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セラフィン・バニー 6

作者: 葛城 炯

 長耳ウサギと惑星調査員の日々

 惑星調査員としてセラフ星に来て随分と経つ。

 既に過ごした日々を懐かしいと思えるほどに。

 惑星調査員としての業病であるヌル・アレルギーが酷く出てしまった御陰で、幾分記憶が飛んだというか、記憶の時間軸が歪んだ所為か、少し頭痛が頭の芯に残っている。

 幸か不幸か、1日仕事をすっぽかした違約金の支払いを回避する方法を見つけた。

 それはエキュアト大陸に行かなければならないオプション・ワーク。つまりは……少しばかり危ない仕事だった。



「セラ。おはよう」

 荷物を担いで着陸船のタラップを降りながらセラと呼び掛けたのは長耳ウサギ。実体はただの耳の長いウサギなのだが、見た目はバニーガール。精神感応だかなんだか知らないが御陰で随分と寂しい思いはしなくてすむ。

 ま、身長そのものはオレの膝ぐらい。ネコがそのままバニーガールになったと思ってくれれば然したる誤差はないだろう。

 それにコイツらは仕草としてはネコに近い。

「メイ。おはよう。その開きはまだだぞ」

 メイと呼び掛けたのも長耳ウサギ。ただし実体としては長毛種っぽく見た目としてはエプロンドレスを着たメイドっぽい。ちなみにここの長耳ウサギの群の長……見た目として「女王」と感じるほどに威厳のあるドレスを着たバニーガール……の末娘なのかも知れないが、如何せん確かめようがない。

 それにセラと違ってメイはオレには興味が無く、オレが作る様々な食べ物に興味があるらしい。今も両手で草を持って食べながら、魚の開きを入れた籠をじーっと見ている。ぼーっとした雰囲気で。

 セラはといえば……お節介焼きの押しかけ女房のようにオレにまとわりつく。

 いまも足から登って肩に辿り着いて額をオレの頬に押しつけている。

 見た目はバニーガールでも感触は毛皮のそれ。かなりの違和感は禁じ得ない。

 ま、最近は慣れてきたけどね。

 首を傾げて頬でセラの頭を撫でると「挨拶終了」とばかりににこっと笑う。ついでに「今日は何をする? 浜で魚獲り?」と言いたげな視線で「み?」と鳴く。

「残念ながら今日は仕事で遠出しなきゃならない。遊んでいられないよ」とセラを地面に下ろすと不機嫌そうに「みっ!」と鳴き手を引掻いた。

 「痛いぞ」と睨むと……「はいはい。じゃれるのも見飽きてるんだけど」と言いたげにメイが「に」と一声鳴いてまたぼーっとした雰囲気でじーっと籠を見ている。

 そのメイにセラがじゃれていくのを横目に見ながらオレは仕事を続けた。



 セラとメイが「何それ?」と言いたげに「み?」、「に?」とオレの方を向いて鳴いたのはオレの仕事が一区切りついた頃だった。

「これか? これはハンググライダー。これで隣のエキュアト大陸に行って以前墜落した観測メカからデータを回収、ついでに修復可能ならば修復する。それが今日からの当面の仕事。暫く留守に……ぅわっ!」

 驚いたのはセラが「何処に行くの? ワタシもついていくからねっ!」と言わんばかりに肩まで駆け上がって睨むように「みっ! みみっ!」と鳴き、メイが「美味しいモノを食べに行くんでしょ?」とぼーっとした視線でオレを下からじーっと睨み付けた故。


 ……えーと。

 全てはオレの妄想というか希望的観測というか単純に思い込みだというのは自覚している。

 だが、2人のバニーガール……じゃなくて2匹の長耳ウサギに睨まれてオレは……何故か焦っていた。ついでに若干、頭痛が頭の芯から広がりつつもあった。

 そして根負けして「付いてきてくださいますか? セラ様、メイ様?」と言ってしまったのを……ちょっと離れたところから女王が「やれやれ」といった顔で眺めていた。



 仕方なく道具を追加する。

 なんかあった時用の補助ロケットブースターをメインロッドとサブロッドの先にフル装備。帰りにも使えるように予備も追加で荷物に入れる。セラとメイの食料は……サンプル用に乾燥させていたここいらに生えているアロエモドキと……緊急用ビスケットでいいか。

