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探偵志望ワトソンさんと  作者: 北乃コウ
気になる匂いの正体は
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気になる匂いの正体は<前編2>


「あ、こういうのはどうでしょうか!」


 勢いよく手を上げて恵茉が話し出す。作業が滞ったままの部室の中で推理ショーが開催されるみたいだ。俺は部屋の隅に置かれていたパイプ椅子を引きずり出して恵茉の言葉に耳を傾ける。


 「故障、延いては誤作動じゃない可能性ですけど。そもそも大事な報知器が壊れる可能性が低いからです。コレは譲れません」


 俺はスマホで調べてみる。結構な頻度で起こってそうだったが恵茉には伝えない。


 「それに、この部室もそうだったんですけど、夏休み中に点検があったはずです。須藤先生に聞いたから間違いありません」


 だから故障の可能性は低い、か。なるほど筋は通っている気がする。というかそっちの根拠を先に出せ。


 「じゃぁ、なんで鳴ったんだよ」


 「そこです。あの放送、教頭先生は最後にこう言っていました。『十分注意するように』って。誤作動だったとしたら何を注意するんですか?このすべき注意って言うのは火の取り扱いについてってことでどうでしょう。考えられうる部室棟で起こる火の元といえば……」


 恵茉が言い淀んだけれど、何となくわかる。


 「タバコ、か」


 ですかね、と恵茉が困ったように笑った。


 「一番可能性が高そうだもんな、タバコ。俺は吸ってるやつ見たことないけど」


 「高瀬君吸ってないんですか?」


 「俺は社会的なルールを守るから」


 「高校のルールも守るべきですよ」


 恵茉も俺の反対側に腰を下ろした。結んでいた髪をほどいてまた思案顔に戻る。切りそろえられた前髪が復活していたけど、俺はアップされていた方が好みかもしれない、なんて思った。


 「えっと、どうですか?」


 悪くないんじゃない、なんて答えるのは簡単だけど。


 「校内放送の『注意する』は別に引っかかりポイントでも無いのでは?もし本当に火事が起こったら『注意するように』ともとらえることができるし。本当に火の取り扱いに関してだったら、教頭もタバコを容認してることになるけど……」


 「むぅ」


 鳴き声と共に頬を膨らませる。


 「さすがにこの高校で吸う人なんていないと思いますから違いますか」


 それはどうだろう。俺らが知らないだけってことは捨てきれない。でも、一般的にもう高校生でタバコはダサいイメージもあるから無いほうが強いんだけど。ということでタバコ以外だとして。


 「こういうのはどう?」


 脳裏に浮かんだ一つの説を俺は口に出す。


 「故障じゃない。つまり実際に作動したとして。火事じゃ無かったってことは煙に反応したわけじゃないってこと。煙以外で報知器が作動するのは」


 熱ですか?恵茉が口をはさむ。


 「熱で反応するタイプもあると思うけど、多分学校がつけてるのは煙で反応するタイプでしょ。それこそタバコ防止にもなるし」


 「えー、煙以外で反応なんてするんですか?」


 もちろん、俺のこの話なんて机上の空論でしかないんだけど。


 「水蒸気って線は有り得そうじゃん?確か水蒸気でも反応したハズ」


 そうなんですか、と聞き返される。……ちょっと自信が無くなってきたな。まぁ続けるけど。


 「じゃぁどう水蒸気が発生したんですか?部室で疑似サウナを作ってたとでも言います?それじゃなかったら水浴び?そんな水泳部じゃないんですから」


「もっとお手軽にできるでしょ。ほら、恵茉だってこの部室にカセットコンロ持ち込もうとしてたし」 


 実際どうなんだろう。多分火気厳禁だろうから持ち込めないはずだけど。


 「なんとなく分かりました。カセットコンロを使ってお湯を沸かして。で、反応してしまった、と。……有り得なくないですけど持ってる部活なんて見たことないですよ。というかさすがに校則で禁止されてますよ。持ち込むなんて恵茉だって冗談の域なんですから」


 恵茉が渋い顔を崩さない。好きな女の子は一生笑っていてほしいぜ、という人の意見がちょっとわかる。


 「そこだよ。カセットコンロじゃ無くてもそれに類するものを公然と持てる部活が存在してる」


 「……ありますか?そんな非合法クラブ」


 「登山部」


 というか他に火気を持ってそうな部活に心当たりはないが、登山部なら大量に持っていても違和感はないだろう。ガス、バーナー、お湯を沸かすのに必要な道具、何ならコーヒーだって揃っていそうだ。


 「なるほど!やっと理解できました!確かに登山部だったらその通りになっていてもおかしくないですもんね!あの時部室から外に出てきてましたし。あー良かった。すっきりしました。恵茉これで気持ちよく帰れそうです」


 「いや、これも可能性の域を出ないけどな」


 そう言って立ち上がる。ゴミを捨てに行く仕事を忘れているわけじゃない。旧校舎もだいぶ静かになっているようだった。


 恵茉が座ったままグッと伸びをする。


 「今日はもう終わりでいいですよね。それだけお願いしてもいいですか?あと残りだけこっちもやっておくので。高瀬君が戻ってきたら帰りましょ」


 快く送り出されたので今日のミステリ研の活動もお開きになった。思い出したけれど、この資源紙の量がエグいんだよなぁ……。


 指定のゴミ捨て場は旧校舎から出た先、本校舎との間にある駐車場の中に設けられていたはずだ。俺が着いたのも遅かったからなのか、ボックスの中は既に溢れんばかりにいっぱいになっていた。


 大量の少年誌やファッション誌などあらゆるものが放置されている。もしそっち系の雑誌を部室にため込んでいたならば今日処理するのが賢いのかもしれない。文芸部室には存在しないけど。


 「だっる……」


 まとめたゴミと資源紙の束を捨て終わって、部室に戻ろうとした際、ボックス外に落ちているゴミに目が留まった。


 「ちゃんと入れとけよ」


 そう思って拾ったのが不運だったかもしれない。というか、こういう時の運の悪さっていうのは重なるらしい。なるほど、恵茉の推理の方が当たってたわけだ。


 というのは落ちていたゴミはセブンスターの空箱で、それを手に取ったときに教頭とすれ違って。


 部室に戻れないことが恵茉に申し訳ねぇな、と思った。



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