君とか睨み聞かせて頼んだらみんな参加してくれるんじゃないですか」
このぐらいがちょうどいいんじゃないだろうか。分け隔てなく普通に話せる恵茉に少しずつ人数を増やしてもらえばきっと委員長も安心だろう。特に男子票は恵茉によってかなり稼げるのではないだろうし。
俺の思い付きに対して透かして見たように恵茉が付け加えて笑う。
「あ、恵茉、男の子に話しかけるのは嫌ですよ。そのぐらいは高瀬君の頑張りポイントなんですから。逃げちゃダメですよ」
「……ちょっと俺には荷が重いんだよな」
「そこを何とかするのが人間的に前進するんです。後ろから見守っててあげますから。頑張りましょう」
小さな手で俺に肩パンを食らわせる。どういう励ましかたをしてるんだコイツは。
昼休みの終えるチャイムが鳴り響いて、パタパタと旧校舎から自分のクラスに帰る足音が聞こえてきた。
「あ、もうこんな時間ですか。ゆっくりしすぎましたねって……もしかしてサボる気ですか?」
「いやほら、次は現代文だし少しぐらい」
「ダメですよ、恵茉、須藤先生にも監督するように仰せつかってるんですからね。さ、行きましょ。というかずっと教室に居ないと放課後も残りづらいし、声もかけづらいんですから。ね」
「……そうなるか」
「なりますよ。特に高瀬君なんて文化祭準備にだけ顔出したらみんなちょっと引いちゃいますって。そんなことしたらきっとあだ名がお祭りヤンキー略してパリキーとかになっちゃいますよ」
それは言いすぎなんじゃないかな、なんて思ったけど、あながち間違いでもないかもしれない。文化祭だけノリノリで楽しもうとしてる金髪ってのはなんかヤダな。
旧校舎に残っているのはきっと俺らだけになってしまったのかもしれない。少し上機嫌な恵茉と共に部室を後にした。
そう言えば、なんで恵茉はこんなにも乗り気なのだろうか。もちろん、文化祭とかイベントごとが嫌いなタイプではないと思ってはいるんだけれど。忘れかけているけど、恵茉はミステリー研究会に熱心になるぐらいな変人のはずだ。まさか、文化祭に何か起こるとか考えているんじゃないだろうか。
なんて教室へ向かう道半ば、ぼんやりとそんなことを考えていたら後ろから声がかかった。
というか声をかけられたのは俺じゃなかったけれど。
「家入さん」
スカートを翻して振り向く恵茉につられて俺も後ろを見る。
「あ、副委員長さん」
「そろそろ授業だし、急いだほうがいいよ」
ほら、と恵茉だけでなく俺にも促してくる。なるほど、コミュニケーションの取り方というのはこのようにやるのか。なんてお手本になりそうなほど自然に恵茉の横に位置どった。と見えるのは俺がおかしいのだろうか。いや仲のいい人の横に行くのは普通なのか。
「副委員長さんはどうしたんですか?もしかしてお仕事とかですか?」
委員の仕事じゃないよ、なんて屈託なく話ができる姿に少し気持ちが曇る。うらやましいわけじゃないけど。
二人の会話を後ろから眺めていると、気づいたのか副委員長は俺にも話題を振ってくれる。ハイスペックな片鱗があふれ出ている。もしかしたら委員長も助かってるだけでなくて任せすぎてしまうなんて感情が襲ってくるのも無理がないのかもしれないな、なんて少し思った。
「今日も恵茉、頑張りますよ」
「良かった、なるべくみんなで手伝ってもらわなきゃだからさ。俺も忙しいからクラス展示だけにも時間割けないし。昨日も言ったけどホント助かってる。あと、高瀬君も参加してくれて、俺、勝手にこういうの興味ない人だと思ってたよ」
「あー、何にもしないのが一番ダメな気がするんすよ」
「そっか。義理堅いってこと?面白いね」
「そうなんです、変なところで真面目ですから高瀬君は」
ヤバい、これはアオハル感。俺も恵茉の言う通りこのイベントにかけてもいいかもしれない。深まっていく友情とはこのことを言うのかもしれない。いや、深まるほどの初期パラメータは存在してないけど。
気分と少し上がった俺のテンションに気づいた恵茉が苦笑いをする。
「高瀬君……なんかちょっと怖いんですけど……」
和やかな会話のせいで俺らは少しだけ授業に遅れた。
さて、どうしようか、とはここからである。
放課後の教室はまだ人は残っているがパラパラと帰宅準備を進めている級友もちらほらと。委員長のためなんて大それたことは言うつもりもないが、昼休みからの熱気に当てられて誰かしらに声をかけようかなんて真面目にずっと考えていた。
「あ、ちょっといいですか~」
なんて、クラスの端では平気に恵茉が女子グループを捕まえている。アイツは別にそもそもあれが通常なんだから無理してるわけでも無いのが強い。
観察してたわけじゃないけど、恵茉と目が合って、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。上手く確保できているみたいだ。
委員長の周りには昨日よりも増えたクラスメイトが輪を作っている。横で副委員長がテキパキと指示を振っていた。
俺も普通な感じを装って参加を促してみようか。席の後ろにいる数人の眼鏡男子グループに狙いを定めてみる。
「あんさ」
緊張のせいで変に力が入ってしまう。割と直さないといけない癖かもしれない。
「ひっ!?なんですか!?」
ガチのカツアゲだと言わんばかりの反応をされた。
「いや、暇だったらお前らも手伝っていこうぜ」
そう言って後ろを指さす。多分、みんななんだかんだで言ってくれれば平気で参加してくれるはずだから、なんて願うように思っていた。
「あぁ……文化祭ね……」
どうする?なんて話ながらも結構乗り気で輪の方へ向かっていってくれた。
思ったよりも人が集まっているみたいで、昨日の委員長との会話を思い出して、だいぶ楽になったかもしれないな、なんて思っていた。
「ちゃんと話せて偉いですねー。恵茉も見守ってたおかげです。なんか弟が一生懸命やってる感じがしました」
誰が弟じゃい。
「でも問題はそれだけじゃないんですから。ホントは一緒に中を深めていくのが大事なんですけど、毎日一歩ずつですよ。少しずつ頑張っていきましょう。というか恵茉も人数増やしたんですから偉いですよね」
無駄に褒めてくれる恵茉のおかげでなんか俺がめちゃくちゃ頑張ったみたいになったけど、そんなことは無いんだろうな。
「じゃ、今日も頑張りましょうか」
文化祭までの放課後はずっとこんな感じで埋まっていくのかもしれない。それはそれで全然アリだし、むしろ俺にとっては喜ばしいことだろう。もちろんここで、恵茉以外の友人関係を構築するのも目的の一種だとは思うけれど、高校一年生の文化祭というレアイベントを楽しかった記憶にすることができればな、なんて考えていた。
遠巻きから見る委員長は少しほっとしているようで、ちょっとだけ自分が誇らしく思えた。こっちに気づいた委員長と目が合ってぎこちなく頭を下げてくれる。そんな大したことは絶対していないから、恥ずかしくなって下を向いてしまった。