 急拵えのセラとメイ用のシートは……小動物用のカプセルケージ。

 若干、大きかったのでタオルでくるんで入れる。

 まだタオルには馴れないようで、くるんだ直後は強ばるのだが直ぐにほんわかとした表情になるのは何度見ても楽しい。

「あ、そうそう。ちょっと痛いけど我慢してくださいませ」

 身動きできないのでちょうどいい機会とばかりに、セラとメイにニードルチップを……埋め込もうとしたら睨まれた。

「みっ!」 「にっ!」

 意味としては「何よ?それ?」だろうが2人に並んで凄まれると……・若干引いてしまうのは何故だろう?

「睨むなよ。これは発信器が仕込んであってこの先の大陸で離ればなれになっても判る仕組みにするための道具。埋め込まれたくないなら連れていかないけど……どうする?」

 オレは何故に動物相手に許可を得ようとしているのだろう?

 若干、自己嫌悪に陥るオレを無視してセラとメイは「に?」「み!」と会話している。

 ……会話していると考えるのもオレの妄想だろうが。

 やがて、納得したようで2人……じゃなくて2匹は同意するように「みっ!」「にっ!」と鳴いた。

「はいはい。では……」

 さて。何処に埋め込もうかと一瞬考える。長い耳の先が発信器としては最も相応しい場所とは思ったが、何やらそこに触れると思いっきり怒られそうな気がする。実際、じゃれてくるセラでも耳の先はなかなか触らせてはくれない。というか触ると咬み付いてくる。 ならば……他の場所をと思っても見た目と実体とで差が有りすぎてちゃんと埋め込めるのかが自信がない。

 結局、根本付近の耳に埋めた。

セラとメイは注射を嫌がる子どものような顔をしていたが、何一つ痛みを感じることなく終わったことに驚いたようできょとんとして顔を見合わせていた。

「どうだ。文明の利器というのは凄いだろう?」

 別にオレが作った道具ではないのだが自慢してしまうのは……文明人代表だからだなと自分に納得させる。

 とにかく感謝することにする。

 独り言を空しく感じずにすむセラとメイに。



 崖から飛び降りるのが一番簡単なのだが、それでは2人には衝撃が大き過ぎるような気がしたので草原の緩やかな斜面を使って離陸する。

 2人を入れたカプセルは胸元のベルトにつり下げる。

 何が起きるのか判っているのか判らないのかセラはニコニコしている。メイはぼーっとしているんだか、何とはなく楽しそうだ。

「さてと……行くぞっ!」

 斜面を駆け下り速度が付いたあたりで、ふわりと浮く。両足を後ろのフックにかけ、同時に両手をぐっと前に出したあたりで……ハンググライダーは崖の際。

「みっ! みみみっ!」 「に〜っ!」 と、バニーガール御一行は賑やかだったが、暫くしたら飛行するという心地よさに浸っているようで静かになった。

「どうだ? 心地いいだろう?」

 尋ねても返事がない。ちょっと下を向いて確認するとカプセルケージの中であちこちをきょろきょろと見ている。

「セラフ星初、長耳ウサギ初の飛行体験バニーだな。貴女方は」

 ちょっと煽ててみる。

 ……何をしているんだ? オレは。

 それでも心地よさそうに「みっ」 「に〜」と返してくれたからいいとしよう。



 思いの外、崖から吹き上がる海風が強かったために、補助ロケットブースターを使わずにすんだ。

 向かい風は速度を奪うが高度を得る。追い風は速度を上げるが浮力を奪い高度を下げる。下からの風は浮力と高度と速度も得る。……高度を欲張らなければ。

 何にしても上々の出だし。きっと仕事も上手く行くだろう。

 暫く飛んで気がついたのは……空を飛ぶ動物の数の多さ。

 テレスコープ・ゴーグルの感度を上げるまでもなく、いろんなのが飛んでいるのが判る。

 ウサギ島の断崖絶壁にも小鳥がいる。

 海面に浮かんでいるのは海鳥たちだろう。陸の上空にいるのは……翼竜だろうか?

