まごうことなきデートです3
土曜日、何事もなく一日が終わろうとしていた。
恵茉からのラインは昨日の文言『詳細はまた後でね』で止まっている。何度見てもこれ以上は更新されていない。過去の履歴を無意識に遡っているのに気づいて、恥ずかしさがふと溢れてくる。
「あー!もう!」
ベッド脇にスマホを投げ捨てて枕に顔を埋める。あーだこーだと悩むのは情けないけれど、心を静める方法を上手く知らないらしい。
スマホのロック画面に通知が無いことがこうももどかしくて1日中何をやっても手が付かない。どうにもならないことに乱されている自分が自分を嫌な気持ちにする。
ピロリ、と通知音で飛び起きてしまう。期待するように持ち上げて、また陰鬱な気持ちになる。地域の安全情報なんて通知されるほどのことでもない。
「……女子中学生じゃないんだから……はぁ、風呂行こ」
戻ってきたらラインが来ていることを願って部屋を後にした。
『起きてますか?』
結局、恵茉から連絡が来たのは土曜日もあと数分で終わるという時刻だった。気持ちを切り替えるようにやっていた数学の問題を解いている最中だったがすぐにペンを置いてしまう。
はやる気持ちと緩やかに上がる口角を必死に抑えて、訳も無いのに少しだけ既読を付ける時間を遅らせてしまう。
『起きてるよ』
恵茉からはすぐに既読が付いた。逆に待たせてしまったみたいなのですぐに返信すればよかった。こんな駆け引きの真似事なんてきっと俺には向いていない。
『良かった。遅くなってごめんなさい』
俺からの返信を待つこともなく矢継ぎ早にラインが届く。
『で、明日は大丈夫ですか?』
『大丈夫。どこに何時?』
『駅の東口広場に10時集合でお願いします』
東口広場とは珍しい。駅ビルやアミューズメントスポットが揃っているのは断然西口の方なのだ。広場の方はがらんとした公園がある程度で、すぐに住宅街が広がっている。
『広場の方なの?』
『ハイ、そっちでお願いします』
『分かった』
『では、また明日に』
了解の意味を込めてスタンプを送る。恵茉からもスタンプが送られてくるかと思ったが既読が付くだけで、彼女はきっとスマホを置いたのだろう。
電話だったら俺は切れないだろうけど、多分恵茉はすぐにでも切れるんだろうな、なんて思って少しだけ体温が落ちる。
明日も早いから布団に体を沈み込ませた。つつがなく明日のデートが終わることを願いながら。