 何にしても飛行の邪魔はされたくはない。大形の鳥と翼竜にだけは気を付けないと……と思っていたら、セラが激しく鳴いた。

「みっ! みみっ!」

「どした? っとぉっ!」

 思わずセラの様子を見ようと首を動かしたついでにコントロールバーを何気に引いてしまった。

 直後にハンググライダーは右回転+加速し……オレの足元を何かが通り過ぎた。

「何だ? って、キョクハヤブサ?」

 キョクハヤブサが急降下して海面近くで羽を広げて速度を弛めて水平飛行、そしてそのまま滑空しながら高度を上げていく。

 心持ちこちらを「仕留め損なった」みたいな視線で睨んでいたようないなかったような……

 惑星調査員としては今の事態を即座に分析する。

(セラを見ようとしてバーを引いた。速度が上がった。そして足元、つまりはそのままの速度であったのならばオレがいたあたりをキョクハヤブサが……急降下)

「……え?」

 その時、オレは前任者達があの鳥を何故に「キョクハヤブサ」という名前にしたのかを思い出した。

 一般的にハヤブサの生態というか食性はバードイーター。鳥を食べる鳥。狩りの方法は高空から急降下して飛行している鳥に後ろ足で体当たり、ショックで即死するか気絶した鳥を掴んで……

「……そうだ。あの鳥は普段は翼竜をエサにして……」

 直後にメイが「ににっ!」と鋭く鳴いた。

 無意識のままに左回転する。と、やはりキョクハヤブサらしき影が上空から急降下して海面へと……

「囲まれてる?」

 バーに付いているスイッチを操作して背面につけてあるカメラの映像をゴーグルに映す。

「……げ」

 十数羽のキョクハヤブサの団体が「何だアレは?」「見たことのない鳥だな?」「1つ仕留めて食べてみようぜ」と言わんばかりにハンググライダーの上空を旋回している。

「くそっ! 狩られてたまるかっ!」

 高度を下げ、海面近くへと降りる。狩猟方法からして海面近くの相手には急降下体当たりはできないはずだ。仕留め損なったら自分が海面直撃。仕留めても滑空して舞い上がる程度の高度以下ならば同じ結果になる。速度も上がるからそう簡単には……と思った矢先、目の前の海面が盛り上がった。

「え〜っ!」 「み〜っ!」 「ににっ!」

 盛り上がった海面が割れて出て来たのは……首長竜の頭。

「そんなぁあぁぁぁっ!」

 叫びながらもバーを操作して回避。+上昇。

 相手の図体がでかいから大雑把な操作でも回避でき、高度も稼げたが、今度は……キョクハヤブサの狩猟範囲高度っ!

 だからといって無闇に下げたら首長竜の急襲高度っ!

 せわしなくジグザグに上昇下降と急旋回を繰り返し……キョクハヤブサの一羽が首長竜の頭と激突した隙に何とか逃げ出した。

 焦りすぎてロケットブースターを装備していたのを忘れていた。

 一息ついてからロケットブースターを使う。あっという間に首長竜とキョクハヤブサの繁華街から逃げ出した。

 キョクハヤブサと首長竜がその後どうなったのかは……知らん。

 そんなコトを気にする余裕なぞはなかった。


 なんとかエキュアト大陸上空に辿り着く。

 上空にキョクハヤブサがいないのを確認しながら、高度を保つ。

 上から襲われないのであれば、高度は高い方が安全。

 下を見れば……恐竜やらゾウみたいのやらが「変な鳥がいるな」と言わんばかりの視線で見上げてくるが、「そんなことより食事、食事」と直ぐに視線を元に戻す。

 肉食獣らしき姿も見えるが、ヤツらは自分の狩りの対象は吟味するようで一瞥だにしない。獣の子ども達は不思議そうに見ていたけどね。


 そんなこんなで……一日中飛び続けてやっと目標に辿り着いた。

 砂漠化している草原の端。砂とまばらな草の大地に傾いて墜落している観測メカを見つけた。

 観測メカと言っても旧式のバルーンタイプ。着陸船よりもデカい。

 近くに着陸して、ハンググライダーを畳む。セラとメイを特設席から解放すると、欠伸というか背伸びした。一日、カプセルケージにいるのはやはりツライらしい。

「オレは仕事するからそこらで遊んで……いないのね」

 セラとメイはオレの身体によじ登ると肩の辺りで毛繕いを始めた。

 なんとはなしに「何言ってんの? アナタを守るのが私達の仕事じゃない」と言いたげな視線だ。

「はいはい。それじゃ、何か襲ってこないか周りを見ていて下さいまし」

 諦めながら作業を始めた。



 作業と言っても大したコトはなかった。

 墜落した原因は予備バルーンの展開バルブが工場設定の段階で『閉』のままになっていたらしい。『自動』にしてから宇宙船に積むはずなのだが、こういうケアレスミスはそれなりに起きる。データも失われずにあった。送信アンテナは墜落した時の衝撃か何かで壊れていたけど、予備のアンテナは壊れずにあった。

 観測データ保存ユニットを再起動して、データを母船に送信。

 破けていたメインバルーンを切り離し、さて浮き上がらせようかと思ったが……

「日が暮れるな。コイツの再起動は明日にして今日の仕事はお終いにするか」

 デカい図体はいざという時の盾になる。

 周辺と機械の状況からして大型獣が頻繁に散歩しているとは思えないが、それでも用心するに越したことはない。

「さてと……お嬢様方は何処かな?」

 ゴーグルにセラとメイの位置を映し出すと……結構遠くまで散歩していた。

 最初のうちはセラとメイは肩の上から降りて辺りを窺うようにしながら、そこいらに生えている草を囓ったりしていたが、口には合わなかったようで、クシャミするような仕草で吐き出していた。それから少しずつ探るように行動範囲を広げていたらしい。

 まぁそれだけ仕事に時間がかかったということなのだが。

「セラ、メイ。今日はココに泊るぞ」

 呼び掛けると……何か変な顔をしながらも戻ってきた。

 何か気に入らないことでもあるのだろうか? と、気にしても仕方ない。

 オレはそこらに落ちていた枯れ木を集め、火を起こす。大抵の野生動物は火を見ると逃げる。

 そしてハンググライダーのロッドを利用して三角ピラミッドを組み立てる。

 観測メカの周りの様子から風が吹く方向を推定して、風下にピラミッドを置き、上に破けていたメインバルーンの残骸を掛ける。端は観測メカの方に固定。

 これで突風が吹いてもピラミッドごと何処かへ飛ばされることはないだろう。

 ピラミッドの中にもメインバルーンの切れ端を使ってハンモックを下げる。

 地面に転がって寝るのは……蛇の類やら毒を持った虫やらが怖い。それに獣に襲われても逃げ場がない。空中にいるのが一番。

 以上で宿は出来上がった。後は……

「晩御飯だけど……そんなに期待するなよ」

 セラとメイが「見張りの仕事は終了〜」というような顔で「で、ディナーは何?」と期待するような視線で見上げている。

「はいはい。んじゃこれで……」と乾燥アロエモドキを差し出すと途端に不機嫌そうな視線になる。

 察するに「何よ? それは?」 「板きれじゃないの?」というところだろうか。

「ははは。見てろよ」

 カップの中に水を入れ、乾燥アロエモドキを入れると……見る間にふやけていく。

「みっ!?」 「にっ!?」 と言っているのは「なになにっ!?」 「何が出来るのっ!?」だろうか。そして数分後に出来上がった乾燥アロエモドキの復活した姿を見て、セラは「み!」と驚き、メイは「に〜」と呆れていた。

 ……たぶんメイは違うモノが出来るのを期待していたのだろう。

 仕方なしに緊急用ビスケットのベリー味を奮発した。



 夜明けと共に目が醒める。

 どうやら野生動物というか恐竜たちには襲われずにすんだようだ。

 急拵えのハンモックは思いの外に快適だった。オレとハンモックの隙間に潜り込んでいたセラが「指定席〜」と言わんばかりに腹の上に上り「み!」と一声鳴いてから毛繕いを始めた。遅れてメイも隙間から這い出して足元あたりで毛繕いし終わってから「に〜」と鳴いた。

 セラのは「おはよう」だろうが、メイのは「朝御飯は?」だろう。

「はいはい。判りましたよ〜」と用意したのは昨日の晩御飯と同じメニュー。

 セラは「仕方ないわね」と囓っていたが、メイには「何よそれはっ!」と引っかかれてから食べていただいた。

 ま、ハングライダーでは豪華な食事を用意するような荷物は運べない。

 遠出するというのはそういうコトだと納得すれば、次から「連れて行け」と言われることもないだろう。

 ……別に言われてはいないが。

 朝御飯を終えて、荷物を片付ける。後はメカを浮かばせて帰るだけだ。

「さてと……それじゃ、コイツを空に……」と全体システムのリセット起動ボタンを押そうとした時……手の先を何かに噛まれた。

「った! ……なに?」

 手を噛んだのは蛇。いつの間に隙間に潜り込んだっ!?

 夜のうちにか? 油断したっ!

 即座に蛇を地面に叩きつけ、ナイフで頭を叩ききる。

 慌てながらも荷物の中から『判別セット』を取り出し、毒線らしき組織を調べる。

「溶解毒……0。神経毒……ごく微量。ふぅ」

 致命傷になるような毒ではないらしい。暫くはダルいだろうが別に作業には……

「……ぐふっ」

 全身に悪寒が走る。足がもたついて倒れてしまった。

「おかしい。そんな微量でこんな症状が……」

 思わず呟く。だが1つの可能性を思いついた。

「この毒……ヌル・アレルギーとの相乗効果か?」

 思いつくのはそれだけ。運悪く、微細な毒が持病のアレルギーを加速させる物質だったという可能性。

「み? みみっ!」 「に〜」

 セラとメイが心配そうに覗き込んでいる。

「そうだな。こんな所におまえ達を置いておくわけには……」

 気を振り絞って立ち上がり、観測メカを離陸させる。

 遙か上空へと浮かび去るメカを見送ってから、ハンググライダーを肩に担いだ。

 足元がふらつくが、そんな場合じゃない。

 この場所で寝込んでいたら猛獣やら、恐竜にいつ襲われるか判ったモノじゃない。

 それに……セラとメイをここには置いてはおけない。

 オレは仕事できたのだから、倒れたとしても覚悟の上だ。惑星調査員とはそういう仕事だ。

 だが、セラとメイは……惑星調査員じゃない。

 野生動物だとしても天命はウサギ島で迎えるべきだ。

「いくぞっ!」 「みっ!」 「にっ!」

 セラとメイの鳴き声がこれほど心強かったことはない。



 なんとか走って、速度を得て浮かび上がる。だが、おぼつかない足元では速度が低かった。即座に補助ロケットブースターを使う。実際、体調が万全だとしても使っただろう。

 だが、残りはメインロッドに5個、サブロッドに3個ずつ。これでウサギ島まで帰らなければ……


 ふらつきながらもエキュアト大陸の端まで辿り着く。

 問題はここから。高度を高くすればキョクハヤブサの餌食、低くすれば首長竜の餌食だ。

 モニターで確認すると……いた。上空にはキョクハヤブサの団体。観測メカからの情報では海面下に首長竜の団体がいる。

「ふぅ。セラ、メイ。無事を祈っていてくれ」

「みっ!」 「にっ!」

「いくぞっ!」 気合を入れる。

 揺らぐ視界。ぼやける思考。そんな中でもセラとメイは危険を察知するのか短く鳴いては気を戻してくれた。

 だが……キョクハヤブサの攻撃を避けた直後に目の前の海面が盛り上がった。

「くそっ!」

 即座に左のサブロッドのロケットを点火させる。

 直後にハンググライダーは右へと横っ飛び。だが不運が……

「風がっ!」

 首長竜の首が起こした風か? 単なる突風か? 左からの突風がハンググライダーの浮力を奪った。

 高度を失う。海面へと激突するっ! メインバーのロケットブースターを使って、速度を更に上げ、その速度を使って浮力を得る。が……気力が限界に達した。

「セラ……メイ……すまん。せめて泳いででも……」

 途切れる意識の中で……セラとメイのカプセルケージの蓋を開けた。

 そして……意識は消えた。



 気づいたのは身体が何かに激突する衝撃。

 だがそれにも頭は混濁から戻ることはなかった。

 視界の端にバニーガールが2人いる。

 いいじゃないか。こんな人生も悪くはない。





 どれだけ気絶していたのだろう。

 まだ濁った意識のままに仰向けになった。

 身体は地面の上にある。海じゃない。

「ここは?」

 仰ぐ空の端に草がある。

 ……見慣れた草だ。アロエモドキ。

 胸の上に何かがいる。顎を引いてみるとセラだ。

 鳴きながら……長い耳の先をオレの首に当てている。

「ん……耳がついているぞ。いいのか?」

 長い耳の先はこれまでには触らせてはくれなかった。その耳の先をつけている。

「みっ!」

 意味としては「気にしないでっ!」だろうか?

「にっ!」

 頭の上の方でも鳴き声が……

 そこでようやく、メイが耳の先をオレの頭につけていることに気がついた。

「ははは。ありがとう。ここは……」

 ゆっくりと半身だけ起き上がると……オレが倒れていたのは着陸船の前だった。

「おまえ達は無事だったんだな?」

「みみっ!」 「に〜」

 意味としては「当然でしょっ!」 「大丈夫だよ」だろうか。

 バニーガール達はいつでも優しい。

「ありがとう。セラ。ありがとう。メイ。じゃ……救急カプセルに入ってくる。またな……」

 それだけをやっと言い残して、オレはハンググライダーの残骸の中から着陸船へと這うようにして戻った。



 ヌル・アレルギーショックから立ち直るには3日ほどかかった。

 当然、契約違反だが前と違って今回はちゃんとした状況が記録されている。それにオプション・ワークの報酬は今回のが契約違反と判定されたとしても、さらに前の無許可休業による減給と合わせてもトータルとしてはプラスのハズだ。

 朝の仕事をやっとの思いで終えて、まだふらつく身体でハンググライダーの飛行記録を確認していた。

 状況確認カメラのひとつがあの後のセラとメイの行動を記録していた。

 カプセルケージから出たセラとメイはオレの背中に移動して耳を首につけている。いや肩なのかも知れない。とにかく雑な動きで両手が伸びたり縮んだり……

 見ようによってはセラとメイが左右の腕を操ってハンググライダーを操縦しているようにも見える。

 実際……それが真実だとしても、オレは驚かない。

 見た目をバニーガールに見せるほどにこちらの意識に感応させる存在なのだ。キョクハヤブサからの攻撃も察知できるのならば、単なる電気ショックでも伸び縮むする筋肉を操作するぐらい造作もないだろう。……とオレは信じられる。

 ロケットは全て使い果たしている。ま、筋肉への信号が過大すぎて指がロケットブースターボタンを触ってしまっていたのかも知れない。

 右へ左へ前へと忙しい飛行軌道だ。

 単なる偶然の無意識飛行で着陸船前に辿り着いたのか、セラとメイがちゃんと操縦して辿り着いたのか……

 それは……神のみぞ知るコトだろう。


 現実としてはバニーガールのセラとメイはオレが外に出ると「みっ!」「に〜」と鳴いて笑顔で迎えてくれる。……メイはぼーっとした視線だが。

 とにかく、平和な日々がある。


 タラップを降りるとセラはオレの肩へと上り額を擦りつけてくる。メイも足元でオレと開きが入った籠を見比べている。歩き出すと肩まで登ってくるのはセラと一緒。

 それだけで充分だ。


 なんとなく、セラとメイに乗り物として認識されているような気もするのだが……

 気にしないでおこう。




 読んで頂きありがとうございます。


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 画像は、まるかた氏の「バニーさんと緑芝」です。イメージに合っていたため、掲載の許可をいただきました。

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[一言] 今回は夢オチじゃないですよね? 隣の大陸の説明が少なかったのはストーリー上ですが、モーちょっと膨らんでいてもよかったかも
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